長編7
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高校の怪談~黒蛇教師~

「…で、6、7時間目は体育館に移動。開始時間は2時45分だから、遅れないように。では、ホームルームを終了する。」

男は教卓を離れ、教室を出ていった。

俺は礼一郎の元に駆け寄り、尋ねた。

「お、おい。さっきの奴誰だよ?」

すると、礼一郎は「はあ?」とでも言いたげな顔で言った。

「何言ってんだお前?うちのクラスの担任の、黒城 竜馬先生だろ?」

「は?こくじょー?りょーま?誰だそれ?」

「…加古、頭でもぶつけたか?しかも大分強く。」

こっちの脳を心配されてしまった。

「いや…。」

俺は混乱した。

「…逢魔先生は?」

「え、逢魔?誰だ?」

頭を金槌で殴られたような衝撃。

「そんな名前の先生、この学校にいたか?」

礼一郎は本気で首を傾げている。どうやら冗談ではなさそうだ。

「…ちょっと保健室行ってくる」

「えっ?気分でも悪いのか?」

「そんなところだ。」

俺は、昨日逢魔達を預けたはずの保健室へダッシュした。

「皆川先生っ‼︎」

保健室の扉を開けると同時に叫ぶ。

「ん?どうしたの香、そんな息切らして。」

「良かった、いた…。」

皆川先生は怪訝そうな顔でこちらを見つめている。

「先生…。あのあと逢魔先生は?」

「ああ、その事なんだけどさ。」

彼女は深刻な表情で話し始めた。

「あの狐、あんたらが帰って間もなく目覚ましたのよ。で、ちはやはどこだ、って言って、逃げたって言ったらそこの窓から飛び出していっちゃった。」

見ると、確かに窓ガラスが割れて大きな穴が開いている。

「…てことは、皆川先生は逢魔先生の事覚えてるんですね?」

「何言ってるの?当たり前じゃない。」

と、その時、保健室の扉が勢い良く開いた。

「皆川先生っ‼︎」

飛び込んできたのは、憔悴した表情の湊と取り憑いている和歌歩(こちらは無表情)である。

「あ?あんた何しに来たの。」

大分冷たく言い放つ皆川先生に、湊は焦りからか何度も噛みながら言った。

「しょ、職員室に逢魔先生がいないんですよっ!周防や大神先生、他の先生はいるのに!その代わりに知らない男が逢魔先生の席にいて…。」

「分かった、分かったから落ち着いて。」

皆川先生は湊を宥め、椅子に座らせた。

「逢魔ちゃんがいない?ウソでしょ?誰も疑問に思わないわけ、あんたら以外。」

「礼一郎にも聞きました。ホームルームに来たのも、多分湊先生が見た人です。でもみんな、何も言いませんでした。」

「ふうん…。あたしはずっとここにいたからなあ。」

皆川先生は首を傾げて、煙草に火をつけた。

「あの…もしかして、」

それまでずっと黙っていた和歌歩が口を開く。

「昨日あの場にいた人間…まあ私は幽霊ですけど、この四人だけがこの変化に気づいているって事は考えられませんか?」

「な、なるほど!」

湊が頷く。

確かにそれなら全て辻褄が合う。

「俺、実は今日の放課後ちはやに呼び出されてるんです。」

一同にどよめきが走る。

「だ、大丈夫なのかい、そんなのに乗って!危ないよ。」

「皆川先生の仰る通りだ、羽闇君は普通の生徒じゃなさそうだったじゃないか。危険は犯すな。」

「湊先生、こんな時ばっかりマトモになってどうするんですか。」

「私は元々まともだ!」

憤慨する湊を無視して、俺は話を続けた。

「もしかしたら彼女が逢魔先生や白澤、あの見た事ない先生の事も知ってるかもしれないんです。」

「というと?」

和歌歩が僅かに眉をひそめる。俺は頷いて、答えた。

「ちはやから全て聞き出します。逢魔先生と白澤の行方も、あの男の事も。」

「…まさか1人で行こうってんじゃないだろうねぇ?」

皆川先生がこちらをちらりと見て言う。

「いえ、1人です。向こうがそう指定してきたんです。」

「そんなの聞き入れる必要ないよ!何か企んでるに決まってる。」

「大丈夫です、皆川先生。」

俺は席をたち、保健室の扉を開けた。

「とにかく俺は残りの授業受けてきます。湊先生は気をつけて職員室に戻ってください。皆川先生はここにいれば安全でしょう。それと…。」

湊のそばで執事の如く立っている和歌歩に向かって、俺は手招きした。

「和歌歩さん、ちょっとお借りしてもいいですか?」

✳︎

俺は授業中も上の空で、授業担当の先生にことごとくはたかれた。

一番イタかったのは生身じゃなくて、体育の授業中にボーっとしてたら顔面ヒットしてきたサッカーボールだったけど。

「大丈夫ですか、加古君?」

全ての授業を終えて第一体育館へ向かっていると、他人に見られないように姿を消している和歌歩がそっと声をかけてきた。

「うん、大丈夫。」

「精神的に大分参っているように見えます。あまり無理をなさらないでください。」

「うん。分かってるから、和歌歩さんも気を楽にして。」

無機質だが本気でこちらを気遣ってくれている様子の声。それに少し安心させられて、自分も肩の力が抜けた。

「そうですか…。」

座っていたベンチの隣の空間の空気が僅かに動いた。どうやら隣に座ったらしい。

「私はですね、心配なんですよ。何だかとても嫌な予感がして…。」

「え?」

深い溜息が聞こえた。

「ちはやさんと仰いましたね、昨日の女の子。」

「はい。」

「私にはどうも彼女には裏の顔があるように思えてならないのです。放課後の呼び出しに、本当に私が付いて行ってよろしいのでしょうか…。見つかれば加古君もただでは済まないのではないかと。」

「ちょっ、和歌歩さん、そんな事言ったら余計心配になっちゃうよ!」

「そうですか?…そうですよね。」

和歌歩の声は少し元気になった。

「行こう。ここまできたら。」

「…はい。」

俺たちは体育館に足を踏み入れた。

ちはやは既に来ており、涼しげな笑顔でこちらを見ていた。

「加古君。待ってたわよ。」

「ちはや。」

何となく想像はついていたが、彼女の隣には男が1人立っていた。

「その人は…。」

「そ。私達のクラスの担任の、黒城先生よ。」

ちはやの紹介を受けると、黒城を名乗る男は目だけを動かしてこちらを見た。

「お前…。加古 香、だな。名簿に載っていた。」

そして、しゃあ、と口を裂かせて笑った。その口の中に、長く鋭い歯が光る。

「…やっぱり只者じゃなかったんですね。」

「そうよ。」

ちはやが前に一歩歩み出た。

「黒城先生は強いのよ、あんな貧弱狐なんて目じゃないくらい。」

「…!逢魔先生に何をした?」

「別に、何もしてないわよ。向こうが勝手に追ってきたのよ。逢魔先生も、白澤君も。」

彼女はそのままこちらへ向かってくる。

「白澤にも何かしたのか?二人はどうなったんだ、今どこにいる⁉︎」

「加古君。あんな妖怪2匹くらい、いなくなったって支障ないでしょ?」

「やっぱり何か知ってるんだな、言え!」

頭に血が上っていくのが分かる。ふっと意識が遠のき、無意識に腕がちはやの襟首に伸びていくー

「その辺にしとけ」

ちはやの後ろから伸びてきた、ダークスーツの腕が、俺の腕を掴む。

「彼女に手を出さない方がいいぜ…。」

俺の腕を掴む手が、みるみるうちに黒い鱗に覆われ、鉤爪が生える。間違いない。昨日見た蛟の腕だ。

見上げると、身体中から殺気を発している黒城がこちらを見下ろしていた。

「普通の場合ならこんな女1匹守る義理は無いんだがな。呼び出されたからには従わなけりゃあ…。」

そしてもう片方の手にも鉤爪を生やし、俺の首筋に当てた。

「悪く思うなよ。恨むなら俺じゃなくあの女を恨むんだな…。」

ひんやりとした感触。

「ま、待ちなさいよ。私は加古君を殺せなんて言ってないわ。ちょっと話して、説得するだけだって言ったでしょ?」

ちはやの動揺した声が聞こえる。

「呼び出された妖怪は呼び出した者を忠実に守る掟だ。少しでも手を出そうとした者には相応の裁きを与える。」

「ちょ、ちょっとやめてよ!勝手な事したら許さないわよ!加古君が結界壊した後、私がどんだけ苦労して張り直したと思ってんの⁉︎」

「知るか。」

蛟の爪が食い込む。顔から一気に血の気が引いた、そのとき。

「っ⁉︎」

耳元で風切り音がすると、いきなり黒城が手を離して後ずさった。

見ると、蛟の腕に紙片のようなものが数枚刺さっている。何やら字が書いてある。

「黒井商事・和歌歩 陸…。和歌歩さんの名刺っ⁉︎」

びっくりして背後を見ると、そこには逆光で顔は見えないが(透けてる和歌歩は別)3人の人影があった。

「そこまでですよ、黒城先生。」

和歌歩がいつもは無表情な顔に僅かな笑みを浮かべて言った。

「さ、お2人。どうぞ。」

和歌歩の両脇の2つの影は頷いて、前に一歩踏み出した。

煙草を燻らせ、仁王立ちをした右側の影が叫ぶ。

「丑寅高校白衣の天使・龍の子パープル!」

…は?

呆気に取られていると、もう一つの影も手に持った猟銃(どこで手に入れたんだ?)を掲げながら叫んだ。

「今世紀最優秀化学教師・龍の子ブラック!」

そして最後に真ん中の和歌歩が顔を真っ赤にして呟くように言った。

「き、きんちゃんのためならどこまでも・龍の子クリア…。」

透明っ⁉︎てかそんな恥ずかしいならやんなくていいから!

「さ、3人合わせて…。」

和歌歩が小声で音頭をとる。

「「「水神戦隊・龍の子レンジャー第2部隊‼︎」」」

………。

…まだ続いてたんだ、龍の子レンジャー。しかも第2部隊。

振り返ると、ちはやと黒城もぽかんとしている。心中お察しします。

「大丈夫、龍の子ブルー?」

「皆川先生…。」

「龍の子パープルよ」

「あ、龍の子パープルさん…。」

よし、と頷き、皆川先生、いや龍の子パープルは黒城に対峙した。

「龍の子クリア、ブルーを逃がして。ブラック、あたしたちは行くわよ!」

龍の子ブラック…多分湊。てか絶対。まあ、龍の子ブラックはそれに従い、銃を構えて黒城に向かった。

「覚悟しろよ、ロリコン教師!」

「マッドサイエンティストに言われたくないね。それに俺はロリコンじゃない。」

ごもっとも。

「さあ!シッポ巻いて逃げ出すなら今のうちだよ、黒城さん?」

煙草を地面に落として踏み消し、丑寅高校白衣の天使は不敵に微笑んだ。

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