中編3
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夏の怪 上

music:1

高校三年生の夏休みのこと。

僕は暇を持て余していた。

他の連中が就職やらなんやらで僕に構ってくれなかった。

僕には自称霊能者の友人がいるのだが、彼も今クラスメイトと世界遺産で、合掌造りで有名な集落に旅行に行っていた。

なんでも、去年から予定を立てていたそうで、3泊4日のバカンス中だ。

これまでの短い人生の中でも、こんなに暇な夏休みは初めてだったのだ。

何の気なしに外に出てみる。

暑い日だった、そこで違和感に気づく。

静かすぎるのだ…、いつもなら車が行き交う道路も、主婦で賑わうスーパーも、パチンコ店も。

「なんだこれは…」

訳がわからない…、3日ほど僕が引きこもっているうちに全市民が旅行へでも行ったのだろうかと考えていると、視界の端に何かが動いた。

僕の友人曰く、道端電柱のバッターくん

友人と初めての肝試しに行った稲荷のすぐそこにある、道端のど真ん中に立っている電柱の裏だ、何かいる。

家を出た時からずっと耳の横でエラー音が鳴り響いていた。

俺を付けてきたのだろうか、ため息が聞こえる、僕ではなく、電柱もとい、バッターくんの裏側だ。

「ばれてる?」

バレバレだ、それ以前に、隠れている時もバックが見えていた…。

それを指摘してやると

「マジで?!」

と、バッター君が真の姿を現した。

女性だった。

このクソ暑いのに、ボンボン付きのニット帽をかぶっている、かわいいというか、綺麗な人だった、年上だろうか。

「何してるんですか?」

と尋ねる

「あのクソ生意気なガキの匂いがしたから来たらお前がおっただけのこと」

クソガキ?かなり口が悪い、僕の友人並だ。

それよりも、と女性が口を開いた。

「お前も気づいとるやろ?」

以下からは彼女の話

一昨日の昼くらいから他の人間を見なくなってな、消えたんじゃなくて、外におらんてだけやな、家の中には居てはるんやけど、用事がない人らは外に出てないみたいやな

そこで俺は口を挟む

「ちょっと待ってください

何でそんなことが起こるんですか?」

「君は人の無意識下の危険察知能力のこと知ってる?」

人間は自分も知らないうちに危険を回避しているというやつだ。

そうやな、と女性は頷く。

「つまりはそういうことや」

この街の全員が、危険を察知して家に引きこもっているというのか。

それよりも…女性が舌打ちを鳴らす。

「君はあのガキのなんや?

えらい匂い付いとるけど」

ガキって誰のことですか?と、問い返す。

近くで見ると、美人だな、なんて思っていると。

「自称で霊能者語っとるインチキ野郎や」

インチキでピンとくる、恐らく田舎でバカンス中の彼のことを言っているのだろう、

友人だと説明し、その後に、バカンス中であることを伝える。

「こんな時に旅行かいな…使えんな」

と吐き捨てるように言うと、踵を返した。

咄嗟に名前を聞く。

泉井や、と言い残し夏の陽炎の中に消えていった。

このとき僕は事の重大さには全く気づいていなかったのだが。

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