中編5
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人殺しと死神

**依頼人はいつも一方的にターゲットへの怨みを吐き出して来る。それが真実か嘘かなんて、どうでもいい事だが、臭気のする様な恨み節を昼間から聞かされるのは正直、気が滅入る、、、、、

全く因果な商売だと嘆く事しか出来ない。さりとてこの仕事を辞める事は出来ない。 何故って?それは俺が傭兵だった経験以外の特筆すべきモノは無く他の仕事などと選択肢は考えられなかったからだった。

フランスの外人部隊って聞いた事あるだろうか? フランスが参戦したって報道されている紛争や戦争にはフランス国家に金で雇われた外人部隊が必ず最前線にいるんだ。

学校、家庭で行き場を無くしていた俺は、ある日パスポートを手に自由の女神をアメリカにプレゼントしたと自慢する自由の開拓国家フランスに行って傭兵となった。

実際のフランスの外人部隊は行き場を無くした軍隊経験のある世界中のクズの掃き溜めだった。無論、戦闘経験の無い俺は連中の嘲笑の対象となり、いわれの無いイジメが繰り返された。

体格の違う人種に 俺は身体を鍛えて報復をするなんて道を選ぶ程の努力家ではない。しかし、外国の傭兵に飛び込む程の気性を持ち合わせた俺は黙って奴等の嘲笑に耐える耐久性もない。

手っ取り早く奴等に復讐するには脳味噌を鍛えたんだ。って偉そうに言っても俺はただ、人間の血管、静脈の場所を暗記しただけなんだ。

サイレント・アサッシン、そう、初めての仕事は嫌がらせを繰り返していた同じ部隊のムース(ヘラジカ)のアダ名で呼ばれていた米国のマリーンあがりの巨漢の奴だった。

俺はこう見えても慈悲深く、ムカつく奴でも、楽にあの世へ送る事を考えてるんだ。

カリウム製剤、始めに人肌に温めた麻酔薬を肌に擦り込む、何度か深呼吸して静脈にニドルを刺す。即死ってこれかって言う程、見事に、すぅーっと息が止まる。身体は色を失いはじめ只の肉塊となる。

二人目を肉塊にした辺りから、筋肉脳味噌のアホ共が気づいたみたいで、急に俺からの距離を取り始めた、、、やっと落ち着ける俺の傭兵生活が始まった。

話は最初にもどる、、、

昼下がりのあるバーで隣に座った依頼者の仕事内容は自殺した娘の恨みを晴らしたいってな話しだった、、、芝居がかったような奥さんの涙声と天井を見上げたままで、しきりに股間を掻く親父の胡散くさい姿に、同情心すら湧かなかった。

「で、あいつを殺したら、お幾らで?」

「、、、」

「言って頂けないと、、、困ります」

まぁ俺にとっては、忍び込んでカリウムを静脈に注射するだけだ、、、でも人殺しには違いない。しかしだよ、、、

金額を聞く前に仕事を引き受けて貰えますか?って普通は聞くもんじゃねぇか?

それを金額を提示しないと困るって言われてまで、あんたの怨みを晴らす人殺しなんて御免だと思った。

あまりに気分が悪いので依頼を断わろうと、嘘を言った。

「尋ねる場所を間違えてませんか」

「、、、えっ?」

「あの、うちは 心霊相談が専門なんですが、たまぁ〜に勘違いされた方が、、、」

「えっ?そうですか?、、いやね、怨みを晴らして頂ける方だとお聞きして、お伺いしたんですが、、、呪術でですか?」

「呪術?なんですか?それって?」

殺人依頼を急にゴマカシして説明し続けるのも無駄とばかり夫婦は急に席を立ち背をむけた。

その夫婦の後ろ姿に、グラスを拭き続けるマスターが、、、

「五百万、明日までに半分、仕事が終わり、確認の後であとの半分、嫌なら振り返るらず、そのまま出て行ってくれないか」と告げると夫婦は静かに席に戻り黙って頭を下げた。

鉛色の空が、今日の俺の運命の象徴だったんだと思う。護身用にとジャケット左内側のポケットにベレットを忍ばせ、得意の注射器のセットは右側のポケットに入れた。

電車を乗り継ぎ、疲れ顔のサラリーマンの横で電車の揺れに身を任せていると、正面に座った男が声をかけてきた。

「今日は何処のどいつを殺すんだい?」

「、、、」

「知ってるか?殺された奴の網膜には殺された時の景色が焼きつくんだ。お前さん、一体、何人の網膜に己の姿を写したんだろうと、考えた事があるのかい?」

突然、投げかけられた言葉に口が乾き、やっとの思いで唾を飲み込むと目の前にいたはずの男が消えていた。

「えっ?ま、ま、幻?」

無論イッコウのそれでは無い、、、。

仕事はいつも通り、だが、、、昼間の電車で男が言った事が気になり、タオルで目を覆ってから注射器を使った。触れた全てのものを片付けて玄関から出ようとした時、

あの男、電車で俺に声をかけたあの男が立っていた。

「あのなぁ、俺の仕事、増やさないでくれないか?」

「へっ?」

「お前さんが、こんな事する度に俺が処理しなきゃならねぇんだ。お前はいいさ、俺はお前の仕事の後、49日も仏さんの管理するんだぞ、分かってのか馬鹿野郎」

「???」

「お前は本当に阿保だな、俺は死神だって気づかないか?」

「う、うっ嘘でしょう?」

「お前、俺が吉本新喜劇の役者に見えるか?なんでしょーもない冗談、言わなあかんねん。あっ関西弁でてもうたやないか」

「つ、辻元、、、」

「アホ、あないなシャモジみたいに、ワシしゃくれてへんやんけ、おのれ、目ぇ突いたろか」

「と、とりあえず、ここから出ましょう」

「あかん、自分な、後ろ見てみんかい、ほっかほっかの出来たての仏さん、我がの状況が理解でけへんで、踊ってはるやないか、お前これ、どないせいちゅうねん」

踊る幽霊に関西弁の死神、外人部隊より過酷な状況に気を失った。

「う〜ん」いつも通りの朝、両手を上げて後ろに回しながら、昨夜は嫌な夢を見たなと思いながらストレッチを始めた。

挽きたてのコーヒーの香りが、朝の食卓に漂う、スクランブルエッグにボイルしたソーセージ、新聞を読みながらたっぷりとバターの付いたトーストを頬張ると、、、

「チョンマゲ」

「ん?」

何だ?空耳か?

「チョンマゲ」

確かに聞こえた。齧り始めたトーストを皿に戻すと冷蔵庫の横にあの、あの男が立っていた。こめかみがキリキリと痛んだ。

「わし、止めとけって言ったんやけど、命奪った奴が朝日にまどろんで朝食なんてふざけるなって仏さん言わはってな、パンツ脱ぎはって、あんたの頭にチンチンのせましてん」

「チョンマゲ」

ようやく意味が分かった。

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恐ろしいまでの復讐劇だな…ひ…

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