中編4
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箱男。

箱男という都市伝説をご存知だろうか。

比較的に新しい都市伝説なので、知らない人も多いかもしれない。歴代の都市伝説となっている人面犬、口裂け女。そしてメジャーになりつつある一人かくれんぼ、ひきこさん、トビオリさん……それに加えて新たに名を連ねたのが箱男である。

箱男というのは、小さめのダンボール箱を頭にすっぽり被った男のことだ。このスタイルのまま、街を闊歩しているというのだから、なかなかの強者であることは間違いない。

なぜ箱男はダンボール箱を頭にすっぽり被っているのか。その理由には諸説ある。若年性の認知症になってしまった男がわけも分からずに被っているだとか、顔に酷い火傷を負った男が、火傷の痕を隠すために被っているだとか……真偽のほどは定かではない。

箱男はある日突然、何の前触れもなく姿を表すのだそうだ。箱男に遭遇したという小学生によれば、ゲームセンターにいたという。放課後、友達とゲームセンターに出掛けて遊んでいたら、ダンボール箱を被った男が近くに立っていたらしい。その数、五、六人ほど。特に何かされたわけではないが、異様な風体に恐れをなし、小学生達は我先にとゲームセンターを飛び出したそうだ。

とある一人暮らしのOLは、自宅のマンションに箱男が来たのだと話した。夜も遅くに誰かが訪ねて来たので、ドアを開けたら箱男が立っていたそうだ。彼は「シマエシマエシマエシマエシマエシマエシマエシマエシマエシマエシマエシマエシマエシマエシマエシマエシマエシマエシマエシマエシマエ……」とずっと呟いた。怖くなった彼女は、慌ててドアを閉め、鍵を掛けた。それから数十分後に覗き穴を覗いて外を確認したが、既に誰もいなかったという。

都市伝説の最大の恐怖ーーーそれは誰かが勝手に作り出した妄想であるのか、それとも真実の物語であるのか、判断がつかないことだ。信じる信じないは個人の自由ではあるが、果たして嘘ごとだと笑って済ませる話なのだろうか。

勿論、都会伝説に確たる証拠はない。ほとんどの都市伝説は他者の体験談に過ぎない。物的証拠や科学的な根拠は何一つないのだ。

一つ、例を上げよう。1970年代のことなのだが、都市伝説として口裂け女がブームになったことがあった。赤いコートを羽織り、大きなマスクをした女が「私、キレイ?」と尋ねてくる。「キレイ」と答えると「これでもォ?」と言いながら、耳まで裂けた大きな口を見せてくる。逆に「ブス」と答えると、隠し持っている鎌で斬り殺されるのだ。

これを受け、全国各地の小学校では集団登校、集団下校が余儀なくされ、テレビや週刊誌でも大きく取り上げられ、世の子ども達を恐怖のどん底に突き落とした。口裂け女はポマード(整髪料の一種)が苦手らしく、「ポマードポマードポマード」と三回叫ぶと逃げていくだとか、べっこう飴が大好物なので、あげると喜んで帰っていくという噂も立った。実際にべっこう飴を持ち歩く子どももいたようだ。

口裂け女の由来としては、塾に通いたがる子どもに母親がついた嘘という話が一般的だ。とある家庭で子どもが「塾に通いたい。友達はみんな通っている」と言い出した。しかし、塾に通わせるとなると、それだけお金が掛かる。かと言って、子どもに金銭的な事情を説明したところで分かって貰える筈などない。

困った母親は、考えた挙げ句にこんな話をした。

「塾に通うようになれば、帰りが遅くなるでしょ。夜道には口裂け女が出るのよ。口が耳まで避けていてね、隠し持っている鎌で斬り殺されるのよ……」

これが口裂け女のルーツとされている。だが、口裂け女がブームとなったことに対して、ある矛盾点が生まれていることにお気付きだろうか。

1970年代といえば、まだ電子機器の流通が画期的ではなかった。今でこそ携帯電話やパソコン、iPadがあるが、あの時代にはなかった。インターネットが世の中に普及する前である。

それにも関わらず、口裂け女の都市伝説はかなりのスピードで日本全国津々浦々まで広がっている。読者の中にも、子ども時代にリアルタイムで口裂け女の話を聞いたことがあるという方もいるのではないだろうか。

インターネットが普及していないにも関わらず、何故こんなにも世の中に広まったのか。そもそもはある家庭内で生まれた小話が、どうして全国津々浦々まで届くようになったのか。それもまた疑問である。

最後に。都市伝説を信じるか信じないかはあなたの自由であり、鼻から絵空言だと言うのならば、それでいいだろう。

だが、決して絵空言だからと言って安心しきらないでほしいのだ。

今日にでも新たな都市伝説となるのは、あなた自身かもしれないのだから。

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例え最初は作り話でも大勢の人がイメージしたり話す事によってそれが具現化される事はあるでしょうね。科学的に解明出来ない不可思議な現象は起こりますから。

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