中編4
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呼んでいる

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これは、私がまだ小学生の頃の話。

私の部屋は二階にあり、学校から帰るとほとんどをその自室で過ごしていた。

インターネットや本を見て集中していると、気付けば夕飯の時間となっている。

その度、母が私を下のリビングから呼んだ。

「Sー!夕ご飯よー!」

その声を聞いて慌てて下に降りるのが日常だった。

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ある日の事。

いつものように部屋で過ごしていた私。

「Sー!」

下の階から呼ぶ声がした。

時計をみると、いつもの夕飯の時間だった。

ちょうどお腹も空いてきていて、ナイスタイミング!と思いつつ下に降りた。

「あら?今日は早く降りて来たのね」

キッチンに居る母が不思議そうに言った。

見ると、まだ夕飯を作り始めている頃だった。

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「今日はちょっと作るの遅くなっちゃった」

母が苦笑いしながら話す。

私もつられて苦笑いをしつつ、手伝いをしようとキッチンにはいった。

そこで、ふと気付いた。

「あれ、さっき私のこと呼んだよね?」

「え?」

そうだ、母は不思議そうに言っていたがそもそも私は母の呼ぶ声を聞いて降りて来たのだ。

「今日はまだ呼んでないよ?」

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なら、あの声は空耳だったのだろうか?

前に、母が愛犬を呼ぶ声を自分が呼ばれたと思い下に降りて行ったことがあった。

「じゃあ、愛犬の名前でも呼んでたんでしょ?」

きっとそうだろう、と私は笑いながら聞いた。

「えー?ううん、別に呼んでないよ」

「…でも、呼ばれた気がしたのになぁー気のせいか」

首を傾げる母に、笑って誤摩化した。

まぁ、母が気付いていないだけで何か言っていたのかもしれないし、私の空耳だろう。

その日はそう思い、できた夕飯を食べて、またいつもの日常に戻った。

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また別の日。

今日は歳の離れた兄弟も揃い、リビングはいつもより賑やかそうだった。

私というと、また自分の部屋でのんびり過ごしていた。

「Sー!」

インターネットに夢中になっていた私は、自分を呼ぶ声にハッとし、慌ててリビングへ

向った。

「あれ、夕飯まだなの?」

キッチンで母が作っている途中らしく、まだ食卓には何も無い。

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「手伝いに呼んだの?」

私は母にそう聞きつつもう手伝いをし始めようとしていた。

「ん?別に呼んでないよ。でも手伝ってね」

あれ?と思った。前にも同じことがあったな、とすでに忘れつつあった前の出来事を思い出した。

今回は、リビングでTVを見ている兄弟達の声かもしれない。

「お兄ちゃん達、さっき私のこと呼んだ?」

テーブルを拭きつつ、聞いてみた。

「何が?呼んでないよ」

「俺も知らない」

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兄達は違うって言っているが、もしかして私を怖がらせようと嘘をついているのかもしれないと疑った。

しかし、よくよく考えてみると私は母に呼ばれたと思って降りて来たはずだ。

兄達の声なら気付くだろう。

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いや、そもそもあれは母の声だったか?

意識していなかった。

呼ばれたから、いつものように下に降りて来てしまった。

だんだん、不思議というより不気味に思えてきた。

「ほら、早くお皿用意して。夕飯できたよ」

母が急かす様に言ったのを聞き、私は深く考えるのをやめた。

きっと、きっと勘違いだ。そう自分に言い聞かせて。

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それから、少しだけ意識するようになっていた。

下の階から母が呼ぶとき、少し待つようになった。

すぐに降りて来ない私に、母はもう一度呼ぶ。

それを聞いてから、一階へ降りるようにした。

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そうして特に何事もなく、安心し始めた頃。

学校から帰り、遊び疲れていた私はいつの間にかウトウトと眠りについてしまった。

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shake

「Sーー!」

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私の名前を呼ぶ声が聞こえた。

それを聞いて寝過ごして母を怒らせたかと思い、ガバッと飛び起きて慌ててリビングへ。

「あれ…?」

リビングは、真っ暗だった。

不思議に思いつつ、リビングに入り電気をつけた。

そこには、誰もいない。

時計を見ても、いつもの夕飯の時間と同じ頃だった。

母は?と、一階を見て回ったがどこにも居なかった。

カチャッ

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玄関の方から音がした。

ガチャッ

玄関の扉が空いた音だ。

恐る恐る、その方へ向う。

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「あーごめんごめん、遅くなっちゃった」

玄関には、母がいた。

手にはスーパーの袋。

「買い物してたら同級生に会っちゃって」

母はそう言いつつ、リビングへと入って電気をつけ、ドザドサと袋を置いた。

どうせ同級生と世間話で盛り上がったんだろう。

やれやれ、と私もリビングへ行った。

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そういえば、あの声はなんだったのだろう。

犬の鳴き声?いや、違う。母の声だったか?

女とも男とも言いきれない気がする。

…きっと、寝ぼけていたのだろう。

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でもそれ以来、一階から呼ばれて行くことはなくなった。

代わりに、普段使わない電話の子機を私の部屋に置いている。

親機からその子機を鳴らすのが下に来いという合図になった。

これで今後はきっと変なことは起こらないはずだ。

きっと。

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shake

「Sーーーー!」

Normal
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