中編4
  • 表示切替
  • 使い方

寂しいおばけ

お父さんが死んだ。お母さんも死んだ。私もあっけなく死んだ。

その日私は知らないところに居た。

なぜその場所に居たかとか、そういう記憶どころか何の記憶もない。

大きなテディベアと私だけがこの散らかった場所にいた。静かすぎて耳が痛い。テディベアにとうめい、と刺繍がしてあった。それが私の名前である事はなんとなくわかった。

次の日も、私はそこに居た。冷たいベッドの中、テディベアを抱きしめた。少しだけ思い出した。私はずっと昔からここに居ることを。いつからなんてわからない。その前のこともわからない。もう一度目を閉じ、深く眠った。

俺は決して暇だったわけじゃない。ただ、あかりが一緒に小学校最後の夏休みだから二人で特別な思い出を作ろうなんて言うから期待してあかりの家に遊びに来たのに話を聞いてみると隣町の怪談話を聞いて廃墟に探検に行くらしい。正直そんな遠くまで行くのはめんどくさい。この幼馴染にはいつも振り回されてばかりだ。でもここで断ると、春は意気地なしだと学校中の噂になる。それは嫌だ。だからしぶしぶついて行くことにした。

自転車は中学生になるまで禁止されていたから歩いて30分くらいかけて隣町まで行った。途中、あかりは色々と説明してくれた。

隣町には大きなお屋敷があること。そのお屋敷には誰も住んでいないこと。そして、屋敷内を歩き回る白いおばけが出ること。そして、おばけのくせに昼間しか出てこないこと。へんなおばけだなーと思いながらやっと隣町まで着いた。ここからさらに山を登るらしい。まだ早朝だから全然暑くはない。早起きした蝉の声を聴きながら山を登っていった。そうするとお屋敷が見えてきた。

お屋敷のきっと玄関だと思われる所に着いた。あかりは凄く怖がってるけど、俺だって怖い。

「いくぞ」

そう言って玄関の扉を開いた。

ぎいいと嫌な音がして、簡単に扉が開いた。

扉が開いた音が聞こえた。今までに何度かその音を聞いた事がある。あの扉が開く時は大抵怖い事が起こる。何人かの足音が聞こえたり、悲鳴が聞こえたり、勝手にガラスが割れたりする。見えない何かがこんなにも怖い。様子を見に、玄関へと向かった。

扉が開くと、湿気た匂いがした。中の様子は閑散としていた。散らかった家具、破れたカーテン、ガラスの破片。もう何十年も人が住んでいないということが一目見てわかった。だから中から俺らと同い年くらいの女の子が中央の階段から降りてきたときにおばけだと思った。おばけと目があったあかりは泣きだした。俺はおばけに向かって「誰だよ!」と怒鳴った。女の子は、嬉しそうな、泣きそうな顔で小さく、「とうめい」と言った。

玄関に降りてみたら私と同い年くらいの男の子と女の子がいた。男の子は私を見て凄く変な顔をした。女の子と、目があった。私の中の記憶が女の子に流れ出した。女の子は気づかないうちに、私の知らない記憶も吸いとっていった。そうして女の子は泣きだした。おばけ…かな…?おばけでもいい。私の事、ちゃんと認識してくれてる。男の子が私の名前を聞いた。自己紹介なんてしたことないから戸惑いながら、「とうめい」と小さく答えた。これが私にできる精一杯だった。本当は嬉しかったけど、嬉しい時にどんな顔をすればいいのかわからなくて目を伏せた。私には笑い方もわからない。始めて見えたおばけ達と仲良くなりたくて私はゆっくりと近づいていった。

とうめいと名乗ったそいつが、ゆっくり近づいてきた。生きてない、ということが近づいてくるたびに少しずつわかっていく。あかりは泣き止まない。あかりの手を握って、一目散に逃げた。

おばけは、逃げていった。普通に話がしたかっただけなのに。涙がでてきた。さっきの女の子を思い出して、これが悲しいということなのかな、と思った。私はあと何十年一人なんだろう。そんな事を考えると怖くて涙が止まらない。さっきの女の子が教えてくれた悲しみは私には重すぎる。私はベッドに戻りもう一度目を閉じた。何も見ないように。何も考えないように。

あかりを連れて全力で走った。俺はもう体力の限界だったから、とりあえず駄菓子屋のベンチに座った。あかりは泣き止んだ。一言だけ、「何で逃げたの?」と聞かれたが俺は何も答えられなかった。あとから駄菓子屋のおばちゃんがでてきて、お屋敷に行ったと話すと昔の話をしてくれた。

昔、幸せそうな三人家族が住んでたらしい。ある日母親はデパートに行ったっきり帰って来なくなった。父親は必死になって探したけど結局見つからなかったらしい。その次の年、今度は父親が行方不明になった。結局帰って来なかった。一人遺された女の子は誰にも気づかれず、お屋敷でひっそりと死んでいった。後から警察がお屋敷を調べてみると父親と母親のバラバラになった死体が見つかった。犯人は女の子だったらしい。駄菓子屋のおばちゃんは淡々と語った。

駄菓子屋のおばちゃんに手を振って、無言のあかりとぽつりぽつりと帰った。

夏休みが終わり、小学校が始まりだしてあかりはようやく教えてくれた、「犯人は駄菓子屋のおばちゃんだよ」って。それしか言わなかったけど、なんとなく悟った。駄菓子屋に行ってみると、確かにそこにあったはずなのに崩れかけた廃屋しかなかった。駄菓子屋の面影だけは少しだけ残っていた。

おばけよりも人の方が何倍も怖いって事を始めて知った。

そうして俺たちの最後の夏休みは後味悪く終わってしまった。

Concrete 59189e6fb4d79119a63e92183ffb92aeb8f46031afd97d5db060811ce15c35e6
閲覧数コメント怖い
35000
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ