高校の怪談~一途なマッドティーチャー~

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高校の怪談~一途なマッドティーチャー~

ひんやりとした空気の立ち込める、演劇部部室前。

「加古ー、おはよ‼︎」

「ん?ああ、おはよ。」

部活友達の安部が、こちらに手を振ってきた。

「もうすぐ冬季公演だな、そろそろ体力つけねーとヤバいよな。」

「そうだなー。」

そう、俺の所属する演劇部は一ヶ月後に冬季のコンクールを控えている。

今回の舞台は、「大江戸妖物語」、読んで字の如く題材に妖怪を扱ったものだ。ちなみに俺は半妖怪でありながらの妖怪退治士である。正直、どんな役だよ!と思った。

「ところで加古ー、お前最近先生達と仲良いじゃーん?なんかあったの?」

「えっ?」

きっと最近の都市伝説騒ぎで人外の先生達と絡む事が多かったからだろう。

「…別にそんなことないよ。」

これ以上友達を巻き込む事もないだろう。俺はそう思い、答えた。

「そうかー?お前、目が泳いでるぞ?」

ギクッ。

「マ、マジ何でもないから!」

俺はそのまま部室の中に逃げ込んだ。

と、今の今まで聞こえていた音がすべてぷっつりと途切れた。

「…何だ?」

不意に視線を感じて、戸棚の上を見上げる。

「…白澤?」

そこには、風もないのになびくようにふわりと前髪を浮かせた白澤がいた。

「おはようございます、香君。」

透き通った声でそう言って、妖し気に笑った。

「え…、お、おはよう…。」

それしか返す言葉が出てこなかった。

白澤は、身軽にひらりと床に飛び降りた。

「今日は君に話があって来たんです。」

「話って…何?」

白澤の目付きが鋭くなった。

「羽闇 ちはやさんの事です。」

「え、ちはやの?」

白澤は頷いた。

「君は彼女と親しいそうじゃないですか。」

「え、親しいっていうかなんて言うか…。」

「好きなんですか?」

「えっ?」

予想外の質問。つい顔が赤くなるのが分かった。

「羽闇さんのこと、好きなんですか?」

もう一度、ゆっくりと質問を繰り返す白澤。

「え…。ちはやはただの友達だよ。」

照れ隠しではない。本心である。

俺はちはやの事を、友達の幽霊としか思った事がない。まあ一応女の子だから、ドキッとすることはあるけど。

「…どうやら嘘はついていないようですね…。」

白澤は、ふっと溜息をついた。

「安心しました。やっぱり僕の見込んだ人です。」

「え?見込んだ?」

いつの間に見込まれた?

「あ、申し遅れました。僕は白澤 雪彦、又の名を…。」

言いながら、彼は前髪を捲った。

「…え⁉︎」

彼の額には、金色の眼が光っていた。

白澤は続けて言う。

「又の名を、白澤(はくたく)と申します。」

「は、はくたく…?」

はくたくって何だ?

そんな事を考えていた、その時。

背後の戸が、バン!と音を立てて開いた。

「白澤!やっぱりここに来てたのか。」

「あれ?逢魔先生?」

逢魔先生はちらりとこちらに目を向けたが、すぐにまた白澤の方へ向き直った。

「お前の気持ちはよく分かるが…。あまり危険な事はするな。」

「でも、先生…。」

「分かったか⁉︎」

「…。」

白澤はしゅんとした顔で、演劇部部室の出口へ向かった。

一瞬、何か言いた気にこちらを振り向いたが、すぐ思い直したようで、今度こそ部室を出ていった。

暫く呆然としていたが、はっと我に返る。

「お、逢魔先生。白澤って、何者なんですか?」

ああ、あいつか。逢魔は笑って言った。

「あいつはアジアの神獣、白澤だ。真っ白な牛に似た形態で、額に一つ、両脇腹に三つずつ眼を持っている。」

「へぇー…。」

文武両道のイケメンは、牛っぽい妖怪だったのか…。

「味方ですか?」

逢魔は頷いた。

「大丈夫、悪い奴じゃない。」

「ふーん…。」

俺はたった今白澤が出て行った扉に目をやった。

「ねえ、先生。さっき白澤君に言ってた、『危険な事』って何ですか?」

逢魔は少し目を逸らした。

「いやー…。別に、大したことじゃないんだ。」

「いやいや!隠さないで教えてくださいよ!もー今更何聞いても驚きませんから!」

「う、うーん…。」

逢魔は辺りを見回すと、声を顰めて言った。

「お前、この学校に人外が多い事は知ってるな?」

「はい。」

かく言う逢魔もその一人だ。

「そのせいでそうなったのか、そうだから人外が集まったのかは分からないが、ここは霊的な磁場がとても強い。」

「はあ…。」

…言わんとしてる事がよく分からない。

「…で?」

分からないかなぁ、と、逢魔がかぶりを振る。

「そんな状態で、普通の生徒や無害な浮遊霊に何の影響もない訳ないだろ?」

「あぁー、なるほど…。」

俺は頷いて、言った。

「…で?」

「おいっ!」

「だって分からなかったんですもん!仕方ないでしょ⁉︎」

逢魔は溜息をついた。

「だ、か、ら‼︎その磁場の影響で校内に悪霊が増えちゃったの!分かった⁉︎」

「それで、君にその霊達の浄化のお手伝いをお願いしたいんです。」

「えっ?」

逢魔の背後から、聞き覚えのある声。

「あ、白澤…。」

「お前…、だから、この件は俺に任せろと」

「でもやっぱ、放っておけません。」

白澤は、銀の髪をなびかせて言った。

「香君、お願いします。僕らと一緒に、霊達の浄化をしてください。」

話の流れが掴めない。どういう事だ?

でも、取り敢えず「はい」って言っとかないと食われそうな勢いだ。

「う、うん…。いいけど…。」

「本当ですかっ⁉︎」

白澤と逢魔が顔を見合わせた。

「ま、まさかお前がOKするとは…。いつも自分の身を第一に考えるお前が…。」

「どういう意味だよ!」

「教師に向かってタメ口をきくな」

「どのような意味でございましょうか!」

「…。」

黙ってこちらを睨んだ逢魔を押しのけて、白澤が俺の手を握ってきた。

「良かったです!君の強力があれば彼女の計画だって…、いや、せめてこの高校は助かります!」

「は⁉︎」

彼女の…計画?

「ちょっ、白澤…。」

「では、これからよろしくお願いします。じゃ、僕はこの辺で。」

白澤は俺の傍をすり抜け、去った。

「おいっ、待てよ!」

その背を追って部室を出ると、 既に白澤の姿は無かった。

「先生、ちはやは…。あれ?」

いつの間にか逢魔の姿も消え、俺は部室に一人取り残された。

✳︎

「観念するんだな、かわうそ!」

「くっそぉ…!お前、妖怪混じりのくせに何で人間の肩を持つ⁉︎」

「理由付けできる事じゃないさ。行くぞ…。」

俺の演じる半妖怪と、安部演じるかわうそが戦闘態勢をとる。

「「やぁーーーっ‼︎」」

と、そこに突然、

「加古君!」

目の前にサラリーマンの幽霊、和歌歩 陸が現れた。

「うわぁーーーっ⁉︎」

そして安部を目の前に急ブレーキ。

「カットカット‼︎何やってんの加古ぉ⁉︎」

演出の怪訝そうな声が飛ぶ。

「和歌歩さん⁉︎何でここに?湊先生に付いてるんじゃなかったの?」

和歌歩は無表情の中に僅かな緊張を浮かべて、かぶりを振った。

「それどころじゃありません。来てください。」

鋭く言って、俺の衣装の袖を掴んだ。

「えっ?」

幽霊なのに物掴めるの⁉︎という疑問をぶつける暇も貰えず、俺は彼に引っ張られて校内の職員室へと向かった。

✳︎

俺は絶句した。

職員室が、氷のような結晶で覆われている。

「私が湊さんについてコーヒーを淹れに行っている少しの間にこうなっていて…。」

「…湊先生は?」

「皆川さんを呼びに保健室へ行きました。私には君を呼んで来いと。」

「そう…。」

暫くして、職員室のすぐ傍の階段を駆け上がってくる二つの足音がした。

「加古!早かったな。」

「湊先生!これ、何がどうなってるんですか⁉︎」

「私にも分からんよ…。」

コーヒーカップを手にしたまま立ち尽くす湊の横から、皆川先生が顔を覗かせた。

「香!あんたもいたのね。」

「はい、和歌歩さんに呼ばれて。」

皆川先生は腕組みをして、つかつかと職員室の結晶に歩み寄った。

「全く、どうしちゃったんだろうねえ、この高校は。」

そして振り返り、湊に問うた。

「中には誰かいるの?」

「ああ、はい。確か逢魔君と大神先生と周防が。あと、逢魔君に話があるとかで羽闇さんが来てたかなあ。」

「いやにハッキリ覚えてるわね?もしかしてあんた、また変な機械作ってその四人を狙って捕まえたんじゃないでしょうね?」

「ま、まさか!そんな事する訳ないでしょう、ねぇ?」

湊は俺と和歌歩に同意を求めるが、目の奥が笑っていない。必死だ。

俺と和歌歩は顔を見合わせた。

「えっ、いや、そうでしょ?俺っ、いや私は善良で有能な化学教師だ!」

この人普段自分のこと俺って呼んでたんだ。ま、別に何てことないけど。

そんな湊を放っておいて、皆川先生は結晶に触れた。

「あ、危ないですよ皆川先生!そんな訳分かんない物を触っちゃあ…!」

湊が皆川先生を結晶から離そうと彼女に向かっていった。

湊の指先が皆川先生のジャケットに触れるか触れないかというときに、皆川先生が振り返ってこちらに駆け寄ってきた。

「あの結晶、熱かった!」

「え?」

その瞬間、湊の呻き声と何かの割れる音がした。

「湊先生っ⁉︎」

音のした方を見ると、結晶に頭から突っ込んで煙を出している彼の姿が見つかった。

「う、うわっ!」

俺たちは慌てて彼に駆け寄った。

「だ、大丈夫ですか先生⁉︎」

彼を抱き起こすと、その顔には真っ赤に爛れた痕が…というわけでもなく、左手の甲に火傷のようなあとと少しの切り傷がついているだけで安心した。

「…頭も強くぶつけたみたいね。気絶してる。一旦保健室に運んで、応急処置しましょう。」

皆川先生に従って、俺たちは湊を保健室に運んだ。

「…あれ」

「どうされたんです?」

和歌歩が俺の顔を覗き込む。

「湊先生、なんか言ってる…?」

「譫言でしょうか?」

そっと耳を澄ませてみる。

「み…皆川先生…。怪我…。あなたの綺麗な身体に傷がついたら…。わ、私…は…。」

俺と和歌歩は皆川先生を見た。

「皆川先生、今の…聞こえました?」

「え?今の気持ち悪い寝言?」

哀れな…。

「さ、早く、ペース上げて!そのどアホを治療したらまた職員室見に行かなきゃいけないんだから。生徒も中に残されてるかもしれないんでしょ?」

「そ、そうですね。」

俺は歩みを早めた。

「加古君。」

「何、和歌歩さん。」

和歌歩は無表情な顔を少し赤らめて、囁くように言った。

「皆川さんって…。中々私のタイプの女性です。」

「は、はあ…?」

和歌歩はまた前を向いて歩き(?)始めた。

…。

………。

……………だから何?

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KEI様、コメントありがとうございます。
学校事情も気遣ってくださるとは、お優しいですね。ありがとうございます。
執筆、学業共に頑張らせていただきます。

続き楽しみにしています^^
学校とともに頑張ってください♪