中編4
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電話ボックス

私は今ピンチに立たされている。

友人の家に行く途中、道に迷ってしまったのだ。

友人がマイホームを買ったと言うので来てみれば、ほぼ民家もなく

コンビニも見当たらないような田舎だ。

駅に迎えに行こうか?という友人の申し出に、まぁ携帯のナビでも見ながら行くよと答えた。

わからなければ人に聞くし、と変に気を使ったのがまずかった。

まさかこんなに田舎とは。

しかも、こんな時に限って携帯が電池切れ。

今時、リチウムイオン電池なんて時代遅れの携帯を持っているから。

今や時代は水充電池で2〜3日は持つ時代。

充電が切れたら水を補充するだけなのだ。

精密機械と水なんて一昔前なら考えられない取り合わせだったけど。

まさかこんな田舎に引っ越したなんて。

友人に連絡も取れず途方にくれて歩けど歩けど人一人出会わない。

ホントにここに人が住んでるのか?と疑いたくなる。

すると田んぼ道の真ん中にぽつんと電話ボックスが見えてきた。

なんと、今時珍しい。電話ボックスなんて20年ぶりくらいに見る。

まるでそこだけ切り取られて、時代に取り残されたようだ。

やった、これで友人に連絡が取れる。

恥ずかしいけど電話してやっぱり迎えに来てもらおう。

小銭を探して投入し、友人宅の電話番号をプッシュした。

「その電話番号は、現在使われておりません。もう一度お確かめの上、おかけ直しください。」

声はそう冷たく伝えてきた。ええー、電話番号、書き間違えた?うそ!

でも確かに、2回しっかり確認したのに!なんで?

私は絶望して、また歩いて探す覚悟を決め電話ボックスを出ようとした。

あれ?開かない。これって、押す、で合ってるよね?押したら中に扉が折れて

バタンと開くやつでしょ?いくら押しても開かない。なんで!

押してダメなら引いてみるか。引いても開かない。

ウソ!最悪!こんなところで、閉じ込められた!!

扉をドンドン叩いて助けを求めた。

「助けて、助けて、誰かいませんか!」

人っこ一人通らない。もうあたりは薄暗くなっている。誰一人通らない。

犬の散歩とかウォーキングの人とか、誰か通らないの?

なんなのよ、この田舎っぷりは!私はどうしようもないことに腹を立てている。

一番悪いのは自分なのに。

他の電話番号にも電話してみた。

「この電話番号は現在使われていません。」

どの番号にかけても同じだ。おかしい、壊れてるにしてもおかしい。

私はその電話ボックスの中でとうとう一夜を明かした。

朝には通学や通勤でここを通る人くらい居るだろう。あるいは農作業の人とか。

朝日が昇ってきた。遠くから自転車で学生が近づいてくる。

やった!やっと助かる。

「すみませーん、閉じ込められたんです!助けてください!」

私は電話ボックスの中からドンドンガラスを叩き助けを求めた。

学生はイヤホンをつけて音楽を聴きながら自転車をこいでいる。

でも、電話ボックスは透明。外から丸見えだから異変に気付くはずだよね。

「おーい、助けてー!閉じ込められたんだよー。助けて!」

学生は素通りした。なんで、信じられない!こんなに中で人間が騒いでれば見えるはずでしょ?なのに中に何も存在しないかのように素通りした。

どうして!学生は自転車だから見過ごしたんだろうか。。。。

私は心底がっかりした。

すると次は犬を散歩させているおじいさんがこちらに向かってきた。

やった、今度こそ!イヤホンもしていないし、徒歩で来ている。見逃すはずがない!

私は声を限りに助けを求めた。ドンドンドン!助けて!閉じ込められたんです!

その声もむなしく、その老人も何も気付かずに行ってしまった。

なんで?こんなに助けを求めているのに!何で気付かないの?私が見えないの?もしかして。

途方にくれた。電話ボックスを破壊しようかとも考え、何度も体当たりしたり、

とがった鍵の先でガラスを傷つけてヒビを入れて割ろうとしたけどビクともしなかった。

涙が止らなかった。誰も助けてくれない。

半日ほど経った。

私はすっかり衰弱してしまった。

まったく水分を摂っていないし、トイレにも行けないので、誰も通らない時を見計らってその場でしてしまった。

泣いても仕方ないのに、涙だけは溢れてきた。

遠くから、ヘルメットを被った男性がこちらに歩いてきた。

電話ボックスに近づいてくる。

やった!今度こそ、助かった。きっと壊れたドアを直しにきてくれたんだ。

男性は不思議そうにこちらをチラっとみた。

「助けて!助けてください!閉じ込められちゃったんです!」

堰を切ったように叫んだ。男は気の毒そうにこちらを見て言った。

「無理だよ。もうそっちの世界に行っちゃったんでしょ。帰れないね。

誰か入ったら危険だから撤去するように言われたんだ。

一足遅かったね。君にはこの電話ボックスが見えちゃったんだ。

これ、こっちの人からは見えないやつだから。出してはあげるけど、

君、もう元の世界には戻れないよ。気の毒だけど。」

何言ってんのこの人。意味がわからない。

どこにもつながらない電話。それが意味していることなのか。

私は呆然と立ち尽くした。

じゃあいったい私は、どこへ帰れというの?

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よもつひらさか様

電話ボックス。
究極の密室ですね。

公衆電話にまつわる怖い話は多いですが、
このお話には、他には見られない新鮮な怖さを感じました。

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