中編6
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高校の怪談~しばしの別れ~

「シッポ巻いて逃げる?俺が?」

黒城は腕に刺さっていた名刺を抜き取り、指先で揉み消した。

「何故俺がお前のような人間の女から逃げる必要がある?」

「ここにいればそのうち分かるわよ。」

皆川 棗はまっすぐと黒城 竜馬を見据え、言い放った。そしてその隣の羽闇 ちはやに目を遣ると、声をかけた。

「ちはやちゃん。そいつ、あなたの言うこと聞いてないじゃない。」

「き、きっと何かの間違いよ!ねえ黒城先生、いくら私に手を出したからって、殺すことないのよ?加古君は私の友達なんだから!」

羽闇は黒城のスーツの端を掴み、懸命に訴える。

「友達?笑わせるな。お前にとってあのガキは只のオモチャに過ぎないだろう。」

「そんな事ある訳ないでしょ!ねぇ、だから、今日はもう引き上げましょう。ね?」

「俺に指図するんじゃねぇ。」

黒城は羽闇の手を振り払った。

その勢いで、彼女は体育館の床に叩きつけられた。

「いったぁ…。」

「大丈夫、ちはやちゃん!」

皆川はちはやを抱き起こし、黒城をきっと睨みつけた。

「ちょっとあんた、呼び出された妖怪は呼び出した者を守るんじゃなかったの⁉︎」

「命令に従うとまでは言ってねぇ。」

黒城は首を回し、大きく息をついた。

「守るにしたって、さっきあのガキから一度守ってやったんだ。考えてみりゃもうそいつに義理はねぇよ。」

「もーっ、言うことが二転三転する男ねえ‼︎さっきは忠実に守るとか言ってたくせに!」

皆川はちはやを湊の方へ逃がすと、言った。

「あたしはそういう男が一番嫌いなんだ!来な、あたしが相手になってやるよ。」

「望むところだよ、身の程知らず。」

黒城はニヤリと笑い、瞳を細めた。

✳︎

「和歌歩さん、ありがとう…。」

「いいえ。それ以前に気付かれなくて良かったです…。」

俺と和歌歩は体育館から逃げて、昇降口の下駄箱にいた。

「あの名刺、あんなに丈夫だったんだ。そんなの作れるなんて凄いや。」

「幽霊ですから。」

幽霊だからってそんな事できる説明にはならないと思うけど。

「そういえば、湊先生と皆川先生は?」

「まだ体育館にいると思われます。」

そこに、ちはやを抱えた湊が小走りで現れた。

「あ、湊先生。」

「無事だったか、加古…。」

はあー、と息をついて、彼はちはやを地面に置いた。

「あの黒城という男、彼女を裏切りおった…。」

俺はそっとちはやに近づいた。

「ちはや。」

声をかけると、彼女ははっとしたようにこちらを見て、それから目を逸らした。

「ちはや、これはどういう事だ?黒城先生に裏切られたって、本当なのか?」

「……。」

「答えてくれ。」

ちはやはこちらを見た。その目はきつく吊り上がっていた。

「裏切られた?」

ちはやは冷たく笑って続けた。

「加古君って本当、お人好しねー。あれは示し合わせた内よ。でも思ったより強く腰打っちゃったかしらね。」

そして腰をさすりながら立ち上がり、呟いた。

「今日のところは引き上げてあげる。黒城先生も呼ばないと。今頃体育館はどうなってるかしらね…。」

そしてくるりと踵を返し、第一体育館へと走っていった。

「あ、羽闇!」

「追いますか、加古君。」

「ああ。和歌歩さん、申し訳ないけどまた付き合ってね!」

「ええ。」

俺、和歌歩、湊の3人は、ちはやを追って第一体育館へ走った。

✳︎

「ちはや!…あ。」

体育館に着いた俺たちが見たのは、満身創痍で辛うじて立っている皆川先生と、黒い竜のような姿を現した黒城、その脇に立つちはやの姿だった。

「ああっ、皆川先生!」

湊が悲痛な声を上げて皆川先生に駆け寄る。

「ああ、こんなに傷ついて‼︎さ、私に掴まって…。」

「あんたに掴まるくらいなら怪我で死んだ方がマシよ。」

「…え?」

皆川先生は湊を無視して俺と和歌歩の方へ来た。

「ごめん、さすがに龍はムリだわ。」

「いや…。」

そもそもここまで互角に戦った事が凄いから。

「強く美しい女…素敵ですね。」

「…和歌歩さん?」

あの無機質な顔にほんの少し紅がさしている。そんな場合じゃねーだろ。

「加古君!あなたとはしばらくサヨナラね。あ、逢魔先生と白澤君返しとくわ。黒城先生。」

「俺に指図するんじゃねぇよ。何度も言ってるだろう。」

「指図じゃないわ、お・ね・が・い‼︎」

「…チッ」

黒城は舌打ちして飛び去り、暫くして何かを咥えて戻ってきた。

吐き捨てるようにその白い物を床に落とし、ちはやを促した。

「乗るならさっさと乗れ。ズラかるんだろ。」

「分かってるわよ、急かさないで。」

ちはやはひらりと黒城に跨り、にっこり笑った。

「じゃーね、加古君♡」

そして、黒城はちはやを乗せて舞い上がり、天井近くの窓を突き破って飛んでいった。

呆気にとられてその姿を見送っていると、斜め後ろから聞き覚えのある声がした。

「う、嘘だろ…?な、何だよあれ…?」

振り向くと、体育館倉庫から礼一郎が顔を出していた。

「礼一郎⁉︎いたのか!」

「あ、ああ…。俺を差し置いてちはやと逢引なんて生意気だぞ、加古‼︎」

「そんな事言ってる場合じゃないだろ⁉︎」

どいつもこいつも‼︎

「お前も見ただろ、黒城先生とちはや!」

「こ、黒城って誰?」

「は?」

「加古君。」

横から和歌歩が話しかけてきた。

「何?」

「もしかして、黒城氏が正体を現したので、皆にかかっていた妖術のようなものが解けたのではないでしょうか?」

「な、なるほど…。」

俺は礼一郎に今までの事を全て話した。

「えーっ⁉︎そんな事あったのかよ、面白そうだったなあ…。呼べよ‼︎」

「バカヤローっ‼︎お前の目は節穴か!ついでに耳も!」

「まあまあ、お二人。」

和歌歩が俺と礼一郎の間に入り、言った。

「今はあの二人を介抱するのが先決ですよ。」

指差す先には、先程黒城が持ってきた白い物があった。

「…あ。」

俺達はその白い物に駆け寄った。

「お、逢魔先生‼︎白澤もいる‼︎」

二頭とも白で一体化して見えたが、その白い物は気を失った白狐と白澤であった。

「え、白澤?」

「あ、そうか。礼一郎、これが白澤の正体だ。」

「えーっ⁉︎この白くてちょっと神々しいけど目が多くてちょっと気持ち悪い牛と馬を足して2で割ったような生き物が⁉︎」

「…お前よくそれ噛まずに言えたな。」

俺はちょっと呆れて、笑った。なんだか久々である。

「さ、逢魔ちゃんと白澤君を保健室へ!丁度4人いるから、2人で1人運ぶのよ!」

「え?皆川先生、5人じゃないですか?」

「は?何言ってんの。男は4人でしょ。」

「えぇー⁉︎」

思わず和歌歩を見遣る。頭を抱えて、壁に向かっている。哀れだ。

「はい、頑張ってねー♪」

龍と対等に渡り合えるなら1人で運べ‼︎

✳︎

「…くそ、肋を折られたな。あの女、許さん。」

「あはは、皆川先生の事?凄いわねあの人、龍の肋を折るなんて。…にしても黒城先生。今日は役者だったわね。」

黒城の背に跨ったちはやが、そのたてがみを撫でながら言う。

「馬鹿にしているのか?」

「嫌ね、邪推も大概にしてよ。褒めてるんじゃない、素直に喜びなさいよ。」

「俺を喜ばせたければ、お前のそのやかましい口を今すぐ閉じることだな。」

「まあ、呼び出されただけの分際で。」

暫くの沈黙。

「ところで一つ気になったんだが」

「何よ、喋っていいの?」

「…俺が質問しているんだ、素直に答えろ。」

「はいはい…。」

黒城は少し首を傾け、言った。

「あんなちゃちい演技までして、どうしてあの加古とかいうガキと話す必要があったんだ?」

「えっ…。」

明らかに戸惑うちはや。

「俺とあのやけに腕っ節の強い女が体育館に二人きりになった後、あのガキには会えたんだろ?」

「うん…。」

「本当はもっと別に話したい事があったんじゃねぇのか?」

「…。無駄口聞かずにさっさと家まで送んなさいよ。」

「………俺に、指図すんな。」

黒城はそれきり黙り、夜の闇に消えた。

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時雨様、コメント&怖いありがとうございます。シリーズを一通り読んで頂けて、とても嬉しいです!更新は不定期ですが、まだまだ続ける予定ですので今後ともよろしくお願いします。

こちらのシリーズ、とっても面白かったです。また、楽しみにしています♩