The Requiem ~八尺様の声に眠る~

中編6
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The Requiem ~八尺様の声に眠る~

親父の実家は農家をやっている。

高校の長い休みにはバイクでよく遊びに行った。

じぃとばぁも「よく来てくれたね。」と喜んで迎えてくれた。

春休みにまたじぃの家に行った。

肌寒かったが、縁側はぽかぽかしていた。

陽の光にほんの少しまどろむ。

住宅地の渇いた景色と違って、のどかな田舎風景は素晴らしい。

外に出てみると、より自然を感じることができる。

そよ風が可愛らしいというか、俺に話しかけてくれているような気がする。

遠くまで散歩したくなった。

知らないところまで行ってみよう。

歩こう、歩こう。

俺は元気。

歩くのあまり好きじゃないけれど。

どんどん行こう。

坂道、トンネル、草っぱら。

一本橋にでこぼこ砂利道。

蜘蛛の巣避けて、下り道。

予定通り知らない道に抜けた。

目の前に大きな森が見える。

自然のエネルギーの源泉のように思える。

両手を広げ、深呼吸。

小鳥のさえずりや川のせせらぎに耳を澄ませ・・・、ん?

「ぽっぽ、ぽぽぽぽ、ぽっぽ~・・・。」

変な音が聞こえてきた。

機械音のように聞こえるが、人が発してるようだ・・・。

えっ!?

自分の目を疑った。

二メートル半ぐらいの馬鹿デカイ人間がいる。

どうやら女のようだ。

巫女調の服を着ていて、ノンラーみたいな帽子話かぶっている。

声は聞こえるのに、口は開いていない。

テレパシーなのか、心に話しかけてくる。

・・・、次の瞬間!!

「ボッボ、ボボボボ、ボッボー!!!」

鼓膜を劈くような爆音に変わった。

とても聞いていられない。

すぐさまその場から立ち去った。

少し離れて、振り返った時に見た白眼が忘れられない。

息も絶え絶え、じぃの家に辿り着いた。

すぐさま、じぃとばぁに話した。

「さっき、馬鹿デカイ女がいたんだ。」

「へぇ~。」

「すごかったよ。帽子を被って変な声出してさ。」

とたんに空気が張り詰める。

「いつ見た!?どこで見た!?」

「馬鹿デカイってどのくらいだ!?」

怒りの質問を浴びせてきた。

ビビりながらも答えた。

急に黙り込んだかと思うと、どこかに電話をかけだした。

引き戸越しで、何を話しているのかは分からなかった。

ばぁは心なしか震えていた。

「お前さんにも話しておくべきだったねぇ・・・。」

じぃが戻ってくるなり、「今日は帰すわけには行かなくなった。泊まれ。」

何なんだよ。

あの女だって、勝手に出てきたわけだし。

「ばぁさん、後は頼んだ。薫さんを迎えに行って来るから。」

軽トラでどこかに出かけて行った。

ばぁが、「八尺様に魅入られたんだよ。大丈夫、何にも心配せんでええ。」

ばぁがじぃの戻るまで話をしてくれた。

八尺様。

大柄の女で、名の通り八尺ほどの背丈がある。

「ぽっぽ、ぽぽぽぽ、ぽっぽ~・・・。」と変な笑い方をする。

巫女のような服装で、傘のような帽子を被っている。

八尺様がなぜ人々を狙うのかは分からない。

何でも、さっき行った森の近くで目撃されるのがほとんどだと。

八尺様に遭遇した後には、決まってある儀式をしなければならない。

それを怠れば、数日のうちに取り殺される。

最後に被害者が出たのは十五年ほど前。

儀式を怠った人間がいた。

重い結核で亡くなったそうだ。

もちろん偶然だったかもしれない。

しかし、時期の近さから八尺様のことを思い浮かべざるを得ない。

程無くして、じぃが一人の老婆を連れて戻ってきた。

「えらいことになったのぅ。」

薫さんという人だった。

薫さんの家系は先祖代々、八尺様に魅入られた人らのお世話をしている。

魅入られたあとの儀式の方法を教え、立ち会ってくれるそうだ。

「もうすぐ日が暮れる。いい時間じゃな。そろそろ行こかぁ。」

「薫さんに言われたことはちゃんと守るんだよ。」

夕暮れ、がなり立てる。

またあの森に連れていかれた。

薫さんと二人きりだ。

さっきは気付かなかったが、森の手前に小さな小屋があった。

「またここに来ることになろうとはのぉ。」

「何をすればいいんすか?」

「まぁ、中に入りなさい。」

床が無く、地面丸出し。

ランプもなく、埃っぽかった。

「四隅を見てみなさい。」

小さな仏像が置いてあり、壁に張り紙がしてある。

「仏さんと張り紙が四組あるな。

お前は十九時から七時までこの仏さんにお祈りするんだ。

仏さんの前に座って張り紙に書いてある文字を読んであげなさい。

四隅をグルグル回ることになる。

くれぐれも丁寧に、真心込めてな。

わしも朝までこの外でまじないを唱える。

時計回りに回ってくれ。絶対に途中でやめたらいかんよ。」

マジかよ。

やらざるを得なかった。

懐中電灯を渡され、一人小屋に閉じ込められ、「用意はいいか?十九時開始じゃぞ。」

覚悟を決めた。

・・・。

「始めろ!!」

急にお経のようなものが聞こえてきた。

俺もやらなきゃ・・・。

なんと地味な作業か。

座って、唱えて、移動しての繰り返し。

言われた通り、時計回りに回った。

土の上で歩いたり膝をついたり、結構な負担になった。

そもそも何の意味があるのかな?

一時間ほど経って、集中が切れてきた。

その時、「コラァ!集中せんかい!!」

外から怒鳴られた。

何でばれたんだ?

このばぁさんタダ者じゃない。

「命掛っとるんやぞ、真剣にやらんか!!」

怒鳴ってすぐお経を再開した。

俺も再び集中することにし、四体の仏像に祈りをささげた。

何時だろう。

フラフラになって呂律が回らない。

七時までもつわけがないと悟ったが続けるしかなかった。

「ボッボ、ボボボボ、ボッボー!!!」

追い打ちをかけるようにあの爆音が響いた。

脳が揺れた瞬間、身体が傾いたのが分かった。

ほら、やっぱり持たなかったじゃん。

気を失ったようだ。

・・・。

俺は夢を見始めた。

失神した時も夢って見られるもんなのか?

大昔の村人同士の争いだった。

ドラマの映像とは違う、鮮明なものだった。

いろんな人間がいた。

斬る人、斬られる人。

生首を掲げる人、我が子を抱いて逃げる人。

何を得るために争うのか?

それほど価値のあるものなどないのに。

我を失くして争う姿があまりに悲しい。

八尺様が見せているのか・・・?

ドアの前に寝ころんでいた俺は朝日につき刺された。

「おぅ、御苦労じゃったなぁ。これで儀式は終わりじゃ。」

「・・・、俺どうしてたんですか?」

「ちゃんと一晩中お祈りしとったじゃないか。」

失神してたんじゃないのか?

失神しても体は動いてたって言うことか?

「今後は森に近づくな。」

やっとじぃの家に帰ることができた。

帰る道中、夢を見たことを薫さんに話した。

するとこんな話をしてくれた。

「実はこの村では以前大きな戦があってな。

といっても金銀財宝がお目当ての汚い争いだったわけじゃが。

結局、人の心が血で汚れただけで何も残らなかった。

実はあの森はただの森ではないんじゃ。

土ではなく人の骨で出来ている。

人骨山とでも言おうかの。

生き残った僅かな村人が死者を弔いたいということで、亡骸をすべて集めて土をかぶせたのじゃ。

戦の原因になった金銀財宝はその骨の下に埋められておる。

こんな醜い争いが二度と起こらんようにな。

八尺様もそれを望んでおられる。

八尺様が願うは死者の鎮魂と将来起こる戦争の消滅じゃ。

そのために何人もこの森に入ることを許してはいかんというわけじゃな。」

そういうことだったのか。

あの戦の悲惨なビジョンが甦って来て泣けてきた。

「このことは人には話さんでくれ。

この事実を知っている人数が少ない方がいいのでな。」

そうか、金目当てで山を掘り返そうなんてやつもいるだろうしな。

俺は黙ってここから離れよう。

「ぽっぽ、ぽぽぽぽ、ぽっぽ~・・・。」

今度は優しい音色だった。

・・・。

あれから十年、俺は二十六歳になった。

化学好きが昂じて、環境科学研究所に勤めている。

じぃの家には毎年遊びに行っている。

薫さんともすっかり仲良くなり、電話をしたりしている。

何でも八尺様の儀式の後継者がいないと悩んでいるそうだが、「俺の知り合いに坊主やってるやついるよ。」と話したりもした。

そんなあるとき、薫さんから電話が掛って来た。

「なんか森を崩してでっかい工場建てたいっていうやつらが下見に来とるんじゃ。わし一人じゃ手に負えんからすぐに来てくれぇ!」と泣きそうな声だった。

怒りのあまり受話器を叩きつけ、「・・・、クソボケどもが!!」

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