中編3
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あるビジネスホテルの話

ある夏の出来事でした。

私は某県のH市に仕事で出張していました。H市は、私が住んでいる県のすぐ隣にあり、仕事以外でも買物や観光でよく訪れる所です。高層ビルが建ち並び、有数の商業地域であるH市に対し、私は華やかな印象を持っていました。

今回の出来事があるまでは…

いつもは駅周辺のビジネスホテルに泊まり、仕事を終えると街に繰り出し、飲み歩く。これがいつもの私の出張パターンです。

今回の出張も、早々に仕事を切り上げ、ご当地グルメを堪能し、バーで一杯やるつもりでした。しかし今回の出張は、いつもと少し違っていました。

出張した日はちょうど8月の最初の週で、夏休み中ともあり、祭や何かのイベントと重なったのか、いつもの駅周辺のホテルが取れませんでした。やっとのこと予約出来たホテルは、駅から少し離れた川向こうのホテルだったのです。

インターネットで検索した時は、少し狭いが格安で、新規オープンのきれいなホテルという印象でした。しかし、ホテルについてみると、エントランスは狭く、まるでワンルームマンションを改築したような造りです。外見は綺麗ですが、内部はあちこちリフォームしたようなあとがあります。それどころか、ホテル周辺が何か異様な雰囲気に包まれているのです。

私は元来、霊感がないと自覚しているのですが、この時ばかりは「なんかヤバい」と直感しました。

しかし、残念ながら直感は当たってしまい、私は人生初の霊体験をしたのです。

後になって分かったのですが、このホテルの周辺は昔有名な部落地域であり、川辺に沿ってバラック小屋が並んでいたそうです。現在は交錯する幹線道路によっていびつに分断され、ワンルームのマンションが建ち並んでいますが、道路一つ裏に入るとところどころ朽ちた家屋が並び、全体的に薄暗く、異様な雰囲気を醸し出しています。

私は早々と荷物をフロントに預け、嫌な予感を振り払うように夜の街へ繰り出していきました。

ひとしきり飲んだり食べたりしたあとホテルに戻り、部屋に入った私はあまりの異臭に驚きました。リフォームによるものか、排水口からくるものか分からないが、とにかく臭い。すぐにフロントに行って部屋を変えてもらいました。

混み合う時期ということもあり、代わりの部屋がなかなか無かったが、一つだけ同じフロアの部屋が空いていたので、その部屋を使うことにしたのです。一瞬嫌な感じがしましたが、酔っていた私はすぐに眠ってしまいました。

その後。

夜中にふと目が覚めた私は、金縛りにあっていました。霊感がない私も金縛りには昔からよくあっていましたし、解き方も心得ていましたから、いつものように「ン!」と力を込めて飛び起きようとしました。

しかし、何回やっても解けません。私は次第に怖くなりました。

体は動きませんが、目は開いています。

よく見ると、部屋の隅に女性がうつむいています。

「ヒッ!」

私は全身に鳥肌がたちました。

その時金縛りが解け、私は布団をかぶってしばらく震えていました。

しばらくして、おそるおそる布団からのぞくと、女性はいなくなっていましたが、私はそのまま震えていました。

いつのまにか朝になっていたため、カーテンを開け、早々にチェックアウトしました。その際、昨晩のことについてフロントに告げると、一瞬ハッという顔をしたものの、詳しい説明はなく、ただただ謝るばかりで要領を得ない。早く出て行きたかった私は、もうそのへんにして出て行った。

後で調べたところ、そのホテルは最近までワンルームマンションで、そこに住んでいた風俗嬢が部屋で殺されていたことが新聞のネット記事でわかった。昨日見た女性がその嬢かは不明であるが、ホテルがマンションの時は、風俗店が部屋を借り上げ、そこに嬢を住み込みで働かせていたらしい。

このような曰く付きの土地は、H市郊外には多々あり、それぞれ独特の雰囲気を醸し出している。私は、華やかなH市の光と影を垣間見た気がした。

Concrete
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