短編2
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イヤホン

あの子がいた

そのすぐ横を歩いていく

何も無かったかのように

そうして気づかないフリをして

あの子、彼女とはいろいろあった

最近はずっと話していないけれど

思うところは色々あった

彼女の横を過ぎて、バスに乗った

イヤホンをして音楽を聞く

何も聞こえない、何も見えない

そうしていないと彼女を気にしてしまうから

なんかやけに周りの人たちがうるさかった

いや、違う

周りの人じゃない

そう、

イヤホンから

ただ音楽を聞いているだけなのに何かが

聞こえる

最初はあーあーって小さな音だった

だけど気にしたとたんに気づいたんだ

赤ちゃんの泣き声がする

しかも、彼女の

その時なんで彼女の赤ちゃんだと思ったのかは分からない

ただ直感的にそう思ってしまった

そして、また思い出してしまった

彼女の黒い過去を

知ってしまった真実を

その出来事さえなければ

彼女とずっと笑っていられたのに

ただ幸せに笑っていられたのに

僕らが出会う前の出来事

彼女は望んでいなかった

望むはずもなかった

一瞬でボロボロにされた心と身体

失ったものはもう戻らなくて

残されたのはできてしまったもの

できてしまったものは望んだものじゃない

だけどそこには確かにいるんだ

ふたつがひとつになったものが

そうやって人殺しになったんだ

そうするしかなかった、できなかった

いつまでも罪に縛られたまま

そのあと僕らは出会った

何も知らない頃は幸せだった

そして彼女の傷を癒すことはできなかった

いつの間にか目的地は近づいていて

重たい瞳を開き

電源を落とす

これ以上この声を聞いてはいけない

そう思った

そして思い出さないようにして

またいつものとおり過ごす

きっとそれがいいんだ

バスを降り、聞こえてしまったイヤホンを丁寧にしまって

また忘れるんだね

声が聞こえた気がした

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