中編4
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死体は歩かない

『あ、あのぅ…』

大学の食堂の片隅。私の目の前には、手をつけていないデカめのパフェが3つ。

無論、私が一人で頼んだわけではないのだが、例のあの二人がいないせいで、周りにはそのように見えているのだろう。

3つのパフェと女子大生一人という奇妙な光景。

そんな私に声をかける人なんていないだろうと思っていたから、後ろから聞こえてきた控えめな声に驚いてしまった。

『ふぇ!?』

私の声に、控えめな声の主もビックリしたらしい。

『はぃ!?』

『あ、いゃぁ…すみません』

私の後ろに、夏野菜カレーを載せたお盆を持った同い年くらいの女性がいた。

前髪が目の上でパッツンと切り揃えられた、黒髪ロングの別嬪さん。

若草色のノースリーブのワンピースが似合っていて、思わず見とれてしまうほどだった。

『あ、いえ…こちらが突然声をかけてしまったのが悪かったですね。すみませんでした』

『いえいえ…』

私が首をブンブン振ると、女性は少し微笑んで言った。

『あの…相席よろしいでしょうか?』

私は思わず周りを見回した。

ランチタイムと言えど、他にも一応空席はある。何もパフェでいっぱいいっぱいの私の席に座らなくても良いのではないか。

そんな私の心の声を察したのか、彼女はわたわたとしながら早口で弁解を始めた。

『あ、いや、そうですよね、いきなり知らない人から相席求められたら困りますよね、あの、あれです、ご迷惑なら全く構いません、ごめんなさいすみません申し訳ありません』

『あ、ちょ、ちょっとストップ!!』

私は騒ぐ彼女を片手で制して、相席を承諾した。

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にしてもパフェ邪魔だな、おい。

『あの…こちらのパフェは一体?』

『あ、気にせんといてください…良かったら食べて良いですよ?』

『え、よろしいのですか?』

『多分』

『多分…?』

なにぶん頼んだ張本人たちがいないので、勝手に差し上げていいものかわからないが、恐らく二人は帰ってこないと思う。

『…で、どうしてわざわざ相席を?』

彼女は私のその問いに、カレースプーンをコトリと皿におき、手を膝の上に載せて背筋を伸ばした。

…何か変なことを聞いてしまったのだろうか?いやいや、何故相席をするのか聞いただけだぞ…?

私の頭が高速回転を始めるのを知ってか知らずか、彼女は伏し目がちに、重い口を開いた。

『今日、初めてお会いして、こんなことをお願いするのも全くおかしなお話なのですが…

オカルト研究会さんなら、何かわかるかと思いまして…』

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お か る と け ん き ゅ う か い??

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『あ、あの』

『わかっていますわかっています。突然お邪魔してお願いをするなんて、図々しいということは重々わかっています』

わかっていない。

多分根本的なところでわかっていない。

何だよ オカルト研究会って。

私が突っ込むと、彼女は不思議な顔をして首を傾げた。

『あら…?いつも食堂で、他の女性二人とあなたで、オカルトのお話をしていらっしゃったので、てっきり…』

どうやら周りには、オカルト研究会にしか見えていなかったらしい。そりゃぁ彼氏もできないわ。

私は彼女の誤解をとき、改めて話を聞いた。

『えっと…オカルト研究会ではないかたにお願いするのはご迷惑だと思うのですが…私の双子の妹の遺体を、探してほしいんです』

オカルト研究会にお願いするのはご迷惑ではないと思っている点については突っ込むのをやめた。

遺体を探してほしい?

私の怪訝な顔を見た彼女は、暗い顔をして続けた。

『警察も、ずっと探してくれました。でも…でもですね、見つからないんです。…正確には、消えたんですよね。それで、もうお手上げ状態です』

『えっと…遺体は、歩かないですよね?』

『もちろん、私もそう思います。…でも、歩いたとしか思えないんです』

『…』

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気乗りしない。

そもそも、オカルトが好きなわけでなく、由梨花と佳苗と一緒にいるのが楽しいから、オカルト雑誌やらを読むようになっただけである。

ましてや、警察さえお手上げの死体が歩くというホラーミステリーなんかを私が解決できるはずもない。

三人寄れば文殊のナントカ、なんて諺があったが、今、諸事情により私一人だ。無理だ。

今回は申し訳ないですが、という言葉が、喉まで出てきて引っ込んだ。

彼女は…今にも泣きそうな顔をしていた。まるで私が、最後の砦だとでも言いたげな目で、まっすぐ見つめていた。

その綺麗な顔のお陰で、私は全くもって正反対の言葉を発していた。

『私で良ければ、お手伝いします』

彼女の顔が、ぱぁっと明るくなった。

ひまわりの花が咲いたみたいだった。

『ありがとう…ございます!!』

彼女は手元にあったカレーの食券の裏に、サラサラと文字を書いた。

『これ、私の携帯のアドレスです。お渡ししておきますね』

『あ、じゃあ私も』

パフェには食券がなかったので、適当な付箋に書いて、彼女に渡した。

始めに会ったときより幾分か笑顔が晴れやかになった彼女は、私に何度も丁重に礼を良いながら、殆ど食べていないカレーのお盆を持って、立ち去ろうとした。

『あ!ストップ!!』

彼女は2,3歩歩いた辺りで振り返った。

『はい?』

『お名前…聞いてないです。私は、理工学部1回生の、明星麗奈です』

『あ…』

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彼女はしばらく固まったあと、白い歯を見せて笑った。

『心理学部1回生の、長谷川夜魅です』

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meさん
コメントありがとうございます。次回作も文章力がないなりに頑張りますので、よろしくお願いいたしますm(_ _)m

私も続きがとてもとても気になります。
楽しみにしております。

makoto matuyamaさん
コメントありがとうございます。
良い意味でご期待を裏切れるように頑張ります!

続きが気になります、、、