中編4
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赤い手形

「Aダムって深夜2時に行くと赤ん坊の泣き声がするらしいぞ。」

そう言って電話をかけてきたのは同級生で腐れ縁の吉田である。

この吉田という人間、本人曰く霊感がかなりのものらしく、深夜自室で就寝していると入れ代わり立ち代わり幽霊が部屋に入ってきて「違う」といって部屋を出ていくらしい。

本当かどうかは定かではないが・・・・・

Aダムとは、地元の人には有名な心霊スポットで前に赤ん坊に関係した事件が起きている。

ただ、その事件を僕が知るのは土曜日になるのだが・・・

その事件については割愛させていただきたい。

僕は今まで生きてきた25年間で全くもって心霊経験がないし、自分の目で見なければ信じないタイプの人間である。

冷暖自知のような性格だと思っている。

なんの確証もないが、心霊現象というものを全く信用していない僕は言い返す。

「そんなことあるわけないじゃないか!」

そして吉田は言う。

「じゃー行こうぜ」

・・・・・いつもの決まり文句だ。いつもこのようにして僕は心霊スポットに拉致されるのだ。

その結果、勿論怪奇現象に遭遇したことがないから心霊現象を信じていないのだが。

仕事は土日が休日のため、今週の土曜日0時に僕の家に集合してAダムに行くことにした。

吉田とのそんな会話からAダムに行くことになるのだが、その経験からあんな不気味な経験をすることになるとは夢にも思っていなかったのである。

[土曜日]

さすがに真夏。夜になっても蒸し暑い。

時間は23時50分。

僕の携帯電話が鳴り、吉田の表示がされている。

「もしもし、着いたよー!」

遅刻魔の吉田としては珍しく10分前行動か。

僕は「分かった」と言って、家の前に停まっていた白い乗用車に乗り込む。

それから僕たちはAダムに向けて走り出す。

Aダムまで自宅から約30分で着くため、山道の途中にあるコンビニに寄り道して目的地に向かう。

僕の住んでいる市は恐ろしく田舎のため、繁華街を少し外れれば殆ど街灯がない。

ダムがあるような山道になれば尚更だ。

対向車のヘッドライトが正面を照らしているくらい。ここは地元では有名な心霊スポット。結構な台数の車とすれ違う。

「相変わらず真っ暗だな」

そんなことを思っているとAダムに到着した。時間は1時50分くらいだっただろうか。

Aダムに隣接するバーベキュー場利用者用の駐車場に車を停め2時になるのを待つ。

定かではないが、2時になる1分前くらいだっただろうか。吉田が突然ある提案をしてきた。

「カウントダウンしようぜ」

雰囲気作りのためか何なのか分からなかったが僕は賛成した。

「了解っす。」

「じゃー5秒前からっ」

「5」

「4」

「3」

「2」

「1」

「・」

「・・・・・・・・・・・・・」

暫しの沈黙。

2時になってからもう30秒は経過しているだろうか。それにしても何も起きない。

真っ暗闇の中であるという雰囲気と恐怖心が手伝ってか僕は吉田に話しかけた。

「・・・・・何も起きないな・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

吉田は何も言わない。

「・・・・・吉田?」

「・・・・・・・・」

何も言わない。

「・・・・・寝ているのか?」

「・・・・・・・・」

何も言わない。

「なんなん・・・・・・だ・・・・・ょ」

僕がそう言おうとした瞬間に吉田が口を開き始めた。

「実はさ・・・・・・・・・・・・」

「赤ん坊の泣き声が聞こえるっていうのは・・・・・

嘘なんだよ!!!」

「は?」

彼は何を言っている?こんなに夜分遅くにダムまで拉致されてそこで嘘の告白か?

「一体なんなんだよ」

彼曰く、そのダムで事件があったことを知り夜に行ってみたいと思ったが一人では心細いので僕を誘ったそうだ。

嘘を言う意味は全くないと思うのだが。

その嘘を知って、もうここにいる意味は全くなかったので帰ることにした。

車のエンジンをかけ、ギアをドライブに入れ、車を発進させようとした瞬間

「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァ」

吉田の悲鳴が車の中に響き渡った。

「もう、なんなんだよ」

吉田の顔を見た瞬間、尋常ではない表情に鳥肌が立つ僕。

真っ暗な車の中でもはっきりと分かるその表情は尋常ではなかった。

今考えればそんなことはないのだが、その時は100km以上出ているのではないかと思うくらい高速で山道を下っていく。

ダムに来る時に寄ったコンビニに車を停めて、冷静になったのか吉田が口を開き始めた。

「車を発進させようとしてアクセルを踏もうとしたときに・・・・・

小さな手に足首を掴まれたんだよ。」

僕は全く信用していない。なぜなら、赤ん坊の泣き声がすると嘘を告白されたばかりだから。

「そんな嘘はもういいから早く帰ろうよ」

「本当だって!」と吉田は言うが、証明するものなんてなにもない。

当然だ。経験したのは吉田であって僕ではないのだから。

「分かったからもう帰ろう。」「信じてないな」「信じてるよ」

そんな水掛論が続く。もうどっちでもいい。

「じゃー一服したら帰ろうか・・・・・・」と僕が言うと、観念したのか

「タバコ買ってくるからちょっと待ってて」といいコンビニに歩き出す吉田。

その時僕は見逃さなかった。

コンビニの光が吉田の履いていたチノパンを照らし出したとき、

そのチノパンの足首あたりにくっきりと赤い小さな手形が残っていたのだ。

吉田が最初から小ネタを仕込んでいたのかもしれない。

ただそれから全く吉田と連絡が取れないのは何かの偶然なのだろうか・・・・・

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