長編11
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社会不適合者保護法

20××年

『国内の未来を担う若者を支援する新たな法令として【社会不適合者保護法】が制定されました。この法案は個人的な性格を基盤とする本人の特性と生活に課題を抱える人間を対象を選定し貴重な労働力を無作為に消費する対象者の保護と更正支援を行うものです。

この法令の特徴は、選定された若者の生活を国民全員が協力して管理することで社会不適合者の若者の更生を行う事が挙げられます。』

ピンポーン! 

「郵便でーす。ハンコ、お願いしまーす」

玄関から聞こえる郵便配達員の声で俺は目を覚ます。

時計を見ると…13時。空の真ん中に太陽がいる時間。

万年床から這い出た俺は、ハンコを持って玄関に向かう。

「ちーっす。こちらにハンコをお願いしまーす。」

「ああ、はいはい。」

俺は気怠く返事を返しながら封筒を受け取り郵便配達員の差し出す書類にハンコを押す。

「どーっもーっす。ありがとやしたー。」

玄関先から去る配達員。

俺は封筒の中身を見る。

…認定通知?

封筒に中身には書類が一枚。

そこには、

『⚪︎⚪︎様。貴殿は栄えある【社会不適合者保護法】の対象に認定されました。おめでとうございます。』

の文章。

【社会不適合者保護法】?

確かの俺の名前は⚪︎⚪︎だが…。

…そう言えば、最近新しい法律が制定されたって、ニュースでやってたな。

…まあ、どうでもいいか。

俺は書類を最後まで読むことなく、封筒ごと丸め、ゴミ箱にポイと捨てる。

次の日。会社で。

同僚が俺に話しかけてくる。

「ねえ〜、⚪︎⚪︎君。昨日締め切りの提出書類、ちゃんと出した?」

「あ、やべえ。まただし忘れてたわ。」

「もう! 忘れちゃダメだよ〜。」

「いけねえ、いけねえ。すぐ出すよ。」

「⚪︎⚪︎君が提出期限を忘れるの、これで12回目だよ。気を付けてね〜。」

…? 俺はふと同僚の言葉に疑問を感じる。

「…よく回数なんて知ってるな?」

「うん、上司の△△さんが教えてくれたの〜。」

…あんの、クソ上司…。

俺は小さくつぶやきながら、苦虫を潰したような表情を作る。

会社の帰り道。俺は腹いせに呑みに出た。

馴染みの店で熱燗を口に含む俺。いい具合に酔っ払った。

「オヤジ、会計してくれ。」

「はいはい、四千二百円になります。」

「あいよ。」

俺は財布を取り出す。

「なあ⚪︎⚪︎さん。」

「なんだい、オヤジ。」

「あんたさ、この前もここで呑んでたけどさ、あの時も四千円ほど呑んでだよね。ちょっと飲み過ぎじゃねいかね。」

「…は?」

「一週間前も、駅前の店で三千五百円飲んでたし。控えた方がいいんじゃない?」

…何を言ってるんだ? なんでそんな事を知ってるんだ?

…飲み屋同士の繋がり? いやいや。

「うるさいな。解ったよ、もう来ねえよ!」

俺は捨て台詞を吐いて店を出る。

…気分が悪い。

3日後。

会社の昔の同僚から電話がかかってきた。

『なあ、⚪︎⚪︎。お前さ、会社でちょっと浮いてるんだってな? 上司にも嫌われてるんだろ?  新しい就職先、紹介するよ。』

「は?」

元同僚の言葉に唖然とする。

『また明日、電話するから、よろしくな。』

そういって元同僚は電話を切る。

次の日。

『新しい就職先の人に、お前の事を紹介しといたぞ。今の会社は早く辞めろよ。』

…いやいやいやいや、そんな簡単に転職を決意できるかよ。

「いや、そんなすぐに辞めれねえよ、もっと段取りを踏んでからでないと…。」

『…なんだお前、辞めねえのかよ。何の為に俺が苦労したと思ってるんだよ! お前のためだぞ!』

「いや、だからさ、話が急なんだって…」

『もうお前のことなんて知ったことか!』

元同僚は、一方的に話し、怒り、勝手にキレて、電話も切った。

…何なんだよ、一体…。

呑みに出たある日。

そこでまた、俺は不可解な出来事に出くわした。

何軒かある俺の行きつけの店。その全ての店で、俺は入店禁止になっていた。

「⚪︎⚪︎さんは入店できません。」

店先でそう言われ、中に入れてくれない。

理由を聞いても、

「ご自身が全てご存知だと思いますが」などとやんわりと言われ、要領を得ない。

先日の店での一件が、そんなに悪いことだったのか?

俺が公園を散歩していた時である。

ジョー○アのホットの缶コーヒーを片手に、公園の中をブラブラしていると。

携帯電話に文字を打ち込んでいる若い女性がいた。

…最近はSNS…LINEだとかFacebookだとかで、携帯を手元から話せない人間が増えた。

俺も流行りに乗り一応は利用しているが、依存という程ではない。

と、そのベンチに座っていた若い女性の手元から、携帯が滑り落ちた。

近くを通った俺は、その携帯電話を拾い上げ、「落としましたよ」と女性に渡す。

その時、俺の目にその携帯電話に打ち込まれた文字を飛び込んできた。

【ジョー○アのホットの缶コーヒーを購入。公園の中を歩いている】

??

女性は、俺の手にあった携帯電話をひったくるように取り上げ、礼も言わずに駆け出していった。

…偶然だよな…

俺は、ホームセンターにストーブを買いに行った。

昨年の冬は寒さが厳しかったので、今年は奮発して高価なストーブを買うことにした。

レジで会計をする。

「あの、お客様。」

「はい?」

「今、お客様の財布の中の金額と銀行の貯金残高から省みるにお客様が購入を希望するストーブでは、不適合かと思います。」

「へ?」

店員の言葉に俺は間抜けな返事を返す。

「お客様に適合な暖房器具はこちらの特売品が宜しいかと。」

そう言って店員は特売品コーナーを指差す。

…なんで、俺の貯金金額が話に出るんだ?

俺は混乱する。

「余計なお世話だ! 早く会計しろよ!」

俺は大声を出す。

そこに、店長と思しき格好をした男性が近づいてきた。

「⚪︎⚪︎様。大声は困ります。」

「いや、だってこいつがさ………? あんた、なんで俺の名前を知ってるんだ?」

俺の顔色が変わる。

「はて? あなた様のことなら、この国の誰もが知ってますよ?」

この国の誰もが知ってる? 何の事だ? 

その時、ふと、俺は周囲を見わたした。

そして、俺は戦慄する!

店内にいる全ての人間が、

俺を見つめていたのだ!

珍しいものでも見るような目で。

ギラつく瞳で。

ニタニタした興味本位な視線で。

実験動物でも見るような冷めた表情で。

様々な種類に視線が、俺に突き刺さる。

それは、ほんの一瞬の出来事だった。

数秒後、何食わぬ顔で皆、俺から目を逸らす。

そして、携帯電話を手に取り、何かを打ち込む。

…なんだこれは?

俺は、混乱する、というより、ある種の畏怖に駆られ、

店から逃げるように、立ち去った。

それからも、奇妙な出来事は続く。

本屋で。バトル系の漫画を買おうとした時だ。

「あなたのお持ちの本は、暴力ものばかりですね。あなたに適正なのは、こちら哲学書です。」

そう店員に言われ、結局目当ての本を買うことが出来なかった。

近所のスーパーで。

買い物籠を抱え、レジに向かう。

その時、誰だか知らないおばちゃんが俺に近づいてきた。

そして、

「あーあ、インスタントものばかりだね。申し訳ない程度にレタスなんて入れてるけど、そんなんじゃ野菜成分が絶対的に不足だよ。生活習慣病になっちゃうよ。ほら、カップラーメンなんてやめて、根菜を食べなきゃだめよ。お米はあるの? 確かそろそろ終わる頃だったわね。はい、これ買ってね。無農薬でさらに特売で。体にも財布具合にも優しいのよ。あ、そうそう。牛乳。牛乳だけは絶対忘れちゃだめよ!! ねえ、周りの皆さんもそう思いますよね!」

おばさんは、周囲の客に同意を求める。

な、なんなんだ、このおばさんは?!

周囲の客も、おばさんの行動に呆れる…かと思ったら、皆、おばさんの行動にしきりに頷いている。

むしろ、『よく言った!』という雰囲気だ。

…小さな親切大きなお世話、なんてものじゃねえ!!

…結局俺は、おばさん他数名に腕を引かれ、レジで会計を済ます。

会計後、レジにいた女性が、俺のレシートのコピーを持ち、携帯電話を取り出して何かを打ち込んでいた…。

普通じゃねえ。

一体、俺の周囲に何が起こっているんだ?

大きなお世話の、小さな?親切を皆がしてくる…。

俺を見つめていた数多くの奇妙な視線…。

『国の誰もが知っている』という言葉…

俺の行動を携帯電話に打ち込む人間…。

なんなんだ一体…。

俺に周囲に何が起こっているのか。

知らなきゃいけない。

そう思った俺は、

次の日。会社で、

以前に俺のミスの回数を教えてくれた同僚が休憩に行っている隙に、

俺は、その同僚の携帯電話を盗み見た。

…そこには、あるホームページが開かれていた。

そして、

そのホームページには、俺の名前があった。

【社会不適合者保護法対象者[⚪︎⚪︎]救済プロジェクト】

【⚪︎⚪︎の行動を皆で見守ろう!】

【お持ちの携帯電話で皆さんから集めた⚪︎⚪︎の情報を参照し、⚪︎⚪︎を今の社会不適合な生活から助けよう!】

…なんだこれは?

俺は震える指で、画面をスクロールして、飛ばし飛ばし内容を読む。

そこには、掲示板形式で、とんでもないことが書いてあった。

【私こと郵便配達員の訪問で13時起床。欠伸をしている隙に室内を観察。枕元にはティッシュが散乱している。ビールの空き缶も流しに置きっ放し。二日酔い気味。不適合な生活継続中】

【了解。確認お疲れ様です】

【予定通り指導を開始します】

【提出期限をまた守らず、相変わらず怠惰な仕事振りでサボる癖が抜けません。同僚を通じ勧告しましたが、改善の様子は見られません】

【⚪︎⚪︎君、「あのクソ上司」とか言ってましたよ〜】

【素行、言動ともに不適合行動が見られる。以降も職場での観察を継続とする】

【他店からの会計情報を入手しました。×日は五千三百円。◽︎日は三千五円。⚫︎日は四千六百円。金額とメニューから推測するにかなり派手に飲み歩いているようです。最近腹も出てきており、また、酒癖も悪い。規定内容に従い勧告しましたが、逆にキレる始末です。聞き入れる様子もありません】

【また、いずれも一人での来店です。友達もいないようです】

【了解】

【生活改善処置実施を予定】

【職場での素行不良継続中】

【信頼できる友人もいない様子であり、友情育成計画と転職による職場速改善計画を同時進行開始】

【俺も、苦労して新しい職場を斡旋したんすよ。上司とか知り合いにかけあってさ。で、当の⚪︎⚪︎の反応ときたら…。余計なお世話だて言わんばかりの態度でさ。まあ、こっちも謝礼金貰ってるから我慢するけど、それでもあいつの態度は良くないっすよ。まあいいすよ、俺は。我慢しますんで】

【計画は失敗、特に⚪︎⚪︎の言葉で友人対象者がPTSDに陥る可能性があり。⚪︎⚪︎の老後の年金より治療費を捻出する予定】

【⚪︎⚪︎には友人関係を構築する機能が著しく欠損している。友人を設けることは不可能である為、また攻撃的資質を持つ旨をSNSを用いて周囲の人間に周知徹底する】

【⚪︎⚪︎が私に急に近づいてきたんです。私、怖くなって携帯電話を落としちゃって。しかも、⚪︎⚪︎がその携帯電話を拾って、そもまま持ち去ろうとしたんです。私、頭に血がのぼちゃって…、なんとか携帯電話は取り返したんですけど、もう怖くて怖くて。まるでストーカーみたいでした…】

【女性への異常な執着行動や傾向が見られる様子。女性を中心にその旨をSNSで一斉送信する】

【⚪︎⚪︎が利用するS銀行よりの定期報告を報告。⚪︎⚪︎の貯金残高確認。年齢と比較し貯蓄金額が平均値より10%下回っている。最近の購入物の確認も実施。その結果、⚪︎⚪︎への高額所品の販売は控える必要がある】

【はい。彼が自分の貯金に不釣り合いの商品を買おうとしていたので、店員に支持し勧告を実行しました。規定通り特売品を勧めましたが、大声で拒否しました。ええ、はい。うちの定員はかなり怯えてしまいまして。慰謝料を請求します】

【受理。年金から天引き】

【彼は自分が国家を挙げたプロジェクトの一翼をになっていう自覚が足りない! 非国民です! ああ、怒ったせいで血圧が上がった。受診しますので、こちらも請求を願います】

【受理。年金から天引き】

【お、あいつが⚪︎⚪︎か。聞いた話の通り、ボンクラそうな奴だな】

【あれが新法案の対象者か。どれ、私も貢献するかな】

【レジで大声出して…。やっぱり社会不適合者は、下品だわ】

【⚪︎⚪︎の家宅捜索実施。所持する数冊の小説は殺人を示唆する内容。他、多数確認された低学年向けの漫画があり、年齢に不相応。内容も暴力を擁護するものであり、⚪︎⚪︎の危険思想が垣間見える。

また、成人向けDVDを発見。強引なシチュエーションでの性交を示す表現の内容であり⚪︎⚪︎の性的倒錯も確認】

【了解。書籍購入物制限施行開始】

【さらに、冷蔵庫内は醤油類を中心に調味料のみであり、カルシウムやミネラル、ビタミン等の貴重な栄養素が不足している傾向あり】

【ええ、⚪︎⚪︎の籠の中身を見て、絶句しました。はい。インスタントものばかりなんですよ。はい。あれじゃ性格も暴力的になります。ええ、しっかり指導しました。はい。指導料金は振込でお願いします】

なんだこれは?

なんなんだこれは?

俺はしばらく呆然とする。

その時、

携帯電話の画面に示されている掲示板に、

新たな文章が書き込まれた。

リアルタイムで、たった今、書き込まれたのだ。

その文章の内容は、

【⚪︎⚪︎が、同僚の女性の携帯電話を、無断で覗いています】

その言葉を受けて、次々に新たな文章が掲示板に書き込まれる。

【ええ!】

【まじ!】

【本当に変態じゃん!】

【信じらんない!】

【倫理観の欠片もない奴…】

【もう、クビだよクビ】

【やっぱり社会不適合者はそんな程度の人間だよな】

【同じ人間とは思えない…】

俺の目の前で、様々な罵詈雑言が羅列されていく。

ふと、俺は誰かの気配を感じ、顔を上げる。

そこには、ニタニタと笑う携帯電話を手にした上司と、

家畜をみるような冷徹な視線を向ける同僚が、

並んで立っていた…。

あれ以来、

俺は自宅に引き籠り、

外に出ていない。

誰も信用できない。

誰だかわからない連中が俺を常に観察している。

観察の結果を、面白可笑しく無責任に好き勝手に打ち込み、

俺を見下して、管理して、悦に入っているのだ。

他人の無神経な親切。

それが俺を丸裸にして、操って、好き勝手放題に弄くっている。

ピンポーン。

玄関のチャイムが鳴る。

誰だ!

放っておいてくれ!

俺に関わるな!

「社会不適合者保護法の件で役所から来ました。」

役所だと?

「あなたは、社会不適合保護法の対象者から解任されることになりました。」

…な、

なんだと!

俺は玄関の扉を開ける。

そこには、ビシッとしたスーツに身を包んだ、明らかに役所の人間だと思わせる風貌の男性と、

数名の警察官が、いた。

「度重なる社会不適合行為により貴方は【社会不適合者】から【社会失格者】となりました。

よって、

新法案【社会失格者管理法】により、

貴方を逮捕します。」

…カシャン…

役所の人間の無機質な言葉の後、

屈強な警察官に腕を掴まれた俺の両手首に、

冷たい手錠がかけられた。

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世にも奇妙な物語で放送したら面白そうですね!

テレビの短編ドラマなんかでやってほしい。

では社会失格者はどうなるんですか?教えてください……。

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