これは私の仕事にまつわる話でございます。
私は腹話術師をやっているんですが、持っている人形は軽く100を越えておりまして。
いまだに増え続けております。そんな中でも私が初めて手にした人形で、今でも私の一番の相棒がおります。
名は『もっくん』、性は男、歳は12くらいでしょうか。
彼が相棒となってから35年が経ちました。ある日ね、しゃべったんですよ。
物を長く大切に使うと命がやどるとか、付喪神になるだとか話を聞いたことがありました。
これはそういうことかな?もっくんにもついに命が宿ったのか。
いやいや、待て待て。最近仕事もキツイ。睡眠時間も少ないし、休みもあまり取れておりません。
疲れが見せる幻覚なのやも・・・他の人にも見てもらいましょう。
試した結果声が聞こえるのは私だけでした。
やっぱりそうか。その翌週から休みを増やしました。
結果的に私の体の不調を気づけたのだから、これはもっくんの優しさだと思っておきましょう。
さぁ、今日から仕事頑張りましょう。
もっくん「おはよう」
・・・おはよう。まだもっくんが話しかけてきます。これは幻覚、これは幻覚、そう言い聞かせます。
もっくん「今日もお仕事頑張ろうね!」
そうだね。
本当に幻覚なのか?私が作り出した妄想ならば、私の知っていることしか話せないはずでしょう。
もっくん。お友達の人形は何人居るの?
もっくん「う~ん。分んない!一杯!」
12歳ならこんなものか。その後も色々聞いたが、確信を得ることは出来ませんでした。
しかし、もっくんに命が宿っている。そう確信を持てる出来ごとがありました。
それは話せるようになったもっくんの最初のステージでした。
さて、じゃ準備しようか。
もっくん「うん!頑張ろう!」
人形に手を通す。すると悲鳴が聞こえてきた。
もっくん「あぁあ!うぎゃああああ!いやい!いたい!ぬいでぇぇええ!」
しかし、手を入れなければ仕事にならない。そのまま最後まで手を入れ眼球と口の動きをチェックしました。
するともっくんはそれから何も言わなくなってしまいました。
これで確信を得ました。もっくんには命が宿っている!いや、宿っていたになるでしょうかね。
作者gora1599-2