中編3
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夜の散歩

どのくらいあるいただろう

田舎の夜は素晴らしい

月明かりがあればほとんどのものは見えるし

とても静かで都会の焦燥を忘れさせてくれる

まっすぐな田んぼ道

見上げれば満天の星空

邪魔するものなど何もない

朝早く起きて出社し、夜は終電まで働かされる

休みも半分は出勤

そんな俺にとって、夜の散歩は数少ない趣味の1つだ

次の日が休みだと解れば車を飛ばし、こうして田舎へとやってきてはのんびりとした時間を過ごす

いっそ仕事をやめて田舎暮らしも悪くないかもしれない…

そんなことを考えながら

ふと気づいた

しん…と静まり返った中に自分の足音以外のものが聞こえる

誰か出歩いているのだろうか?

まぁ、そんなこともあるだろう、と深く考えずに歩き続けていたが

どうやら音は後ろから近づいて来ているらしい

気になって後ろを振り向くと、道の先の方に小さな人影が見える

子供…?こんな時間に…?

不思議に思ったが、ほっとくわけにもいかない

近づいてみると、小さな女の子だった

黒いぬいぐるみを抱えている

「どうしたの?こんな時間に。危ないよ?お家は?」

出来るだけ優しく少女に問いかける

「みっちゃんね、お家わからなくなっちゃったの」

「みっちゃんか。可愛い名前だね。お父さんかお母さんは?」

「みっちゃんのお母さんいるよ、ほら」

少女が抱えていたものを見せてくる

ひっ…

ぬいぐるみだと思っていたそれは、白骨化し始めている人の首だった

思わず小さく息を漏らして大きく後ずさる

「どうしたの、お兄ちゃん?お兄ちゃんも一緒に遊ぼう?」

少女とがニタァと笑って一歩踏み出した

ドロッ…

少女の体が溶け始めた

うわぁぁ…

逃げないといけない

だが、少女がいて車のある方へは進めそうにない

仕方なく反対方向へ駆け出した

「鬼ごっこするのー?待ってー!」

少女が笑いながら追いかけてくるのが聞こえる

怖い

怖い怖い怖い怖い怖い…

「なんで、誰もいないし、店もなんもねぇんだよ!」

俺は初めて田舎であることを悔やんだ

………

ふと、少女の笑い声が聞こえないことに気づく

助かったのだろうか…?

疲れた…

こんなに走ったのはいつぶりだろう

田んぼと、もう誰も住んでいないであろう民家しかない

車まで戻れるだろうか?

先に進むにしても何かあるようには見えない

そんな迷いを打ち消す声が聞こえてきた

「お兄ちゃーん!どこー?」

ヤバイ!

さっきまでなにも聞こえなかったのに

声は割りと近くで聞こえている

だが、もう走る気力は残ってない

迷う暇もなく目の前の民家に飛び込んだ

隠れられそうな場所を探して縮こまる

「お兄ちゃーん?」

声が近づいてくる

「どこいったのー?」

「かくれんぼしてるのー?」

震えるからだを押さえつけて、息を殺しながら目をつぶっていた

30分くらいそうしていただろうか

もう声も音も聞こえなくなっていた

ようやくホッとして顔をあげる

目の前には白骨化した少女がいた

つ か ま え た

キャハハハ

少女の笑い声と共に意識が遠退いていった

………

目が覚めると見知らぬ廃屋にいた

重い身体をどうにか動かす

夜の記憶が蘇ってくる

慌てて見渡すが

少女も白骨化した遺体もないようだ

帰ろう…

今にも抜け落ちそうな床を避けつつ外へ出る

「ありがとう。また遊ぼうね」

声が聞こえて振り返ると、二階の窓越しに満面の笑みで手を振る少女が見えたような気がした

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ちゃあちゃんさん
みっちゃんはきっとずっと1人なんですね。
いたずらっ子って感じです。

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怖いけど、最後は何だか切なくなりました。
ひとりぼっちで少女はさみしかったんでしょうかね…

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