高校の怪談~強行突入、そして波乱?~

長編9
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高校の怪談~強行突入、そして波乱?~

保健室に到着し、俺と和歌歩は湊をベッドに放り投げた。

「ふー、私、生前はデスク仕事でしたから…。肉体労働は辛いです。」

「ああ、いかにもそんな感じ。」

見た目にも貧弱そうで小柄な和歌歩には、これはきつかっただろう。

「皆川先生、早く治療してあげてください。湊先生が目覚ます前に。」

目覚ましたら多分面倒くさいし。

「分かってるわよ、急かさないの。」

皆川先生は手早く消毒液や包帯を一揃い用意し、患部を消毒した。

「あらあらー、結構痛そうねぇ。もしかしたら痕が残っちゃうかも。でもま、男だからいっか。」

ちょっとだけ湊先生に同情。

そんな事を思っている間に、皆川先生は既に湊の左手に包帯を巻き終えていた。

「はい終わり。あーあ、マッドサイエンティストに触りまくっちゃった、手洗わないと。」

マッドがうつる、と呟きながら水道へ向かう皆川先生。毒舌である。

「…うーん?」

その時、湊が目を覚ました。

「あ、おはようございます。」

「ん、ああ…。」

暫くぼうっとしていた湊は、ふと左手に目をやった。

「…あっ、皆川先生、大丈夫でしたか⁉︎」

「あたしが怪我する訳ないでしょ。」

我に返ったらしい湊が、胸を撫で下ろす。

「良かったです…。…あ、この手、もしかして皆川先生が?」

「ん?ああ、そうだけど?」

「ああ…。遂に私の手と皆川先生の手が触れ合ったんですね…!この手は一生洗いませんよ皆川先生!」

「いや洗えよ。傷ついてんだから。」

皆川先生が湊の左手をはたき、言う。

声も上げずに悶絶する湊。痛そー。

「それ、洗わないと化膿するわよ。毎日綺麗な水で洗って、消毒すること!いいね⁉︎」

「は、はい…。」

目に涙を浮かべて頷く湊を冷たい視線で見下ろし、皆川先生は近くにあった椅子に腰を下ろした。

「で?どうすんの、これから。」

保健室の中に沈黙が流れる。

「…あ、そうだ!白澤!」

「え?」

俺は朝の事を思い出していた。この出来事は、今朝白澤の言っていた事に関係があるに違いないのだ。

「白澤というと…あの2年のエースか?」

湊が口を開いた。

「そうです!知ってるんですか?」

「まあな…。あいつ額に目あるから、気になって覚えてたんだ。」

気付いてたのっ⁉︎

「驚かなかったんですか⁉︎」

「え、動物の突然変異なんて珍しい事じゃないだろ?あいつアルビノっぽいし。」

「あ、そうですか。」

ダメだ。感覚が完全にズレている。

「結構気になっててな、この間解剖させてくれって頼んだんだが断られてしまって。別に変なことするわけじゃないのになあ。」

「いや、白澤の反応は正しいと思います。解剖は十分変です。」

「そうかなぁ…。」

生徒にいきなり解剖させてくれって。変態以外の何者でもないぞ。

「…で、その白澤がどうかしたのか?」

「はい、実は…。」

俺は一瞬、言っていいものか迷ったが、白澤の事を全て話した。(まあここにいる全員人外とか過去に受け入れちゃってるし。)

「ふうん。あの子妖怪だったんだ。」

皆川先生は実にすんなりと白澤を受け入れ、

「なんと、白澤とは!やはり無理にでも解剖させてもらうべきだったぞ!」

湊はマッドサイエンティストモードに戻り、

「白澤、ですか…。幽霊にもなってみるもんですね。いろんな物が見られて良いです。」

和歌歩は素直に感心した。

「はい…。それで、今朝白澤に会ったんです。だから、もしかしたらまだこの辺に…。」

「香君。僕の事呼びました?」

「えっ?」

振り返ると、いつの間に来ていたのか、白澤の姿があった。

「あ…。」

「状況は大体分かってます。」

白澤は俺の腕を掴んで、言った。

「急ぎましょう。この件、彼女が関わってます。」

「え?」

彼女って…もしかして?

✳︎

「これ…!」

再び職員室前に集まった俺達は絶句した。

「さっき湊先生が壊したとこが直ってる…。しかも、結晶の中に何か生き物みたいなものが動いてる?」

透き通った結晶の中に、蛇のようなシルエットがうごめいている。

「これは…。蛟だ。」

「え?蛟?」

白澤は頷いた。

「中国では蛟竜(こうりょう)と呼ばれる、水神の一種です。」

水神?周防の仲間じゃん。

「見ての通り、蛇に近い龍の姿をしていて、世の中に災悪をもたらすといわれます。」

「何でそんな物がこんなとこにいんのさ?」

皆川先生が蛟をしげしげと眺めながら言う。

「こんな妖怪は、誰かが呼び出さない限りこんな場所には現れません。」

恐らく、と、白澤は俺に目配せした。

「…な、何だよ。彼女が蛟を呼び出したって言うのか?」

「可能性がない訳ではないんです。」

彼は蛟を見上げ、全体に言った。

「こいつが完全に呼び出される前に、この結晶を全て割ってしまえれば何とかなるかもしれません。」

「え、それだけ?」

皆川先生が前に歩み出て言った。

「それじゃあアタックしてみるまでよ!」

と、思い切り足を振り上げて、結晶に華麗な回し蹴りをお見舞いした。

ガシャン、と派手な音がして、結晶が割れる。

「やった!」

「待ちたまえ。加古、あれを見てみなさい。」

「え?」

湊に従って結晶の割れた部分を見ていると、みるみるうちにその部分が補修されていくのが分かった。

「嘘…。」

皆川先生が驚いたように後ずさる。

「蛟の方だって必死です、何せやっと自分がこの世に出てこられるんですから。」

にしても、と、白澤は首を捻った。

「なぜ蛟はここに結晶を作ったんでしょう?」

「確かに。」

だって、職員室の中には元凶かもしれない彼女…ちはやだっているのだ。

そんな風に考えていると、突然白澤がひらりと宙に身を躍らせた。

そして、次に見えたのは地面を踏みしめる白い蹄の付いた四肢。

「来ました、彼女が。」

初めて見る神獣・白澤の姿に、一同が息を呑んだ。

だがここでもう一つ疑問が湧く。

ちはやは職員室内にいるんじゃなかったのか?

「湊先生。ちはやは本当に中にいたんですか?」

「…あ、ああ。私の目に間違いはないさ。」

「…そうですか。」

どういうことだ?彼女は外に出たのか?

…いや、そもそも蛟を呼び出したのがちはやかどうかも分からないじゃないか。

「…皆さん下がって。」

白澤が低く唸る。いよいよ来たようだ。蛟を呼び出した奴が。

足音を響かせて、階段を登ってくる。

真っ黒なストレートのロングヘアを揺らして、片目に包帯を巻いた、あの見慣れた顔。

「…ちはや」

俺は、何故か裏切られたような思いでその挑戦的な瞳を見ていた。

「あら加古君、いたの。」

ちはやは口の端だけをくいっと上げて笑い、こちらに歩み寄ってきた。

それを阻むように、すっと立ちはだかる白澤。

「…ちょっとあんた、邪魔よ。どきなさい。」

「どきません。何をするか、分かったもんじゃない。」

「何もしないわよ、加古君は友達よ?」

「君は自分の目的の為なら友達でも何でも裏切りかねないからな。」

「失礼しちゃうわ。」

白澤を鼻であしらい、ちはやは俺の方へ顔を向けた。

「加古君、こんな家畜男信じちゃダメよー?」

その屈託のない笑顔を見ていたら、胸のあたりがぐうっと締まってきた。

「…ちはや」

やっとのことで、絞り出すように声を出す。

「なあに?」

俺はちはやの眼を真正面から捉えた。

「…これは、君がやったのか?」

「そうよ。」

ちはやは、全く悪びれずに言った。

「加古君なら分かるでしょ、あのアプリ。人間の力で一つ一つ消していくのは大変よね。だから力の強い妖怪呼び出して、一掃して貰おうってわけ。」

「そんな事ができるならそれに越したことはないけど…。」

皆川先生と湊、和歌歩を見遣る。

3人は状況を掴めていない。それはそうだ、3人はちはやの事を普通の生徒だと思っていたからな。

「…ここに閉じ込められた先生達は?どうなるんだよ?」

「ああ、あの人達?」

ちはやは少し俯いて言った。

「あの人達には、蛟の召喚のための餌になってもらうのよ。」

「は⁉︎」

餌って…何だ⁉︎

「3人…いえ、3匹ね。3匹の命がなくなれば、多くの人が助かるのよ。そしてその中には、あなたや私も含まれてる…。」

そしてちはやはふっと息をついた。

「教師が生徒の為にその身を投げ打つのは、当たり前でしょ?」

「ふざけんなっ!」

一瞬、その声に驚いた。

自分の、無意識からの声だった。

「お前…命を何だと思ってやがるんだ!」

「加古く…」

「うるっせぇ‼︎」

混乱した様子のちはやに向かい、夢中で怒鳴りつける俺。

自分の身体が他人の身体になったような、妙な感覚。

「そりゃ俺だって助かりたいさ。だがな、他の奴殺して助かろうなんて思いやしねーよ‼︎」

勢いに乗って思いの丈を連ねていく。

「こんな結晶、俺がぶっ壊してやるっ!」

頭が身体についていく前に、俺は衣装についていた木刀を振り上げて、結晶に向かっていた。

「香!」

「加古っ‼︎」

皆川先生、湊の声が聞こえる。

結晶の中の蛟の影が、こちらに向かって身構えた気がした。

✳︎

「…ん、ここは?」

気がつくと、俺は保健室のベッドの上に寝かされていた。隣のベッドには白狐と黒い狼(おそらく逢魔と大神)、床に白い龍(きっと周防)が横たわっている。

「目が覚めたんですね。」

「…あ、和歌歩さん。」

「驚きました、突然人が変わったようになって、蛟に向かっていくんですから。」

「そうだよ!」

皆川先生が煙草を片手に深い溜息をつく。

「あんたあのまま蛟の眉間を貫いて、職員室の扉ごとぶっ壊したんだからね。」

「え、俺が⁉︎」

頭が痛くて何も思い出せない。

「…ところで白澤とちはやは?」

「羽闇は逃げた。白澤はそれを追っていったよ。」

湊が腕組みをして言った。

「…この狐達は逢魔先生達?」

「そのようですね。」

和歌歩は眼鏡を直しながら答えた。

「職員室の中に倒れてたんです。周防さんの意識が若干あったので、あとの2人を運ぶのを手伝ってもらいました。尤も、今はこの通り気絶していますがね。」

「ふーん。」

俺は3人の無事な事を知り、安心した。

「…あ、蛟はどうなったの?」

「ああ、そういえばいなくなってたね。倒せたんじゃないの?」

皆川先生は煙草を灰皿に押し付け、その火を消した。

✳︎

俺は色々な事を考えながら、帰途についていた。

ちはやの行方、白澤の行方、3人の容態、蛟の謎。自分の言動。

「…ただいまー。」

家に帰ると、母さんが出迎えてくれた。

「お帰りー…ってあんたどうしたの⁉︎」

「えっ⁉︎」

俺は慌てて玄関の鏡を見た。

「………‼︎」

演劇部の衣装のままだった。

俺はずっとこんなコスプレみたいな服で近所を歩き回ってたのか‼︎

…恥ずかしい。恥ずかしすぎる。

「母さんはあんたをそんな趣味の子に育てた覚えはありませんよ。」

「誤解だ、母さんっ‼︎」

俺の抗議も虚しく、母さんは冷ややかな目でこちらを見、踵を返して去っていった。

ああ…。可哀想な俺。

✳︎

翌日、休む間もなく登校。

「おっはよー☆加古‼︎」

「礼一郎、うるせえ。」

「いつものことながら冷たいなあ…。」

だが、礼一郎に会うのも久々な気がして、少し安心していた。まあ、2日の週休だから大して久々でもないのだが。

「またなんかあったのか?」

「え…いや、別に…。」

「別に、なんて事ないでしょ?」

はっとした。聞き覚えのある、妖艶な声。

「あ、ちはや!おはよー、今日も可愛いねっ☆」

彼女は微笑んで、礼一郎に答える。

「ありがと。素直に受け取っとくわ。」

そして彼女は俺の方に向き直った。

「昨日もちょっとした事件に巻き込まれたのよね、加古君。」

俺は黙っていた。

「あ、加古君。ちょっと2人で話さない?」

「えっ、何でそんな、急に…?」

「別に急じゃないでしょ。とにかく、放課後第一体育館に来て。」

そして礼一郎を振り返り、

「今回は、礼一郎君は本当に来ちゃダメよ?」

「え、こっそり行こうとしてたの、バレた?」

「バレバレよ。」

ちはやは軽くウインクして、再び俺の方を見た。

「じゃ、また後で。」

「待て。」

「え?」

俺はちはやの肩を引いて、耳元に小声で囁いた。

「白澤は?あいつはどこにいる?無事なのか?」

「その事も後で話してあげるわ。じゃあね。」

ちはやはそのまま自分の席へ戻っていった。

「加古、ちはやとなんかあったのか?」

「…別に、何もない。」

俺はそれだけ言って、席についた。

教室の前の戸が開く。ホームルームの時間だ。

だが、そこから入ってきたのは担任である逢魔ではなかった。

ダークスーツに身を包み、黒い髪を後ろで短く束ねた見慣れない若い男。

「ホームルームを始める。」

その男の目に、何か見たことのあるような光を見つけて、俺はたじろいだ。

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