中編5
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マンションの生剥げ

「小さい頃・・今から何年前だろう・・・一度だけ変な物みたよ。うん、あれはね・・・妖怪だと思うんだよなー。あの時は悪夢をみてるようだったね・・・うん。なーんであんなのみたんだろね?」

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タクシー運転手さんから聞いた話でございます。

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夏休みの事である。

太郎は夏休みの宿題を自分の部屋の引き出しに入れたまま手をつけなかった。

暇だ暇だと言いながらリビングでダラダラ過ごしていた。

「太郎!あんた宿題やったのかい?まーた夏休みのギリギリになって宿題が終わらないって騒ぐんだから早くやっちゃいな!」

「えええーやだよー暑いよー暑くて溶けちゃうよー」

「あんたさっさと終わらせなさいよ。私は宿題もう少しで終わるもーん。」

太郎は母と姉の言葉を無視し床の上に寝ころんだ。頬を床につけるとひんやりとしていて気持ちがよかった。

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「姉ちゃーんアイス取ってー」

「自分で取れ!アホ太郎!」

姉はものすごく嫌そうな顔をしながら自分の部屋へと去って行ってしまった。姉の足音がだんだん遠のくのを感じながら母へと視線を移した。

「太郎、これからお母さんとお姉ちゃん出かけてくるから留守番頼んだよ。」

「何時何分何十何秒に帰って来るのー」

「そんなに遅くないよ、夕飯前には帰って来るからね。あと、お母さんとお姉ちゃんとお父さん以外の人は家に入れちゃ駄目だからね?いいね?」

「わかったー絶対開けないようにするー」

床の上で泳ぐ真似をしたりグルグル回っていると、いつの間にか母と姉が出かけていた。

テレビがついていないリビングがなんだか心細く思えた。

「なにするかな・・・・まずテレビをつけよう。」

テーブルの上に置いてあるリモコンを掴みテレビ画面に向かってボタンを押した。

ピンポーン・・・・ピンポーン・・・・

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リモコンを押すのと同時にチャイムが鳴った。

ビクっとして一瞬体固まる。心臓がバクバクし顔が赤くなるのを感じた。

ピンポーン・・・・・・

少し心を落ち着かせ玄関へと向かう。母と姉がもう帰ってきたのかと考えながらドアの前に立った。

「どちらさまですかー」

「ふふふ・・・私よ私、開けてちょうだい?」

知らない女の声がした。若くて高い声でドアに口を近ずけながら話しているような感じ。

「知らない人は入れちゃ駄目って言われてるからだめー」

「ふふふ・・・誰に言われているの?」

「お母さんー」

「私、お母さんに言われてここに来たのよ?だから開けてちょうだい?」

「無理ーーーーーーー!!!!」

太郎はこの女が不気味に感じ、リビングへと走って行った。

するとチャイムの音が鳴りやみ部屋にはテレビの音のみになった。

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数時間後に母と姉が帰って来たのでチャイムを鳴らした女の話をした。

「ここのマンションよく変な勧誘が来るらしいから、その女の人もそうなんじゃない?」

「太郎が宿題やらないからお化けが来たんだよー」

姉は冗談で言ったのだが太郎は真に受け恐怖で顔が白くなっていた。

「姉ちゃんのバカー!!怖いよお化け嫌いなんだよ!!」

母と姉は笑っていたが太郎は笑えなかった。

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次の日のお昼過ぎ。

「太郎ーお母さんとお姉ちゃんで今から病院に行ってくるから留守番頼んだよ。」

「え、えええ!!また留守番?やだよ怖いよー」

「大丈夫だよドアを開けなきゃ平気よ。」

太郎は色々文句を言いつつ母と姉を玄関まで見送った。

家の鍵を閉めてリビングへと向かうと・・・・

ピンポーン・・・・ピンポーン・・・・

背後でチャイムが鳴った。

「はーいどちらさまですかー?」

「ふふふ・・・・太郎、お母さんだよお母さん。忘れ物しちゃった。だから早く開けて?お母さんだよ?」

声は確かに母の声だったが何か違和感を感じ、ドアスコープを覗いた。

「え・・・・」

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ドアの前に立っているのは母ではなかった。おにぎりのような髪型で真っ黒くて長い髪に体がヒョウタンのような形で膨らんでいた。なによりも異様な大きさの顔に圧倒された。

顔は黄土色のような色で目を思いっきり見開いて血走っていた。口は横に開きニコニコ笑っているようだった。今まで見たことがない者がドアの前に居る、しかもそれがお母さんだと言っている。太郎は怖すぎてドアの前で硬直しガタガタと震えた。

ピンポーン・・・・ピンポーン・・・・ピンポーン・・・・ピンポーン・・・

「ピンポーンーピンポーンピンポーンー!!!!」

「ひぃぃぃーーー・・・・・・」

太郎は小さい悲鳴を上げ腰を抜かしてしまった。

"太郎が宿題やらないからお化けが来たんだよー"

姉の言葉が頭の中を駆け巡った。 宿題をやらないから自分を迎えに来たのだろうか、でも家に入れたくないし早く帰って欲しい。母と姉が早く帰って来るように手を握り祈った。

ピンポーン・・・・ピンポーン・・・・

「太郎ー居るのは分ってるよ早く開けて!!!開けて!!!!ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン!!」

太郎はその場にうずくまり耳を塞ぎ目をつむった。

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「帰ってください帰ってください・・・・」

太郎は念じるように言いながらドアの前が静かになるのを待った。

どれくらい時間がたったのか知らぬ間にチャイムの音が止んでいた。

恐る恐るドアを覗くとそこには誰も居なかった。太郎は安心し玄関に座りこんだ。

ガチャガチャッ!

不意にドアの鍵が開けられ、太郎は身構えた。

「太郎!あんたこんな所でなにしてんの?お出迎えかい?」

「なにびっくりした顔してんの太郎ー」

母と姉だった。

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太郎は二人の顔を見て安心した。

姉が入り次に母が玄関に入ろうとした瞬間だった。

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(ぬううううううううううううううううううううううー)

母の真後ろから大きな顔が飛び出してきた。その顔はさっきまでチャイムを鳴らしていた者だった。

「わぁあああるいこだぁあああああああああああああああー!!!!!!」

「ぎああああああああああああああああー!!!!」

顔を赤黒く変色させながら此方を凝視してくるそれを見て太郎は失神した。

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「長い時間が経ったあとに目を覚ましてさー、母と姉ちゃんにその時見た者の事を話したんだけど信じてくれないのよ。夢見てたんだとか幻覚だとか言ってね。その日以来勉強頑張るようになったからまぁいいかなーなんてね。」

そう笑いながら運転手さんが話していた。母も姉もその"者"は見えなかったし存在にも気が付かなかったらしい。

「自分がちょっとでも気を抜いたりいい加減に何かをしようとすると、"アレの顔"が鮮明に思い出されるんだよね。あと、"アレ"が秋田のなまはげに似てたからなまはげも怖いね・・・」

車内ミラーに付いている幾つものお守りが左右に揺れていた。

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