高校の怪談 ~エジソンとマッドサイエンティスト~

長編11
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高校の怪談 ~エジソンとマッドサイエンティスト~

加古達が親睦会を行っている頃、放課後の学校の化学室の灯りが怪しげに灯っていた。

「フフフ…。かの天才発明家が志半ばで亡くなった、前代未聞奇想天外の機械…。」

その中に、機械をいじる白衣姿の男の姿があった。

彼の名は湊 伸一、この高校の化学教師である。

「俺は天才、俺は天才、俺は天才…。」

銀縁眼鏡の奥で切れ長の目を光らせて、機械の配線を繋いでいく。

暫くして、彼は大きく伸びをした。

「やったぞ、ついに完成した!」

その瞬間、窓の外の空がにわかに掻き曇り、雷雨が降り始めた。

この時期にありがちな、夕立である。

「…どうやら天もこの私の偉業を祝福しているようだな。」

痛々しい台詞を吐きながら、湊は窓に歩み寄り、それを開け放った。

暴風が化学室内に吹き荒れ、湊の漆黒の髪をなびかせた。

「この霊界通信機の完成は、化学の発展に大いなる影響を及ぼす事となるだろう‼︎フフフフフ…。フハハハハハ‼︎」

湊は両腕を広げ、荒れ狂う天を仰いだ。

稲妻が曇り空を裂いた。

その時、化学室の扉がガラッと開いた。

「うっさいわねぇ…。…あ、またあんた?」

皆川 棗教諭である。

彼女はウンザリした様子で、卓上に置かれた一抱えほどの機械を撫でた。

「ほんとにもう、あんだアッタマおかしーんじゃないの?いい年ブッこいてなーにが霊界通信機よ。いつまでも夢見てんじゃないわよ。」

きつい調子で言い放ち、白衣の胸ポケットから煙草の箱を取り出した。

「あんたのせいであたしまで変態扱いされるんだから。白衣着た奴はどっかおかしいって。」

ふーっ、と、ゆっくり煙草の煙を吐きながら、湊を睨みつけた。

「皆川先生、煙草には有毒物質が沢山含まれているのですよ!それに副流煙には主流煙以上に多くの有毒物質が…。」

「うるさいわねぇ…。」

棗は火のついた煙草を先ほどの機械へ押し付け、吸い殻を窓から捨てた。

「あー‼︎な、何をなさるんですか皆川先生‼︎」

湊は慌てた様子で機械についたススを払い、それを撫でた。

「皆川先生、この発明は人類史上でも偉大なものとなります。私が人々から賞賛され、褒め称えられる日もそう遠くはありません!だから…。」

湊は棗の前に跪き、彼女の手を取って気取った様子で言った。

「その時は私の伴侶になってくださいますね?」

湊は皆川教諭を病的に好きなのである。

「なるか‼︎」

が、彼の思いも虚しく、棗は握られた手を振り払い、近くの水道で手を洗った。

「気っ持ち悪いわねぇ、この変態マッドサイエンティスト‼︎」

棗は湊を一瞥して、化学室を出て行った。

音を立てて閉まった扉を、部屋の中に立ち尽くして見つめる湊。

「ああ…。今日こそ皆川先生の心を手に入れられると思ったのに…。」

肩を落とす湊の後ろで、彼の発明の「霊界通信機」が小さな静電気のような光を上げた。

✴︎

親睦会翌日の月曜日。

「やっべぇ〜‼︎遅刻する!」

俺は寝坊し、全速力で自転車を漕いでいた。

「逢魔にカミナリ落とされるー!」

逢魔は仮にも神様だから、本当にカミナリ落とされるかも…とかくだらない事を考えていた。

「あーっ、信号赤になっちまった!くっそー、なんでこんな時に限って‼︎」

苛立ちながら信号待ちをしていたその時、

「…加古か?」

背後からかけられた男の声。

恐る恐る振り向くと、そこには…。

「あ、周防先生。」

我が高校の現文教師、周防 尊が自転車に跨って、こちらをキョトンとした顔で見つめていた。

「おー、やっぱり!何だ、遅刻か?」

「あ、はい…。」

「ダメじゃねーか、ちゃんと時間通り登校しないと!」

「すみません…。…ってあれ?」

今の時間、そろそろ職員会議が始まってる頃じゃ…?

「…もしかして先生も遅刻ですか?」

指摘すると、周防先生はニヤリと笑って、言った。

「よくぞ見抜いたな。いかにも俺は今遅刻しかけている‼︎」

「…そんなカッコつけて言わないでください。遅刻は遅刻ですから。」

「えー。折角山月記風に言ってみたのに!」

彼は口を尖らせて、つまんねー!と言った。

彼、周防 尊はいつもこんな調子である。顔はまあまあ良いのだが、とにかく教師らしくない教師だ。

「とにかく!早く登校するぞ!」

「分かってますって…!」

俺と周防は、自転車を漕ぐスピードを上げた。

だが、このときはまだ知る由もなかった。

学校で起きている、大変な事態を…。

✴︎

「着いた!…あれ?」

校門の前に着いた周防が自転車からすっと降りて、辺りを見回す。

「どうしたんですか?」

俺もそのあとに続き、彼に尋ねた。

「いや…。なんか、人いなくないか?」

「当たり前でしょ、遅刻してるんですから。」

「それとはまたちょっと違う。人の匂いがしないというか…。」

「人の匂い?」

「…あ、いや。何でもねぇ。」

…まさか。

「…先生、人間ですか?」

俺が尋ねると、彼はあからさまに慌てた。

「なっ、なぁ〜に言ってるんだ!俺はまさしく人間、生粋の人間、まじりっけのない人間だぞっ!」

…怪しすぎる。が、今はそんな事気にしている場合ではない。いつもなら必ずいる用務員さんの姿さえ見かけない。

「先生、確かに俺達以外の人が見当たりませんね。みんなどうしたんでしょう?」

周防はうーん、と唸り、腕組みをした。

「とりあえず校舎に入るか。」

「…はい。」

俺達は連れ立って校舎へ入り、探索を始めた。

✴︎

「まず職員室へ行ってみるか。あそこなら誰かいるだろ。」

なるほど。確かに。

それに、逢魔や大神などの人外(周防も?)もいれば頼りになるはずだ。

「先生、何の妖怪なんですか?」

「はあ⁉︎何だいきなり⁉︎」

「だって怪しいですもん」

「バカかお前!」

周防はムキになって俺の考えを否定した。

「俺はなー、普通に平凡な一般市民なんだよっ!」

彼は目を剥いて俺を怒鳴りつけた。

「先生。」

「なんだよっ!」

「瞳んとこが細ーくなって、猫の目みたいになってますよ。」

「あ?」

彼は急いでガラス窓に顔を映し、目をこすった。

「ほら、普通の目!」

「いやいやいや!もうはっきり見ちゃいましたから!いい加減白状してください、別に驚きませんから!」

もう、はっきり言って慣れたわ。こういうの。

「そ、そお?」

周防は観念したように溜息をついた。

「…仕方ないなあ。折角平凡な人間の暮らしが出来てたのに。」

そして左手ですっと髪を梳いた。

すると、髪を梳いた場所にディープブルーのメッシュが入った。

「おおっ…!」

周防はメッシュの入った部分を弄りながら、ニヤリと笑った。

「俺はな、人間と龍のハーフ。つまり水神様ってことよ!」

何気に得意顔で話す彼に、俺は言った。

「…胡散臭っ。」

「ひどっ‼︎折角勇気出して告白したのに!」

だって、名字がスオウってくらいだから蘇芳色くらいにしてくれないと…。ってそういう問題じゃないか。

「火吹いたり出来ます?」

「無理だよ!俺水神だよ?水の扱いならお手の物だけど。」

「つまんなっ」

「ひどすぎる…。」

でも、この高校は一体何だ?人間じゃないものが多すぎる。

俺は階段を上りながら、逢魔や大神を思い浮かべた。

「着きましたね、職員室。」

「ああ。それにしてもあちーな、エアコンついてるかなー♪」

この人は今の事態をちゃんと把握しているのだろうか?

周防が職員室の扉に手をかける。

と、その時。

「あの…。」

後ろから声がかけられた。

「あー?なんだよ、折角涼しい…うわっ!」

振り向いた周防が固まった。

「どうしたんですか、周防先生…おわぁ!」

周防の目線の先には、アルミフレームの眼鏡をかけた、黒髪オールバックのサラリーマン風の男が立っていた。

それだけならまだ納得のしようもあるが、その黒スーツの足元がうっすらと霞みがかったようにしか見えない。

「幽霊!」

「お化け!」

「「成仏して‼︎」」

龍とか狼男には驚かず、幽霊に驚くってのも変な話だが、今まで見てきた中で一番現実味があったのだから仕方ない。

「て、てか周防先生、龍なんでしょ!幽霊なんか目じゃない筈じゃないですか!」

「え、ムリムリ!幽霊とか見たこと無いし!普通に怖いから!」

「えー!この腑抜けドラゴン!」

「うるせえ、シャチ人間!」

「あのー!」

ヒートアップしたくだらない口喧嘩を鎮めたのは、他でも無いサラリーマンの幽霊。

「…そんな事してる場合じゃないと思うんですけど。」

俺達は顔を見合わせて、そして初めて辺りを見回した。

「「……‼︎」」

そこは、血塗れの女やら男やら老人やらに囲まれ、まさに地獄絵図だった。

「悪霊!」

「怨霊!」

「「南無阿弥陀仏‼︎」」

そんな俺達を見て、サラリーマン風幽霊が呆れたように呟く。

「あんたらバカですか?」

そして廊下の方を指差し、

「こっちです。私についてきてください。」

と、悪霊っぽいのがいない方に向かって走り(足が無いから走っていると言えるのかは微妙であるが)始めた。

「…どうします?信じます?」

「この際、何にだって縋ろうぜ!」

言うが早いか、周防は俺の腕を掴んでサラリーマン風幽霊の後を追い始めた。

✴︎

「ここまでくれば奴等は追ってこないでしょう。」

サラリーマン風幽霊は、階段の踊り場に腰を下ろして一息ついた。

「あ、ああ…。」

周防がそれに答えながら、ところで、と質問をする。

「あんた、何者だ?何で俺達を助けてくれたんだ?」

すると、サラリーマン風幽霊は持っていた鞄から名刺ケースを取り出し、周防と俺にそれぞれ名刺をくれた。

「申し遅れました、私、黒井商事の和歌歩 陸と申します。」

「は?和歌歩 陸…?」

和歌歩 陸…。

わかほ りく…。

…ワーカホリック?

「変わった名前ですねぇー。あ、名刺消えた。」

「仕方ありませんよ、私が気力で作った物ですから。」

「あ、そう。」

暫しの沈黙。

「…って、そういう事じゃないだろ!和歌歩さん、だっけ?あんたは幽霊なのに、なんで他の奴みたいに襲ってこないのか聞いてるの!」

周防の追及に、和歌歩は先程から全く変わらない無表情で答える。

「やだなぁ、幽霊だってピンからキリまで色々いるんですよ。私はあんな野蛮な悪霊とは違います。」

「じゃあ何だよ?」

「浮遊霊です。」

「もっと目的なさそうじゃん‼︎」

周防の鋭い突っ込みにも和歌歩は動じず、冷静に言った。

「目的の無い者は霊にはなりません。私にはちゃんとした目的があるんです。」

あ、もしかして。

「やり残した仕事がある、とか?」

「違います。」

違うか…。

周防も何か思いついたようで、膝を打って言った。

「大切な書類をどっかやっちゃったとか?」

「違います。どうしてそんな仕事関係の目的ばっかなんですか?」

「いや…。」

「そりゃあ…。」

そんな名前してたら、誰でもそう思うでしょ⁉︎

「私の目的は、死に別れた金魚のきんちゃんにもう一度会うこと!ただそれだけです。」

俺と周防は顔を見合わせた。そして、同時に言った。

「「くっだらねー‼︎」」

「失敬な!あなた達は死者を冒涜している!」

だって、真面目一徹のサラリーマンの思い残しが金魚って!ミスマッチにも程がある。

「…って、こんな事してる場合じゃありませんよ。今、この校舎は悪霊の巣窟になっています。」

和歌歩は急に声のトーンを落とし、俺達に言った。

「何だって?」

「何でまたそんな事に?」

「全てはこの高校の生物室で始まったのです。」

和歌歩は眼鏡をすっと上げて、

「とにかく、行けば分かります。私が案内しますから、ついてきてください。」

ふわっと立ち上がり、手招きした。

「…先生。」

周防は暫く目を閉じて考えていたが、やがて大きく頷いて、立ち上がった。

「分かった。加古、彼についていこう。」

「…分かりました。」

水神がそう言うのなら、仕方ない。

✴︎

「和歌歩さん。」

「何でしょう?」

俺はどうしても気になって、聞いてみた。

「和歌歩さんは、何で俺達の手助けをしてくれるんですか?さっきも聞いたけど、結局ちゃんとした理由は聞いてないので。」

そうですね、と、和歌歩は腕組みした。

「はっきり言って、よく分かりません。」

「え?」

「でも、困ってる人がいたら助けるのって、当たりじゃないですか。」

「えっ…。」

見た目冷酷そうなのに、いい人だった。

「それに、私は仕事が好きなんです。趣味といってもいいくらいです。」

「はあ…。」

名前からしてそうだもん。

「趣味で人が救えれば、それ以上のことはありませんよね。」

なんかすごいいい人だった〜!疑った自分が恥ずかしい〜!

それを聞いていた、前方を歩く周防が言った。

「和歌歩さんていい人だねー!俺なんかちょっと機嫌悪い時は雷雨起こすもん。」

最近の夕立の原因はお前か‼︎

「は?」

あ、そうだ。和歌歩は周防の正体知らないんだ。

「お気になさらず。」

「は、はあ…。」

✴︎

階段を降りて、生物室へ向かう。

そこで、ふと疑問に思った。

「和歌歩さん、なんで生物室の場所知ってるんですか?」

ああ、と、彼は微笑して答えた。

「私、ここの卒業生なんです。」

「あー、なるほど!」

てことは、この人は俺の先輩に当たるのか…。

なんだかんだで、生物室の前に辿り着いた。

「ここです。気をつけてくださいね、危ないですから。」

「はい。」

俺は恐る恐る戸に手をかけ、それを一気に引いた。

途端に、部屋の中から嫌な感じがどっと湧き出てきた。

「うっ…。何だこれ…!」

周防は卒倒しかけている。

「…ん?」

よく目を凝らすと、生物室の中に人が倒れている。

持っていたハンカチで口を覆い、それに近づく。

「…あ、逢魔先生!」

倒れていたのは、三角耳とふわふわ尻尾付きの逢魔だった。

「わあ可愛い。…ってそんな場合じゃないか。」

俺は彼の肩を揺すり、声をかけた。

「逢魔先生、大丈夫ですか?生きてますか?」

反応がない。

そこで、ハンカチを逢魔の鼻先に触れさせ、

「ほらほら、美味しい油揚げが降ってきましたよー!」

すると、三角耳がピクリと動き、逢魔がうっすらと目を開けた。

「油揚げ…?どこ…?」

「あ、良かった。気がついた。」

逢魔は俺の顔を見て、驚愕の表情を浮かべた。

「うわっ、シャチの幽霊‼︎」

「ちげーよ‼︎」

眉毛が白かったらみんなシャチなのか⁉︎

「あ、何だ加古か。びっくりした。」

「全く、びっくりしたのはこっちですよ。こんなところで、しかもそんな恰好で倒れてて。」

わりー、と頭を掻いて、決まり悪そうに立ち上がる。

すると、いつの間にか後ろに来ていた周防が、

「うっわ、奏っちそんな趣味あったんだ。コスプレとか。」

「誤解だっ!それに奏っちって呼ぶのやめろ‼︎」

あ、この二人仲良いんだ。まあ国語科の教員同士だし、分からなくはないが。

「それより、大変なんだ!この高校が、霊の溜まり場になって…。」

「あ、その話なら和歌歩さんから聞いた。」

「え?和歌歩?」

辺りを見回す逢魔。そこに歩み寄り、名刺を差し出す和歌歩。

「和歌歩 陸です。よろしくお願い致します。」

「和歌歩 陸…。ワーカホリック?」

あ、おんなじ事考えてる。

「…ってか幽霊⁉︎この野郎、生徒に何を…‼︎」

和歌歩の足に目をやった逢魔は、目を吊り上げて今にも飛びかからんとしている。

「わーっ、待って待って!和歌歩さんは俺達の事手助けしてくれたの!」

それを慌てて止め、今までの事情を説明する。

「なるほど…。」

やっと納得したらしい逢魔は、周防に目をやった。

「てかお前龍だったんだ。変なメッシュ入ってるなーと思った。」

「そりゃこっちの台詞だよ!友達がなんかいきなり耳と尻尾つけてたらびっくりだよ⁉︎」

そこ⁉︎突っ込みどころそこ⁉︎

「あの…。お取り込み中すみません。」

そこに、和歌歩が遠慮がちに割って入る。

「私達、またまたピンチだと思いますけど?」

「え?」

一同、辺りを見渡す。

そこは、いつの間にか先程の幽霊やら妖怪やらに取り囲まれていた。

「「「はあぁ⁉︎」」」

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鎮魂歌様、コメントありがとうございます。
逢魔先生の尻尾は抜群のボリューム感を誇るので、もし存在したら俺もモフっとしたいです!
後半もそろそろアップさせていただきます。

湊先生も周防先生も和歌歩さんも良い味出てて、
続きが楽しみです!

逢魔先生のふわふわ尻尾をもふもふしてみたいです(〃ω〃)

麟様、怖いありがとうございます。
執筆の励みになります、嬉しいです!

aoi様、コメントありがとうございます。
まさにそれですね(笑)
こんな高校、通ってみたいようなみたくないような…。
これからもいろいろ出ます!

Noin様、コメントありがとうございます。
和歌歩さん、これからもたまに出ます。
まだきんちゃんに会えていないので(笑)

お稲荷様に狼男、龍神様ですか・・・
それと浮遊霊の和歌歩さん・・・
まるで「化外な輩のオモチャ箱や~☆」ってとこですか?
これからも色々出てきそうですね。
楽しみに待っておきますね。

和歌歩さん、いいですね(´ω`)ムフフ
たまにこう言う話も良いと思います。