中編6
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あなたの隣の普通の人

突然僕は、付き合っていた彼女から別れを告げられた。

彼女の言うことは何でも聞いてあげたし、彼女が困っていれば

必ず一緒に相談に乗って解決したし、プレゼントも買ってあげたし、

自分のできる全ての優しさを彼女に捧げたつもりだった。

正直、何で別れを告げられたのかがわからなくて、彼女に理由を

聞いてみたのだ。

それは、僕にはあまりに理解不能な答えだった。

「普通だから」

そう言い、彼女は溜息をついたのだ。

普通すぎて、つまんない。

高校1年の夏の終わりのことだった。

普通ってどういうことだ。普通のどこが悪いんだ。

僕はすごくイケメンというほどではないが、そこそこ中学の時も

何人かには告られた。身長だって、低くない。

僕が理由を知るのは、夏休みの最終日に街で彼女を見かけた時だ。

彼女はいかにも軽薄そうな、髪の毛をおかしな色に染めた、

ペンギンみたいな下げパンの頭の悪そうな男と腕を組んで歩いていた。

なるほど、普通ではない。僕はあれに負けたのか。

僕の視線に、彼女が気付き、最初はバツが悪そうな顔をしたが、

僕を見て、勝利宣言するように笑ったのだ。

僕はそれからというもの、あまり女性に興味が無くなった。

来るものは拒まないが、長くは続かなかった。

どうせ僕は普通だ。最初は好き好き言うくせに、あとになって

普通だからつまんない、なんて全てを人の所為にして、頭の悪い

言い訳をするんだろう。それなら、僕のほうから三行半を突きつけてやるさ。

僕はしばらく付き合って、体に飽きたら僕から別れを告げた。

振られたら遊ばれたと泣く。

まったく女ってのは、全てを人の所為にして泣けばいいと思っている。

くだらない。

僕は面倒なので、最近はほとんど女性とは付き合わなくなった。

どうせ僕は普通。何のとりえもなく、何の魅力も無い。

普通のサラリーマンだ。息を吸って吐いて、ご飯を食べて排泄して、

仕事して、家に帰れば風呂に入って疲れて寝る。

もう何年もそういう生活を送っているのだ。

僕の生活に何も変化はない。

ところが、僕の生活を変える小さな出来事が起こる。

マイカーで通勤中、僕は農道で小動物が死んでいるのを見つけた。

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小さい。どうやらイタチらしい。

そのイタチの口と思われるところから、真っ赤な内臓が噴出し

何度か車にそのあと轢かれたようで、あちらこちらに内臓が飛び散っていた。

僕は死体の前で車を降りた。

おもむろに、スマホを出して、シャッターを切っていた。

自分でも何故そんなことをしたのか、よくわからない。

でも、その時、僕は異様な興奮を覚えたのだ。

「綺麗だ」

田舎に住んでいるので、定期的に、そういった小動物の死体は見受けられた。

その度に、僕は周りをうかがい、人が居ないのを確認して、シャッターを切った。

僕のフォルダーにはコレクションが溜まっていった。

あまりに酷い死体に出くわすと、僕は興奮が高まり、シャッターを切り、

その画像を家で見てオナニーをした。

どうやら僕は、普通ではないらしい。

だが、そうそう毎日死体に出くわすわけではない。

1ヶ月くらい死体を見ないと、僕は発狂しそうだった。

死体、死体を見たい。無惨に踏み潰され、内臓を破裂させている死体。

禁断症状が出ていた。

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僕は会社の帰りに、駐車場で足元に擦り寄った猫を頭をなでながら、車中に持ち込んだ。そして、すぐに首の骨を折って殺した。

生きてるのは、ダメなんだよね。死体じゃないと。

だって、生きてるのを踏み潰すとか、残酷じゃん?

僕は猫の死体と共に、夜の波止場へとドライブした。

そして、死んでいる猫をコンクリートの地面に寝かせた。

僕は車を急発進させた。左の車輪が猫の体を轢くように。

残念ながら目測がはずれ、猫の足を轢いただけだった。

仕方ないな、じゃあ今度こそ。

僕はまた車を急発進して確実に轢くために、右の車輪で轢いた。

車がわずかにガコンと上下した。

やった、ビンゴ!

僕は今轢いた猫に近づいていった。

生々しい、赤い内臓が、猫の口から飛び出し、長い尾を引いている。

綺麗。

僕はもう一度車に戻り、今度は猫の頭めがけて急発進した。

また轢いた猫に近づくと、顔はもう潰れて肉片になってよくわからない。

脳がだらりとこぼれている。

僕は夢中でシャッターを切った。

これでしばらくオカズには不自由しない。

僕はその日、夜が更けるのも忘れて、オナニーをした。

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「ねえ、最近浅野さんって変わったよね?」

女子社員が同僚社員に耳打ちをする。

僕の噂をしているようだ。

「ああ、そういえばそうかな。何か、いきいきしてるっていうか。」

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「そうそう。昔はなんか草食系だったけど、今はなんかギラギラしてて

肉食系って感じよね。」

「そうかなぁ?」

同僚は答える。

「私、狙ってみようかなぁ。」

「はぁ?君、彼氏いるんだろ?」

「いませんよぅ。もう別れた、別れた。」

「どうだか。。。。」

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今僕は毎日が充実している。

僕は死体が無い日は、どこからか小動物を連れてきては

死体を製造して、僕の愛車でミンチにする。

そして、最高の興奮を得る。

僕は普通なんかじゃない。

普通じゃないんだ。

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「あの、浅野さんって、付き合ってる人いるんですか?」

昼休みに窓辺でぼーっとしていると、ちょっと可愛い系の

女子社員が僕に話しかけてきた。

先日、僕の噂をしていた女子社員だ。名前は知らない。

「いや、別に居ないけど?」

「じゃあ、私と、お付き合いしません?」

大胆な女だ。自分によほど自信があるんだな。

こういう女は鼻持ちならない。

あっさり断ろうかと思ったが僕にはある名案がひらめいたのだ。

「少し、考えさせてくれないか。」

僕の意外な答えに、その女は不満げだった。

あんたみたいな普通の男にこのかわいいアタシが告ってるんだから

OKするのが当たり前でしょ?

まあそんなところか。こういうプライドの高い女は一度こうやって

出鼻を挫いてやるのが効果的だ。

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数日後、僕は帰宅しようとする彼女に声をかけ、誘ってみた。

案の定、ホイホイと僕についてきた。

会社の人間には僕に誘われたことを内緒にして欲しいと念を押した。

「どこに連れてってくれるんですか?」

彼女はウキウキした様子で僕に話しかけてくる。

「夜景が綺麗なところ知ってるんだ。そこで、この間の返事をするよ。」

僕は気を持たせた。

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僕は夜景が見えるスポットに車を停めた。

良かった。ほかに誰もいない。

「わあ、ホント、綺麗~。」

彼女の目はウルウルしていた。

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首が月明かりで白く浮かび上がる。

僕は窓の外の絶景に見とれている彼女の背後から腕を回した、

彼女は淡い期待を抱き、僕の方を向いて目を閉じた。

キス待ち。残念。僕がしたいのはキスじゃない。

思いっきり彼女の首を締め上げた。

彼女は恐怖に引きつった目で僕を見た。

「な、なんで?うぐぅ。や、やめ・・・・!」

彼女は僕の手を振りほどこうと僕の手を握る。

だがやがて、ぐったりと生命の気配を消した。

これで、もうこれは死体だ。

僕の好きにしていいんだ。

僕は彼女を地面に置き、駐車スペースの端から急発進した。

ドゴンドゴン。

車は小動物の時とは比べ物にならないほど跳ね上がった。

僕は車を降りて彼女の死体を見る。

手足が少しおかしな方向に曲がった程度で内臓は出ていなかった。

「ちっ!」

僕は大きな舌打ちをした。

そして、彼女の顔の上に大き目の岩を置いてみた。

そしてまたハンドルを握る。

「もう誰にも、普通だなんて言わせねえ!いやぁーっほぅ!あはははは。」

僕は絶叫しながら、彼女の顔をめがけ思いっきりアクセルを吹かす。

車は横転しそうな勢いで彼女の上を跳ねた。

「やべえ、車傷ついちゃったかなぁ?」

僕は車を降りて、車を見たが車は無傷だった。

そのかわり、彼女の頭蓋骨は無惨な状態で、脳漿が飛び出していた。

まだまだ、内臓が出てないじゃないか。

僕は死体から内蔵が出るまで執拗に彼女を轢いた。

僕は最後に、シャッターを切りまくった。

「すっげえ。小動物とはわけが違うぜ。

あはは、あはははは。すげえすげえ。」

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「美鈴さん、行方不明になったらしいですよ。」

「そうなんだ。彼女も男遊び激しかったからねえ。

手当たりしだいだよ。この前もあの真面目な

浅野にもちょっかい出そうとしてたんだから。」

「何股もかけてたみたいですね。恨みかな。」

「わかんないけどね。」

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給湯室でコーヒーをサーバーからカップに淹れながら

その話を僕は遠くから聞いている。

僕の一日は、表面上今日も、普通に流れているのだ

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>雪姫様
怖い、コメントありがとうございます。サイコパスですね。でも実際、わあっと思いながら見ちゃいますね。

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ちょっとこの作品を書きながら、自分でも狂人っぽいなと思いました。動物の轢死体って見た瞬間、うわぁ!って思っちゃいますけど、なんか見てしまう。

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彼女に振られた事で狂ってしまったのか、
それとも最初から死体フェチとしての素質があったのか…、
或いはその両方か…ですね。

人間何がきっかけで変わってしまうか、わからないものです。
真面目で普通と呼ばれるぐらい一般的だった人が猟奇殺人犯に…、
恐ろしいです。

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