霊能者vs名探偵vs死の脅迫者

長編27
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霊能者vs名探偵vs死の脅迫者

ー佐藤が高校三年の四月の時ー

誰もいない放課後の教室で佐藤は宿敵の『死の脅迫者』の正体と目的について考えていた。

佐藤「『死の脅迫者』…一体奴は何者なんだ?どうして堀井尚美さんの死体を小池さんの家の庭に埋める様な真似を…?そもそもどうして通り魔の電話番号を知っていたんだ…?」

佐藤が色々考えていると不意に後ろから声を掛けられた。

?「やあ、佐藤君。」

佐藤が振り返るとそこにはライバルの金田浩が立っていた。

佐藤「何か用? 」

金田「いや、一人でどうしたのかと思って。」

佐藤は少し考えたが、思いきって金田に自分が考えていた事を話してみた。

すると金田は「その事か、確かに僕も色々考えていたよ。でもいくら考えても答えは出なかった。だから僕は直接『死の脅迫者』に聞いてみようと思うんだ。一体お前は何者なんだ?ってね。」と答えた。

佐藤「そうだね。確かに本人に直接聞いた方が早いし、その方が正確だもんね。」

佐藤はようやく納得したようだ。

金田「奴の事が気になるのは分かるけど僕との勝負も忘れないでね。」

金田が勝負の事を言うと佐藤はその事をようやく思い出した様だ。

佐藤「ああ、そうだったね。勿論だよ、対決できる日が来ればいいね。」

金田「きっと来るさ。」

そう言い残して金田は教室を後にした。

佐藤「勝負か…よし、絶対に負けないよ。金田君!」

佐藤はそう誓うのだった。

だが、この時佐藤も金田も全く気づいていなかった。『死の脅迫者』が既に動き出していた事を何一つ。

ー東京・東新聞社ー

社員「社長、お手紙です。」

社長「ああ、ありがとう。」

この日、新聞社の社長の元に一通の手紙が届いた。

社長「えーっと、送り主は…」

その手紙は一見普通の封筒だったが、差出人の名前は…

社長「ハッ。死の…脅迫者…!?」

ー警視庁東警察署二階・刑事課ー

時田「これは本日新聞社に届けられたんですね?」

社長「は、はい…間違いありません。」

社長は『死の脅迫者』という不吉な名前を見て警察署へ持ってきたのである。そして今社長と話しているのは刑事課課長の時田警部である。

時田「フーム…見た所普通の薄くて軽い封筒ですが、中は?」

社長「い、いえ…まだです。中身を見るのも怖いもので…」

時田「では拝見します。」

そう言って封筒を開ける時田警部だったが、内心は「フン、こんな手紙ごときに驚いて警察に持ってくるなんてどんだけ臆病なんだか。」と思っていた。

時田警部が手紙を開けると中から三枚の紙が出てきた。

時田「何だこれは?」

見ると三枚中一枚が手紙で残る二枚は写真だった。

ちなみに写真の方には古い廃工場と廃ビルがそれぞれ写っていた。

時田「手紙か…どれ。」

その手紙に書かれていた内容は以下の通りだ。

ー社長さん、私はあなたが過去に犯した罪を知っています。その事で話があるのでいずれこちらから電話します。心してお待ちください。

なお、出来ればこの事は他言無用ということで。死の脅迫者ー

時田警部がこの文を全て読み上げると社長はブルブルと震えていた。

社長「(昔の罪!?ま、まさかあの事が…。いや、そんな筈はない!あの事は私だけしか知らないはずの事だ。ならどうして…)」

震えながら考えていた社長だったが、時田警部に声を掛けられて我に帰る。

時田「社長さん、質問して宜しいですか?」

社長「ハッ。え、ええ…大丈夫です。」

社長が答えると時田警部はライターでタバコに火を点けて一服した。

時田「フーッ、ではお尋ねします。この手紙に書いてある《あなたが過去に犯した罪》とは一体何の事ですか?」

時田警部の質問に社長は一瞬ビクッとする。

社長「そ、それは…。(い、いかん!あの事だけは…あの事だけは絶対に!!)」

時田「質問にお答えください、社長さん。」

社長「身に覚えはありません。」

社長は咄嗟にそう答えたが、時田警部は疑っていた。

時田「(さっきの反応…やはり何か知っているようだな。)そうですか。では、この手紙の差出人について何か心当たりは?」

社長「い、いえ…全く存じ上げません。」

時田「フム…では何か分かり次第ご連絡を。こちらも何か分かり次第ご連絡致しますので。」

そう言って名刺を渡すと社長は一礼して警察署を後にした。

社長が部屋を出ていった後、側で話を聞いていた刑事が時田警部に声を掛けてきた。

棟方(むなかた)「警部。あの社長、何か隠していますね。 」

時田「ああ、あの反応からして過去に何かあったのは事実だろう。とにかくこの手紙を鑑識に回しておけ。」

棟方「はっ!」

棟方刑事は手紙を受け取ると鑑識係の方へと向かっていった。

一方、警察署を後にした社長は近くの公園のベンチに一人で座り、先程の手紙の内容について考えていた。

社長「(あの手紙の内容からして差出人は私の過去を知っている。一体誰なんだ、『死の脅迫者』と言うのは!?)」

社長が頭を抱えながら考えていると不意に電話が鳴った。

ピリリリ

社長「ビクッ。わっ!?」

あまりに突然の出来事だったので社長は驚いてしまう。

社長「な、何だ携帯か。」

ホッとして電話に出る社長。

ピッ。

社長「もしもし?」

シーン

無音なので首を傾げる社長だったが、突然電話口から静寂を破るように大きな音が響く。

「ドカッ!!」

社長「!?い、今のは…」

?「フフッ。今ので過去の事を思い出しましたか、社長さん?」

社長が放心状態になっていると電話口から今度は男の声が聞こえてきた。

社長「あ、あなたは…?」

社長が恐る恐る尋ねると男はフッと笑い、「私はあの手紙を送った差出人の『死の脅迫者』ですよ。」と答えた。

社長「あ、あんたが?誰なんだ貴様は!?何故に私の過去を…」

死の脅迫者「私は死者の声を聞く者なんですよ、社長さん。」

社長「死者の声を…?」

社長はその言葉を聞いてギクリとする。

死の脅迫者「今の言葉であなたなら分かったでしょう?私が何故あなたしか知らない筈の過去を知っているのかを。」

社長「う…うるさい、黙れ!!要求は何だ!?」

死の脅迫者「その前に確認しますがあの手紙には他言無用と書かれていましたよね?なのにあなたはそれを破って警察に届けた…」

社長「なっ!?何故その事を… 」

社長が驚いていると『死の脅迫者』は「私は何もかもお見通しなんですよ。」と告げた。

社長「わ、悪かった。差出人の名前が余りにも不吉だったからつい、警察に…。」

社長が正直に話して謝ると『死の脅迫者』は「今度からは中身を見てから届けるかどうかを決めましょう。まあ、中身を見ていたとしても今回の手紙には《出来れば》と書かれていたので届けてしまったのは仕方ありませんが。」と言った。

社長「そ、それで要求は?」

死の脅迫者「今からあなたに指示を出しますからそれに従ってください。もしあなたが指示に従えない様であればあなたの秘密は暴露しますのでそのつもりで。」

そう聞いて更に震える社長だったが、やむ無く了承する。

社長「それでどんな指示を…?」

社長の質問に対して『死の脅迫者』はクスッと笑い、指示を出した。その内容は…

社長「何ッ!?今夜十時に都内の宝石店を襲って宝石を強奪しろ!?」

死の脅迫者「断れば秘密を暴露しますがどうしますか?」

社長「くっ…。だ、だがもし警察にバレたら…」

死の脅迫者「その心配はありませんよ。私が今から言う事を完璧にすれば警察にはばれません。この私が保証しましょう。」

ー十分後ー

ピッ。

電話を切った社長は顔が真っ青になっており、より一層震えていた。

社長「まさかこんな事を頼むなんて…。」

社長が先程の『死の脅迫者』との通話の内容を思い出していると後ろから声を掛けられた。

?「あの…」

ビクッ。

社長「は、はい!」

驚きながら振り返ると佐藤が立っていた。

佐藤「どうかしましたか?震えていた様ですが…」

社長はハッとすると「な、何でもありません。し、失礼します。」と言ってその場を立ち去った。

佐藤「大丈夫かな?」

心配しながら見送る佐藤だったが、ある物を発見する。

佐藤「これは…」

佐藤が拾い上げたのは一枚の名刺だった。

そしてその名刺には《警視庁東警察署刑事課警部・時田正木(ときたまさき)三十三歳。》と書かれていた。

佐藤「あの人のか?て事は刑事なのかな、あの人。でもどう見ても三十代には見えないけどな…」

首を傾げる佐藤だったが、渡すために急いで社長を追いかけた。

佐藤「あの…」

社長を追って公園を出た佐藤だが、既に社長の姿は無かった。

佐藤「行っちゃったか…仕方ない、職場はこの警察署だから明日届けに来るか。」

そうする事に決めて佐藤は帰路についた。

ーその夜十時、某宝石店ー

ジリリリリリ…

警備員・牧田「しまった、強盗だ!」

警備員・相田「警察に連絡しろ!」

非常ベルが鳴り響く中二人の警備員が叫んでいたが、犯人は逃げたあとだった。

その後警備員の通報により、駆けつけた警察の捜査が行われた。

ちなみに捜査の指揮を執っているのは警視庁東警察署・刑事課盗犯捜査係の深山春夫(みやまはるお)警部補である。

深山「やれやれ、近頃物騒だな。」

そんな事を考えながら周りを見渡しているとある物が目に止まった。

深山「これは…」

深山警部補の目に止まったのは割られたガラスケースの破片に混ざった眼鏡のフレームだった。

深山「おい、これを調べろ!犯人の遺留品かもしれんぞ!」

鑑識課員「はっ!」

その頃、佐藤は家でテレビのニュースを見ていた。

佐藤「ふあーあ、眠いな。もう遅いし寝るか…」

そう呟きながらテレビを消そうとする佐藤だったが、臨時ニュースが流れたので手を止める。

ニュースキャスター「ここで臨時ニュースです。本日十時頃、都内の宝石店に強盗が入りました。情報によりますと犯人は時価一億円相当の宝石を強奪、車で逃走した模様です。なお、現場には犯人の遺留品と思われる眼鏡のフレームも発見されており、警察は更に詳しく捜査を進めています。」

佐藤「強盗か…。あの宝石店で起きたんなら昼間の名刺に書かれていた警察署の管轄だな。」

佐藤は何故か一瞬嫌な予感がしたが、気にせずに寝ることにした。

ー東新聞社ー

社長「死の脅迫者、言われた通りの事はやった。これで満足か?」

死の脅迫者「確かにあなたは私が言った通りの事を完璧に行いましたね。ですがあなたにはまだやってもらう事があります。」

社長「何をやるんだ!?」

社長の問いに『死の脅迫者』は笑ってこう答えた。

死の脅迫者「殺人です。」

社長「なっ…殺人だと!?バカ言え、そんな事できるわけが…」

死の脅迫者「断るようなら秘密を暴露しますよ?それに恐れる事はないはずです。何故なら私の計画は完璧であり、あなたには殺人の経験が過去にも二回ほどあるからです。」

社長「うっ…」

その時、社長の脳裏には昔の自分が人を殺める映像が流れた。そしてその映像の中で響く「ドカッ」という大きな音は昼間の電話口から聞こえたあの大きな音と全く同じだった…

死の脅迫者「やりますよね、社長さん?」

社長は何も言い返せなくなってしまい、とうとう『死の脅迫者』の言う通りに殺人を行うことを決めるのだった。

社長「くっ、こんな事になるなんて…。」

ー翌日・東高等学校ー

佐藤が教室に入ると先に登校していた勤と理子と鈴木がやって来た。

勤「なあ佐藤、昨夜のニュース見たか?」

佐藤「ああ、宝石店に強盗が入ったっていうニュースだろ?それなら俺も見たよ。」

理子「ほんとに怖いよね、この近くだし。」

鈴木「そう言えば僕、今朝登校してくる時にパトカーが宝石店の前に止まっているのを見たよ。」

等と話しているとそこに金田がやって来た。

金田「佐藤君、ちょっといいかな?」

佐藤「えっ?ああ…。」

佐藤がついて行ってみると金田は廊下で止まった。

佐藤「何か用?」

佐藤が尋ねると金田は咳払いをしてから用件を話始めた。

金田「さっき彼らと強盗事件の話をしていたでしょ?」

佐藤「うん、そうだけど。」

金田「そこで提案なんだけど僕と勝負してみない?この強盗事件の犯人をどちらが先に捕まえるか、もしくは見つけるかで。元々約束していた事だし、どうかな?」

金田が出した突然の提案に佐藤は困ってしまうが、前から約束していたのでやってみる事にした。

佐藤「いいよ。どちらが勝つか勝負しよう!けど僕は負けないよ。」

金田「僕も負けないさ。じゃあ決まりって事で!」

こうして二人の対決が始まったのであった。

一方、『死の脅迫者』に命じられて殺人を行おうとしている社長はー

社長「(こんな事はやりたくない…だが、やらなければ私の過去があからさまになってしまう。そうならないためにも今はこうするしか…)」

そんな事を考えている社長は今、『死の脅迫者』に昨夜言われた通りに用意された車で神奈川県へ向かっていた。

社長「…………」

顔を真っ青にして汗を流しながら無言で車を走らせる社長の脳裏には昨夜の『死の脅迫者』とのやりとりが浮かんでいた。

ー死の脅迫者「まずあなたには明日の昼、 私が用意する車で神奈川へ行ってもらいます。」

社長「神奈川へ?」

死の脅迫者「そこにいるターゲットを殺害してもらう為ですよ。」

社長「だ、誰を殺せと…!?」

死の脅迫者「それは…」ー

社長「まさかあいつを殺す羽目になるとはな。」

やがて社長が走らせる車は神奈川へ到着し、ターゲットのいる某株式会社に向かった。

ー某株式会社ー

社長「ここだ、ここにターゲットがいる…。」

会社を眺めた後、社長は会社から離れた路地に車を止めてそこにあったゴミ箱の蓋を取った。

するとゴミ箱の底には真新しい袋があった。社長はそれを見つけるとゴミ箱から出し、袋の中からあるものを取り出す。それは…

社長「これが『死の脅迫者』が言っていた殺人に使う物か。」

袋の中に入っていたのは人の顔そっくりのゴムマスクにスーツにネクタイ、そして靴と手袋と刃物の六点セットだった。

社長「まさか『死の脅迫者』の奴がここまで用意していたとはな…」

社長は『死の脅迫者』が用意した殺人に使う物を目の当たりにし、息をのんでいた。

やがて決行する時刻が近づいてきたので、社長は急いで変装すると意を決して非常階段から中へ入った。そして階段を登りながら計画の段取りを確認し、懐から取り出した刃物をしっかり握りしめた。

社長「こいつで奴の心臓を…」

やがて社長はターゲットのいる階に到着し、廊下を通ってターゲットがいる社長室の近くの物陰に隠れた。

社長「決行は正午…あと三分。だが本当に『死の脅迫者』が言った通りの時間にターゲットは社長室を出るのか?まあとにかく、ここは奴の言う通りにするしかないな。」

ー三分後ー

ガチャッ。

社長室から一人の男が出てきた。

社長「!来た…!よ、ようし…」

バッ。

社長はすぐさま物陰から飛び出し、ターゲットである男の前に立ち塞がった。

男「?君は営業部の…」

グサッ。

社長は懐から取り出した刃物を男の胸に刺した。

男「ぐっ!?な、何故…」

傷口からは血が噴き出し、社長が着ていた黒いスーツを赤く染める。

刺された男はバタッと倒れ、そのまま息を引き取った。

社長「ハア、ハア。や、やったぞ。これで私の秘密は保たれた…」

そんな独り言を呟く社長の口元は微かにつり上がっていた…

その後殺人を実行した社長は非常階段から外に出て、止めてある車の所に向かった。

ちなみに男の死体が発見されたのは社長が会社を後にした数分後だった。それからすぐに社員の通報で警察が駆けつけ、現場検証が行われた。

そして…

樋口「え~、私は神奈川県警捜査一課の樋口と申します。副社長さんに来ていただいたのはある事を確認するためです。」

副社長「何でしょう?」

樋口「この写真の男をご存じですか?」

そこで樋口刑事が副社長に提示したのは男の顔が写った一枚の写真だった。

副社長「ええ、知っていますよ。この男は今日は無断欠勤していますが、我が社の営業部に勤めている椎名という社員です。彼が何か?」

樋口「実はですね、この写真は現場近くの防犯カメラに映っていた犯人の顔を拡大した物なんですよ。」

この言葉を聞いて副社長は驚いてしまう。

副社長「ええっ!?じゃあ、まさか椎名が社長を…?」

樋口「防犯カメラの映像からして間違いないでしょうな。そこで先程我々は彼を社長さん殺しの犯人として指名手配しました。なのでもしも彼を見かけたら警察へ。」

副社長「は、はい…。」

樋口刑事は一礼すると去っていき、その後ろ姿を副社長は呆然としながら見送っていた。

副社長「そんな…まさかあの真面目で成績もいい椎名が社長を殺すなんて…。」

副社長は椎名が犯人だという事実を聞かされて大変落ち込んでいたが、それと同時に彼が犯人だとはとうてい信じきれなかった。

ピリリリ…

ピッ。

社長「もしもし?」

死の脅迫者「いや~、お見事。さすが社長さんですね。私の計画を完璧に実行するとは…やはり殺人の経験があっての結果でしょうかね。」

社長「ほっとけ!だが、まさか本当に警察を騙してしまうとはな。正直今でも信じられんよ。」

死の脅迫者「フッ、まあ仕方ないでしょうね。ですがこれこそ、私が考えた完璧な計画犯罪なんですよ。」

『死の脅迫者』は勝ち誇った様に笑っていた。

社長「とにかくこれで終わりだな!?」

死の脅迫者「ええ、いいでしょう。お疲れさまでした。ではまたいつか。」

そう言い残し、『死の脅迫者』は電話を切った。

ピッ。

社長「これで終わった…。」

『死の脅迫者』との通話を終えた時、社長はホッとした気分になっていた。だが社長はそれと同時に何らかの達成感を覚えていた。

ー東高等学校ー

佐藤「強盗事件か…後で石田さんに詳しい事を聞いてみるか。」

佐藤はそんな事を考えながら授業に取り組んでいた。

金田も同じく。

金田「後で担当の刑事に詳しく聞いてみるか。ん?」

考え事をしながら携帯をこっそり見ていた金田だったが、不意にあるニュースが目に止まった。

金田「神奈川県某株式会社社長殺害か…」

そのニュースを見た金田はある事を思い付き、休み時間に佐藤に話してみた。

佐藤「えっ?神奈川県の殺人事件の犯人をどちらが先に捕まえるか勝負?」

金田「そう!強盗事件だけでなく、殺人事件の方でも勝負してみない?」

佐藤は気乗りしなかったが、断るのも気が引けたので乗ることにした。

佐藤「いいよ、乗るよ。」

金田「ありがとう。じゃあまた。」

金田が立ち去った後、佐藤は早速携帯で石田刑事に二つの事件の事を調べてもらう様に頼んだ。

佐藤「これでよし。後は石田さんからの連絡待ちだ。」

その後一日の授業が終わったので佐藤は下校の準備に取り組んでいたが、その最中に勤に声を掛けられる。

勤「なあ佐藤、一緒に帰ろうぜ!」

佐藤「あっ、悪い。ちょっと用事があるから…」

勤「もしかして強盗事件の調査か?」

勤が言った事に佐藤は驚いてしまう。

佐藤「ど、どうしてその事を…」

勤「実はさっき金田に聞いたんだよ、お前と何話してたんだ?って。そしたら教えてくれたよ。お前と金田が勝負するんだってな!」

佐藤「ばれちゃったか。」

佐藤は仕方ないと言う顔をし、勤に金田との勝負内容を全て話した。

すると勤は自分も手伝うと言い出したので、佐藤は礼を述べるが金田には自分だけの力で勝ちたいと言うことでそれを断った。

勤「そうか…じゃあ、頑張れよ!」

佐藤「おう!」

佐藤は勤と別れて事件のあった宝石店に向かった。

ー宝石店ー

宝石店の前には今朝鈴木が言っていた通りにパトカーが止まっており、警官も数人いた。

佐藤「ここが現場か…。」

ピリリリ…

佐藤が現場である宝石店を見ていると突然携帯電話が鳴った。

開いて見ると画面に石田刑事の名前が表示されていた。

ピッ。

佐藤「もしもし?」

石田「やあ渉君。頼まれていた件についての情報が集まったから知らせようと思ったんだがいいかな?」

佐藤「ええ、是非お願いします!」

佐藤が頼むと石田刑事は調べた情報を詳しく話始めた。

石田「まず東京で起こった強盗事件なんだが、現場の宝石店に犯人の遺留品と思われる眼鏡のフレームが見付かったらしいよ。」

佐藤「ええ、その事はニュースを見たので知っています。その眼鏡が誰の物かは分かりましたか?」

佐藤が一番気になる事を聞いてみると石田刑事は説明し始めた。

石田「ああ、所轄の報告によると眼鏡のフレームは都内在住の男の物だと判明した様だよ。ちなみにフレームしか見つからなかったのはレンズが割れていたかららしいよ。まあ、そのレンズもガラスの破片から回収済みだがね。ただ、肝心の持ち主である男は行方不明なんだよ。」

佐藤「行方不明?」

石田「ああ、私も調べてみた所その男…水谷栄吉(みずたにえいきち)は失業していたんだよ。その為に住居であったアパートも追い出されていて未だに行方が分からないんだ。」

佐藤「なるほど、そういう事でしたか。」

ちなみに所轄は水谷栄吉を重要参考人として行方を捜索しているとの事だ。

石田「以上が強盗事件についての情報だが他に質問は?」

佐藤「現場の宝石店に防犯カメラは無かったんですか?」

佐藤が質問すると石田刑事は少し間を空けてから質問に答えた。

石田「いや、防犯カメラはあるんだが犯人が侵入した時に真っ先に破壊してしまったんだよ。だから映像は残念ながら無いよ。」

佐藤「そうですか…じゃあ次は神奈川で起こった殺人事件について聞かせてください。」

石田「ああ、神奈川で起こった殺人事件だったね。まず被害者は中谷忠彦(なかやただひこ)と言って、事件があった株式会社の社長だよ。」

佐藤「社長さんだったんですか。」

佐藤は被害者が会社の社長だと言う事を知って少し驚いたが、すぐに石田刑事に続きを聞かせる様に促した。

石田「それで死因は鋭利なナイフで胸部を刺された事による失血死で凶器は死体の胸に刺さったままだったらしいよ。で、死亡時刻は今日の正午。」

佐藤「死亡時刻…?」

佐藤はその言葉が気になり、思わず繰り返した。

佐藤「推定では無いんですか?」

石田「ああ、現場近くの防犯カメラに映っていた映像によれば時間は正午丁度だったようだから。」

佐藤「ああ、なるほど。そういうことでしたか。」

佐藤が納得すると石田刑事は更に話を進めた。

石田「で、その映像から犯人は会社の営業部に勤めている社員の椎名と言う男だと分かったんだが、今も見つかってないらしいよ。神奈川県警が重要参考人として指名手配したんだけどね。私からはこれで以上だが質問は?」

佐藤「質問は無いんですがこの二つの事件は犯人が未だに捕まっていないと言うのが共通していますね。」

佐藤が思った事を率直に述べると石田刑事も同感だと答える。

石田「まあ、いずれ犯人は捕まるだろう。」

佐藤「そうですよね、ありがとうございました。」

ピッ。

佐藤はそこで電話を切った。

佐藤「ふぅ。それにしてもどうやって犯人を見つけるかな?う~ん…ここはやっぱり霊視で探しだすしかないか。」

そう考えた佐藤は近くの電柱の影に隠れると数珠を出して霊視を行った。

佐藤「悪意の様な負の気配も見つけられる筈。」

そう考えながら霊視を続けると佐藤は悪霊とはまた違う嫌な気配を捉えた。

佐藤「間違いない、現場の宝石店に残っていたのと同じ“気”だ!」

佐藤は数珠をしまうと感覚を頼りにその“気”を目指して歩き出した。

ー東新聞社ー

それから三十分後、感覚を頼りに歩いていた佐藤は遂に犯人の居場所を突き止めた。

佐藤「東新聞社…ここが犯人のアジトか。」

佐藤は犯人の居場所を突き止めたので息をのんだ。

佐藤「さて、何とか犯人の居場所は突き止めたけどどうするか…いくらなんでもこのまま突入する訳にはいかないし。かと言って、ただ黙って見ているのもな。本当は警察に言いたいけど物的証拠や根拠もないからな~。どうしたらいいんだ…」

佐藤は犯人のアジトを目の前にして悩んでいたが、新聞社の中から出てきた一人の男に注目した。

佐藤「あの人昨日の…」

それは佐藤が昨日公園で会った男である社長だった。

佐藤「変だな…何であの人がここに?確か名刺には刑事って書いてあった筈だし…」

首をかしげていた佐藤だがそこで昨日拾った名刺の事を思い出し、それを渡す為に社長の後を追いかけた。

佐藤「すいませーん!」

社長「ん?何ですか?」

社長が振り返ると佐藤は昨日公園で会った者だと説明し、拾った名刺を差し出した。

佐藤「昨日これ、落としましたよね?刑事さんで時田さん…ですよね?」

佐藤がそう言いながら名刺を出すと社長は笑いだした。

社長「刑事さんだなんてとんでもない、私はここの社長なんだよ。」

佐藤「えっ、この新聞社の社長さん!?でも名刺には…」

社長「これは昨日立ち寄った警察署の方が渡してくださったんだよ。それに私の名前は水川だし、この名刺に書いてある年齢の三十代には見えないだろ?」

水川社長は笑いながら言っていた。

佐藤「す…すいません、失礼しました。」

佐藤は顔を赤くしながら謝った。

社長「まあ間違いは誰にでもある事だから気にする事はないよ。それより名刺を届けてくれてありがとう、え~と…」

佐藤「あっ、僕は佐藤渉と言います。」

社長「佐藤君、ありがとう。お礼によければここでお茶でもどうかね?」

佐藤は躊躇したが、先程の“気”の人物が誰なのかを特定する為に遠慮しながら「ではお言葉に甘えて…」と言って中へ入る事にした。

佐藤「(ふぅ~、やれやれ。さてと、気を取り直してあの“気”が誰のものかを突き止めるか。)」

佐藤はそう考えながら周りを見渡していたが、どの社員からも“気”は感じられなかった。

佐藤「(おかしいな、確かにこの新聞社からあの“気”が感じられたんだけどな。)」

佐藤は腑に落ちないと言う感じだったが、通された部屋で水川社長(以下、水川社長)に促されて席に腰を下ろした。

佐藤「………(ん?社長さんから何かが…)」

佐藤は水川社長から何かが放出されている事に気がついた。

気になった佐藤は水川社長をじっと見ている内にその何かの正体が分かった。

それは…

佐藤「(なっ…そ、そんなバカな!?で、でも…社長さんから放たれているこれは間違いなく探し求めていたあの“気”だ!)」

佐藤はようやく“気”を放っていたのが目の前にいる水川社長だと言う事に気がついた。

佐藤「(でも何で?どうしてこの人が宝石店を…)」

水川社長「ん?どうかしたのかね、佐藤君。」

佐藤は水川社長に声を掛けられてハッと我に帰る。

水川社長「私の顔を見ていたようだが、顔に何かついているのかね?」

佐藤「あっ、いえ…なんでもないです。すいません。」

水川社長は不思議そうな顔をしていたが、沸かしたお茶を出してきた。

水川社長「さっ、どうぞ。」

佐藤「あっ、ありがとうございます!いただきます。」

そう言ってお茶を飲む佐藤。

佐藤「(まさかこの人が宝石店を襲った強盗犯だったなんて…でもどうすればいいんだ?この事を警察に言おうにも根拠も証拠も無いからな…)」

お茶を飲みながら悩む佐藤だが、まずは宝石店の話をして水川社長の反応を見てから確信を持つ事に決めた。

佐藤「あの、色々聞いてもいいですか?」

水川社長「ん?何かね?」

佐藤「社長さん…いえ、水川さんは昨夜宝石強盗が遭ったのをご存じですか?」

佐藤が質問すると水川社長はそれまでの普通の顔から一転して少々怯えた顔になった。

佐藤「あの…水川さん?」

水川社長「ハッ。あっ、いや…すまないね。いきなり宝石強盗の話をしてきたからちょっと驚いてしまって…」

佐藤「すいません、いきなりこんな話して。実はその宝石店が僕の学校のすぐ近くにあるものでして…」

水川社長はギクリとするが、すぐに表情を変えて口を開く。

水川社長「そうだったのか…でもまあ、犯人はすぐに捕まるだろう。日本の警察は優秀だからね、きっと近い内に犯人を捕まえて…」

佐藤「だといいんですが…」

水川社長「ど、どういう意味かね?」

水川社長は佐藤の一言に反応して尋ねるが、佐藤は何でもないと答えて話題を変えた。

佐藤「あっ、そう言えば今日の昼間に神奈川で殺人事件が遭ったのを知っていますか?新聞社ならもしかして知っているかなと思いまして。」

水川社長はまたも怯えた顔をするが、すぐに答える。

水川社長「あ、ああ。その事件なら知っているよ。何しろここは新聞社だからね、色々な情報が集まるんだよ。その事件や宝石強盗の記事も内が出す新聞に載る筈だから後で見るといいよ。」

佐藤「そうですよね、ありがとうございます。(さっきの反応と質問に答える時の慌てかた…まさか神奈川の事件もこの人が?)」

佐藤はそう考えて疑うが、更に確信を持つ為にある事を聞いてみる。

佐藤「所で水川さんは今日は何時頃にここへ来ましたか?」

水川社長「えっ?」

佐藤「いや、新聞社の社長さんって毎日朝早くに来ているのかなと思ったんで。」

そう言いながら佐藤は鞄からメモとシャープペンを取り出す。

水川社長「社会勉強かな?」

佐藤「ええ、新聞社にちょっと興味を持っちゃって。」

水川社長「いい心掛けだね、では答えよう。私は普段は朝早くに出社するんだが、今日は昼過ぎまでちょっと用事があってね。だから今日は二時頃にここへ来たんだよ。社員からはその為に遅かったなと言われてしまったがね、ハハッ。」

佐藤は水川社長の今日の出社時刻をメモすると「ちなみに何の用事だったんですか?」と聞いてみた。

すると水川社長はまたもギクッとするが、すぐに答えた。

水川社長「いや~、大した事では無いんだが…実は車でちょっと神奈川の方へ行っていてね。」

佐藤「神奈川へ…ですか?」

佐藤は神奈川と言う言葉に一瞬反応するが、即座にメモした。

水川社長「ああ、ちょっと会う約束をしていたからね。それが誰なのかは流石に教えられんが。」

佐藤「そうでしたか…でも着いたのって大体何時頃でしたか?」

水川社長「確か、十一時頃だったと思うがそれが…?」

水川社長は時間を答えるも気になって佐藤に尋ねる。

佐藤「あっ、いえ…。ただ、もしもその着いた時間が十二時頃なら丁度さっき言った殺人事件が起こった時間と同じだなと思いまして…」

水川社長はまたもギクッとするが、「あ、ああ…そう言われればそうだね。」と答える。

佐藤「(これまでの反応からして恐らく宝石強盗と殺人事件はこの人の犯行に間違いはないな。あの“気”が何よりの証拠だし。それに殺人事件があった頃は事件があった神奈川に行ってた様だし。でもどうする…この状況じゃ警察に言うことは出来ないしな。)」

佐藤は水川社長が犯人だと言う確信を持っていたが、これからどうするか悩んだ。悩んだ末に佐藤は警察と言う言葉から思い出したある事を聞いてみた。

佐藤「あの…そう言えば先程渡した名刺は昨日立ち寄った警察署の刑事さんから貰ったと言いましたよね?」

水川社長「ん?ああ、そうだが?」

佐藤「つかの間の事をお尋ねしますが、警察署へは何故立ち寄ったのですか?」

水川社長はその質問にまたもギクリとするが、迷わず話してみた。

水川社長「後で社員に聞けば分かる事なんだが実は昨日、私宛に一通の手紙が届いたんだよ。」

佐藤「手紙…?」

水川社長「ああ。見た目は普通の薄くて軽い封筒だったんだが、差出人の名前が余りにも不吉な物だったから、つい警察署に届いたんだよ。」

佐藤はその事も残らず全てメモした。

佐藤「ちなみにその名前って…?」

水川社長「それが…『死の脅迫者』と書かれていたんだよ。」

佐藤「……えっ?」

佐藤はその名前を聞き、思わず上ずった声を出してしまった。

佐藤「それ…本当ですか!?」

水川社長「えっ、ああ…。確かにそう書かれていたよ。まあ、実物の手紙は昨日警察に届けてしまったから無いんだがね。」

佐藤は『死の脅迫者』の名前を聞いてかなりの動揺を隠せなかった。

佐藤「(何てこった…昨日奴の事を考えていたけど、まさかもう既に動き出していたなんて…)」

佐藤が内心でそんな事を考えていると水川社長は「大丈夫かね?」と声をかけてきた。

佐藤はハッとすると「大丈夫です」と答える。

佐藤「あっ、もうこんな時間か。すいません、お茶をご馳走になるだけでこんなに長居してしまって。お仕事中だったでしょうに。」

佐藤がそう言いながら席を立つと水川社長は「いやいや、私も色々話せて良かったよ。今度機会があったら是非遊びに来なさい。ここは私の仕事場兼住居でもあるからね。」と答えた。

その後佐藤は水川社長に礼を述べて新聞社を後にした。

佐藤「ふう、流石に疲れたな。でもまさか『死の脅迫者』が水川さんに手紙を出していたとは驚いたな。ん?でも待てよ。となるとまさか今回の二つの事件も奴が絡んでいるのか!?いや…ただ絡んでいるだけじゃなくて前回の事件の時と同様に今回も奴が裏で糸を引いているって事になるか。」

佐藤はそう考えると改めて事件の事を考えてみる事にした。

佐藤「う~ん…水川さんが宝石強盗と殺人事件の二つの事件の犯人である事に間違いは無いんだろうけど、石田さんによれば殺人事件も宝石強盗も犯人は別の人だって言うしな。」

佐藤は水川社長が二つの事件の犯人に間違いないと確信していたが、どう考えても石田刑事の情報が佐藤の考えを否定してしまう。

だが…

佐藤 「そう言えば石田さんによると犯人が別の人だって判明したのは現場の防犯カメラの映像や遺留品が決め手だったな。」

佐藤はその事からもしや水川社長が他人に罪を着せる為にわざと偽の証拠を現場に残したんではないかと推理した。

佐藤「そうだ、その可能性は十分ある。でも待てよ?確か容疑者になった二人は未だに行方不明だったな。もしも本当に水川さんが犯人なら、その二人は…ハッ。」

佐藤はハッと気がついた。

佐藤「そうだ!もしもその二人に罪を着せるつもりなら、その二人は水川さんにとっては厄介な存在でもある。例えば本物の二人には犯行時に完璧なアリバイがあったとする。そうなれば警察は犯人が別にいるんじゃないかと思い、捜査をやり直す筈だ。

だから水川さんには二人の口を封じる必要がある。つまりその二人はもう………いや、まだ可能性がゼロになった訳じゃない。ひょっとしたら本人達が自分の意思で隠れているだけかもしれないし、水川さんによってどこかに監禁されているだけかもしれない…ようし!」

佐藤は二人の居場所及び生死をはっきりさせる為、数珠を取り出して遠隔霊視を行った。

佐藤「………どこだ?どこにいる!?」

佐藤が遠隔霊視を行って十分。ようやく一人目の水谷栄吉の居場所が見えてきた。

佐藤「木が見える…それもかなりの数。ここは…山奥か?……いや、ここは…樹海!?」

佐藤の遠隔霊視の結果、水谷栄吉は現在樹海にいる事が判明した。

そして気になる本人の生死は…

佐藤「……駄目か。」

佐藤の目には木に引っ掛けた縄で首を吊った一体の白骨死体が映っていた。そしてそれは間違いなく水谷栄吉本人の死体だった。

佐藤「でもこの人…誰かに殺されたと言う感じはしない。凄く暗い感じがするから自殺した様だな。それに亡くなったのは一年も前だし。」

佐藤は首吊り死体を色々と観察していたが、段々と疲れが出てきたのでやむ無く霊視を止めた。

佐藤「ふう、疲れた…。久し振りの遠隔霊視はやっぱりキツいな。」

佐藤は続けての霊視は不可能だと考え、一旦帰る事にした。

佐藤「くっ、体が石の様に重い。この分じゃしばらくはこのままだな。」

そう考えながらも佐藤はヨタヨタとした歩きで帰路につく。

ーその頃、金田はー

金田「フーム、犯人の居場所は未だ特定出来ず…か。」

金田はハンバーガーショップでただ一人椅子に座り、飲み物を飲みながら捜査情報が書かれた資料を読んでいた。

そしてその捜査資料には宝石店を襲ったと見られる水谷栄吉についての情報が載っていた。その内容は以下の通りである。

ー宝石強奪の容疑で指名手配されたのは水谷栄吉・53歳。無職で住所不定…一年前に勤めていた会社が倒産してしまい、住居のアパートも追い出されて現在行方不明。また、彼が犯人と断定された根拠は現場に残されていた眼鏡のフレームに付いていた指紋。

その眼鏡は当初レンズが割れている状態で発見され、そのレンズは後程ガラスの破片に混ざって発見・回収された。この眼鏡に付いていた指紋を鑑識が前歴者のデータで調べた所、一人の男の物と一致。それが水谷栄吉である。

水谷は失業後、コンビニから食料を万引きした前科があり、これも彼が犯人と断定された根拠の一つとなった。こうしてこの事件を担当している警視庁東警察署はこれらの証拠を元に容疑者・水谷栄吉の行方を捜索中である。ー

以上が捜査資料の内容である。

金田「フーム、確かに現場に残されていた遺留品は物的証拠だ。でも犯人が水谷栄吉ならどうして自分を示す物的証拠を現場に残したんだ?眼鏡のレンズが割れていたのは落とした時に割ってしまったからだとしても、眼鏡のフレームをそのままにするなんて…これじゃあまるで誰かに発見して欲しかった様な物だ。」

金田の言うことは最もだ。

宝石の入ったガラスケースを割った時に眼鏡を落としたのならレンズが割れている説明がつく。だが、割った眼鏡のレンズを拾う事が出来なかったとしても、フレームだけは目立つので持ち去る筈だ。ましてや指紋が付いているのだから尚更に。

金田「なのに犯人は現場に眼鏡のフレームを残していった。まさか犯人は…」

金田はそこである仮説を立てた。

金田「そうだ…この仮説なら現場に眼鏡のフレームが残っていた事も説明がつく。だとすればこの捜査は間違いだ!よし、早いとこ親父に知らせよう。」

ちなみに金田が立てた仮説とは犯人が水谷栄吉以外の別の人物が強盗を行ったと言う物だ。

まず、真犯人を仮にXとする。Xは自分以外の人間を犯人に仕立てる為に予めその人物として選んだ水谷栄吉の指紋付きの眼鏡を用意する。

そしてXはそれを持って犯行に及び、現場にその眼鏡を残してから去る。こうする事で後から捜査を行う警察は残されたその眼鏡を犯人が落とした物だと思い込み、それを調べて持ち主を犯人として探す事になる。

これが犯人が考えたこの事件の真相である。ちなみにこの計画の中で真犯人がわざわざ眼鏡を割ったのはそうする事によって犯人がわざと残したのではなく、誤って落としていったんだと警察に思わせるのが狙いだったからだ。

しかし、警察に水谷栄吉を犯人だと思わせる為に眼鏡のフレームを残しておいたのは金田にこの仮説を思いつかせるきっかけになってしまった訳でもある。

金田「………駄目だ、出ない。仕方ない、こうなったら警察署へ直接駆け込んで真相を教えるまでだ!」

金田はそう考えると荷物をひっつかむなりハンバーガーショップを飛び出した。

ダダダダ…

店を飛び出して駆けていく金田。だがこの時、駆けていく金田を店の窓際の席から窓越しに見ていた人物に金田は気づかなかった。

?「(フッ…どうやら一つの謎が解けたようだね、金田君。だが、もう一つの殺人の謎は君と佐藤君には解けるかな?まあせいぜい頑張りたまえ、名探偵に霊能者よ。)」

その人物がこの様な事を内心で考えながらほくそ笑んでいた事にも…

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