大長編57
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苦狂日記 叫びの詩

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個人名や団体名等、一部の薬物を除き全て仮名で書かせてもらう…

そしてこれは、今でも謎が多くて分からない事だらけなのだが…

なるべく順をおって書いていこうと思う…

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

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「古田さん、ちょっといいスか?」

事の始まりは。会社で帰り支度をしてる時に、後輩の村瀬に相談に乗ってほしいと持ちかけられた事からだった…

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村瀬とは結構仲が良く、家に遊びに行ったり、よく一緒に飯を食いに行く間柄で、相談等にもよく乗ってあげていた。

いつもは大した事のない相談で、ただ話を聞いてほしいみたいな事ばかりだったのだが、その日はいつもと違って真剣な表情で話し掛けてきた。

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相談というのは村瀬の継母の事で、見てはいけない物を見てしまったかもしれないというものだった…

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村瀬は10歳の時に本当の母親を病気で亡くしている。

その後、父親が男手一つで彼を育て上げ、継母と再婚するまで一緒に暮らしていたそうだ…

だが父親が再婚し、継母が一緒に暮らすようになってから、父親と仲が悪くなっていったという。

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元々は父親とは仲が良かったそうだが、継母と性格が合わなかったらしく、それが原因で父親とも喧嘩をするようになっていったそうだ…

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そして間もなく村瀬は、実家を出てアパートを借り、一人暮らしをするようになったらしい。

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そして相談の内容なのだが…

村瀬が相談しに来る約半年位前に村瀬の親戚が二人亡くなっている。

正確には亡くなっていたと言った方が良いかもしれないが…

一人は村瀬の父親の妹で叔母の井上陽子、もう一人は陽子の娘で井上夏美。

この親子は死後1年以上経過していて、白骨化した状態で発見されたそうだ。

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娘の夏美は、自室の布団の上で仰向けの状態で発見され、死因は不明…

母親の陽子は、寝室のドアノブに電気コードを巻き付け、ドアに持たれかかり、そのコードで首を吊った状態で発見された。

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そしてその寝室には数万円の現金と、枕元には陽子の遺書と思われる、ノートか何かの切れ端。そして大量の睡眠薬があったという。

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この睡眠薬は夏美が難病を患っていて、その病気の為に病院から処方された物だと分かった。

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遺書らしきものには『疲れました… 夏美を楽にしてあげたい、私も楽になりたい』

と一行だけ書いていて、裏には日付が記してあったという…

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この事から、この日付の日に親子は、無理心中したのではないかという事だった。

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夏美の病気の状態はかなり酷く。日常生活も色々制限があり、陽子の介助が必要だったという。

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その為陽子も仕事をせず、ほぼ一日、夏美に付きっきりの状態だったそうだ。

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この事から、先の見えない難病と介護の疲れから心身共に追い詰められ、心中したのであろうとの事で警察に処理されたらしい…

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だが謎も多かったという。

というのは、陽子の夫、雅次は、親子の遺体が発見される約三年前に交通事故で他界していて、多額の保険金が入っている。

他にも雅次は、地元では有名な建設会社の幹部で、かなりの収入があり、蓄えもそれなりにあったというのだ。

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それが雅次が亡くなって約二年位の間に、何に使ったのか分からないが、現金は数万円、預貯金等もほとんど残っていなかったらしい…

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しかも遺体が発見された時。家の窓等にはビニールシートとビニールテープで目張りしてあったそうで、死臭が外に漏れにくくなっており、白骨化するまで誰にも気が付かれないまま、1年以上も経過してしまったという。

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これも不可解で。家は雅次が亡くなる三年位前に建てたばかりで、まだ隙間等は全然なく、目張りをする意味が分からない。

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他にも不自然な点がいくつかあったらしいが、それ以上は警察も調べなかったという事だ。

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そして先週。村瀬の携帯に父親から電話がかかってきた…

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電話の内容は。どうやら父親達は家を建てるらしく、引っ越しする前に実家に残っている彼の私物を取りに来いというものだった。

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村瀬は(陽子叔母さんの葬式から1年も経ってないのに、家なんて建てるなよ)と思いながらも、近いうちに取りに行くよと父親に告げたという。

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そして彼は実家の合鍵を持っていたし、両親にはあまり会いたくなかったので、二人が不在の時を見計らって、物を取りに行こうと思ったらしい。

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彼の父親(信治)はサラリーマンをしており、いつも帰りは遅く。継母(朱美)は総合病院で看護師をしていて、両親が家にいない時は頻繁にあったというのだ。

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そして彼は暇をみつけ。両親が不在の時に実家に物を取りに行ったという。

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まず自分が使ってた部屋に行き、必要な物は車にのせ、要らない物はゴミ袋にまとめていったそうだ。

そして、片付けをしてる最中。ふと、亡くなった母親の写真をあまり持っていない事を思いだし、母親のアルバムを探しに両親の部屋へ入って行ったという。

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そこにはもう継母の物が色々あり。ちょっと気が引けたのだが、あまり触れないように押し入れの奥から母親のアルバムを出したそうだ。

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その時。押入れの隅に見慣れないノートを見つけ、何だろう?と思い、ノートも引っ張り出したという。

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中を見ると。どうやら日記のようで、最初は継母が書いた物だと思い、読むのを止めようとしたが、興味が湧いてしまい読んでしまったらしい。

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すると変な事に気がついた。どうやら日記は継母の物ではなく、亡くなった陽子叔母さんの日記だという事が分かった。

一瞬形見分けのような感じで、父親が持って帰ってきたのかな?と思ったらしいが…

読んでいく内に妙な違和感を覚えたという。

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日記はA4サイズのノートに。

夫の雅次が亡くなった日からほぼ毎日、何かしら書いてあったそうだ。

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ノートは全部で10冊以上あり。最後の方を探して読んで見ると、陽子親子が死に至る経緯が記されてあったという。

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日記に書いてある事によれば。到底心中など出来る状態ではなく、ある人物によって殺されたかもしれない事が書かれていたというのだ。

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その人物というのは日記の中ではアーちゃんと記され。村瀬の考えだと、そのアーちゃんなる人物は村瀬の継母ではないかという事だった…

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私は一瞬固まってしまったが、何故村瀬がそんな事を考えたのか話を聞く事にした…

「なあ、何でそんなに継母を疑うんだ?」

「聞いてくれますか?」

「ちょっと興味がでてきたからね…」

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「そうですか。じゃあまず、あの日記が警察に調べられていたら、多分無理心中という形で片付けられるのはおかしいんですよね…

そして日記は実家の押入れに隠すようにしまってありました…

それと継母の名前は朱美…アーちゃんと呼ばれても不思議ではないんですよ」

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「……それだけじゃあさ、俺には訳が分からないし…

第一そんなに気になるならその日記持って一度警察に相談してみたらどうだ?」

「もう半年以上前の事ですから…

第一日記を持ち出し警察に相談して俺の勘違いなら洒落にならなくなりますよ。それでなくても継母とは仲悪いんですから…」

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「でもなぁ…その日記にどんな事が書かれていたか分からないし…

ただ漠然と言われても…アドバイスの仕様がないよ。」

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「じゃあ一回見てくれませんか?

なんとかしてその日記手に入れますから。どう思うか一度見てくださいよ」

「分かったけど。無理するなよ、ヤバイ事になったら警察とかに相談しろよ」

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「分かりました。古田さんに相談して良かった。他にこういう相談出来る人いなかったから…」

「分かったから今日はもう帰ろう。腹減ってきたよ」

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そしてその日はそのまま村瀬と別れ家に帰った…

◇◇◇◇

それから3日位経った頃だろうか…

仕事の一服休みに村瀬が話かけてきた…

「日記手に入ったッスよ」

と言って、村瀬の手にはデジカメが握られていた。

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どうやら彼は、流石に日記そのものを持ってくるのはマズイと思ったらしく。両親が居ない時に日記の内容をデジカメで撮ってきたらしいのだ。

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私は取り敢えずそのデジカメを預かると、日記を写したデータを、会社に起きっぱなしにしてあった、自分のノートPCにコピーした。

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そして村瀬も自分の家のPCにコピーしたらしいので、仕事帰りに村瀬の家に寄り、二人で日記の内容をゆっくり見てみる事にした。

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仕事を終わらせると。二人で真っ直ぐ村瀬の住んでるアパートへと向かった…

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彼のアパートは何処にでもある様な、外に階段が付いた二階建てのアパート…

彼の部屋は二階の一番奥で、彼の部屋の玄関ドアの横には彼の私物が並べられて置かれており。半分物置状態になっていた。

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村瀬は玄関の鍵を開け「どうぞ」と言って中に入って行った…

部屋の中に入ると。いかにも男の独り暮らしって感じで、必要な物以外何もない殺風景な部屋だ。

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「適当に座ってください」

彼はそう言って奥の部屋で着替えをし始めた。

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私はソファーに腰をかけると、直ぐに着替えを済まして彼は奥の部屋から出てきた。

「早速日記見てみましょうか」

彼はそう言うとPCの電源を入れ起動させた。

そして日記のデータが入っているフォルダを開いた…

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するとそこには膨大な数のデータが入っていた…

どうやら彼は日記の中でも後ろの4冊位を丸々写してきたみたいで、その量は凄まじく、重要な事が書かれている所を見つけるのに少し時間がかかった…

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日記の内容を書いていこうと思うが、流石に全部書くとその量で気が遠くなるので、抜粋して書いていこうと思う…

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―井上陽子の日記―

平成22年5月12日 (水)

何を目標にしたら良いのでしょうか?

雅次が死んでからというもの何も良い事がない

夏美の病気も日に日に悪くなる一方

本当に辛いです…

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平成22年5月20日 (木)

今日は夏美の病院の日でした

ようやく夏美の病に病名が付いた

病名は線維筋痛症

初めて聞く名前だった

原因不明、治療法不明の病気らしい

難病や奇病と言われてるらしい

ますますこれからの生活が不安です

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平成22年5月31日

最近夏美の身の回りの事をやっているだけで、一日が終わるような気がする…

こんな生活になってから、どのくらいの時間が過ぎたんだろ?

今はまだ蓄えと、雅次の残してくれた保険のお金があるので大丈夫だけど…

いつまでもこんな生活が続くのなら不安です

夏美の元気な姿が見たい

何か良い治療法が見つかれば良いのだけど…

・・・・・・・・・・・・・・

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「古田さん、線維筋痛症って知ってます?」

「ああ…知ってるよ

線維筋痛症ってのは全身に凄まじい激痛が走る難病だよ

ていうか、この夏美って人、従姉妹なんだろ?

病気の事知らんのかい?」

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村瀬は複雑な顔になってしまった…

「夏美ちゃんとは、あまり会った事がなくて…

最後に会ったのが確か夏美ちゃんのお父さん、雅次さんが亡くなった時だったかなぁ…

その時にはもう体の調子が悪かったみたいだけど…

そんな病気になってるとは知らなかったんですよ。

その後、夏美ちゃん体調悪くしてほとんど寝たきりになったっていうのは聞いてましたけど…」

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と言って村瀬は冷蔵庫から発泡酒とお茶を出して、酒を飲めない私にお茶を渡し、自分は発泡酒をグビグビと飲み始めた…

「村瀬、実は俺も難病持ちなんだよ」

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村瀬は一瞬固まり、人の顔をまじまじと見てきた…

「…見た目じゃ分からない病気はいっぱいあるよ…

それより難病って何で難病って言うか分かるか?」

「いや…分からないッス」

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「難病とは原因不明、治療法不明で後遺症が残る可能性がある病気…

そして経過が慢性にわたり、介護等に人手を要する為、家庭の負担が重く、精神的にも負担の大きい病気の事だよ…

まぁ俺の病気は難病の中でもポピュラーな病気で、特定疾患の中に入ってるから助かってるけど…」

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村瀬は複雑な顔を更に複雑にした…

「特定疾患って何ですか?」

「特定疾患ってのは難病の中でも積極的に研究を推進する必要のある疾患で、厚生労働省が実施する難治性疾患克服研究事業の臨床検査研究分野の対象指定された疾患の事だよ」

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「イマイチ解らないッス…」

「簡単に言えば、難病の中でも患者数が多く、治療法の発見が早く求められてる疾患の事。

そしてその疾患者に対し、国である程度面倒見るので、研究の対象者になってくれって事だよ」

「研究ッスか…」

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「言い方を変えれば、人体実験の対象者になってくれって事…

特定疾患の申請にはそういう事に対しての同意書にサイン、捺印をして申請するんだ…

しかも申請や更新する場所は役所とかじゃなくて保健所なんだよ…」

「保健所って…」

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「まるっきり病原体扱いだろ?でもこの制度のお陰で大分助かってる。

無かったら大変だよ、診察、検査、薬等の病院代が治療法が確率され治るまで、延々と払わなければならないからね…

その人の症状によっては毎月莫大な治療費がかかる訳だし…

だから同じ難病でも特定疾患対象外の人は気の毒だと思うよ…

ちなみに線維筋痛症は現時点では特定疾患の対象外だよ…」

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村瀬は残ってた発泡酒を一気に飲み干すと、冷蔵庫から新しい発泡酒を出してきた…

そして私達はまた日記を読み始めた…

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―井上陽子の日記―

平成22年6月9日 (水)

最近夏美の容態が少し落ち着いてきた

あのリリカという薬を飲んでから痛みが和らいできたみたい

前のように痛いと叫ばなくなった

でも…

叫ばなくなっただけで痛みはあるんだろうね

夏美の辛そうな顔を見るのは何よりも辛いよ…

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平成22年6月19日 (土)

信兄が再婚したらしい

真由美さんが亡くなってからもう10年以上経つし、信昭も大きくなったし、信兄も新しい人生を送りたいのかもね

幸せになってほしい

私達にも幸せが訪れないかな…

今の私には夏美が全て…

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平成22年7月2日 (金)

朝から晩まで痛いと言っている

下痢も続き、外出なんて出来る訳がない

でも動かないと、筋肉が固まって余計動けなくなるらしい…

可哀想…

何故夏美なの?

私が代わってあげたい

辛いよ…見てるだけで辛い

夏美はもっと辛いんだろうね

雅次見ていますか?

夏美は頑張ってますよ

お願い…助けてあげて…

・・・・・・・・・・・・・・

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部屋が暗くなってきたので、村瀬は立ち上がり電気を点けて、カーテンを閉めた。

「線維筋痛症って辛い病気なんですね、下痢が続くとかって何なんですか?」

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「辛くない病気なんてあんまりないと思うよ。下痢は線維筋痛症の症状なのか、合併症なのか、薬の副作用なのか、よく判らないけど、線維筋痛症の人は結構下痢に苦しんでる人はいるみたいだよ…」

「合併症って何スか?」

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「合併症とは。その病気が原因で起こる病気の事だよ。

重い病気や、複雑な病気程、合併症もあるし。

薬の副作用も強力な薬を使うから半端なものじゃない…

実は俺も薬の副作用で腎臓の機能が50%以下になってしまったし、肝機能も低下してきてる…

俺も合併症が色々あるし、いつまで働いていけるか判らないんだよ」

「マジッスか…」

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「それより日記に書いてある、信兄って村瀬の親父の事かい?」

「そうッス」

「じゃあやっぱりこの日記は、村瀬の叔母さんの物なんだね。」

私達はそのまま日記を読み進めた…

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―井上陽子の日記―

平成22年7月19日 (月)

今日は朝から大騒ぎした

信兄が遊びに来てくれたから…

新しい奥さんは若くて美人だった、とっても素敵な人

信兄にはもったいないような気がする…

夏美も久しぶりに笑ってた

嬉しかった

笑顔は大事

毎日笑顔で居られたら最高だね

信兄も幸せそうだったなぁ…

ちょっと羨ましいな…

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『時は川の流れの様

時に早く

時に遅く

穏やかな時

激流の時

それは時によって違う

違うけど同じ

同じ川

同じ時』

・・・・・・・・・・・・・・

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日記には時々、詩のようなものが書かれていた。

詩の言葉には飛躍的な表現があるが、多分書いた時の彼女の心理状態を表していたのではないだろうか?…

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「なぁ…村瀬、新しい奥さんは若くて美人って書いてあるけど…

継母って何歳なの?」

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「33です、俺の8つ上ですよ…

親父と17違います」

「マジで?それじゃあ夫婦って言うより、親子だな。

村瀬も母親って言うより、姉貴って感じだろ?」

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「そうなんですよ。

だから余計居づらくなっちゃって…

実家出てきたんスよね…」

「そうなんだ…解るような気がする…」

ふと時計を見るともう夜の8時を過ぎていた…

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「ヤベ…もうこんな時間、早く帰らないと嫁に怒られるわ。

日記の続きは家で見る事にするよ」

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そう言って私は村瀬のアパートから出て、自宅へと車を走らせた。

自宅に着くと。早速預かったデジカメから日記のデータを自室のPCにコピーして…

そして次の日には村瀬にデジカメを返した。

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それから仕事の忙しさから日記を見る暇もなく、数日か過ぎていった…

◇◇◇◇

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そんなある日、また仕事中に村瀬から声をかけられた…

「古田さん、なんかヤバいかも…」

村瀬は何かを焦っているのか、どこか挙動がおかしかった…

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「どうした?…何かあったのか?」

「実は…継母がうちのアパートに来たんですよね…」

「それがどうしたの?」

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「今まで一回も来た事ないんですよ…

おかしくないスか?」

「そうでもないような気がするけど…

継母は何しに村瀬の所に来たんだ?」

「それが解らないんですよ…

ただ様子を見に来たって言って、部屋に上がってジュース飲んで帰っていきましたわ…」

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「そうなんだ…なんだろうな…」

「俺が日記見たの気付いたんですかね?」

「どうだろうね…

でも考え過ぎじゃないか?

あんまり気にするな」

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この時、私が日記の最後の方にも目を通していれば、もっと別の事を言ってあげれてたのではないかと思う…

だがこの時は村瀬の考え過ぎだろうと思ってしまったのだ…

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その日私は家に帰ると、久しぶりに日記の続きに目を通した。

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―井上陽子の日記―

平成22年8月6日 (金)

今日は夏美の病院の日だった

暑い中、夏美は頑張って歩いていたな

杖も新しいのを買ってあげたい…

新しい杖はもっと使いやすい物を買ってあげよ

本当は杖なんてなくても普通に歩けたらいいのに

またお薬が増えてしまったね

増えたのはコロネルとトリプタノール、便通と鬱病の薬

これで全部で16種類、もうすっかり薬漬けみたくなってしまったね

副作用も色々あるし心配だよ

早く良くなって、笑顔で暮らしたいね

旅行とかにも一緒に行きたいね

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平成22年9月14日 (火)

今日はアーちゃんが来てくれました

色々お土産貰ったし、何より夏美の笑顔が見れた

楽しかったね

夏美は疲れたのかな?

今ぐっすり寝ています

私も久しぶりに笑ったな…

アーちゃんありがとう

・・・・・・・・・・・・・・

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問題のアーちゃんなる人物がここで初めて登場する。

村瀬の言う通り、アーちゃんが村瀬の継母なら、もっと前から登場してる訳だが…

アーちゃんの本名等は書かれておらず、継母だと断定する事も何も書いていなかった。

◇◇◇◇

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それから私は。出張で一週間位、地元を離れた…

暇があれば、日記を読もうと思い、会社からノートPCを持って行ったのだが…

結局そんな暇もなく、一度も読まず出張を終わらせ帰ってきてしまった。

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それから久しぶりに出社すると、村瀬が私の顔を見た途端声をかけてきた…

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「古田さん、お帰りッス」

「ただいま」

この時私は、村瀬が変な事に気が付いた…

疲れているのか、やたらゲッソリとしてしまっているのだ。

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「村瀬、この一週間で随分窶れたんでないか?」

「分かります?あんま寝てないんですよ」

「大丈夫か?何かあったのか?」

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「なんか家が変なんですよ…

家に誰か居るっていうか、常に誰かに見られてるような気がするんですよ」

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「もしかして幽霊か?」

「やめてくださいよ、マジでヤバイんですから」

「前に行った時はそんな感じしなかったけどな」

「判るんですか?」

「なんとなくだけどな、帰り寄って見てやろうか?」

「頼みますわ」

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私は昔から霊感みたいなものがあり、そういう所に行けば、何かしら感じる事が出来た。

でも感じとれるだけで除霊等、専門的な事は一切出来ないのだが…

それでも何か解るかなと思い、仕事の帰りに村瀬のアパートへ向かった。

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村瀬の部屋に上がると、私の好きなコーラとお菓子を買って来てくれていた。

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「どうッスか?何か感じます?」

「イヤ別に…いつもの村瀬の部屋だよ」

「そうッスか…」

「考え過ぎなんじゃないのか?

最近色々あったから、神経が高ぶってんだろ」

「そうッスかねぇ…」

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本当にこの時点では何も感じなかった…

色々見て回ったが、普段と何も変わらない普通の部屋…

私は彼の思い過ごしだと思いそのまま帰ろうとしたのだが…

せっかく来たので彼と日記の続きを読む事にした。

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―井上陽子の日記―

平成22年9月22日 (水)

またアーちゃんが来てくれました

すっかり夏美も懐いてしまった

今度、電位治療器の体験会場に連れて行ってくれるみたい

その治療器で癌や糖尿病、難病が治った人がいるみたい

夏美の病気も治ってくれたらいいな

アーちゃん良い情報ありがとう

今から金曜日が楽しみです

それより電位治療器ってどんなのだろ?

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平成22年9月24日 (金)

今日は夏美とアーちゃんに連れられて、電位治療器の会場に行ってきました

会場は意外と近かった

あんなスーパーの一角でやってると思わなかった

あと老人が多かったなぁ…

でも椅子に座ってるだけだし、会場も近い。

これなら夏美も毎日来れそう

しかも本当に色々な病気を治してる人がいっぱいいるみたい。

こんなのあるならもっと早く知りたかったぁ

アーちゃんには感謝です

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平成22年10月1日 (金)

オーラメディカの会場に通って一週間

夏美の調子が日に日に良くなってきてるよ~な気がする。

私も最近体の調子が良い

これもオーラメディカのお陰かな…

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平成22年10月8日 (金)

今日は夏美の病院の日でした

最近、先生から同じような事しか言われない…

線維筋痛症って血液検査等で反応が出ないから難しいみたい…

でも最近調子が良い事を伝えると、トラムセットの量が少しだけ減らされた

やっぱり薬の量が減ると嬉しいな

薬が無くても普通の生活が出来るようになりたいね。

・・・・・・・・・・・・・・

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「古田さん、電位治療器って分かります?」

「電位治療器ってのは、肩凝りや頭痛、不眠症とか便秘とかに効果のある医療機器の事みたいだよ。

俺も詳しくは解らないけど…

高電圧をかけて、電界を発生させ、その中に人間の体を置く事で治療するらしい…

実は俺もこの電位治療器の体験会場に一度行った事があるんだ」

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「どんな感じでした?」

「俺が行った所は、潰れたコンビニの建物を借りてやってたんだけど…

まぁ…簡単に言えば催眠商法だったよ」

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「催眠って催眠術の催眠ですか?」

「そう…その催眠。この電位治療器ってのは癌や糖尿病、難病を治せる効果は無いよ。

これで治せるなら医者や病院が要らなくなっちゃうかもね」

「でも日記には治ってる人がいるって書いてますよ」

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「多分プラシーボ効果を利用してんだよ。

体験会場に来るのは体の調子が悪い人や老人が多い。

どこかしらに不調を抱えて、少しでも良い健康グッズを探してる人が多いからね。

その人達に実際に体験させて、その間に暗示にかけていくんだよ。

多分マニュアルか何かあるんだろうけど…写真や資料を見せながら、あの人は癌が治った、この人は難病が治ったと言って、治療器の効果を信じ込ませていくんだ。

時にはサクラを使ったり、特許取得してると言ってみたり、高名な医学者、又は医療に携わってる人の名前まで出したりしてね。

そうやって暗示にかけてプラシーボ効果で、体の調子が良くなったと勘違いさせて、この治療器を高額で売り付けるんだよ」

「恐いッスね…」

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「でも買う人は、これで病気が治ると信じてしまうんだよ。

特に長年病気に苦しんでたり、俺みたいな難病もってる人とか、本当にそれで治せるんなら買ってしまうと思うよ」

「でも効果は無いんですよね?」

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「それが微妙なんだよね。

本当にこの治療器で治した人もいるらしいんだよ。

病は気からってやつだろ…

最後まで治ると信じ込んだんだろうね…

でも、やっぱりほとんどの人は効果は無いよ。

病気は根本から治さんとね。プラシーボ効果だけじゃどうにもならん事がほとんどだよ」

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そしてまた日記の続きを読もうとした時だった。

私の頭が勝手に玄関のドアの方を向いたのだ…

上手く説明出来ないのだが…

目の前に突然何かが飛んできて、それを無意識の内にかわした事がある人がいると思う。

それに似た感じと言えばいいだろうか…

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無意識の内に玄関の方に目がいったのだ。

でも、そこには誰も居ないし、何もない…だが何者かの気配だけがそこにはあった。

そいつは動く訳じゃなく、じっとこちらの動きを伺っている様だった。

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私は昔から幽霊と言われる者を何度か見た事がある。

突然消えてしまう女の子を見たり。

心霊スポットと言われる場所で、無実を叫びながら処刑される人を見たり。

火災現場の炎の中に無表情の男が立っていたり。

誰も居ないのに物が動いたり、ドアが開いたり閉まったりするところも見た事がある。

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昔からそういう体験をしてるので、ちょっとの事ではビビったりはしないのだが…

この時は正直恐怖をおぼえた…

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突然現れた何者かの気配…

姿も見えず、音も声も聞こえない。

ただそこに居るという事だけは確実に解るのだ。

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どんな形をしてるのか、どんな色なのかも分からないのだが。

そいつはじっとこちらを見てるのが分かった。

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これが本当の第六感ってやつではないだろうか?

見える訳じゃなく、触れる訳じゃなく、聞こえる訳でもない。

本当に感じるのだ。

それも直接肌にビリビリと伝わってくる感じがした。

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ハッキリ言って怖かったし動けなかった。

そうして固まっていると、その気配はスッと消えてしまった。

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「古田さんどうしたんスか?」

「いや……何でもない……」

どうやら村瀬は何も感じていないらしく、変な顔で私の顔を見ていた。

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私は村瀬を心配させたくなかったし。気のせいかもしれないと思い、日記の続きを読む事にした。

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―井上陽子の日記―

平成22年11月1日 (月)

今日から11月、寒くなってきました

そろそろ灯油を買わなくては…

今日も日課のオーラメディカの会場に行ってきました。

そしてショックな事がありました。

11月いっぱいで今の会場から他の会場に移動になるみたいです…

せっかく夏美の調子が良くなってきてるのに…

オーラメディカ欲しいけど、オーラメディカ一式で260万位するみたい…

買えない金額ではないけど…

アーちゃんに相談してみようと思います。

でも夏美が元気になるなら260万位安いのかもしれない

病院代や薬代だって高いし、このまま病院通っても治る保証はないし…

病院代だって何年も通えば260万を超えてしまう…

どうすれば良いのだろう?

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『長い夜は終わり 朝日が昇り始めた

私達を優しく包み込み 心を満たす

苦痛の道は分岐点を向かえたようだ

分かれた全ての道から誘惑の声が聞こえる

正しい道を歩けるのだろうか…

光の道はあるのだろうか…

でも今は歩く事しか出来ない

その道がまた長い夜に続いても…』

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平成22年11月18日 (木)

遂にオーラメディカを買いました

アーちゃんの車で運んでくれて、設置も協力してくれた

分からない事があればアーちゃんが聞いてくれるし、本当に助かった

アーちゃんには本当に感謝しか言いようがないね。

・・・・・・・・・・・・・・

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「古田さん、何でオーラメディカの会場が移動になったんですかね?」

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「俺もよく分からないけど…

この手の催眠商法、詐欺商法にはよくある事みたい…

空き店舗を利用した期間限定の会場を使うのは、逃げる為、トラブル回避の為と言われてるよ。

何かトラブルがあって、消費者がその業者に連絡したい時があっても、そこに業者がいなければ連絡のしようがない。

しかも本社の所在地が遠方だったり、不在がちだったり、なかなか連絡が取れない事が結構ある。

しかもその連絡先が架空のものだったら、被害の回復は困難になってしまうんだ。

だからこの手の業者は期間限定の会場を利用するみたいだよ」

「なるほど」

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「そして移動する前に商品を高額で売り付けるんだよ。

私達が移動してしまったら、もうこの商品は買えませんよ、特許を取っているので他では手に入りませんよってね」

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そんな話をしてる最中だった。

また私は何かの気配を感じ、自然と今度は台所の方に目をやった。

しかし、さっきと同じで何も見えないし、何も聞こえない…

だがやはり、そこには何者かの気配だけがあり、ビリビリと直接肌にその存在が伝わってきていた。

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今度は村瀬も感じたのか、彼も黙って同じ方向を凝視していた。

その状態のまま数十秒経った時だった…

突然机の上に置いてあった、コーラを汲んだガラスのコップが『ガシャーン』という凄まじい音と共に砕け散ったのだ。

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普通落としたり、物がぶつかったりしたら、割れると思うのだが、何故か割れた訳ではなく粉々に砕けたのだ。

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私と村瀬は一瞬体を震わせ、その光景を理解出来ず固まってしまった。

そしてその数秒後、今度は村瀬のPCの液晶画面が『バーン…バーン…』と音を立てて砕け散っていった…

そして最後に机の上に置いてあった、デジカメが『ボン』と音を立てて飛び跳ねた…

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私達は全く理解出来ず、動く事も喋る事も出来ないまましばらく固まってしまった。

◇◇◇◇

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「今のなんスか?」

「解らん…」

会話が出来る頃にはその気配も無くなっていた。

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取り敢えずコーラでビシャビシャになった机の上や、コップの破片、PCの砕けた液晶等を二人で片付ける事にした。

二人共、得体のしれない恐怖で少し体が震えていたような気がする。

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そして片付けた後、PCやデジカメが起動するかどうか確かめたが…

両方共ダメだった…

完全に壊れてしまっていた…

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デジカメはデータまでイカれてしまっていた。

PCの方は分からないが、古いPCだったらしく、直す程の物じゃないから、買い替えると言って、そのまま放置する事にした。

そしてこの得体の知れない存在が、村瀬の言っていた家に誰かがいるという事かと聞くと…

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「分からないッス…

そうかもしれないけど、こんな物が壊れる事は初めてッス…」

と言って落ち着かない様子で部屋の中を見回していた。

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そしてもう得体の知れない者の気配は消えていたが…

これ以上、この部屋に居る勇気もなく、取り敢えず二人で部屋から出る事にした。

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「村瀬、これからどうするんだ?」

「取り敢えず何処か泊めてくれそうな友達を探しますよ。

もうこの家には居たくないですよ」

「そうだよな…

俺家に泊めてあげたいんだけど、俺家狭いし、第一嫁が何て言うか…」

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「大丈夫ッスよ、泊めてくれそうな友達はいますから…」

「そっか…何かあったら連絡くれ」

そう言って私は村瀬と別れ家に帰った…

◇◇◇◇

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その日の夜、突然会社から電話があり、急遽明日から一週間位、本社の方に出張に行ってほしいという話をされた。

急な話だったが断る事も出来ず、私は直ぐに出張の用意をして、その日は早く眠ってしまった。

◇◇◇◇

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次の日、本社の方に車で向かった訳だが、今回は荷物になると思い、ノートPCは会社に寄って置いてきた。

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この事も後に後悔する事になるのたが…

この時はまだ日記に書かれている事よりも仕事に集中したいという思いと、なんとなくだが日記を読む気分にはなれなかったのだ。

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それから出張中も、何度か村瀬とは連絡を取り合っていたが、あれから別に何も変わった事もなく、今では自分の家に戻っているという事だった。

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私もその事を聞いて安心したのだが。

何故か妙な違和感を感じるようになってきていた。

それは村瀬の喋り方というか、なんとなくだけど、いつもの村瀬じゃないというか…

なんかそんな感じがしていた。

そしてその違和感が確信に変わった出来事が起きた。

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それは本社の仕事がかなり忙しくなり、私の出張が伸ばされ、更に応援で村瀬も本社の方に出張に来た時の事。

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私は出張中、会社が用意してくれた小さな温泉付きのホテルに宿泊していたのだが。

村瀬も同じホテルに宿泊する事になり、時間が合えば風呂や食事等は一緒に行動するようになっていた。

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その日も私が仕事を終え、ホテルに戻ると、丁度村瀬も戻って来ていた。

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「お疲れッス、飯の前に一緒に風呂行きませんか?」

「いいけど、先に行ってて、着替えて用意したら行くから」

「了解です」

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私は部屋に戻り、着替えてから洗面用具を持ち、風呂へ向かった。

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脱衣場に入ると、村瀬が素っ裸になり、体重計に乗っていた。

「ヤベー、また太っちまった」

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村瀬は独り言を言うと、そのまま浴場に向かおうとしたのだが、私は彼の見に付けている物が気になって声を掛けた。

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「村瀬、そのネック外せ、そんなもん付けて温泉に入ったら、錆びちまうかもしんないぞ」

「大丈夫ッスよ、これ本物なんで錆びないッス」

村瀬の言ってる意味がイマイチ解らなかったが、彼はそのまま浴場に入って行ってしまった。

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まあ…本人が大丈夫と言うのなら大丈夫なんだろうと思い、私も浴場に向かった。

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浴場の広さは20人も入ればいっぱいになってしまうだろうか…

湯船は3つあり、洗い場も10人位は座れるだろう…

そして浴場は全体的に薄暗く、所々に段差等があり、気をつけて歩かないと転んでしまいそうな浴場だった。

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私は軽く湯に浸かり、直ぐに洗い場で体を洗い始めた。

すると直ぐに村瀬が隣に座り、彼も体を洗い始めた。

私はどうしてもネックレスが気になり、彼に聞いてみる事にした。

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「なぁ…そのネック何が本物なの?」

「これッスか?

実はこれ普通で買ったら五万位するらしいんですよ」

「ハッ?マジで?」

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どう見てもネットとかで五千円位で売ってそうな、シルバー系のネックレスにしか見えなかったのたが、村瀬は自信たっぷりに見せびらかしてきた。

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「これ継母からもらったんスよ。

友達の家に泊めてもらってる時に、俺家に継母が来たみたいなんですよね。

それで俺が留守だから携帯に電話掛けてきて、それで一回自分家帰って、そこでもらったんですよね」

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「そうなんだ…でも五万もするようには見えないけど…」

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「俺も最初は半信半疑だったんスけど、これを身に付けてから家で変な事が起きなくなったんですよ。

そして、なんか体が軽くなったっていうか…

何やっても全然疲れなくなったし、あんまり寝なくても普通に動けるようになったんですよね」

「マジかよ?」

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「継母に俺家であった怪奇現象の事言ったら、魔除けになるし、不思議なパワーがあるから身に付けてろって言われたんですよ。

そしたら本当に継母の言う通りになったんですよね」

「それで自分の家に戻ってたんだ」

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「そうなんですよ。

そうだ、古田さんの分も継母に言って手に入れましょうか?

そしたら難病も多分治りますよ」

「俺のはいいよ…そんなんで治ったら医者が要らなくなる」

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「そうッスか…本当に凄い効果あるのにな…

あ、あとあの日記の件…

もういいッスわ、多分俺の勘違いッスわ」

「そう…なのか?…」

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「俺、継母と色々話したんスわ、ネックレス貰ってから頻繁に俺家に来るようになって、色々気に掛けてくれてるっていうか…本当に心配してくれてるみたいで。

俺、継母の事誤解してたかもしんないッス。

だからあの日記の事は忘れてください」

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「そっか…そんなんならいいけど…

俺も忙しくて全然日記読んでなかったから…」

「もう日記消していいですよ。解決しましたから」

「そっか…分かったよ…」

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この時、村瀬に感じていた違和感の理由が解った。

彼は普段、あまり笑顔を見せたり、笑って会話するタイプではないのだが、この時は終始笑顔で時折笑いながら話をしていた。

少し不気味にも感じたが、それ以上何も感じなかったし、あまり気にしないようにした。

◇◇◇◇

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それから何事もなく、本社での仕事も終わり、その日ホテルに泊まって、次の日の朝地元に帰れるという時に嫁から電話がかかってきた。

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「ねぇ、今直ぐ帰ってこれない?」

電話に出た途端叫ぶように言ってきた。

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「おい、どうした?」

「何か…何かが家に居るの」

かなり取り乱してるようで、息遣いまで電話越しに聞こえてきた。

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「何かって何だよ?」

「分からないの…分からないけど何かが家に居るのよ」

そう言った時だった、突然何かが割れる様な『バリーン』という音が電話越しに聞こえてきた。

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「キャーー」

「おい、大丈夫か?何があった?」

「分からない…分からないけど何かが壊れる音がした」

「取り敢えず落ち着け、そして家から出ろ」

「うん、わかった」

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そう言って妻の絵理子は家から出て自分の車に移動したようだった。

しばらく興奮状態だったが、しばらくすると落ち着いてきて、今まであった事を話始めた。

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絵理子の話だと、家でテレビを見ながら寛いでいたらしい。

すると、何者かの気配が玄関の方から扉を開けずに、音も立てずにスゥーっと入ってきたらしいのだ。

(何だろ?)と思い、そちらの方を見たが何も見えなくて、何者かの気配だけがそこにあったという。

少しするとその気配が家の中をあちこち移動しはじめたそうだ。

それで怖くなり、私に電話をかけてきたらしいのだ。

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「ねぇ…今直ぐ帰ってこれない?怖くて家に入れないよ、まだ家の中にいるかもしれないし…」

「仕事は終わってるからな…

本社に連絡取って帰させてもらうように言ってみるよ」

「うん、お願い…」

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私は電話を切ると、直ぐに本社に連絡をいれ、妻が急に具合が悪くなったと理由をつけて、帰る事にした。

泊まっているホテルから自宅まで、車で飛ばせば二時間半位で帰る事が出来る。

私はノンストップで自宅まで車を走らせた。

◇◇◇◇

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自宅に着いた時には夜10時を過ぎていた。

絵理子はずっと自分の車の中にいたらしく、私の顔を見ると落ち着いたのか…

「ごめんね」と一言言って、私の後ろに隠れるように着いてきて、一緒に家に入って行った。

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家に入ると、別に変わった様子はなかった。

そして何か壊れた物がないかと家中見て回った。

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すると、私の部屋に置いてあるPCの電源ランプが点灯してない事に気が付いた。

最初コンセントから電源コードが抜けたかな?と思ったが、電源コードは挿さったままだった。

見る限り特別異常はなく、電源を押してみたり色々と試してみたが、全て無駄で全く動かなくなっていた…

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その他は何も壊れたりしてる物もなく、何者かの気配ももう消えていた …

その後二人で軽く食事を取り、私は仕事や車の運転等で疲れたのか、直ぐに眠ってしまった。

◇◇◇◇

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次の日仕事は休みだった。

私は朝から近くのPCショップに壊れたPCを持ち込み、修理を依頼した。

その帰り、昨日の事を村瀬に伝えようと彼に電話をかけた。

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「お疲れッス、どうしたんですか?」

「いや…実は俺家でも何もしてないのにPCが壊れちまって…

壊れる前に嫁がやたら何かの気配を感じていたみたいなんだ…」

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「マジッスか?やっぱり継母に言ってネックレス手に入れた方がいいんじゃないッスか?」

「いや、ネックレスは要らないけど…」

「そうッスか…せっかく古田さんの分調べてもらったんですけどね」

「調べるって?」

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「なんか人それぞれ合うネックレスがあるみたいで、使う素材や値段も違うらしいんスよ」

「何を基準に変わるんだよ?」

「なんか名前とか、生年月日とか住んでる場所とかみたいです」

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「ハッ?調べてもらったって事は俺の事色々言ったのか?」

「言っちゃいましたが…マズかったですか?」

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「マズかったもなにも、そういう事は一言言ってくれ、もしかして住所も言ったのか?」

「詳しい場所までは言わなかったッスけど、大体の場所は言っちゃいました」

「マジかよ…」

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私は会った事もない人に自分の個人情報を知られるのは、ちょっと嫌だったが、もう言ってしまったのなら仕方ないと思い、そのまま電話を切ろうとした…

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「そういえば、俺あと3日位本社の方にいなきゃなんないんスよ」

「え…そっか頑張れよ」

「出張終わったら有休取って、俺セミナーに参加するんスよ」

「セミナーって?」

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「なんか体の内側の力を増幅させるだか…なんかそんな感じで…

このネックレスのパワーももっと協力にするセミナーだと言ってました」

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「それも継母に誘われたのか?」

「そうですよ。なんか2泊3日でパワースポットみたいな所に行くみたいッスわ」

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「そうなんだ…村瀬が決めた事なんだから、あんまり言いたくないけど、変な宗教とか関係してるんじゃないだろうな?」

「大丈夫ッスよ、ただの健康セミナーみたいなもんですよ」

「そっか…頑張れよ」

私はそれ以上何も言わず電話を切った。

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何か変な事に関わらなければいいけど…

と思いながらも、嫌な胸騒ぎを感じていた。

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最近の村瀬の変わり様や、セミナーの事、継母の存在も気になった。

そしてそれ以上にあの日記が気になった。

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村瀬はもう解決したと言っていたが、あの日記のデータを保存してた物が次々に壊れるのは理解出来なかったし。

何となくだけど全ての元凶はあの日記なのではないかと思うようになっていった…

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私は日記のデータが残っている会社に置きっぱなしにしてあったノートPCが気になり、そのまま会社に車を走らせた。

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会社に着くと、丁度昼休みの時間で会社の中の人影はまばらだった。

私は自分の机からノートPCを取り出すと、その場で起動させてみた。

すると普通に起動してデータも無事だった。

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それから直ぐに家に持ち帰り、日記を読もうとしたが、また得体の知れない気配に壊されたらたまったもんじゃないと思って、何処か安全な場所を探したが結局良い所も思い付かなかった。

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本当は友人の中で、霊感ゼロ?のやつがいて、そいつと一緒に行けばどんな心霊スポットに行っても何も起こらない、霊的なものを一切寄せ付けない、生きる御守りみたいなヤツがいたのだが…

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今回は何も起きないという保証は何もないし、何かあっても責任は取れない。

多分オカルト好きだから、頼めば嫌とは言わないと分かっていたが、迷惑はかけられない。

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そいつ以外でも一緒、他の人には関係ない、俺が村瀬に頼まれて相談にのった事だし、今では自分から読み進めようとしている。

絵理子には怖い思いをさせてしまったが、他の人には迷惑はかけられない…

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そしてこのノートPCの中のデータが最後の日記、多分あの気配が現れるのも、あと一回だと何の根拠もない自信もあった…

絵理子には悪いと思いながらも、私は日記を自分の家に持ち帰り、自室で日記を読み始めた。

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―井上陽子の日記―

平成22年12月21日 (火)

今日は大変でした

夏美の容態が急に悪くなり、朝から病院にずっといました

今は落ち着いたのか寝ています。

最近夏美の調子が悪くなってきています

オーラメディカ毎日やっているのに…

不安です

明日またアーちゃんに相談してみようと思います

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平成23年1月12日 (水)

今日夏美は一日中寝ていました

もう見てるのが辛いです

助けてください

月曜日にアーちゃんが凄い人を紹介してくれるみたいです

話によるとオーラメディカを売っている会社の関係者って言ってた。

凄い忙しい人で普通の人は会えない人みたい…

普通の人は会えないってどんな人なんだろ?

どっかの社長とかかな?

なんだかよく分からないけど、私達を助けてくれる人って言ってた…

今度こそ幸せになりたい…

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平成23年1月17日 (月)

今日は不思議な体験をしました

真輪光教会という所に行ってきました

周りから先生と呼ばれてる人に会い、色々話をしたんだけど

先生には何でも分かるみたいでビックリした

不思議な力がある人みたいで、何人も病人を救ってるみたいです。

漢方薬みたいな物も貰えたし

何よりも夏美の病気を必ず治せると言ってくれたのが一番嬉しかった。

ちょっと遠いけどバスに乗れば通えるし

夏美の為に頑張ろう

・・・・・・・・・・・・・・

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やはり夏美の体調が良くなっていたのはプラシーボ効果で一時的なものだったのだろう。

ある日を境に日に日に体調が悪くなっていく様子が日記に綴られていた。

しかしこの真輪光教会というのは何なんだろう?

宗教団体が健康食品を売り付けるという話は聞いた事があるが…

まさかバックに宗教がついてるとは思わなかった。

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―井上陽子の日記―

平成23年1月29日 (土)

今日で先生に会えたのが3回目

会う度に凄い人だと思わされる…

本当に忙しい人みたいで教会にもあまり顔を出さないみたい

それよりもアーちゃんが真輪光教会の人だと思わなかったなぁ…

だから色々知ってたんだね

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平成23年2月9日 (水)

遂に私達も真輪光教会に入りました。

これから毎日頑張って幸せを掴もうと思います

神眼鏡も買ったし、神眼根も買った

神眼根は一ヶ月分で五万円はちょっと高いけど…

これで夏美が良くなるなら

何より先生のパワーが夏美を治してくれるよね

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『今日天使が舞い降りて

私達は解放される

苦しみだけの世界はもう見えない…

今なら高く飛べそうなの

漆黒の翼から苦痛で錆びてしまった羽が剥がれ落ちてゆく…

やっと綺麗な翼に戻れそうな気がする

やっと自由に羽ばたいていけそうな気がする』

・・・・・・・・・・・・・・

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アーちゃんが真輪光教会の人間って事は…

このアーちゃんなる人物が本当に村瀬の継母なら…

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私は村瀬の事が急に気になり、彼に電話をかけてみた、だが何をやっているのか分からないが繋がらなかった…

仕方なくLINEで「セミナーって本当に大丈夫なのか?本当に宗教と関係ないのか?」

とメッセージを残した。

これで彼が見てくれれば、何かしら返事をくれるだろう。

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しかし考えてみれば、村瀬は一度日記を全部見ているはずなのだ。

全部見てる上で継母の言葉を信じて、セミナーに参加すると言っていた。

やはりアーちゃんと継母は別人なのだろうか?

色々考えても答えが出てくる訳ではなかったが、ずっと考えてしまっていた。

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日記のデータを入れた物が次々に壊れていったのも不思議だったし…

ネックレス一つであんなに雰囲気が変わってしまった村瀬も不気味と言えば不気味だった。

そんなネックレスを持ってきた継母はもっと不気味だったし、気持ち悪かった。

そして謎のセミナー…

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元はと言えば、村瀬が実家で日記の内容をデジカメで撮り、そのデータを持ってきた事から全ては始まった気がする。

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やはり私はこの日記が気になってしまった。

全て読めば何か解るかもしれない…

そう思い私は日記を読み進める事にした。

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―井上陽子の日記―

平成23年3月11日 (金)

今日は夏美の病院の日でした。

相変わらず同じ検査に同じ話

本当に日本の医療は進歩しているのでしょうか?

お金ばかり取られるし、薬だって高い

でも薬がないと辛いみたいだし

もうどうしたら良いのか分からなくなってきました

雅治助けてください

先生助けてください

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平成23年3月15日 (火)

今日は一日中ダルかったなぁ

最近凄い疲れを感じる

夏美の身の回りの事をやるだけで疲れてくる

家の中も散らかってきたし、掃除しなきゃ…

気が付いたら神眼鏡の前で何時間も過ぎている

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平成23年4月4日 (月)

痛い、痛い、朝から晩まで

痛くない時はないの?

私だって痛い所いっぱいあるんだよ

夏美お願い…たまには私を一人にさせて…

ごめんなさい…

辛いのはわかっているの

でもね…お母さんも辛いんだよ

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平成23年4月5日 (火)

わたし…何やってんだろ…

昨日はとんでもない事をした

ごめんなさい…

夏美には私しかいないのに…

私が見捨てたらどうするの…

明日はアーちゃんが来てくれる

会合もあるし、先生に会えたらいいな

先生に色々相談したい

どうか夏美を救ってください

そして私を許してください…

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『理解していると思っているだけだった…

自分で自分を貶めても何も癒されない

ごめんなさい…信じてほしい…

ごめんなさい…愛してほしい…

ごめんなさい…』

・・・・・・・・・・・・・・

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夏美の症状は日に日に悪化し、陽子も心身共に、疲れてきてる事が日記に記されている。

ストレスも相当なものだったのだろう。

内容こそ書いてないが、夏美に対して酷い行動をとった事も伺える。

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そして病院や日本の医療に対しての不平不満…

私も難病持ちなので彼女の気持ちはよく解る…

確かに毎回同じ検査はあるし、診察でも大体同じような事しか言われない…

でもこれは仕方ない事なんだよ。

医者も治療法が分からないからね…

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そして一つ気になったのが神眼鏡という物だ。

これはどういう物なのだろう…

多分、カルト宗教お決まりの売り付けられる壺や掛け軸のような物だと思うが…

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あと神眼根。一ヶ月で五万と書いているが、これは多分健康食品か薬のような物だろう。

これもカルト宗教お決まりのパターン…

しかし五万は高過ぎだろう…

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そしてまた日記を読み続けようとした時に、机の上に置いてあった携帯電話が鳴った。

電話に出てみると、今朝PCの修理を依頼した店からだった。

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話によると、故障した原因がハッキリしない上に、データが保存してあるハードディスクまで壊れてるようだった…

これを修理するには専門の業者に頼まないといけないそうで、しかも修理に出しても直る保証もないらしい…

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色々話をしたが、結局買い替える事になってしまった。

別に大したデータが入ってた訳じゃないのだが…

新しいPCを買う金が痛ましかった。

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気が付いたらもう夕方になっていたらしい。

夢中で日記を読んでいた。

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もう直ぐ絵理子が仕事から帰ってくる。

そろそろ日記を読むのを辞めた方がいいだろう。

絵理子は幽霊の類いは苦手で、その手に関係ある物を見てるだけで嫌な顔をする。

私はノートPCを机の引き出しの中へしまった。

◇◇◇◇

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その日の夜、村瀬からLINEで「何も心配はないですよ、何かあったら途中で帰ってきますから。心配しないでください」

と返事がきていた。

私はそれ以上何も言わなかった…

凄い嫌な予感はしてたが、多分今の村瀬に何を言っても無駄なような気がしたからだ。

◇◇◇◇

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それから仕事も忙しく、日記をなかなか読む暇もないまま、時間が過ぎていった。

気が付けば、村瀬が出張から帰ってきて、そのまま有休を取り、セミナーに参加してしまっていた。

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私は心配で、セミナーの内容を聞く為に、何度か村瀬に電話をしたり、LINEでメッセージを送ったが、一度も連絡もなく返事がなかった。

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セミナーの最中は、携帯の使用を禁止されているのかな?

と思ったが、セミナーが終わる日時を過ぎても何も連絡はなかった…

それどころか有休が終わっても、村瀬は会社に顔を出さなかった。

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会社の方には継母と名乗る人物から、体調不良の為2~3日休ませてほしいという電話があったという。

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私は心配になり、仕事帰りに村瀬のアパートを訪ねたが、具合が悪くて寝ているのか、それとも留守なのか…呼び鈴を何度押しても彼は姿を見せなかった。

携帯の方にも何度か連絡してみたが相変わらず繋がらない…

私はますます心配になったが、それ以上どうする事も出来なかった。

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それから私は、暇を見つけては日記を読むようにした。

村瀬の事や、彼の継母の事、今までの怪奇現象について分からない事ばかり…

日記に何か手掛かになるような

事は書かれていないかと思い、読み進めた。

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―井上陽子の日記―

平成23年4月21日(木)

先生ありがとうございます

薬の効果バツグンです

夏美が前のように痛いと言わなくなりました

そしてよく笑うようになりました。

今日は何が面白かったのか、テレビを見て一日中ケタケタ笑っていました。

私も薬のお陰でやる気が凄い湧いてきました。

前のように疲れもありません

流石先生の力が入った薬ですね。

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平成23年4月27日 (水)

今日先生にあまり外に出るなと言われました。

外には細菌がウヨウヨしていて、夏美の病気はそれが原因と言っていました。

先生は何でも分かるみたいですね。

もう病院も必要ないと言われました。

こんな事ならもっと早く先生に会いたかったです。

外の用事もアーちゃんや教会の人がやってくれるし

これでずっと夏美のそばにいてあげられます。

ようやく光が見えてきた気がします。

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平成23年5月30日 (月)

今日は一日中フラフラします

とっても楽しくもあり

辛い時もあります

夏美は相変わらず笑っています。

幸せだね、笑えれば

幸せだね、楽しければ

フラフラが止まらないので、今日は早めに寝ます。

・・・・・・・・・・・・・・

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多分ここに出てくる先生というのは、医者の方じゃなく宗教の方の先生だろう…

しかし線維筋痛症の激しい傷みを抑えられる薬とは何だろうか?

強力な鎮痛剤では、ステロイドやボルタレン、ロキソニン等が思い浮かぶが、もっと別の物のような気がする…

そして『一日中笑ってた』や『やる気が湧いてきた』等、今までにはない文面が急に出てくるようになった気がする…

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もしかしてこれはドラッグ(麻薬、覚醒剤等)と呼ばれる物ではないだろうか?

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私も詳しくは知らないが…

ドラッグには、アッパー系(興奮剤、精神を通常以上に高揚させる)

ダウナー系(抑制剤、アッパー系の逆で、興奮、緊張を抑制し急激な眠気や、強力な鎮痛作用を引き起こす)

そしてサイケデリック系(幻覚剤、その名の通り幻覚を誘発し、感覚を鋭敏にする)等があり、効果や用途も様々だという。

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最近では合法ドラッグや脱法ドラッグとか色々聞くが。

酒やタバコもお国公認の合法ドラッグだというのは知ってるだろうか?

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酒はダウナー系のドラッグで脳を麻痺させる作用がある。

酔う感覚を楽しんだりする人も多いが、多量に摂取すれば泥酔したり、中毒を引き起こす。

そして粘膜(直腸、膣等)から摂取すれば、急速に血中アルコール濃度が上がり、飲酒とは比べ物にならない早さで酔う事ができるし、直接注射針で体内にアルコールを注入すれば、一気に急性アルコール中毒で死に至る。

酒は中毒性、依存性の高い立派なドラッグなのだ。

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逆にタバコはアッパー系のドラッグで、興奮、覚醒作用がある。

その中毒性、依存性は高いのは言われなくても解るだろう…

トリップしないよと言う人もいるだろうが、初めて吸った時や、時間を空けて吸った時に頭がクラクラした事があるだろうと思う。

あれがトリップなのだ。

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覚醒剤も同じで、最初は少量で簡単にトリップできるが、使っていく内に、耐性ができて、同じ量ではトリップできなくなる。

するとトリップする為に量を増やしていく、そうやって中毒になり依存していくそうだ。

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タバコもニコチンの量を増やせばトリップできるそうだが、ニコチンは毒性が強いのでやらない方がいいだろう。

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日本人はドラッグに対する知識も低い。

ドラッグと知らずに手を出す人がほとんどだろう。

国が認めてるドラッグなのだから無理もないが…

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あと、国が認めてるのだから比較的安全と思っている人もいるかもしれない…

しかし酒やタバコより安全なドラッグもある。

それはマリファナだ。

マリファナの方が毒性も弱く依存性も低い、ただマリファナは幻覚作用があるみたいだし、吸い続ければ廃人の様になってしまうらしいので、やはり危険な物なのだろう…

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酒やタバコはドラッグなので禁止にした方がいいと言う人がいるが。

それも難しいだろう…

禁止にしてしまうと、国の税収が一気に減るし、暴力団等の資金源にも繋がってしまう。

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話を戻すが。今ではその辺の主婦や高校生でも簡単に手に入れる事が出来るドラッグ。

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この宗教の先生が持っていても何も不思議ではないだろう。

昔から大麻やケミカル等のドラッグは、宗教儀式やシャーマニズムで用いられてきたと言うし、神懸かり的な力があるように信じ込ませるには、ドラッグは最適だろう…

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一般的なドラッグは、注射針で体内に注入するか、炙って吸引するのが知られている。

それは摂取の仕方で効果や、効果が表れるまでの時間が違うからだ。そして依存性も…

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アルコールも摂取の仕方を変えれば一気に酔ってしまうように、他のドラッグも注射や吸引で摂取した方が効果的なのだ。

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逆に普通注射や吸引で摂取するドラッグを経口摂取すれば、トリップ感は減るし、依存性等も低くなる。

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だがLSDやリキッド系のドラッグのように、極めて微量を経口摂取するだけで簡単にトリップしてしまうドラッグもある。

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そしてこの手のドラッグは無色なうえに無味というのが多いらしく、知らないうちに人に飲ます事も可能なのだ。

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そして次々に作られる、合法ドラッグや脱法ドラッグと呼ばれる薬物は、それを扱ってる業者でさえ、その詳しい効果や依存性等が分からない物もあるそうだ。

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この親子も、騙されてドラッグを摂取させられていたなら、日記に書かれているような事が起こっても不思議ではない。

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そして外に出るな、病院も必要無しの意味もイマイチ理解できない。

これは洗脳か何かだろうか?

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読めば読むほど分からない事がでてきたが、私は気にせず日記を読み進めた。

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―井上陽子の日記―

平成23年6月7日 (火)

もう一ヶ月位外出していません。

私は薬がないと全身きつくて動くのも辛い

布団も敷きっぱなし、何もやる気がしない…

でも夏美に食事と薬だけは飲ませなくては…

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平成23年6月10日 (金)

今日はアーちゃんが食料と薬を持って来てくれた

アーちゃんが来た日は、夏美の面倒を見てくれるので本当に助かる。

私は鬱にでもなってしまったのだろうか?

アーちゃんは今までの疲れのせいと言ったけど…

本当にそうだろうか…

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平成23年6月16日 (木)

手足が痛い、動くのも辛くなってきた

病院に行った方が良いのか?

でも病院は信用できない…

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平成23年6月21日 (火)

どうも痛みが取れない

全身がキシキシ痛む、薬も効かなくなってきた

でも夏美が良くなるまで、私は倒れるわけにはいかない

なんとか薬を飲んで騙し騙し動くしかない。

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平成23年6月30日 (木)

毎日こんなに体が痛い、たまにこの先どうなるだろうと考えてしまう。

私はいいが、夏美には元気になってほしい

最近夏美は笑っているか、痛いと言ってるかどっちかになってきた。

食事もあまり取らなくなってきたし大丈夫だろうか?

私も薬でなんとか動いているが、薬を飲んでもフラフラするし辛い…

私達はどうなってしまうのでしょうか…

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『不安は恐怖を生み

恐怖は私を支配する

思考は停止し 心に刻みつけられる

この暗い世界で あとどのくらいの時間を過ごすのだろう…

この暗い部屋で あとどのくらい耐えるのだろう…

月明かりも届かない現実に私は沈んでゆく…』

・・・・・・・・・・・・・・

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陽子の容態が日に日に悪くなっていくのが記されている。

ドラッグが効かなくなってきたのか、薬の副作用なのか、ただのバッドトリップなのか?

それとも本当に病気なのか?

日記を読むだけでは判らない…

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ドラッグが切れた時の禁断症状に近いものも感じるが、それもハッキリしない…

一体どのような薬物を使用してたのだろうか?

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そして私は村瀬が会社を休んでる最中も、彼が気になり何度か携帯の方に連絡してみたのだが、相変わらず繋がらない上に何も連絡もない…

どんどん不安だけが募っていったが、どうする事も出来なかった。

会社の方にも一向に村瀬は顔を出さず、会社の方からも彼の携帯に何回も連絡したらしいのだが、全然繋がらなかったそうだ。

◇◇◇◇

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村瀬が仕事を休んで一週間位経った頃だろうか…

会社に彼の継母と名乗る女性から電話が入ったという…

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継母の話によると、彼は今原因不明、病名不明の病気になってしまい、ほとんど動く事も出来なくなってしまったそうだ…

それで多分仕事に復帰するのも難しいと思うから、会社を辞めさせてほしいという話だったそうだ。

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電話を受けた上司は、取り敢えず休職という形にして、傷病手当てを受けられてはどうかと言ったらしいのだが…

継母はそれを断り、退職させてくれと言って、近いうちに退職届けを郵送させてくれと言ってきたそうだ…

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仕方なく受け取る形にしたそうだが、その時村瀬の事を色々聞いたそうだ。

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彼は今病院にいるそうで、ほとんど寝たきりの状態だという事だ。

この時見舞いに行きたいと言ったらしいが、人に会わせられる状態ではないと断られたという…

そして彼の借りているアパートも近いうちに引き払うと言っていたそうだ…

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私はそれを聞いた時、何か納得出来なかったし、やはり継母の存在が気になった。

本当に彼は病気なのか?

前から不安に思ってた事が現実になってしまったという気分だった。

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その日の仕事帰り、村瀬のアパートに行ってみたが、やはり部屋には人の気配はなかった…

それから私は家に帰ると、またいつものように日記を読み進めた。

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―井上陽子の日記―

平成23年7月13日 (水)

本当に辛い…

一日中体はキシキシ痛む

何か変わった病気じゃないだろうか?

私まで難病とかになってしまったら冗談じゃない

取り敢えず調子の良い時にアーちゃんに病院に連れて行ってもらおう。

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平成23年7月22日 (金)

アーちゃんが新しい薬を持って来てくれた

新しい薬はとても楽だ

痛みが嘘のようになくなる

ただ強い薬で値段も高いみたい

銀行のカードをアーちゃんに預けた

本当に色々やってくれる、アーちゃんがいなかったらどうしてたんだろ?

迷惑ばかりかけてるよね…

ごめんなさい…本当にありがとう。

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平成23年8月16日 (火)

ほとんど布団の上で過ごしてる

一日中変だ、フラフラしてしょうがない

痛みはないが何か変だ…

夏美は居間で立ったままさっきからニタニタ笑いながらこっちを見ている…

声を掛けても返事をしない…

大丈夫だろうか?

・・・・・・・・・・・・・・

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本当にどんな薬が使われていたのだろう?

幻覚と思われる症状まで日記のあちこちに記されてあった…

この日記は読み進めるほど恐ろしい事が書かれている。

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しかし銀行のカードを預けるとは…

それほどアーちゃんの事を信じていたのだろう…

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確か村瀬の話ではこの親子が遺体で発見された時は預貯金等はほとんど残っていなかったと言っていたが…

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日記を読む分だとまだ残ってそうな気がするが…

260万の電位治療器や月5万もかかる神眼根も買っていたみたいだし…

高い薬と言われ銀行のカードを預けたのなら、まだそれなりのお金は銀行に預けられていたのではないだろうか…

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カードを預けるほど信用してるなら、通帳等のある場所も知っていただろうし…

家の合鍵等も持っていたのかもしれない…

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最初から金が目的で親子に近づいたのなら恐ろしい事だ。

それについて、宗教が関わっていたのかアーちゃん一人の考えだったのか分からないが…

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そういえば、村瀬の両親は家を建てると言っていた…

もしこれも関係あるのなら父親もグルなのだろうか?

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イヤ…確かいつだったか、村瀬はこんな事も言っていたような気がする…

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彼が実家を出た理由を聞いた時。

継母と再婚して父親は性格が変わってしまったと…

再婚する前は穏やかな性格で、優しい父親だったが、継母が家に住むようになってから、まるで別人になってしまったかのように、常にイライラしていて急に暴力的になったり、平気で理不尽な事を言ったりやったりしてきたという…

そして継母の言う事は何でも文句言わずやっていたという…

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もしかしたら継母はドラッグを利用し、父親を洗脳していたのではないだろうか?

って事は…村瀬も…

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何故今まで気が付かなかったのだろう…

それなら彼が急に明るくなって常に笑顔だったのも、変なネックレスで体の調子が良くなり、何をやっても疲れなくなったというのも説明がつく…

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もっと早く日記を読んでいたなら彼を助ける事が出来たかもしれない…

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やはり継母は日記に出てくるアーちゃんなのではないだろうか…

この日記が村瀬に見られた事に気付き、彼にドラッグを使用して洗脳していったのではないだろうか…

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父親は親子から金を取る為か、それとも他に理由があって洗脳したのか判らないが、何か思惑があったのかもしれない…

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しかしあの得体のしれない怪奇現象は何だったのだろう?

あれはどう見ても説明がつかない…

あれは普通の人間に出来る事ではない…

色々考えても答えは出てこなかった…

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そして私はまた日記を読み進める事にした。

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―井上陽子の日記―

平成23年8月28日 (日)

一日中吐き気がする、食事も取っていない、とにかくフラフラする。

アーちゃんが来てくれました

久しぶりにメロンを食べた、美味しかった

しばらくアーちゃんはセミナーで来れなくなるらしい…

代わりに教会の人が来てくれるみたい…

誰が来てくれるんだろう…

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平成23年9月8日 (木)

今日も教会の人は来てくれなかった…

いつ来てくれるんだろう

アーちゃんに連絡しても繋がらない、忙しいのかな?

そろそろ誰が来てくれないと不安です。

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平成23年9月15日(木)

今日も連絡がつきません。

薬ももう本当にありません

フラフラが止まらない

教会に電話しても分からないと言われた

頭がグルグル回っています

夏美の笑い声が一日中聞こえます

頭がおかしくなりそう…

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平成23年9月16日 (金)

今日も連絡がつかない、体が動かない

夏美の面倒も見れない、食事も作れない、お菓子しか食べてない…

明日は何か作ってあげたい

・・・・・・・・・・・・・・

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セミナーという言葉が出てきた。

これは村瀬も参加したセミナーの事だろうか?

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しかし遂にアーちゃんは親子を放置したらしい…

金を取り、薬漬けにし、まともな判断を出来なくさせてから放置…

人間のやる事じゃないだろう…

親子も辛かっただろう…

薬でバッドトリップしたのか、禁断症状なのか判らないが、日記には、目眩、嘔吐、不安感、幻覚、幻聴等で苦しんでいる様子が書かれていた。

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この日記を読めば読むほど、村瀬の事が心配になった…

彼は大丈夫だろうか?

◇◇◇◇

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彼が会社を辞めるという話を聞いてから一週間が経とうとしていた。

相変わらず、彼からは一切連絡はない…

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この頃、一度警察に相談しようと思った事があった…

しかし、確かな証拠でもあれば別だが、今の状態では多分相手にしてもらえないと思い、辞めてしまった…

そして、暇を見つけ村瀬のアパートまで行った事もあった…

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アパートの前まで行くと、駐車場には彼の車はなかった…

多分実家の方にでも置いてあるのだろう…

そしてそのまま、アパートの前を通り過ぎて行こうとした時、彼の部屋の台所の窓が少し開いてる事に気が付いた。

閉め忘れかと思ったが、気になったので部屋まで行ってみる事にした。

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彼の部屋の前まで来ると、部屋の中から僅かだが物音が聞こえた。

帰って来てるのだろうか?

呼び鈴を鳴らしてみた。

だが返事もなければ、物音も消えてしまった…

何回か呼び鈴を鳴らし、ドアを叩いて名前を呼んでみた。

一向に返事も何もない…

さっきまで物音が聞こえ、気配もあったのだが…

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それでもしつこくドアを叩き、名前を呼んでみた。

すると五月蝿かったのか、隣の部屋から中年の女性が玄関ドアを少し開け、怪訝そうにこちらを見つめてきた…

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「あ、すみません…五月蝿かったですか?」

「村瀬さんの友達かい?」

私は会社の先輩だったと説明し、彼と連絡が取れない為、心配になり訪ねたという事を伝えた。

すると信用したのか、それともただの話好きなのか色々話をしてくれた…

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「村瀬さんなら、3日位前に見たわよ、お姉さんと一緒だったわ」

「お姉さん?確か彼は一人っ子ですよ」

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「そうなの?30前後の綺麗な人が体を支えながら付き添ってたわよ」

「体を支えながら?」

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「なんか村瀬さんがゲッソリしてフラフラしながら、その女の人に付き添われて歩いてたのよ。

それでいつも会ったら挨拶してたから、大丈夫?って声をかけたの。

そしたらその女の人が弟は原因不明の病気になってしまって、これから病院に連れて行くんですって言ってたわ」

「そう…ですか…」

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「でも入院とかはしないで部屋に帰ってきてると思うわよ…

たまに村瀬さんの部屋から物音や笑い声とか聞こえるから」

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「そうなんですか…」

「でも具合悪くて出てこれないんじゃないかしら?

別人のようにゲッソリしてたから…」

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「そうですか…」

私はその女性にお礼を言うと、自分の車に戻り、そのまま自宅に帰った。

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多分姉と名乗ったのは継母ではないだろうか…

何故姉と嘘をついたのか解らないが、村瀬とは年齢が8つしか離れていないため、継母と名乗るより姉と名乗った方が面倒くさくないと思ったのだろう…

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しかし取り敢えず村瀬が生きてる事は確認出来た。

でもこれ以上は何も出来なかった…

本当に彼が病気になっているのなら、何回も訪ねるのは迷惑だろうし…

逆に継母に何らかの薬を飲まされ、病人のような状態になっていたとしても、何も証拠はない。

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どうすれば村瀬を助ける事が出来るだろう?

彼から何らかの形で連絡があれば良いのだが…

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それからも私は日記を読み続けていった。

何か継母とアーちゃんが同一人物という確信を得れる事や、村瀬を助ける事が出来るヒントがあればいいと思いながらも…

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―井上陽子の日記―

平成23年9月17日 (土)

電話が停まってしまった…

何故だろう…

アーちゃんどうなってるの?

お金は全部あなたに任せてるのに…

教会の人も来ないし…

食料ももうないし、薬もない

頼れる人はアーちゃんしかいない…

体も動かない…助けて…

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平成23年9月19日 (月)

残ったお菓子と水はなんとか夏美の部屋に置いてきました。

夏美は死んだように寝ていました…

薬はもうありません…

私はお茶しか飲んでいません

お腹がすきました

家中食料を探してみましたが、食べれそうな物はほとんどありません…

アーちゃん何をやっているの?

体が痛くて動けません…

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平成23年9月25日 (日)

お腹がすきました…

もうしばらくまともな物を食べていません…

夏美は大丈夫でしょうか?

私達はどうなるのでしょう…

体が痛くて動けません

アーちゃんが来なくなってどのくらいが経つでしょう…

全身が痛くてしょうがありません

頭もグルグルしていておかしいです

お風呂もしばらく入っていません…

誰かに助けを求めたくても呼べません…

助けてください

どうすれば良いのでしょう…

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『もう何も見えない…

このまま闇に溶けていけたら楽なのに…

軋む体を温めるものはもう何もなくて…

淡い夢さえ見えなくて

果てる事も許されず

モノクロの部屋で枯れた花を握っている

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擦り切れた人形のように願いは枯れて声にできなくて…

風化した機械のように思いはひび割れて…

バラバラと音を立てて崩れてゆく…

明けない空の下 私はこの体を引き摺って彷徨い続ける…

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まだ息ができるから…

まだ動かす事ができるから…』

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平成23年10月4日 (火)

窓から人が見ています

誰だか分かりません

助けてくださいと言うと消えてしまいます。

朝からずっとです…

怖いです…

・・・・・・・・・・・・・・

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ついに究極の状態に追い込まれた事が記されてある。

金も食料もない状態というのは、かなりのストレスと不安を感じただろう…

本当に可哀想だ、日記の続きを読むのが辛くなってくる…

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しかしこうなる前に、電話が繋がるうちに警察等に助けを求めれば良かったのに…

それだけアーちゃんを信じていたか、薬のせいでまともな考えができなかったか…

どちらにしても可哀想なものだ…

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そして私は日記を読み続けようとした時、変な事に気が付いた。

10月5日 (水)の日記がないのだ。

正確には10月5日の日付はあるのだか、内容がないのだ。

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デジカメで撮ってきたデータなので分かり難かったが…

よく見ると内容の部分だけ、3~4行位ハサミか何かで切り取られていて、次の次のページに書かれている日記の内容が見える状態なのだ…

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切り取られた10月5日の裏側が気になり、次のページに書かれている日記を見てみた。

すると…10月9日 (日)の日付の部分だけが切り取られなくなっていた…

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これはどういう事なのか…

何故切り取ったのか…

少なくとも10月9日の日記を書いた後に切り取った事になる…

わざわざ10月9日の日付の部分を、どうにかする為に切り取った訳ではないだろう…

という事は10月5日の内容の部分をどうにかしたくて切り取ったのだろうか…

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しばらく考えていると、ある事を思い出した。

それは親子の遺体が発見された時に枕元にあった遺書の事だ。

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確か村瀬はこう言っていた。

遺書と思われる物はノートか何かの切れ端で、『疲れました、夏美を楽にしてあげたい、私も楽になりたい』と一行だけ書いてあり、裏には日付が記してあったと…

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この遺書は10月5日の日記の内容と、次のページに記してあった10月9日の日付ではなかったのではないだろうか…

もしそうなら、遺書に使う為に切り取った事になる…

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多分切り取ったのは陽子以外の人物だろう…

もし陽子が遺書に使うなら、自分で新しく書いた方が手っ取り早いし、他の者が遺書のように見せる為に使ったのなら、筆跡も陽子のものなのだから、もし筆跡鑑定されても怪しまれる事もない…

という事はやはり陽子は自殺ではないような気がする…

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私はそのまま日記を読み進めた…

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―井上陽子の日記―

平成23年10月8日 (土)

もう動けません

日記を書くのも辛くなってきました

このまま私達は死ぬのでしょうか?

助けてください

夏美の笑い声が聞こえます

何がそんなに可笑しいのでしょうか?

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平成23年10月10日 (月)

夏美、こんなお母さんを許してください

何もしてあげられないお母さんでした

私が死んでも夏美は助かってほしい。

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平成23年10月11日 (火)

夏美の笑い声が聞こえます

何か食べているのでしょうか?

もう体が動きません

心配です

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平成23年10月12日 (水)

今日も夏美は笑っています

何がそんなに楽しいのか解りません

笑い声が四方八方から聞こえます

夏美が沢山いるように感じます

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平成23年10月14日 (金)

最後の水を飲みました

もう部屋には食べる物も、飲める物もありません。

水道をひねればまだ水は出るでしょうが、もう動けません

夏美は生きてるのでしょうか?

声は聞こえなくなりました

寝てるだけならいいのですが

心配です

・・・・・・・・・・・・・・

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最後まで娘の夏美を心配してる事が記されていた。

そして所々に夏美に対して謝罪の言葉を残していた…

最後まで母親として娘が気になったのだろう…

しかし、よく夏美の笑い声が聞こえると書いてあるが、これは本当に聞こえていたのだろうか?

それともただの幻聴なのか?

第一この時点で夏美が生きていたかも判らない…

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―井上陽子の日記―

平成23年10月16日 (日)

今日夏美が楽しく踊ってる夢を見ました

私も一緒に笑いながら踊った

楽しかった

本当に楽しかった

・・・・・・・・・・・・・・

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これが最後の日記となっていた。

10月17日から死亡するまで日記も書けず、動く事もできず、横になり続けていたのではないだろうか?

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こんな状態で自ら首を吊り、死を選んだとは到底思えなかった。

やはり親子が死亡した後に、誰かがこの家に入り、自殺に見せかけたのではないだろうか?

この家に自由に出入りできるのは多分アーちゃんだと思うが…

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そして村瀬が言ってた通り、アーちゃんと継母は同一人物で間違いないだろうと思う。

この日記が遺体と一緒に発見されていれば、多分簡単に無理心中として処理されなかっただろうし…

第一継母がこの日記を持っていた事がなにより怪しい…

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目張りの件も日記には記されていなかった。

多分親子が死亡した後に何者かが目張りをしたのだろう…

腐臭を漏れにくくし、遺体の発見を遅らせる為だろうと思うが…

早く発見されて解剖なんてされれば、一発で薬物反応や他の事まで色々発見されてしまう…

そうしたら、面倒くさくなってしまうだろう…

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骨だけになっても調べ方によれば薬物反応は出るらしいが…

自殺に見せかければ、詳しくは調べないと思ったのだろう。

そして、思った通り自殺で処理された。

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あと気になったのが日記には、お金がありませんと書かれていたが、村瀬の話だと遺体が発見された寝室には数万円の現金が発見されている。

これも謎だ…

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しかし何故、アーちゃんと継母が同一人物ならば、この日記を処分しなかったのだろう?

こんな日記を持っていたら、怪しまれる事は判っているだろうし…

何か処分できなかった理由でもあったのだろうか?

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どっちにしろ今となっては、もうこの日記が継母が所持してたという証拠は何もない…

私が村瀬の実家にこの日記があるのを直接見たわけじゃないし、日記のデータを持ってきた村瀬があんな状態じゃ、もうどうしようもないだろう。

警察が直接、村瀬の実家で日記を発見すれば話は別だが…

今はもうそこまでもっていく事も難しいだろう。

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村瀬に相談に乗ってくれと言われた時点で、警察に行かせていれば、こんな事にはならなかったかもしれない…

村瀬も無事で今でも一緒に働いていたかもしれない…

考えれば考えるほど、後悔の念に駆られてしまうだけだった…

◇◇◇◇

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それからたまに村瀬のアパートには行ってみたが結局1度も会う事はなかった…

だが村瀬が会社を辞めて、1ヶ月以上経った頃だろうか…

彼について話を聞く事ができた。

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それは私が、何気なく村瀬のアパートの前を通った時の事。

村瀬の部屋の隣の住人、あの中年の女性がコンビニの袋を持ってアパートの前にいたのだ。

私は何か話が聞けるかなと思い、車を降りてその女性に声をかけてみた。

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すると、一瞬誰?みたいな顔をされたが、直ぐに「確か村瀬さんの会社の方でしたっけ?」と思い出してくれたみたいだった。

私はそうですと言おうとしたが、その前に女性の方から一方的に話をしてきた…

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「村瀬さんなら引っ越ししたみたいよ。

3日位前に引っ越し業者が村瀬さんの部屋から荷物を運び出してたから…

実家にでも帰ったんじゃない?」

「そうなんですか?」

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「多分ね…

だって村瀬さん相当体調悪かったみたいだから…

ずっと部屋に引き込もってたみたいだったけど…

たまに村瀬さんの部屋から苦しそうな呻き声が聞こえてきてたわ…

あと気味が悪かったんだけど、たまに奇声を発したり、一人で大笑いしてる声も聞こえるのよ…

本当に気持ち悪かったわ…

あとたまにお姉さんみたいのが来てたみたいよ。

女の人の怒鳴り声も聞こえてくる時があったから…

お姉さんも大変よねぇ…」

「イヤ、だからお姉さんではなくて…」

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「でも居なくなってくれて内心ホッとしたわ、夜中とかに奇声とか上げられたらたまったもんじゃないわよ…

気の毒だと思うけど、まるで精神病患者みたいな感じだったし…

あのまま住まわれたら、隣に住んでる私まで気が狂っちゃうわよ」

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「そう…ですか…」

私は話の内容に驚愕し、しばらく呆然としてしまっていた…

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「私これからお昼食べるところだったから、部屋に帰ってもいいかしら?」

「あ、すいませんどうぞ」

私は女性にお礼を言って、一応村瀬の部屋の前まで行ってみた。

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するとやはり引っ越ししたみたいで、玄関ドアの横に置いてあった彼の私物が綺麗さっぱり無くなっていた。

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私は自分の車に戻り、ダメ元で村瀬の携帯に電話をかけてみた…

すると、現在使われておりませんというアナウンスが返ってきた。

どうやら携帯も解約したみたいだった…

結局村瀬がセミナーに参加してから今まで一度も連絡はなかった…

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今村瀬は何をやっているのだろう?

元気に生活してるのだろうか?

それすらも今では分からない…

◇◇◇◇

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そしてそれから数日が経った頃…

私は夜中に突然激しい痙攣に襲われ、救急車で病院に搬送された。

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色々な検査を受けてはみたが、結局原因は分からなかった…

その後も頻繁に原因不明の痙攣が起き、入退院を繰り返すようになってしまった…

今では働く事もできなくなり、ほとんど寝たきりの状態だ…

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難病を患ってから、いずれはこんな状態になるのではないかと思ってはいたが…

まさか別の原因不明の病気でこんな形になるとは思ってもいなかった…

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イヤ…

本当にこれは病気なのだろうか?

最近ではまるで、村瀬や日記の中の親子のような状態に日に日になっていくような気がしてならない…

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私も知らない内に洗脳されたとでもいうのだろうか?

それとも、あの日記の親子の呪いとでもいうのだろうか?

今ではもう調べる事もできないし…

どうする事もできない…

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今は苦しみと戦う毎日と、言いようのない不安があるだけ…

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―井上陽子の日記―

平成23年10月15日 (土)

『何を信じればいい?

何を恨めばいい?

声が届かない闇が広がり

また心を潰してゆく

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一緒に過ごした日々を覚えておいてほしい…

時間が戻るなら 心を抉り取ってあげる

これは叫びの詩

あなたに聞こえるかしら…

涙を辿って見つけてほしい…

私達の切望を…

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心が酷く空っぽで

錆びた身体を動かす事はもうできない…

時を見失い 私達は消えてゆく…

全てが曖昧な現実に叩きのめされ 失望し盲目の朝を迎える

これは滅びの詩

あなた達に聞こえるかしら…

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最も暗い夢が始まる時 私達は此処で待っている…

涙を辿って見つけてほしい…

これは叫びの詩

逃げる事はもうできないから…

偽りの優しさが私に執着な憎悪と哀しみを生んだ…

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だから…

ずっと待っている 夢から覚めるまで…

だから…

ずっと待っている 想いが枯れるまで…』

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苦狂日記 叫びの詩 終

そして…

滅びへと続く…

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おまるさん、怖いを押してくださりありがとうございます。
本当に嬉しかったです。

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あんみつ姫さん、になさん、怖いを押してくださりありがとうございます。
本当に嬉しかったです。

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mamiさん、ンネさんコメントありがとうございます。
凄い長い話になってしまったので、読んでもらえるか心配でしたが、そう言ってもらえると嬉しいです。
今続きを書かせてもらってますが、続きも長くなってしまいそうです…

あと、こんな話に怖いを押してくださった方、ありがとうございます。
読んでくださった方もありがとうございます。

続きができたら、また読んでくれたら嬉しいです。

長さを感じないほど、面白く一気に読みました。
続きを楽しみに待っています。

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藁にもすがる思いの母親の気持ちを踏み躙るような、「あーちゃん」と宗教団体に怒りを覚えますね…だから私は、新興宗教がキライなんですよ…