中編4
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見えない

music:1

僕の友人には自称霊能者を語る友人がいたのだが、彼には見えても僕に見えないということが稀にあった。

彼が煙のように消える少し前から、その頻度が増えていったように思う。

その中でも、特に恐ろしかった話をしようと思う。高校三年生の最後の1月。

その前の年の年末から、僕と彼は廃墟巡りにハマっていた。

僕らの住む県は思いの外、廃墟や廃屋が多かった。

ある廃屋に行った時のこと、その廃屋は外から見ても、ボロボロで、崩れかかっており、それに加え独特の雰囲気を纏っていた。

進入路を探し、建物の裏手に回ると、入れそうなところを見つけ、友人にジェスチャーを送ると、彼は頷きながら、腰のベルトに付けたライトホルダーからフラッシュライトを取り出し点灯した。

フェンスをよじ登り、敷地に侵入する。

僕が敷地に入る頃には、友人はすでに屋内へと姿を消していた。

慌てて建物に「おーい」と声を掛けるが、返事の代わりに静寂が帰ってきた。

屋内の床は瓦礫まみれのはずだ、歩けば当然騒音が立つはずなのだが、少し心配になり屋内に足を踏み入れつつもう一度声をかける。

「おーい」

ガシャ、ガリ、バキン

歩を進めるごとにやはり騒音がなる。

携帯のライトを付ける。

もっとも、携帯の微弱なライトでは足元を照らすのがやっとなのだが…。

足を止める。

静かだ…、この屋内のどこかに友人がいるはずなのだが、姿を見ることはおろか、気配すら感じない。

まるでこの闇の奥底に消えてしまったのように。

あたりの空気がザワザワとざわめく。

「友人を探さないと」

誰言った訳でもない。

ただ、このまま黙っていると、この暗闇に飲まれるような、そんな気がして自分に語りかける。

突然天井からミシミシと音が鳴り、ビクッとする。

上に友人がいるのだろうか。

屋内はライトがなければ歩けないほど荒んでいた。

不意に肩を掴まれる感覚…。

ゾッとするが、直ぐに友人だと結論付け、後ろを振り向く。

「どこ行っとったん?」

誰もいない。

しかし、耳鳴りもならない。

こんなことは初めてだった。

部屋を飛び出し、廊下に出る。

廊下は吹き抜けになっており、二階の窓から人影が見えている。

人影は…動かない。

先ほど飛び出した部屋の隣に階段がある。

恐怖心を押し殺し階段に足をかける。

ミシ、錆びた階段が悲鳴をあげる。

メシ、ミシミシ、ミシ…。

10段ほどだっただろうか、登りきり、先ほどこちらを覗いていた人影がいた窓を見やる。

上からは紐のようなものがぶら下がっており、その前に友人が立っていた。

微動だにしない。

声をかけるが反応はない、顔を覗き込むと、無表情でロープを見つめていた。

額には冷や汗が浮かんでいる。

友人がビビっている、ように見える。

こんなことは初めてだった。

肩を叩いてやると、カヒュッと空気の抜ける音がし、友人が起動した。

「ここ…やばいな」

と言った。

状況が飲み込めない

「何が?」

と問うと。

「その辺にウヨウヨしてるよ」

おばけが、と続けて言う。

しかし、僕はここでその類を目撃していない。

友人は僕の顔を不審げに見たかと思うと。

「見えないのか?」と聞いてきた。

見えるか見えないかでいうと見えない。

肩を触られた程度だ、耳鳴りもしない。

首を縦に振ると彼は「そうか」と呟き、考えるそぶりを見せる。

そして、この場にいると言うこの世のものではない者達の様子を聞かせてくれた。

「そこに柱が倒れとるやろ?その下敷きになって、俺を見つめている男が一人、そこの窓に顔を突っ込んどる女が一人、この部屋の風呂場で子供を抱いてうずくまってる黒いのが一人…」

気持ちが悪くなってきた。

想像するとグロテスクだ。

でもな、と彼は言う。

「このロープ、何か感じるんやけど、見えない、見えないけど見られてる」

そんなことを平然と言ってのける。

視点が合わず、フラフラしてきた。

その様子に気付いた友人は帰ろうか、と言ってくれた。

出る時は何もなかった。

友人が階段を降りる際に、触るな!と叫んだ以外は。

これは後日友人と道端であった時、彼が話してくれたことだ。

「5,6年前にあのアパートで放火事件があったんやってさ、その事件の犯人は放火した後に自室で首括って死んだ

結構死人も出たみたいやな」

大学三年生の夏、たまたま後輩と牧下、牧下の妹の4人で肝試しに行き、その帰りにあの廃屋を通った。

窓からは無数の顔は覗いていた。

その時に気付いたのだが、俺が一階の廊下から友人を見つけた時、あの人影は本当に友人だったのだろうか?

あの角度から友人の姿は確認できず、見えるのはロープのはずなのだが、ロープは見えず、人影が見えた。

その首から上にかけて黒い紐状の物があったのではないだろうか。

廃屋を眺めながら、そんなことを考えていると、「どうしたんですか?先輩」と声をかけられた。

後輩の新山佳与だ。

続いて牧下の妹である牧下美香も俺の顔を覗き込む。

「何か見えるんですか?

先生?」

美香は俺のことを先生と呼ぶ。

なんでも、師匠と呼んでいる人物はもう居るのだとか。

「あの廃屋の顔、見えるか?」

尋ねると二人は顔を見合わせ。

「顔なんて見えませんよ」

と綺麗に声をハモらせて言った。

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