短編1
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みるな。

高校生の時、一度だけ「人身事故」の現場を見てしまったことがある。

学校からの帰り道のこと。近くの駅で何やら大騒ぎをしているようだったので、興味本位でちらりとホームに入ってみた。ホームには電車待ちの人が大勢いて、口々に囁き合っていた。

「可哀想にねぇ」「ご両親には見せられない姿だなぁ」「まだ若いのに」「一体、何だってこんなこと……」「何かあるとすぐ莫迦な真似をして」「人の迷惑を考えないのかしら」

嗚呼、人身事故だな。すぐにピンときた。怖いもの知らずの私は、ホームに近付かないで下さいと乗客を阻んでいる駅員の目をかいくぐり、そっとホームを覗き込んだ。

「うっ、」

そしてすぐに後悔した。電車に飛び込んだのは若い男性らしく、線路には切断された肉片が散らばっていた。見れば、割と手前にゴロリと首の部分が転がっているではないか。

怖い怖いと思いつつ、ついその首を見てしまう。男性の首はこちらを向いており、半目で口はぽかんと開いていた。

と。半目だった目が、ゆっくり開いた。そして私をジッと見つめ、モゴモゴと唇を動かした。

「み……る……、な……」

首は確かにそう呟くと、またゆっくりと目を閉じた。それから二度と喋らなかった。

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