中編4
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ウタバコ・9

此れは、ウタバコ・8の続きだ。

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・・・・・・・・・。

兄に電話を掛けた翌日。

僕が下校しようと校門を出ると、目の前の空き地に停められた車が、プッ、と軽いクラクションを鳴らした。

ドアの端には、小さな兎の模様が施されている。

近付くと、運転席の窓ガラスが、微かな音を立てながら開いた。

中の人物が、窓からニョキリと顔を出す。

其の顔には、木彫りで出来た猿の面が、まるで皮膚と溶け合っているかの様に、張り付いていた。

「やぁ。こうして顔を付き合わせて話すのは、大分暫く振りだね?・・・いや、違うな。抑、私と君とで顔を付き合わせた事は無かった。何せ私は君に会う時、何時も面を付けているのだからね。まぁいいさ、言いたい事は伝わったろう。お乗りよ。此処で話してたら、まるで私は不審者みたいじゃないか。君を拐かす何て、幾ら誤解だとしてもゾッとしないがね。」

其の人物は、そう一気に捲し立てた。何時にも増して良く喋る。

嗄れた声。何処か芝居臭い話し方。

「お久し振りです。烏瓜さん。」

僕が頭を下げると、自動で車のドアが開いた。

「困っているのだろう。来たよ。」

「ええ。有り難う御座います。」

「未だ私は何もしていない。礼を言われる筋合いは無いね。」

「来てくれたのが嬉しいからです。」

「・・・ふん、精々頼るが良いさ。ほら、早く乗りたまえ。」

烏瓜さんは・・・・・・我が兄は、素直に礼を言われるのに弱い。中々に単純な人物なのである。

計画通り。

僕は内心ほくそ笑みながら、後部座席へと乗り込んだ。

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・・・・・・・・・。

兄に連れられて来たのは、甘味処の併設された和菓子屋だった。

客席には、個室とは少し違うが、衝立が有る。他の客に見られない様になっているので、よく仕事に利用するのだ、と兄は言った。

「こんな可笑しな面を付けた奴が店に居たら、他の客の気持ちが悪いだろうからね。一応、気を遣っているのさ。」

「ならそんな面付けるなよ。」

若い店主ーーーー元・兄の学友が、兄を見ながら溜め息を吐く。然し、兄は何処吹く風だ。

「其れでも拒みはしないのだから、小笠原には感謝してるよ。」

「別に・・・単に親父に言われてるだけで」

「あ、そうそう。此れ、俺の弟。」

「他人の話を聞け!」

兄が僕を、店主・・・小笠原さんの前に押し出した。

※兄の一人称が変わっているのは、仕様である。

どうやら此の猿、度々彼に迷惑を掛けているらしい。僕は恐縮しながら頭を下げた。

「どうも。兄が何時もは御迷惑をお掛けしております。」

「・・・んん?ああ、どうも。確りしてるな。猿の弟とは思えねー。」

「五月蝿いな。さっさと席に案内しろよ。仕事しろ仕事。他の客を親父さんに任せるな。」

※兄の口調が変わっているのも、仕様である。

小笠原さんが、苦虫を噛み潰した様な顔になった。

「どうせ何時もの席だろ。注文は?今は桜を使った菓子が有るけど。」

渡されたメニューを、兄は繁々と見詰めた。

「ついでに言うとだな・・・」

「餡蜜で。」

「だから他人の話を聞け!」

小笠原さんが盛大に顔をしかめる。

僕は慌てて言った。

「じゃ、じゃあ、僕は此の桜ロールケーキで。」

「お。」

「・・・はい?」

小笠原さんの表情が、若干であるが柔らかくなった気がした。

口元を少しだけ緩めながらメニューを指差す。

「其れ、俺が考えて作った奴。」

そして、クルリと踵を返す。

「運ぶ時間は指定無しで良いよな。兄弟での話し合いだろ?茶は菓子と運ぶから。」

「へいへい。」

烏瓜さんが等閑な返事をして、此方を向いた。

「さあ、行こうか。彼奴も、少し評価されただけで簡単に機嫌を直す何て、大概単純な奴だなぁ。」

・・・・・・其れは、あんたもです。

僕は口から出そうになった言葉を、グッと飲み込んだ。

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・・・・・・・・・。

座敷席の低いテーブル。

机の上には先程のメニューと一輪挿し。菓子は未だ来ていない。

生けられているのは菜の花だ。生花らしい。

其れをチラリと見遣り、兄は尋ねた。

「で、今回はどうしたんだい?困っているのは誰で、何が有った?」

「残念ながら女子中学生でも可愛くもないです。」

「まぁ、そうだろうね。そうだと思ったさ。」

・・・・・・あれ?

反応が悪い。絶対に

「え~なにきいてないよ~。」

とか言うとか思ってたのに・・・。

「で、詳しい説明は?」

真面目な烏瓜さん等気持ちが悪い。

「おーい。」

のり姉と言い烏瓜さんと言い、一体何が有ったのだろうか。

「・・・テッテッテッテテッテッテッテッテ♪テッテッテッテテッテッテッテレテ♪」

「星のカービィの無敵状態の音楽を鳴らさないでください。」

「野葡萄君が私を無視するからじゃないか。」

やはり何時もの猿だった。杞憂だったか。

「で、何だって?」

「友人が歌う箱と蛇と女・・・と言うか、歌う箱と蛇女に一寸何やらされている様でして・・・。」

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・・・・・・・・・。

「・・・と、言う訳で、相手が何なのかも分からない状態何です。」

「成る程。蛇と、其れから女・・・。少しばかり厄介かも知れないなぁ。早めに会って置いて正解だった。」

「・・・・・・え?」

「相手は何せ、蛇だからね。」

やはり、今日の烏瓜さんは可笑しい。彼はこんな真面目な物言いをする人では無かった筈なのだ。

嫌な予感は、無視するに限る。背中を滑る冷たい汗を厭わしく思いながら、僕は小さく頭を振った。

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mamiさんへ
コメントありがとうございます。

どちらもフリーですよ。色々な意味で。宜しければ、貰ってください(笑)

本当ですよね。まぁ、徹底してる理由は教えて貰ったので、そちらは近々書こうと思っています。

今回は木葉さん格好良いですよ。イメージとは少し違うかも知れませんが・・・。

宜しければ、お付き合いください。

私は、烏瓜さんにも木葉さんにもキュンキュンです!

しかし…猿面、徹底されてますね…
元々、文面でしか知らない方とはいえ、素顔気になります。
これから、木葉さんも出てくるとか。
のり姉さんや烏瓜さんの反応といい、気になりまくりです。

裂久夜さんへ
コメントありがとうございます。

兄さんも出ます。只、もう少し先にはなるかと思います。まだウタバコを手に入れてすら居ませんから。
出たら、タグに《木葉さん》を付け足しておきますね。

宜しければ、お付き合いください。

紫月花夜さんへ
コメントありがとうございます。

え、あ、その・・・さいですか。はい(´・ω・`)
兄に・・・はぁ・・・成る程。なら、良かったです。
次回も沢山出ますよ、烏瓜さん。
あまり格好良くは無いですけど・・・。
宜しければ、お付き合いください。

猿兄より木葉兄様に、お会いしたい…
とは言っても、これからの展開が気になります!

こんばんわ
猿兄様にキュンキュンしてしまう~~
これは怖話のはず、キュン死してはいけないが~
ツボだ!きっと次の話くらいでキュン死するはず(笑)