長編8
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ハロウィン

今日も残業をしたせいで、帰りが遅くなった。

時刻は夜の8時だ。

大の男なら、少しぐらい夜遊びをして帰ってもいい時刻だが、今日は訳があり真っ直ぐに帰ることにした。

その訳とは、何のことはない唯の金欠である。

要するに給料日前なのだ。

出費は少しでも抑えたい。

そんなことを考えながら、通勤路を歩いて帰っていると

前方から、4~5人の子供の一団が見えた。

皆、思い思いの仮装をしている。

「トリック・オア・トリート!」

子供たちは元気な声で私に声をかけた。

その時になってようやく、私は今日がハロウィンであることを思い出した。

「あ、ちょっと待ってね」

私は鞄の中を漁りながら言った。

子供たちは、そんな私をずっと見つめている。

確か、昼休みに買ったチョコレートがそのまま未開封で残っていたはずだ……。

「はい。」

自分の記憶を疑い始めたころ、鞄の奥底に私はそれを見つけできうる限りの笑顔で子供たちにそれを渡した。

「ありがとう」

子供たちは何の屈託もない笑顔でそれを受け取ると、立ち去った。

その様子を見送り、微笑ましい気持ちに満たされると、私は再び歩き始めた。

元来、私は子供好きなのだ。

しばらく、そんなよい気分のまま歩いていると、再び、前方から子供の一団が見えてきた。

今度は十数人ぐらいの団体で、皆“一様に”仮装をしている。

私はちょっと焦った。

何故なら、もうお菓子は無いからである。

私は何かあげられるものが無いか、鞄の中を再び漁った。

そうこうしている間に、子供たちはどんどん近づいてくる。

結局何も見つからないとあきらめたころ、子供達は私の目の前にいた。

「トリック・オア・トリート!」

子供たちは何の躊躇も無く、ごく当たり前に私に声をかけた。

私は、精一杯に残念な顔を作った。

「ごめんね、ついさっき会った子供達に渡したのが最後なんだ」

私にとっては耐え難い沈黙がその場に訪れた。

子供達はお互いの顔を見合い、そして、バラバラにしゃべり始めた。

「トリックだ」

「うん、トリックだね」

「そうだ、トリックだよ」

「トリックを選んだぞ」

「うん、今この大人はトリックを選んだんだ」

私はなんだか、酷く可哀想な事をした気になった。

「本当にごめんね」

私が再びそう謝ると子供達の一団の中から、小学校低学年ぐらいと思われる、子供達が3人ほど前に出てきた。

そして、おもむろに懐から何かを取り出した。

街灯の光が薄暗くよく見えなかったので、私は子供達の背に合わすようにしゃがんだ。

パンパンパン!!

その瞬間に目の前で軽い破裂音がしたかと思うと顔に激痛が走った。

私は後ろに倒れこみ、顔を抑えた。

パンパンパン!!

それを契機に3人は一斉私に向かって何かを撃ち始めた。

どうやら、3人ともモデルガンを持っているらしい。

「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」

片手で顔を抑え、もう片方の手を前に出した

しかし、3人は一切辞める事をせずに、間段なく打ち続ける。

私はひたすらに耐えるしかなかった。

やがて、弾がすべて無くなったのか、あたりに静寂が訪れたのを見計らって、顔を覆っていた手をどけ顔おあげた。

パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパン!!

先程よりさらに激しい破裂音の連発が辺りに響き渡り、私はその場に蹲るようにへたり込んだ。。

「いててててててててててててててて!!」

情けない声を思わずあげる私。

ほんのちょっとの瞬間しか見えなかったが、アサルトライフルのモデルガンを使っているようだ。

しかも、電動連射機能付きだ。

そして、今度こそ弾が無くなったのか、再び辺りに静寂が訪れた。

ようやく終わったかと、ゆっくり立ち上がった私は、その瞬間思わず「う、嘘だろう?」と声を上げた。

先程の小学生低学年らしき子供たちは、やはり弾切れだったのか集団の最後尾に戻り各々のモデルガンに再び弾を込めはじめた。

代わりに集団から出てきたのは、小学校中学年ぐらいと思われる子供たち3人だ。

彼らの手には、包丁やナイフ、悪魔が持つ槍の様なものから日本刀まで様々な刃物が握られていた。

私はそれを見るなり、背を向けて駆け出した。

ドン!!

その瞬間、何かが背中を叩いた。

いや、叩いたというよりは何かが背中に入ってきた。

それが先ほど子供が持っていたナイフだと気づくまでに約0.5秒、耐え難い痛みが襲うまでに0.5秒、その計1秒の間に、私は再び倒れこんだ。

倒れこむ瞬間、子供達が斬りかかってくるのが見えた私は、転んだ勢いで体を回転させその場を離れた。

耳に残る甲高い金属音が当たりに響く。

私は再び、立ち上がるとすぐ近くの曲がり角に駆け込もうとした。

しかし、そこにはすでに先回りした、小学生高学年と見られる子供達が銃を構えて待っていた。

いやな感じが脳裏を過ぎった。

私は、身を翻すとすぐそばの空き地に駆け込む。

ダン!!ダン!!ダン!!ダン!!ダン!!ダン!!

後ろから、明らかに先ほどのモデルガンとは違う破裂音が響きそれと同時に背中に幾つもの痛みが走った。

やはり、本物の銃だった。

私は、ほうほうの体で空き地に駆け込んだ。

子供達との距離が少し離れた。

私は、そのまま振り切ろうとさらに空き地の反対側の出口を目指す。

なぜ私はこの時に気づかなかったのだろう……。

私はこの空き地に逃げ込んだのではなく、誘い込まれたことに……。

空き地の中央付近まで来たとき……足元で「カチリ」という音がしたかと思うと急に足元が爆発した。

私は数メートル吹っ飛ばされて、右足の感覚を失った。

その右足を見たとき私は絶句した。

もともと、私は肉付きが良い方ではないのだが、無残にも皮膚は焼けただれ、所々の筋組織が断ち切れ中から白い骨が見え隠れしている。

「クッ!!地雷か!?」

ふと、見ると子供達が各々武器を携え、悠々と近づいてくるのが見える。

私は力の限り、這って逃げた。

その時になってはじめて気づいたのだが、左の手首から先が無かった。

断面を見る限り、まるで達人にでも斬られたかのような滑らかさで切断されている。

どうやら、刃物に襲われたときに避けきれていなかったらしい。

しかし、そんなことを気にしている場合ではない。

私は、芋虫のように這った。

しかし、たとえ子供とは言え、這うのと歩くのでは分が悪すぎる。

子供達との間はドンドン詰まってくる。

そして、一瞬ふわっと体が浮くような感覚を味わうと私は落とし穴に落ちていった……。

気がつくと、私は深い穴の中に居り、底から無数に生える尖った杭が体中を貫いていた。

どうやらブービートラップのつもりらしい

なんとなく視界がおかしいと思っていたら、無数にあるくいの一本が、後頭部を貫き左の眼窩から突き出ていた。

右目でその杭の先端に刺さった左の眼球を見たとき私はすべてを観念した。

もう、給料日前とか気にしている場合じゃないな……。

落とし穴の周りには子供達が取り囲んでおり、私を心配そうに見おろしている。

「ああ、もう!!分かった、分かった!!好きなだけお菓子買ってやるから、ここから出してくれ!!」

私がそう叫ぶと、子供達の中で一番の年上と思われる男の子が『ニンゲン』のマスクを脱いだ。

そこから顔を出したのはカボチャ頭であった。

どうやら、この一団のリーダーはジャック・オー・ランタンの子らしい。

「おじさん、本当!?」

男の子は、その顔面内部の蝋燭を嬉しそうに揺らめかし、眼、鼻、口から洩れる光が一層強みが増した。

どうやら嬉しがっているらしい。

「ああ、本当だ。だからここから出してくれ。あと、ついでにその辺に転がっているはずのお兄さんの左手首も探しといてくれると嬉しいな……。」

穴から這い出ると子供達が笑顔で迎えてくれた。

皆すでに『ニンゲン』ののマスクを脱いでいた。

よく見ると、先ほどのジャック・オー・ランタンや、エルフ、ゴブリン、ホビットなど実に雑多な構成だったようだ。

しかし、みんな顔に見覚えがある。

全員、近所の子供達だったらしい。

「おじさん、御免ね。ちょっとやりすぎちゃった」

リーダーの子が私に謝ってきた。

「はっはっは。大丈夫だよ。お兄さんは見てのとおり、ゾンビだからね。ちょっとやそっとじゃ死ねないし。手首だだってこの通りすぐにくっ付いただろ?」

私は、くっ付いたばかりの左手を摩りながら答えたあと、軽く右足の治り具合を確かめるように地面を蹴った。

「な?」

私は出来るだけ心配させないように笑いかけた。

しかし、実のところを言うと右足だけはちょっと時間がかかりそうだった。

切り落とされた左手首に関しては、きれいサッパリ切り落とされたので直りは早い。

しかし、組織が破壊されてしまった右足はなかなか直りにくい。

「それにしても何で皆、今年は『ニンゲン』だったんだい?」

私は先ほどから疑問に思っていたことを口にした。

「うーん。だってさ、『ニンゲン』っていっぱい道具の種類があってカッコイイんだもん」

リーダーの子は何で「そんな当たり前の事聞くの?」って顔で答えた。

それから、10分ほどたった後

約束どおり、まだ開いている近くのスーパーへお菓子を買いに出発した。

給料日前だろうがなんだろうが、こうなったもうヤケクソである。

右足に関しては運が良かったことに、子供達の中に優秀な魔女の子供がいたおかげで直してもらうことができた。

もっとも、子供なので微妙な調整に失敗したのか、少し左足と比べてバランスがおかしくなり、歪な歩き方になってしまった。

いずれ大人になれば、立派な魔女になるだろうが、今は子供なので仕方が無い。

実の所、却ってゾンビらしい歩き方になったので気に入っているぐらいだ。

私は、私の腐臭が子供達に移らぬよう、少し離れて歩いた。

「道具の種類があってカッコイイか……」

彼らに聞こえない程度の大きさで呟いた。

あの子達に話すのは、やはりまだ早い。

世の中、事実を知らせるには、それなりのタイミングってものがある。

今に彼らは大人になって、『ニンゲン』の真似をしたことなんか忘れる日が来る。

または、忘れなくてもそれを真正面から受け止められる日が来る。

今はまだ知らなくていい。

彼らが今日使った道具を『ニンゲン』は『武器』と呼び

それらを使い『本当に殺し合い』を行っているなんて事は……。

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怖面白かったです(*´罒`*)

園長さん、もう投稿はしないんですか?

また園長さんの怖い話が読みたいです(`・ω・´)ゞ

無邪気な子供たちの殺戮話かとおもいきや、お伽の国のお話でしたか…ゾンビサラリーマン、死ななくて良かった…あ、もう一回死んでるんでしたっけ?先日友人宅で観たゾンビのお話はゾンビになると身体能力が上がって、全速力で追いかけてくるという、恐ろしい物でしたが…サラリーマンゾンビさん、子供にたかられてお気の毒〜(´Д` )

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