中編5
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高速エビス

初投稿です。

俺は定時制高校に通っている。

学校は夕方5時から9時まで。

授業が終わるとバイク乗りの生徒は駐輪場に集まり、近所でタバコを吸って帰るのが日課だ。

当時俺はバーテンダーの仕事をしていたので、少しみんなに付き合ったら仕事に向かう。

俺の愛車は原付だが素晴らしく速い。

自分で言うのも変な話だが、レーサーの真似事をしていた時期もあり、スポーツタイプの真っ赤なバイクでカーブを曲がる私を同級生たちは

「赤い彗星」

と呼んでいた。

そんなある日、いつものたまり場でタバコを吸い同級生たちに挨拶をして、バイト先に向かおうとしていると信号が赤に。

いつもならノンストップで通れている信号。

「ついてねーなー。」

ギアをニュートラルに合わせる。

すると目の前の交差点右側から一台の自転車。

意識せず目が行く。目が戻る。違和感...

今度は意識して二度見すると自転車に乗っていたのは、エビスビールのロゴのような顔をした50代くらいのおっさんだった。

「ホントにあんな顔した人いるんだー。」

極めて失礼だが心の中でそう思った。

信号が変わりギアを入れ長い直線を進む。

ふと、右のミラーを見るとミラーを何かが一瞬横切った。

「なんだ?」

目線を上に上げると

あのおっさんがすぐ横に居た

ニコニコしながらめちゃくちゃな早さでチャリを漕いでる。

ニコニコはしているものの雰囲気はコチラを煽っているような感じだった。セリフを付けるなら

「ヘイヘーイその程度かい?」みたいな。

元々キレやすい私はチャリに追いつかれた事に腹が立ちアクセルを全開にし、ガンガンギアを上げた。

しかし自分のバイクのスピードが70キロを超えたぐらいで気がついた。

「自転車で70キロの原付と併走できる50代のおっさんなんているのか?」

スポーツバイクのような物ならまだしも、普通のママチャリ、しかももう2キロは走ってるぞ!どんな体力だよ!

怖くなった私は明るい国道へ出た。国道の大きな車線でもおっさんはぴったり横に付いている。すぐにアクセルを開け、スピードは75キロになろうとしていた。スピード違反よりも、事故よりも、このおっさんを振り切れない事が怖かった。

すると目の前の信号が赤に。しまった!止まり切れるか?

フルブレーキ。ギャリギャリタイヤがなる。停止線前でドリフトしてギリギリ停車。おっさんはそのまま駆け抜けて車の群れに消えた。

バイト先に着き店長にあいさつをすると

店長「どーした?汗だくだぞ。走って来たの?」

俺「いやなんか変なチャリのエビスがめっちゃ早くて、75キロでもピッタリでなんなんだあいつは。」

今思えばチャリに抜かれたなんてバイクに乗り出して1年間一度もなかった。

店長は呆れた顔をしながら

「訳わからないこと言ってないで早く着替えてきな!」と言うと買い出しに行った。

一人になりたくなかったんで、お客さんに営業メールをしまくった。

すると常連客の一人から今から行くとメールが。

客の名前はミキティ。

新人の頃から面倒を見てくれてるお客さんだ。

口はすげー悪いが言うことは的確で、話題もいろいろ精通している凄い人だった。

俺の酒をすごく気にいってくれているようでバイオレットフィズは俺のしか飲まないと言ってくれている。

5分くらいしてミキティがくる。

ミ「おはよう。いつもの頂戴。」

俺「いらっしゃいませ。わかりました。」

透き通るような紫のバイオレットフィズをミキティに出すと

ミ「で、なにがあったの?」

俺は高速のおっさんに追われたなんてミキティには言ってない。店に来てくれとメールしただけだ。

俺「どうしてわかるんですか?」

ミ「怯えた目をしてる。それは怖いものみたり怖い体験をした目だ」

お前は占い師か!と思ったが、この人に相談して解決しなかった問題はない。俺はミキティに事の顛末を話した。

ミ「ふーん。そのおっさん、見たことはないんだよね?」

俺「はい。」

ミ「多分...アンタのお父さんだよ」

俺「え、ウチ親父居ないですけど。死んだって話も聞いてないですし。」

うちの両親は俺が一歳の時に離婚している。

親父の顔はわからない。

ミ「離婚して絶縁してるなら生死は確認できないか。出来れば確認したほうがいいかもよ。」

俺「なんでですか?」

ミ「話を聞く限りたぶんそれは霊だと思うよ。だから。」

俺「どーゆーことですか?」

ミ「生霊ってわかるでしょ?生霊が笑っているのは会いたい、一目見たい、話したいってサインなんだよ。逆にもう亡くなってる霊の笑顔は、こっちにおいで、一緒に行こう、死ねってサインなの。後者ならお祓いした方がいいかもね。あと、もし悪霊ならまた現れるから2回目みたらお祓いしなさい。有名なところ紹介してあげるから。」

話を聞いて後悔した。勘弁してくれ。そんな話聞いて呑気に笑顔で酒なんか作れるわけ無いだろう。

背中にじんわり汗をかいているのがわかる。

俺の心配をよそにあっけらかんとミキティは言った。

ミ「まぁあんた守護霊強いから平気だよ(笑)」

ミキティによると俺の守護霊は中々に強いらしく俺の近所では最強レベルらしい。毎月墓参りに行っていてよかった。俺は守護霊にとても感謝した。

それから2ヶ月アイツは現れていない。

やっと肩の荷が降りた。

おっさんの事もオヤジの生死もすっかり忘れ一週間前、部活の後輩と俺の部屋で飲んだ。酒がなくなったので外に飲みに出ることになり、前に働いていたBARへ。

この店にくるとミキティを思い出す。

酒の肴におっさんの話を後輩にしてみた。

後輩は霊感があるらしく真剣に話を聞いてくれた。

話が終わると後輩はニコニコしながら言った。

後輩「先輩も霊感があるんですね。しかも憑かれるタイプの。」

俺「えー?でも今までその一回だけだよ?」

後輩「いやいや先輩の部屋女の人だらけでしたよ?気がつかなかったんですか?女泣かせですねー。私も泣かされちゃうのかなー(笑)」

俺の肩の荷は降りるどころか増えていた。

まだまだあんしんはできないようだ。

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