短編2
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目を瞑って7

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 先輩、と小夜子が夕焼けを背負って歩いてきた。今日は大学にきてたのか。

「小夜子」

「なあに」

「いつから俺を先輩って呼んでる?」

「あなたが一個上だって知ったときからよ」

 お互いの誕生日を言い合うと、確かに俺は小夜子より一個上だった。

「ご飯、食べて帰らない?」

「ああ」

 止めた足をまた動かしはじめる。小夜子と付き合っているのかと友人に聞かれるが、そんなことはない。触れたこともない。そんな気になれない。

 だよな、アイツ、怖いもん。

 友人のカラッとした声が頭に響く。

 左手首をがっちり包帯したヤツが復帰してきた。小夜子の黒髪にガムを吐きつけたたヤツ。テレビドラマみたいな手首をみんなで笑った。なんか、能力が開花したとかねえの?

 ヤツは真っ青な顔で呟いた。

「あそこ、誰か、死んだだろ?」

 ゆっくりと指差した先は隣の校舎の屋上だった。自殺でもあったんだろうか。

 そんな話をガムのことは抜いて小夜子に話すと、楽しそうに笑った。

「そんなの、能力なんかじゃないわ。明日、隣の校舎に行ってみましょう」

 並べられた牛丼特盛。小夜子は俺と同じだけ食べた。平らげた姿に店の人が笑っていた。ビスクドールみたいな肢体に小さな陶器仕立ての顔。食べてほのかに色づいていた。

「小夜子、こないだの合コン? 酒飲んでた?」

「まさか。飲んだ振りよ。色白いからちょっと擦れば赤くなるわ。先輩だって飲む振りだけだったわ」

「バレてたか」

「ああいうの、嫌い。バカみたい」

 じゃあ、なんで来たのかは聞かない。

 次の日、講義が終わった頃に小夜子は現れた。出席カードは出してやったよと言うと、ありがとうと微笑んだ。

「指差したのはこのあたり」

「の、屋上方面な」

「だから、ほら、見て」

 小夜子は屋上ではなく、歩道の壁際を指差した。

 花やペットボトルが置いてあった。枯れている花は時間が経ったことを示している。

「じゃあ、やっぱり誰か死んだんだ」

 すげえな、アイツと言う前に小夜子の深緑色の右目が俺を捉えた。

「逆よ。彼はこれを知っていたのよ。だから青い顔して呟けば、みんなが注目してくれると分かっていた。バカみたい」

 昨日の小夜子と重なる。昨日は水色のブラウスだったが、今日はサーモンピンクのワンピースだった。

「小夜子」

「なあに」

 その色、似合うねと言うと、朝から何着ようか悩んでたから遅くなったのよ。と裾をヒラヒラさせて目を瞑った。

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