中編3
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黒服の男。

N県U市で実際に起こったとされている都市伝説。

二十年近く前になるだろうか。当時、巷の小学校ではとある漫画の単行本が流行っていた。それは男の子達の間で瞬く間に人気となり、漫画を持っていない子はいないのではないかと思うくらいの凄さだった。

今で言うなら、妖怪○ォッチ。

それはさておき。漫画にハマった男の子達は家でも貪るように漫画に読み耽り、学校に持っていって友達と漫画の貸し借りを行っていた。休み時間に話す話題も、ほぼその漫画の内容と言っても過言ではなかった。

人気に拍車が掛かるにつれ、幾つかの問題点も出てくるようになった。漫画に集中し過ぎて勉強をしないとか、学校に漫画を持ち込むようになったとか色々あったが……その中でも特に「漫画の読み歩き」が一番重要視されていた。

学校で借りた漫画を早く読みたいあまり、読み歩きする子が増加したのだ。事故の元にもなりうるとされ、学校や家庭でもあの手この手を尽くしたが、なかなか改善はされなかった。

たがーーーそれは意外な形であっさりと終止符を打つのである。

ある日のこと。とある小学校に通う男の子、仮に塚田君としよう。塚田君もまたこの漫画にハマっており、学校にもコッソリ持ち込んでいた。友達と漫画の貸し借りを行い、最新刊を貸して貰った。

帰り道。いつものようにランドセルから漫画を取り出し、読み歩きしながら帰路についた。途中、踏み切りを渡らなければならないのだが、ちょうど遮断機は下りていた。

「ちえ、ツイてねえの」

唇を尖らせたが、別にいい。大して困らない。漫画を読んで暇を潰していればいいのだから。

漫画に目を通していた塚田君は少しだけ視線を上げた。前に人の気配を感じたからだ。

「あれっ……」

いつからいたのだろう。踏み切りの前に誰かが立っていた。漫画から目を離すのが惜しくて、顔を少ししか上げていないから、全身像は分からないのだけれど。真っ黒いズボンと靴を履いた何者かが自分の前に立っていた。

その時は特に気にも止めずにいた。嗚呼、漫画を読んでる間に誰か来たのだな。それくらいの気持ちだった。

しばらくしてふと見ると、目の前の何者かがゆっくり歩き出した。遮断機が上がったのだろうか。未だに漫画に夢中だった塚田君は、よく確認もせず、つられる形で歩き出した。

ーーーと。背後で声がした。

「危ない!」

えっ……と思う暇もなかった。塚田君は踏み切りを通過中の電車に体を吹っ飛ばされ、軽々と宙を舞った。その瞬間、遮断機から機械音が聞こえてきた。

「デンシャガツウカシテオリマス……ゴチュウイクダサイ……デンシャガツウカシテオリマス……ゴチュウイクダサイ……ゴチュウイクダサイ……」

ーーーそれからというもの。塚田君みたいに漫画の読み歩きしている子が踏み切りを渡ろうとすると、事故に遭う子が急増した。最初は偶然だとか、見間違いだとか言われていたが、流石に数十県件にもなるとそうも言っていられない。

小学校では、漫画の持ち込みに伴い、読み歩きを徹底的に禁じた。しかし、それ以前に子ども達は自主的に漫画の読み歩きをしなくなった。

あなたの家の近くには、踏み切りがありますか?もしあるのならば、読み歩きにはご注意下さい……

「デンシャガツウカシテオリマス……ゴチュウイクダサイ……」

Concrete
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