中編5
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ウタバコ・10

此れは、ウタバコ・9の続きだ。

例にも依ってセリフ祭りである。ご注意を。

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・・・・・・・・・。

蛇と女性の組み合わせは中々に厄介なのだ。・・・そう兄は言った。

「先ずは蛇。此れは、神として祀られる場合、実に様々な物を司っている。・・・野葡萄君、分かるかい?」

「えっと、先ずは水の神。山の神。後は・・・金運とか、ですかね。」

「嗚呼。そうだね。其処等辺が最もポピュラーな部類だろう。然し、其れだけでは無いよ。知恵の神に芸事の神、幸福だってもたらすし、太陽神としての見方も有る。」

「太陽神?水の神と真逆じゃないですか。」

「物事は見方に因って変わる物さ。君、ならば、どうして蛇は水の神なんだ?」

「湿った処に住み着き、水辺に生息しているから・・・ですか?」

「うん。概ね正解だよ。此れは、蛇の住んでいる環境を元に生まれた信仰だ。」

「・・・はぁ。」

「其れに対して、蛇を太陽神とする信仰は其の見た目から来た物とされている。」

「見た目って・・・ニョロニョロしているからですか?」

「いや、此の場合は少し違う。・・・蛇は鱗に覆われているだろう?」

「ええ。覆われていますね。」

「更には瞼が無い・・・いや、有る事は有るのだが、透明で、始終閉じられている状態だ。」

「そうですけど・・・其れが、太陽と関係が?」

「鱗は太陽の光をよく反射する。閉じられた瞼も同様だ。其れは、太陽信仰に欠かせない《ある物》に、よく似ている・・・。」

「太陽信仰に欠かせない・・・ある物。光を反射する・・・・・・あ?」

「分かった様だね?」

「鏡・・・ですか?」

「正解正解。飲み込むのが早いねぇ。流石だ。私の弟なだけ有るよ。誰に似たのかな。」

「木葉さんじゃないですか?」

「・・・・・・そう言う嫌味な処は、本当にあの狐目そっくりだよ。」

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・・・・・・・・・。

兄が苦い顔(多分)をしていると、甘味処の店主である小笠原さんが、ヒョイと衝立の向こうから顔を出した。

「餡蜜と桜ロール、持って来たぞ。」

「あー、うん。其処に置いといてー。」

「・・・・・・了解。」

小笠原さんは、冷たい玄米茶と菓子を全て僕の目の前に置いて出て行った。

烏瓜さんは、面の下半分をずらすと、見えた口元を曲げながら

「嫌味の積もりなのかね。」

と呟いた。

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・・・・・・・・・。

「何だか気概を削がれた。要点を説明しよう。」

烏瓜さんが詰まらなそうに言って、餡蜜の豆だけを掬い、口へ運ぶ。

「先ず、蛇。此れは神とされる事も多い反面、自然の厳しさや人の悪意や嫉妬、恨み等を司る。しかも、かなり強力だ。蟒蛇に七歩蛇に夜刀神、八岐大蛇、と怖いのが揃っているだろう?」

そして、クルリと銀色のスプーンを回す。

僕が頷くと、満足そうな顔をして話を続けた。

「次に女性。此れは《生きながら異形へと生まれ変わる》事が出来るとされている。」

「生きながらって・・・どう言う事ですか?」

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烏瓜さんは少し考えて、握り締めた手を、僕の前に突き出した。

「抑、妖怪や化け物の類い、此れには幾つか分類が有る。今回は、ざっくりとした分け方にしよう。」

一本目、人差し指を立てる。

「先ずは、河童等の《元から異形》のパターン。此れは元々神だったのが落ちぶれて妖怪になったのも含むからね。」

二本目、中指。

「次に。物がなるパターン。九十九神や精の類だね。唐笠お化けなんて、定番だろう?」

三本目、薬指。

「次。生き物が化けるパターン。狸に狐、狗神なんてのが知名度が有るかな。あの馬鹿狐も、実は人じゃ無かったりしてね。」

四本目は小指だ。

「自然現象から生まれたパターン。冬の寒さから生まれた雪女。山や湖がどうして出来たのかを語る為のダイダラボッチ。此れは他のパターンと併用される事も多い。」

そして最後、五本目の指。

「人がなるパターン。今回は、幽霊とは別の物と考えるよ。」

何故だろう、酷く嫌な予感がした。

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・・・・・・・・・。

「此処から更に、性別で区別して、妖怪に変化する時の方法を考えてみよう。」

「先ずは男性。小豆洗いに舞首、鉄鼠、泥田坊、此れ等は全て、一度死んでから化け物となった。人としての仕事を終え、違う物として生まれた。」

「次は女性。ろくろ首に清姫、二口女に橋姫に安達ヶ原の鬼婆と、此れは全部、生きながらにして化け物となった女性達さ。人で在りながら人を止め、人では無い何かになってしまった。」

僕は思わず口を開いた。不安がそうさせたのかも知れなかった。

「ちゃんと死んで化け物になった女性も居ますよ。男性で死なずに化け物になった人も居ますでしょうし。・・・。こじつけです。詭弁だ。」

然し、兄は動じない。

「多いってだけの話だよ。全てそうだとは、誰も言ってない。其れに、此れは単なる導入に過ぎないしね。」

「うわー簡単に持論を変えたー。格好悪いー。」

態と明るい声で茶化した。酷く気持ちが悪い。

「可愛くないなぁ!」

「高校生男子に可愛さを求めないでください。」

「・・・・・・蛇は脱皮をして姿を変える。より大きく強くなる。然し、本質は変わらない。蛇は蛇だからね。・・・女性も同じだ。本質を変えず、生きながらにして生まれ変わる。」

「一寸、烏瓜さん。止めてください。」

「蛇は執念深い。思いが深い。女性が関係しているならば尚更だ。溺れてしまったのなら、戻れなくなるよ。」

「烏瓜さん。」

あの時の女の笑顔が、頭に浮かんだ。

口が大きく開いて、目は変わらない様な歪な顔。

「其の斎藤君とやら、何をやらかしたにせよ、其れが、広がらない内に対処する必要が有る。野葡萄君が関わってしまったのなら、其れこそ早急に。」

「烏瓜さんってば。」

不安を煽らないで欲しい。嫌な予感を増長させないで欲しい。

怖い。嫌だ。厭わしい。

「ほら、今も君は囚われているじゃないか。不安なのだろう。そんな青い顔をして。」

気持ちが悪い。吐き気がする。

「烏瓜さん、お願いです。もう・・・」

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・・・・・・・・・。

伸ばした手に見えたのは、赤い筋。あの部屋で見た、蛇の通った跡のーーーーー

「嗚呼、良かった。やはり手負い蛇だ。」

烏瓜さんが、何処かホッとした様な顔で言った。

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mamiさんへ
コメントありがとうございます。

あんな声でもまだ若い訳ですし、御学友の前でしたからね。格好良かったかは兎も角として。

抑、僕が烏瓜さんと似て何が嬉しいと言うのでしょうか。
あの人の真意は何時も理解しかねます。

少し違う烏瓜さん…大人な部分が隠しきれずでかっこいい(*´∀`*)ノ…のかな!?

『誰に似たのかな?』の下りで、思わず笑っちゃいました。

紫月花夜さんへ
コメントありがとうございます。

今回の物以外にも、パターンは沢山有るそうです。ややこしや、ややこしや。

そう言って頂けると本当に嬉しいです。風景描写が下手くそな物ですから・・・。

そうですね。説明や表現も大分違って来ます。どちらが解りやすいか等は、一概には言えませんが(笑)

ネタバレなので余り詳しくは言えませんが、今回もそこそこ痛い目に遭いました。
宜しければ、お付き合いください。

裂久夜さんへ
コメントありがとうございます。

有り難う御座います。
単に、一気に書き上げる力量が無いだけなのですが・・・(笑)
竜頭蛇尾となってしまわぬ様、キチッと気持ちを締め上げて参ります。
宜しければ、お付き合いください。

おはようございます
異形の者とは奥が深いです
セリフ祭りはそれぞれの性格みたいなのが出るので、私は入り込みやすいと思います
同じ説明でもたぶん狐兄様と猿兄様では雰囲気が違うのだろうなと
蛇と女って、やはり厄介なのですね~
紺野さんがあまり被害にあわなければいいなと願いながら続きを楽しみにしています

回を重ねる毎に、じわりじわりとキテます。
少しずつ少しずつ巻き憑かれて行く様に…
一息に書き上げるより効果ありです。