中編4
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ウタバコ・6

此れは、ウタバコ・5の続きだ。

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・・・・・・・・・。

ズルリ

蛇が壁を這い昇る。壁に赤い模様が、また一本増えた。

「・・・紺野?」

斉藤が不思議そうに僕を見た。

慌てて、壁から視線を逸らす。

「いや、友達の家に来るのに慣れてないから・・・。」

弁明をしたが、何だか嘘臭い。自分で言ってしまうのも何だとは思うけれど。

「其れにさ、部屋自体変わったから当たり前かも知れないけど、何か、雰囲気変わったなー・・・と・・・・・・あはは。」

うーん。嘘臭い。

次いでに言うと、部屋の中は血生臭い。

窓を開ければ良いのかも知れないが・・・。初めて来た友人の部屋で《窓を開けてくれ》と頼むのは、何だか気が引ける。

此処が薄塩の家だったら、確認等せずに、勝手に開けてしまうのだが。

何かと不便である。

「・・・・・・紺野?」

「なっ、何?!」

「いや・・・ウタバコ。」

「えっ?」

斉藤が、困った様な顔で此方を見ていた。

僕は当然の如く慌てた。

「え、あ・・・うん。ごめん、何。」

「だから、ウタバコ。」

「あ、嗚呼・・・ウタバコね。うん。」

無駄に何度も頷くと、斉藤は何故か愉快そうに笑った。

「本当、何処まで変わらないんだよ。お前は。」

「・・・・・・・・・うん。」

微妙な心境で頷く。

変わらない変わらないと、こうも連呼されると少しだけ・・・何だか嫌だ。

進歩していないと言われる様な気がする。

「で、此れなんだけど。」

「え?」

唐突に差し出されたのは、茶色い箱だった。

「なにこれ。」

「ウタバコ。」

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・・・・・・・・・。

漫画やアニメに於いて、所謂《曰く付きの品》と言う奴は、出て来る時も、其れなりの特徴が有る物だと思う。

其れだと言うのに、其の箱は、あまりにも《普通》だった。

茶色い木の箱。表面には草の模様が掘り込まれている。大きさは文庫本程度。厚さはそこそこ有るが、其処を考慮しても決して大きな箱ではない。

蓋は蝶番で止められているらしく、ドアの様に片方が固定されているタイプ。金具は有るが、鍵は付いていない様だ。

オルゴールか、単なる小物入れ。古い感じはしたが、高級感は無く、単に製造から年数を重ねただけ、と言う印象を受ける。

「ウタバコ・・・・・・。此れが?」

拍子抜けした。ハッキリ言ってしまえば、軽く失望さえ覚えた。

「何か、思ったより普通の・・・・・・あ。」

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何と無く安心して斉藤を見ると、笑みが消えていた。

「斉藤・・・・・・?」

「何?」

先程までとは、打って変わった表情。静かで冷静で、其れでいて、優し気だった。

其れは、僕が知っている斉藤・・・・・・いや、Tの表情では無かった。

「聴こう。声が小さいから、喋らないで。」

斉藤が、神経質そうな指使いで箱に手を掛ける。

コトン、

僅かに硬質な音を立て、小箱の蓋が開かれた。

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・・・・・・・・・。

聞こえて来たのは、か細い歌声だった。

メロディーは・・・成る程、斉藤の言う通りで童謡らしい所が有り、何処かもの悲しい。

歌詞は殆ど分からない。歌っている声が苦し気で細いので、何を言っているのか聞こえないのだ。

「まー・・・どーくー・・・・・・ひとをー」

綺麗な歌だった。何を言っているのかは分からなくとも、何故か切なくなる様な、そんな曲だった。

だが、其の歌は、手元に有る小箱・・・ウタバコから聞こえて来るのでは無かった。

其の歌は・・・・・・・・・

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他ならぬ、斉藤の口から漏れていた。

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・・・・・・・・・

斉藤は気付いていない様で、うっとりとした面持ちで、箱を見詰めている。

どうやら彼は、自分の口からではなく、ウタバコの中から声が聞こえているらしい。

自分の口が、まるで卵を丸呑みしようとする蛇の如く、パッカリと開いているのにも、気付いていない様だ。

然し、箱は歌う処か、全く音を立てていない。

歌は、確かに、限界まで開かれた斉藤の口から聞こえているのだ。

何のへんてつも無い小箱が、自分でもよく分からないが、突然、無性に怖くなった。

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ふと気付いた。屋の中に居た蛇が、何時の間にか居なくなっていた。

いや、居なくなっていた訳ではない。

斉藤の口から霞が漏れ、生臭い臭いが一段と強くなる。赤いリボンの様な物も見えた。

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歌は、彼が歌っていた訳では無かった。

歌っていたのは、口の中の、蛇だった。

視界の隅で、着物の女が満足そうな笑みを浮かべた。

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紫月花夜さんへ
コメントありがとうございます。

今晩は。

大正解で御座います。

遅れても遅れなくても辱しめに遭うのは変わりません。実際今回もそうでしたし。
其処は、もう諦めてますよ(笑)

次の話は此れから書きます。
暇な時にでも目を通して頂けたら幸いです。

こんばんわ
あの人とは某おねえさまですかね~
待たせてはお仕置き怖そうです
怖いというか恥ずかしい?の方ですかね
無理なく進めてくださーい

紫音さんへ
コメントありがとうございます。

優しい御言葉、有り難う御座います。
一日一話と自分で言いながら、申し訳無いです。

帰ったら、なるべく早く次の話を書きます。
読んでくださっている皆様が優しいからこそ、頑張りたいと思うのです。

皆様を待たせるのは、出来れば避けたかったのですが、あの人には逆らえません。
行って参ります。

これまた興味深い内容になってますね

無理せずマイペースで更新して下さいね(´∀`*)

紺野さんのファンは急かしたりするような人はいないはずですから( ´罒`*)✧"