長編13
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案山子

僕は今、のどかな田園風景の中、車を走らせている。

どこまで行っても畑と田んぼだ。これから、しばらく走りあの山の中の集落まで約一時間。

 先月僕は仕事を辞めた。僕には都会の暮らしは向いていなかった。

職場でも人間関係がうまく行かないうえ、自宅アパートの周りはしょっちゅう喧嘩や事件が起き、僕は家に居ても喧騒の中暮らしていて、落ち着かなかったのだ。

 元々僕は田舎者で、今車で走っているこういうのどかな町で育ったのだ。

それなら実家に帰ればいいという話だが、あいにく両親は他界しており、

僕には兄弟がいなかったので、実家を管理するのは難しく、処分したのだ。

 今となってはこんなに早く退社するのであれば、処分せずにいればよかったと後悔している。僕にはその時の遺産があるので、当面は暮らしには不自由しない。だから、僕は思い切って農業に転職することに決めたのだ。

 とりあえず1~2年間、農業研修を経て、最初は比較的作りやすい野菜からトライしていこうと思っている。僕は今、その研修場所となる村に向かっているのだ。

 今まで都会に住んでいたので、ペーパードライバーだったけど、今度からは山奥なので車は必須だ。僕は思い切って、小さな軽トラックを買ったのだ。久しぶりの車の運転は楽しい。

 これからのことを思うと不安なことは山積みだが、この田園風景にすべて癒されそうだ。僕は期待に胸を膨らませた。

 田園風景から、山へ入っていくと、かなり細くて険しい道が続き、ペーパードライバーだった僕の運転が怪しくなってきた。

 おっかなびっくりで山へ入っていくと、谷あいに集落が広がっていた。やっと人里に出た僕はほっとした。橋の上から川を覗き込んでいるお爺さんがいたので、僕はゆっくり橋を徐行し声を掛けてみた。

「こんにちは。」

声を掛けてみたが全く振り向かなかった。耳でも遠いのだろう。

僕は気にせずに、橋を渡り、集落へと車を走らせる。しばらくすると、道端の畑で作業中のおばあちゃんを見つけた。僕はめげずに、もう一度声を掛けてみた。

「こんにちは。」

こちらも反応が無い。しかも、静かな山間に車なんて僕の車くらいしか走っておらず、車の音や姿でこちらを認識しているはずなのに、何の反応も無い。

 おかしいな。僕はそう思い、だんだんその人物に近づくにつれ、僕は何故返事が無いのかを悟った。

「なんだ、案山子だったのか。」

僕は一人苦笑いした。もしかして、あの川を覗き込んでいたおじいさんもそうなのかもしれない。

 それからも道端のあらゆる場所に案山子がいて、あまりの多さに驚いた。この村は何故こんなに案山子が多いのだろう?僕は不思議に思いながらも、今日から永住する予定の新居に着いた。 古い民家である。家具やらは、その家に備え付けの収納があるので必要がなく、僕は最低限必要な家電と衣類のみで引っ越してきた。

 引越しとは言えども、一人分の荷物。あっと言う間に一人で片付けて、家電を設置した。

 そしてこれから農業指導でお世話になる山田さんのお宅を訪ねたのだ。

「まあまあ、こんな山奥までようおいでんさった。お疲れでしょ?冷たいもんでも出しますから。」

そう促されて、僕は山田さんのお宅にお邪魔した。

「これ、つまらないものですが。」

僕はご挨拶の菓子折りを差し出した。

「あれ、こんな。お気をつかわずとも良かったのに。」

優しそうなおじいさんだ。良かった。

山田さんは、奥さんと息子さん家族と一緒に住んでおり、家族中で農業を営んでいる農家だ。

 優しそうなご家族で、僕はほっとしている。やはり田舎の人は人がいい。

僕は職場での辛い日々を思い出していた。意地悪な先輩や同期、おまけに後輩にまでバカにされる毎日。

 僕は仕事ができる方ではなかったから。農業のノウハウを身につけたらそのうち、お見合いでもして素朴な嫁さんをもらおう。僕は平和な日々をずっと夢見ていたのだ。

「ここはのどかでいいところですね。」

僕は山田さんの奥さんが出してくれたお茶を一口飲みながら言った。

「そうでしょ?空気は綺麗だし、景色がいいでしょう?」

山田さんがニコニコして答えた。

「ええ、田んぼや畑もたくさんあって。」

僕はややあって、素朴な疑問を山田さんに投げかけてみた。

「なんだか、この村って案山子が多いような気がするんですけど。」

何気ない一言だった。僕がそう言うと、急に山田さんの目がビー玉のような質感になった。

気のせいだろうか?

「ああ、ここいらは獣が多くてね。作物を荒らすんですよ。あれは畑の守護神ですよ。」

山田さんが薄っすらと口で笑った。獣?普通なら固有名詞が出てくるところだけど。

イノシシだとか猿だとか熊というように。僕はそう思いながらも、そんなのどうでもいいことじゃないか、ただの言葉の違いだろうとあまり気にしないことにした。

 しばらく会話に沈黙があって、僕がその間に耐えられずに何か話そうとすると、山田さんの方から口を開いた。

「ただ、この辺は夜になると、獣が出て危ないから、あまり夜出歩かんほうがええですよ。」

心なしか山田さんの声のトーンが少し低くなったような気がする。

 危ない獣、熊だろうか。だとしたら怖いな。

「雨戸もきっちり閉めて寝たほうがええ。獣がガラスを割って入り込むやもしれませんけえな。」

え?そこまでしなければならない獣なの?僕はますます熊を想像した。

しかし、何故山田さんは獣としか言わないのだろうか。

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 僕はその日は引越しの疲れもあり、農業指導は明日から教わりに行くことにした。その日の夜、僕は山田さんの言葉を思い出していた。雨戸を閉めるなんて、ちょっと大げさじゃないか?それに、今気付いたのだが、夜になると満点の星がまるでプラネタリウムのようではないか。こんな壮大なプラネタリウムを独り占めできるような環境で雨戸をぴったり閉めるなど、勿体無い。今日一日くらいは大丈夫だろう。僕は存分にこの星空を堪能しながら夕食を摂った。縁側一面のガラス戸はまるで宝石をちりばめたかのように綺麗。

 窓の外を眺めていると、家の前の小路を誰かが歩いていた。山田さんが夜は出歩かないほうがいいと言っていたのに、大丈夫なのだろうか。僕は心配になった。でも、案外、山田さんが心配性なだけなのかもしれないな。実はそんなに心配するほどでもないのではないか。僕がそんなことをぼんやりと考えていると、外から不思議な声とも音とも知れないものが聞こえてきた。

 かつん、かつん。定期的に地面を固いもので叩くような音。

「うぉー、おー、おー、おー・・・・・」

何か獣か人かわからないような咆哮。どこかから隙間風でも入っているのだろうか。いや、そんな音ではない、聞いたことも無いような音だ。僕は音のする方向を探した。暗さに目が慣れてくると、どうやらあの小路を歩いている人のほうから聞こえるようだ。

 かつん、かつん、うぉー、おー、おー。

固いものをたたく音と同時に咆哮している。ヤバイな、これは。あれは、徘徊ではないか。僕はそう判断した。

僕がじっと見ていると、その人影もこちらに気付いたらしく、じっとこちらを見ていた。

僕は心配しながらも、あくる日に山田さんに相談することにして、その夜は床についたのだ。

 「おはようございます。今日からよろしくご指導をお願いいたします。」

僕は翌朝山田さんのお宅に着くと、大きな声で挨拶をした。

「おはようございます。こちらこそ、よろしくね。こんな山奥にあんたのような若い人が来てくれて、わしら喜んでおるんよ。農業なんて、なかなか担い手がおらんからね。願ったりかなったりだよ。」

山田さんが農作業の服装でニコニコしながら答えた。やはりいい人だ。僕はここへ来て本当に良かった。

僕は、ふと昨夜のことを思い出して山田さんに聞いてみた。

「実は昨日の夜、夜遅くに人が歩いていたんですよ。ほら、山田さん、ここら辺は獣が出るから夜で歩かないほうがいいと言ってたでしょ?カツンカツンって音をさせながら、何か喚いていたみたいで。もしかしたら、徘徊かな、と思いまして。誰かはわからないんですけど。」

僕がそう話すと、山田さんの目がまたビー玉みたいな色を帯びた。何も感情の無い目。

「あんた、あれに気付かれたのかね。」

僕は意味がわからなかった。

「どういう意味ですか?確かにこっちに気付いて見ていたようですが。」

僕がそう答えると、山田さんは俯いたまましばらく沈黙した。

「今夜はしっかりと、雨戸を閉めて寝たほうがええ。そのほうがアンタのためだよ。」

山田さんは一つ一つの言葉を僕に戒めるように吐き出した。

意味がわからなかったが、それ以上山田さんは何も言わせない雰囲気を漂わせていた。

僕は黙って頷くしかなかった。

 あれは何だったんだろう。

 やはり農業はなかなかに、ハードな仕事だった。ここのお年寄りたちは、このハードワークを毎日こなしているかと思うと感心してしまう。これは健脚になるな。僕は、この村の人のタフさに驚かされた。

 でも、やれば結果として出る仕事は楽しいだろう。お天気や気温に作用されるなかなか難しい仕事だけど、がんばって精進しよう。そして、僕はこの村に根付いて田畑を耕して暮らし穏やかに死を迎えるのだ。

 不健康な職場で、人間関係にギクシャクしながら冷や汗を流してパソコンに向かっていた今までの僕の生活とは真反対の人生を送るのだ。

 深い疲労感に包まれたが、嫌な疲労感ではなかった。爽快な疲労感。僕は第一日目を終え、農業の大変さと共にやりがいを感じていた。その日は、山田さんのお宅で夕飯をご馳走になり、お風呂までいただいた。山田家の人たちは皆親切で優しい。子供もかわいいし、僕も将来はこんな家庭を築きたいと思った。

 「泊まって行きなさい。」

山田さんにそう言われたが、来て早々に図々しいと思い、僕は遠慮したのだ。

「悪いことは言わん。今日だけは泊まって行きなさい。」

山田さんがあまりに力強くそう言うので、僕はその日は山田さんに押される感じで山田さん宅に泊めてもらったのだ。

 山田さん宅も、こんなに綺麗な星が見えるところにもかかわらず、夜の帳が下りる前に、ぴったりと雨戸を閉め切って、エアコンを入れた。僕が田舎に住んでいたころには、窓なんて開けっ放しで、それでも泥棒も何も入ってこなかったのにな。時代は変わったってことか。僕はそう思っていたのだ。その夜、僕はある音で目が覚めた。まただ、またあの音。

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 かつん、かつん、うぉー、おー、おー。

地の底から沸き上がる様な咆哮。何の声なんだ。

人、獣?昨日の徘徊していた人間か?その時、いきなりガシャーンという音がして僕は飛び起きた。

ガシャン、バリン、パリン、グシャ、ガチャンガチャン。

誰かが遠くでガラスを割っているような音。僕は、さすがに怖くなった。怖くて僕は廊下をそわそわと歩いていると、後ろから山田さんが声を掛けてきた。

「耳を傾けてはいかんよ。早く寝なさい。」

僕はこれ以上我慢できずに思わず、山田さんに詰め寄った。

「あの声は何なんですか。山田さんもお聞きになったでしょ?どこかで事件が起きてます。警察を呼びましょう。」

僕がそう言っても山田さんは大丈夫というばかりで取り合ってくれなかった。

 おかしい。どう考えても。山田さんは何かを隠している。

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 僕は翌朝そのまま、山田さん宅で朝食をご馳走になった。きっとみんな気付いてるはずだ。それなのに、山田家の人たちは誰も昨夜のことを話題にしない。その日、農作業を終え、僕は自宅に帰った。自宅に帰って僕は驚いた。僕の家の窓ガラスがめちゃくちゃに割られていたのだ。昨日の夜の音はこれだったのか。僕はすぐに警察を呼んだ。家の中は物色された様子はなく、物取りではないようだった。じゃあ何の目的でガラスを割ったのだ。警察の捜査が終わり、夜なのでガラスの修理の業者を呼ぶことも出来ないので、仕方なく雨戸を閉めて寝ることにした。

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 その夜もやはり、あの音は聞こえてきた。

かつん、かつん、うぉー、おー、おー。

今日はなんだか、音が複数のような気がする。僕は気にすまいと思ったのだけど、どうしても気になってしまい、雨戸をほんの少しだけ開けて、外の様子を見たのだ。 

 目?僕が雨戸を開けた瞬間に目が隙間から覗いた。

「うわあぁぁぁぁあああ!」

僕は驚きのあまり、後ろに転倒ししりもちをついた。

よく見れば目のようであり、目ではない。何も表情を映さないその目。

それは白い布に描かれた偽者の目だった。僕は、その全貌を上から下まで見て初めて案山子だと気付いたのだ。

「か、案山子?なんで?」

僕がそう口を開くと、凄い勢いで竹が伸びてきた。

竹は僕を突き刺そうと、執拗に僕の体を狙う。僕は何がなんだかわからなかった。

すると、無数の竹が雨戸の隙間から出てきて僕を狙った。

 うおーっ、うおーっ、うぉーっ!狂ったように咆哮する案山子達。

容赦なく差し込まれる無数の竹。ヤバイ!僕は慌てて雨戸を閉めようとしたがなかなか閉まらない。

僕はたまらず、斧を持って来た。そして、その差し込まれる竹を徹底的に切り倒したのだ。

すると、縁側に落ちた竹から血しぶきが飛び散った。

「うわぁぁぁあぁあぁ!」

僕は絶叫した。何で血しぶきが?

僕が切り落とした竹は、人の手だった。嘘だろう?

それでもまだ竹は侵入してくる。

なんなんだ、なんなんだ、なんなんだ!

僕は狂ったように斧を振るった。

ようやく全てを切り落として、僕はぴしゃりと雨戸を閉めることができた。

鍵をかけ、雨戸をしきりに叩く竹の音に僕は耳を塞いだ。

 何で僕がこんな目に。男の癖に僕は失禁し、泣いていた。

泣いている僕の周りは、無数の人の手と血しぶきに塗れていたのだ。

 しばらくして、僕は目が覚めた。あまりの恐怖に失神していたようだ。

縁側に寝て痛む体をようやく起こした。僕はゆっくりと昨日のことを思い出す。

 僕はたくさんの人の腕を切り落としたんだった。押し寄せる絶望。

まだよく見えない目を擦りあたりを見回す。おぞましい光景を想像したが、そこには無数の切り倒された竹が累々と転がっているだけだった。僕は狐につままれたような気分になった。

 昨日の人の手は?血しぶきは?だいたいあれから血しぶきが飛び散るはずがない。

だって、あれは・・・、。

 「案山子だ。」

 時計を見る。朝の7時だ。もう陽は上っているはず。

僕は恐る恐る、雨戸を開ける。そこには、いつもの田園風景が広がり、のどかな朝が訪れていた。

鳥の声。何の変哲も無い、すがすがしい朝。僕は安堵からほっと胸をなでおろす。

警察に連絡しなきゃ。

最初はそう思ったが、この状況をなんと説明すればいいのか。

 僕は迷った結果、意を決して山田さんに全てを聞くことにした。

きっと山田さんは全てを知っているのだ。この村に隠された秘密を・・・。

 そして僕は今、山田さん宅前で呆然と立ち尽くしている。

一昨日僕が泊めていただいた山田さん宅が、変わり果てた姿になっていた。

燃えている。柱は真っ黒に焦げて、外は外壁も焼け落ちていた。僕があの騒動に巻き込まれていた間、ここは火事で焼け落ちてしまったのか。そう思った。

 それにしては変だ。これは、昨日今日燃えた様子ではない。その証拠に焼け落ちた床板から覗く基礎の部分から雑草が鬱蒼と生えている。これは、燃えてから相当な年月が経っている。でも、山田さんにここで会って、ご馳走になったり泊めてもらったりしたのだ。山田さん夫婦、息子さん家族、みんな優しくて理想の家庭。

 ここで何があったんだ。僕はあたりの人に聞こうと思った。見渡す限りの案山子。僕は昨夜の恐怖が蘇ってきた。案山子が見ている。全ての案山子が、僕の方向を向いているのだ。

 僕は走り出した。誰か、誰かいませんか。僕は民家を全て訪ねて走ったが、誰一人いない。昨日までは人が居たじゃないか!なんなんだ、この村は!どうなっているんだ!

 走る僕を案山子達が無機質な目で追う。見るな、見るな、見るなぁぁぁぁぁ!僕は叫びながら走る。誰も居ない!僕は自宅に戻り、自分の軽トラックに飛び乗った。エンジンをかける。恐怖映画のようなお決まりのパターンで、なかなかエンジンがかからない。

 「くそっ!このボロ中古車め!新車を買えばよかった!」

僕は今更、滑稽な愚痴をたたきながらエンジンを回す。なんだか案山子の位置が変わったような気がする。

案山子が集まって来ている!

 「動け!動けよ!コノヤロウ!」

ブルルン。やっとエンジンがかかった。僕はアクセルを目いっぱい踏む。

 こんな村、もうゴメンだ。何がなんだかわからない。とにかく里に下りて警察に連絡しよう。気がふれてると思われても構うもんか。あの村は狂ってる。

 カツカツカツカツカツカツ。

僕の耳に定期的な硬い音が迫ってきた。まさか。僕はバックミラーを確認した。追いかけてくる!もの凄いスピードで案山子達が追いかけてきた。

「なんなんだよ!なんで追いかけてくんだ!」

僕はベタふみでアクセルを吹かす。

 カッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッ・・・・

固い足音もスピードを上げてきた。

 ウォーオーオーオーウォーオーオーオーウォーオーオーオーウォーオーオーオー

無数の咆哮。

 なんでなんでなんでなんで!

僕の顔は涙と汗と鼻水でぐちゃぐちゃになった。

ガッガッガッ。

何かがサイドガラスを叩いてきた。追いつかれた!僕はトラックを蛇行させ、振り落とそうとする。

その瞬間僕は運転を誤り、谷底に落ちてしまったのだ。

車は何度も回転し、僕は体を揺さぶられる。体中が痛い。たぶんどこか折れた。

ガッガッガッ、パリン。

ガラスが割れる音がした。竹が物凄い勢いで入ってきて、僕の顔を貫いた。

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「いやあ、あんな山奥の廃村に一人で住むなんて、変わった人だなとは思ってたんですよ。」

町の駐在の警察官が話す。

「一度、ガラスを割られたとか言って呼ばれましてね。こんな山奥の廃村なんて泥棒なんて来ないよ、とは思いながらも、一応実況見分はしたんですが。」

「しかし、まあ、なんで案山子が顔に刺さってるんでしょうかね。どうやったら事故でこういう状況になるんだか。」

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冷たい雨が、僕の体を打つ。

もっとも、もう冷たいなどという感覚は無い。

僕はあの村の入り口に今も立っている。

足は竹になり、ボロボロに擦り切れた血まみれの服を着て立っている。

山の麓から小さな軽トラックが山を登ってきた。

ここへ来ては行けない。

引き返すんだ。騙されてはダメだ。

「ひっ!」

軽トラックの中の男は小さく叫んだ。

だが、僕をよく見てほっと安堵する。

「なんだ、案山子かぁ。脅かすなよ。」

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山田さんも、案山子だったんでしょうか?