中編4
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裕子

嫁を殺した。

死体はバラバラにして、風呂に放り込む。風呂の水は一瞬で真っ赤になった。

首、胴体、手、足、性器。

服をポロシャツから、スーツに着替える。

これから父上との対談があるのだ。

まあ、そこまで畏まる必要はないのだが。

父上を待たせてはならないと、居間に向かう。

「父上、お待たせしました」

「そんなに畏まる必要はないよ」

案の定言われた。

「いえいえ」

「うーん。困ったなあ、血の繋がった親子がこんなにぎこちないなんて」

俺は父上を尊敬し子供の頃からこんな態度を取っていた。

「まあ、まあ父上そんなことはどうでもいいじゃないですか」

そそくさと俺も座る。

「僭越ながら。なんのお話でしょうか?」

「いや。そんな堅苦しい話じゃないよ。お前の様子を見に来ただけだ」

「と、いいますと?」

「それほど深い意味はない。お前と裕子さんの仲とか、今どんな生活をしているのか、とか」

「裕子?じゃあ、裕子呼びますか?」

「いや、いいよ。裕子さんに悪いし」

「いえ。呼びます」

父上を怪しませないために、呼びにいくフリをする。

「裕子?!・・・出かけてるのか?」

勿論、返事なし。今頃、お湯加減でも楽しんでいるだろう。生前、あいつは風呂好きだったからな。

「はーい」

えっ・・・。

その声に、俺は戦慄した。

間違えなく。

裕子の声だ。

「もう、別にいいのに」

父上には見えないだろうが、今の俺の顔には冷や汗が浮かんでいるだろう。

俺は障子をしめ、席に戻った。

「いや、いつ聞いてもいい声だね」

「はは。とらないでくださいよ?」

「ハハハ」

父上の笑いに合わせるが、俺の心境はぐちゃぐちゃだった。

「呼びましたか?」

障子を開けたのは、紛れも無い。

裕子だ。

障子から白く透き通る肌を覗かせる。

「まっお父様」

「久しぶりだね裕子さん」

「ご無沙汰しております」

裕子が頭を下げる。父上も頭を下げる。

だが。今、頭を下げている裕子は誰なんだ?

裕子は俺の視線に気づいたのか。

「順二様どうしましたか?」

綺麗な黒髪が靡く。艶やかな唇。無垢な瞳が俺を見据える。

間違えない裕子だ。

「い、いや・・・」

自分ではちゃんとした返事をしたつもりだが、少々言葉が詰まってしまった。

「そうですか。あの、私は・・・」

「ああ、そこにいてくれ」

本当は今すぐ出ていってほしかった。恐怖感に耐え切れない。

「裕子さん多忙じゃないのかい?」

「いえ。大丈夫ですよ」

ニコっと父上に笑いかける。

こいつは先ほど俺の手で殺したはずだ。そして、風呂の湯に浸かっているはずの存在だ。

それが俺の横へ来る。

「なに、そんなにオドオドしてるの」

「ハハ。確かお見合いのときもそんな感じだったな」

「ふふ」

俺もなんとか笑いを合わせた。だが完全に笑いが引き攣った。

「さっきから大丈夫?顔も蒼白していますよ」

「大丈夫だよ」

「順二。日を改めてもいいんだぞ?」

「いえ。本当に大丈夫ですから」

全然大丈夫ではない。さっき殺したやつが横にいて、笑って、喋って・・・。

「ちょっとトイレ」

父上が席を立つ。

やばい。

ものすごく。

障子がピシャンと閉まる音がした。

「痛かった」

「・・・」

「手が。足が。私の大事なトコロが!!」

裕子は言葉を段々強めていく。

「まだ生きていた。その状態で切られたの」

「・・・」

「ほら」

裕子が自分の首をもぎ取る。

「ひゃああ!」

思わず畏怖してしまった。

「怖い?アナタがしたことでしょう?

恐ろしい?私はもっと恐ろしかった」

「分かった!許せ!」

「許せ?よく抜けぬけとそんなことが言えるわね」

「いや。すまないね席をはずっ・・・」

父が入ってきた刹那、首が吹っ飛ぶ。

「あああ!父上」

「大丈夫。父上様は苦しまないで死んだわ」

裕子の声は抑揚のない声で言った。いつのまにか、首はもとの位置に戻っている。

「だけど」

「だけど」

「だけど」

「お前は違う」

痴話喧嘩をしても、深刻な討論を交わしても。

裕子はこんなに恐ろしい声は絶対に出さなかった。

「お願いだ!助けてくれ!まだ死にたくない」

「私だって死にたくなぐわったわぁ?アナタがごろしたのでしょう?」

裕子の喋り方が明らかにおかしくなっていたが、今はそんなことどうでもいい。

「許してくれえ!」

もう懇願するしかなかった。

それしか・・・。

「ゆるずわけないでしょう?わたぢはアナタをくるしめてころしゅはああ」

「ちょっと待って!」

裕子が歩みよってくる。

「あはははははははっはっはあっはっははっはっは!たのじみいいいい!

たのじみいいいい!」

白い肌。艶やかな唇。靡く黒髪。

恐ろしい顔。

「うわああああああああああ!」

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