中編2
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音楽プレーヤー その2

プレーヤーの不調はあの日だけだった。

あの日以降はごく普通に使用出来ている。

『あれはただの不具合だった』

それだけでは説明が付かないことだったが、そう考える他なかった。

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ある金曜日のこと。

会議が長引き残業となった。

課長と同期の三人でパソコンに向かっている。時折会話を挟みながら仕事を進めた。

「ん?おい」

課長が訝しげな声を上げた。

パソコンがおかしくなったらしい。

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「あぁ、これはフリーズしてますね。」

同僚がマウスを動かしながら言う。

1度強制終了をする以外ないようだった。

保存は途中から行っていない。

「…今日は終電間に合わないかもな」

課長がぼやいた。

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当然、下の人間である自分たちは帰ることが出来ない。

仕事を済ませ、フォローするしかなかった。

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「ん?」

また課長が声を上げた。

「どうしました?またパソコンがフリーズしましたか?」

課長は後ろを振り返っている。

「いや…なんだ。誰かが外にいたような気がしてね…」

後ろはブラインドが降りた窓だ。さらに、ここは地上8階、ベランダもない。

気のせいだということで仕事に戻った。

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「何?」

今度は同僚が声を上げた。後ろを振り返っている。

「誰かが俺を呼んで、肩を叩いたんだ。女の声だった。」

それはありえない。ここにいるのは自分も含め3人だけの筈なのだから。

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…それからは何事もなく仕事は進み、終電が出た為、タクシーを利用する。

少しでも安く上げる為、自宅から少し離れたところへ停めてもらった。

ポケットに手を突っ込みそこから歩き出す。

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すると、ポケットの中に丸められた紙らしき物があった。

思い出した。

あの日、プレーヤーがおかしかった日にバックの中にあったメモ書きだ。

確か、丸めてポケットに突っ込み家に帰り着いた際にゴミ箱に入れた筈…。

(ゴミ箱に入れたの…勘違いか?)

その瞬間。

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視線を感じた。

とても鋭い視線だ。

前には1人の女がこちらに向かって歩いてきている。

(この人からの視線か…?)

そう思いながらも、自宅の方向が女がいる方だったので、自然とすれ違う形となる。

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そしてだ。すれ違った刹那。

《…っけ…ん》

耳に直接口を付けられたような位置で声が聞こえた。

あの日、電車の中で聞いたあの声だった。

すぐにすれ違った女の方を向いた。

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「嘘、だろう…?」

隠れる場所なんてない。

走っていったような音もしていない。

女の姿は…そこにはなかった。

「そうだ…これは見間違いさ。勘違いさ。」

そういうことで処理した。

そういうことで処理するしかなかった。

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ベアトさん
怖いありがとうございます

サワノクラクナリさん
怖いありがとうございます