中編5
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死体は歩かない 其ノ参

『えぇっと…ヤマダさんとシマダさんとキノシタさんって方と、よく一緒にいたと思います。キノシタさんが、高校の先輩だったみたいで……って、麗奈さん?』

『ふぇ!?…あ、ごめんごめん』

夜魅の口から、ヤマダというワードが出たから、思わず思考がそっちへ走り出してしまった。危ない危ない。

私は食堂の二人がけの席に、夜魅と向かい合わせになって座っていた。

無論、由梨花と佳苗はいない。

『えっと、そのなかに妹さんと付き合ってた方もいるん?』

『はい。シマダさんが妹の元恋人です。ちなみに、キノシタさんは女性で、ヤマダさんは男性です。』

じゃあやっぱりヤマダはあのヤマダユウキなのか……っていかんいかん。今はその話じゃない。

『ありがと。じゃあ聞きにいってみよか』

『え…今からですか?』

いつもなら、すぐに行きましょう!といいそうな夜魅が、珍しく渋っているのに驚いた。

『ん?夜魅、なんか用事あんの?』

『はい…まぁ…行きたいのは山々なのですが…でも、また今度というのも…』

そうなのだ。明日から、学部生は夏休みに突入する。また休み明けに…というのも、時間が空きすぎて色々面倒くさい。仕方ない。

『私一人で行ってくるわ』

夜魅がぱっと顔をあげた。

『え!よろしいのですか?』

『んー。善は急げって言うしなぁ。もしなんかあったら、佳苗捕まえて聞くし、大丈夫やで』

夜魅は眉を下げて、申し訳なさそうに謝罪と感謝を述べていた。

もうあれだな。

美人は何しても綺麗だわ。

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―――――――――――――――――――

心理学部の棟に向かっている途中、佳苗に出くわした。

『あ、佳苗!!』

『あれ、麗奈、どうしたん?こっちになんか用事でもあんの?』

べつに夜魅のことを話しても良かったのだが、始めから説明するのが面倒だったので

『うん。まぁね』

とだけ言っておいた。佳苗もあまり執着することもなく、そっかと言うと帰っていってしまった。

そこではじめて、佳苗が帰ってしまったら、何かあったときに頼れる人がいなくなってしまうことに気付いた。

『…まぁ、なんとでもなるか』

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夜魅に教えられた通りに道を進み、心理学部の校舎へ入った。さて…シマダさんとヤマダさんとキノシタさんの顔がわからない。

とりあえず、通りすがりの女性に声をかけてみる。

『すみません。3回生の、シマダさんとヤマダさんとキノシタさんは、どちらにいらっしゃいますか?』

女性はニコリともせず、あぁキノちゃんか、と呟いてスタスタ歩き出した。私も慌てて着いていく。

ある部屋の前に来ると、女性はノックもなしに扉を開けた。

『キノちゃん。あんたらにお客様』

とだけ扉の中へ言うと、どこかへいってしまった。お礼を言いそびれた。てか無愛想だな。

『クーラーの冷気逃げるから、早く入んなよ』

扉の中から、茶髪ショートカットの女性が声をかけてきた。白衣の胸元に「木ノ下」の名札がぶら下がっている。

『あ、はい。失礼します』

木ノ下さんは私をドアに一番近いソファーに座らせ、コーヒー入れるねと言い、部屋の奥においてあるコーヒーメーカーの方へ行ってしまった。

ほぼ正方形の机の、私から見て右に「矢真田」さん。左に「山田」さんが座っている。二人とも、すごいイケメン。矢真田さんは眼鏡をかけていて、さっきから無表情だがとてもクールな感じだ。山田さんは、さっきからニコニコとして、失礼かも知れないが可愛いイメージだ。

『…あの、急にお訪ねして申し訳ありません』

すると山田さんが答えた。

『いいのいいの。どうせ暇やし。えっと…』

『理工学部1回生の、明星麗奈です』

『明星さんね、よろしく』

山田さんは歯を見せて笑った。

あぁ、かっこいいな。二人が好きになる気持ちもわかる。

ただ、佳苗はこういうタイプが好きというわけではなかった気がするが…。

どっちかって言うと、矢真田さんの方が佳苗の……………

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そこまで考えて、謎がひとつ解けた。夜魅のことはなにも解決していない。そっちの問題じゃない。

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そこに、木ノ下さんが戻ってきた。

『お待たせ。えっと、明星さん?私たちに、何の用かしら?』

正直、話の切り口をなんにも用意していなかった。ここは誤魔化さず、普通に行くか。

『去年亡くなった、長谷川さんの事についてです』

部屋の温度が、少し下がった気がした。

『あら…あなた、はぁちゃんのお友だち?』

木ノ下さんが最初に口を開いた。はぁちゃん?と思ったが、木ノ下さんは夜魅の妹の先輩だと言っていた。長谷川ではぁちゃん。あだ名か。

『はい、まぁ』

『そっかぁー…。まぁ確かに、ずっと心残りよね。あんな終わりかたじゃ』

山田さんもさっきまでの笑みを消して、俯きながら呟いた。

『俺達も納得はしてないねんなぁ。でも、どうしようもないし』

『警察も、ちゃんと探してくれたのかしら…?』

『まぁ、確かに、毎日事件は起こるから、こればっかりに固執は出来ひんねんやろな』

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さっきから、木ノ下さんと山田さんしか話していない。矢真田さんは、木ノ下さんが淹れてくれたコーヒーのカップをずっと見つめたまま動かない。

そりゃあ、亡くなった彼女の話をほじくりかえされて良い気持ちはしないだろう。

でも、聞かなくてはならない。

『あの、矢真田さん。何か、何でも良いんですが、何か心当たりはありませんか?長谷川さんの遺体の場所とか、犯人とか…』

矢真田さんはゆっくりとこちらに顔を向けた。思わずゾクッとするような、全く感情の見えない顔だった。

『……終わったことやから』

それだけ呟くと、矢真田さんはまたコーヒーカップに視線を落とした。

『…家に…帰りたかったやろに…』

辛うじて聞こえる声で、そう言った。

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帰り際、木ノ下さんは正門の前まで見送りに来てくれた。

『ごめんね、明星さん。矢真田、普段はもう少し明るいんだけど、はぁちゃんの話をするとあんな感じになっちゃうの』

『いえ、大丈夫ですよ。こちらこそ、急に押し掛けてあんなデリカシーのない質問をしてしまって、すみませんでした』

木ノ下さんは、はぁちゃんのお友達ならまたいつでもおいでと言ってくれた。私は深々と頭を下げ、帰路に着いた。

歩きながら、私は矢真田さんの最後の言葉を思い出していた。

『家に帰りたかったやろに…か…』

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忍冬さん
ありがとうございます!!
こんな駄作をわざわざ最初から読んでくださるとは…感激です。
次も精一杯頑張ります。

最初から続けて読ましてもらいました。
面白かったです。
続き楽しみにしてます。