中編3
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ぐにゃぐにゃオバサン

大無間から光へ。これが一発でわかる奴は山が好き。

けど、行った事のある奴は少し変態かな。このルートはそんな所だ。

これは2001年夏。その山行の終盤、加々森から光へ抜ける時の話。

加々森は陰欝なピークだ。見晴らしがきかず、暗く寂しいから、留まるような場所じゃない。

友人と二人で来てみたものの、鹿の骨が散乱する暗い深南部の森もいい加減厭きてきてたし、会社に休みを延長してもらって、

明るい聖まで足を延ばそうかなぁなんて思いながら、ほとんど加々森には立ち止まらず、先へ進んだ。

起伏が連なり、ほとんど消えかけた道をしばらく進んでいると、やがて急な下りに。先行した友人が舌打ちをして止まる。

「うわ、わりぃ。ルート間違えた。」

地図を見ると、確かにこんなに下っていない。光岩へ右に行く所を直進してしまい、尾根をかなり下ってしまったようだった。

溜息をついて戻ろうとしたが、ぬかるんだ急斜面。ずるずるに滑って、上るのは結構骨が折れそうだった。

「まぁ、場所はだいたいこの辺だから、少しトラバースして、上りやすいとこから、行こうや。」

なんとなく萎えた気持ちのまま、しばらくトラバースすると急に開けた場所に出た。

紫の原っぱ。

窪地いっぱいに広がるミヤマトリカブト。素晴らしくきれいだった。

こんな場所があったのかぁ。見回せば、この窪地から上へ小さい道が続いている。

誰か知ってて来る人もいんのかなぁ?とりあえずルートに戻れそうだ。

俺は少しほっとした。

その時、トリカブトの群落から派手な合羽のおばさんがすうっと出てきた。

「助かるわぁ。道に迷ったんです。お兄ちゃん光まで連れてって。」

友人が震えているのが不思議だった。

「まぁ、ルートはこの上だと思うんです。この道悪いかもしれんけど。」

俺たちも迷ってしまった事は棚にあげて、俺は自信満々だった。まぁ、現在地もだいたい把握できてたからだと思う。

じゃあ行きますか?

ところが、俺が先に行こうとした途端に、友人が俺の腕をひっつかんで、絞りだすような声で呻いた。

「俺たちは後から行くから、先に歩け。」

おばさんは少しお辞儀をして、先に上る道を上がっていった。

が、遅い。たいした坂でもないのに這いずるような格好で辛そうに歩く。

あまりに遅いペースにいらだち、先に行ってルート見てくるから、

おばさん後からゆっくり来なよって言おうとした瞬間、友人が俺につぶやいた。

「こいつに後からついてこられるのは嫌だからな。絶対見える所がいい。」

なんとなく気持ち悪くなってきた。このおばさんはどこに行くつもりだったんだ?

光より南から、こんな装備で来たはずない。光から来たなら、こんなとこには来ない。

おばさんはなんだかぐにゃぐにゃと上っている。

「ねぇ。どっから来たんですか?」

俺の問いには一切答えずおばさんは言った。

「前。代わらない?」

「代わらない!行けよ!」

友人が怒鳴る。

「前。代わらない?」

ぐにゃぐにゃのろのろ歩くおばさんの後をしばらく上った。四、五回同じ問答をしたと思う。

俺はいつの間にかすっかり、怯えていた。

だが、ぐいっと急斜面を上ると突然本道にでた。

「あぁ、良かった。戻ったぁ。」

と思った瞬間。バキン!!と音をたててオバサンの首が直角に曲がったんだ。

そんですぅっとさっきの道を下りていった。

俺は怖いというより、驚いて硬直したまましばらく動けなかった。

その後は、光小屋までものすごいスピードでいったよ。友人はその晩言った。

「おまえ合羽のフードの中の顔見た?目も鼻も口の中も全部土がいっぱいに詰まってたぞ」

って。

あんなのにぴったり後ろついて歩かれるのは、俺は絶対に嫌だねって。

まぁ、そんだけ。下手な文ですまない。俺は山は好きだけど、あれから光より南は行ってないなぁ。

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