変化と成長 Ⅰ『アラタ怪奇譚』

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変化と成長 Ⅰ『アラタ怪奇譚』

夏休みに入りアラタは合宿で車の免許を取ってきた。

8月に入りこれからは車で出掛けられると喜んでいたのにアラタは機嫌が悪かった。

毎日のように天文部員がアラタを誘いに来るからだ。

「なんなんだっ!」

「みんなアラタたち目当てで入部したからね」

「たち?」

「うん、マコトとタカヒロも」

「あいつらも困ってるって訳か」

「さっきタカヒロもアキと一緒にプールに逃げたみたい。マコトとミズホも図書館で宿題するってさ」

話しは少し前、私たちが3年生に上がってすぐに遡る。

「アラタは大人の男になったわね」

ミズホの生々しいセリフでドキッとした。

「なにを急に......」

「だって身長だってタカヒロと変わらないほど伸びて身体つきだってガッシリしてきたと思わない?」

「確かに、成長期ってすごいね」

「なにをボケたことを言ってるのよアキは。何かあったに決まってるでしょ?」

「なにかって......何?」

「白状しなさいよユウ、春休みの間に何かあったわね?」

「何かって....別になにも......」

するどいミズホの質問にとぼけたものの私の挙動不審な態度でバレバレだった。

「着々と絆を深めてるのね、まあいいわ」

珍しくあっさり引き下がるミズホに少し疑問が湧いたが今は蒸し返さない方がいいみたい。

「で、でも、みんな同じクラスになれてラッキーだったね」

私たち6人は同じ2組になれて喜んでいた。

アラタは目の届くところにいつも私がいる事で安心だと言っていた。

「あら、知らないの?いつも問題を起こす私たちは纏めて監視した方が楽だからって日下部先生が言ってたわよ」

「そうだったんだ」

「そういえばタカヒロが言ってたよ、アラタはいつもユウのために力を温存してるって。ユウと同じクラスになった事で消費してた力の分が成長に回ったんじゃないかってさ」

「なるほど、一理あるわね。でもこれから大変よ、ユウ、アキ、覚悟した方がいいわよ」

「どうして?」

「あの3人を見てなんとも思わないの?」

「?????でかい?」

「寝ぼけてんじゃないわよ、目立つのよ、アイドル並みに。きっと新入生が殺到するわよ」

「まさか......」

そして話しは戻る......

ミズホの言った通り、天文部には3人目当ての新入生が大量に入部して来て夏休みの今、何かとイベント事の誘いに来る。

宿題を教えて欲しい、キャンプ、海、プール、花火、旅行の誘いなんてのもあった。

「誰もいない無人島でユウと2人っきりで過ごしたいよ」

「あはは.....」

冗談とも本気ともとれるアラタのセリフに笑うしかなかった。

私たちもみんなを見習ってどこかに逃げようかと相談を始めた時、新入部員目当てに入部してきたニシムラ君から電話が来た。

彼、ニシムラくんは2年生、女子の間からは『ひんしゅく王子』と呼ばれ、ナルシストでキザな男子だった。

普通にしていれば普通の顔立ちなのに、的外れな口説き文句が彼を気持ち悪い印象にしていた。

アラタを初めマコトやタカヒロまでニシムラくんとの接触を避けている位、彼の評判は悪かった。

そして本人に自覚はなく、また何かを企んでいると着信を見たときに私とアラタは思った。

「肝試しだって!?ふざけんなっ!」

機嫌の悪いアラタは烈火の如く怒っていた。

当然と言えば当然の事、肝試しはアラタが最も嫌う行為のひとつ。

ニシムラくんはアラタを餌に女子部員を集めようって魂胆だった。

「行きたきゃお前ひとりで行って来い!」

そう言ってアラタはスマホの電源まで切ってしまった。

「いいの?」

「痛い目に会えばいい、少しは懲りるだろ」

眉を顰めイライラしているアラタを見ながら私は少しニシムラくんの心配をしていた。

不安げに首を傾げてる私を見て、アラタはより不機嫌になってしまった。

「ニシムラより俺の心配してよ」

「ごめん、でも......」

「わかったよ、気分転換にドライブにでも行こう」

このドライブがいけなかった。

ブラブラと楽しく走り回っていたはずが、アラタは急に眉を顰め何かを考えているみたいだった。

「どうしたの?」

「何かに呼ばれてる感じがする....連れて行かれてる感じ、俺の意思であり違う意思に」

「どういうこと?」

「さあ、よくわからないが面倒な事になりそうだな」

アラタの感はよく当たる。

中学生の頃からアラタがFXでコツコツ貯めてきたお金で買った新車は、静かに私たちを目的の場所に連れて行った。

「くそっ、あの野郎」

着いたところは数ヶ月前までワイドショーでも連日報道されていたストーカー殺人があった場所。

家族3人が惨殺された現場は普通の民家で、人の気配は感じず少し寂れていた。

『出る』と噂され肝試しと称し大勢が荒らしたであろう家は、招かれざる客を拒絶するような空気をまとっていた。

ニシムラくんはひとりでその家に入って行った。

私たちの到着は一歩遅く、ニシムラくんを見つけたのは玄関を入って行くところだった。

「どうするの?」

「どうするも何も放っておける状況じゃないだろ。ここはダメだ、少し痛い目を見る位じゃ済まない」

「だよね......」

「ユウも気をつけて、憑依されないように気をしっかり持つんだ。もし....」

「わかってる、門は召喚させない。気をつけるよ」

フッと優しい笑みを見せ、私の頬にキスをしたアラタの気は暖かい水のよう。

いつも力のトーンを落とし薄い水のベールに包まれているようなアラタの気は、私に触れると私まで覆いつくす。

この水に包まれると思い出す......

私は春休みに知った私とアラタの真実を思い出していた......

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