短編2
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悪意

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あなたは他人から悪意を感じたことはあるだろうか?

その人に会ったのは、そう…。

「こんばんは」

大学の3回生の時の話だ。

時間は17時30分を過ぎようとしていた。

大学の帰り道、突然横から声をかけられ、肩がビクリと反応する。

「あら?びっくりさせちゃった?」

声をかけてきたであろう女性が歩み寄ってくるので、そちらに向き直る。

僕より一つか二つ年上のように見える。

喪服のような服を着ていて、頭には黒い帽子をかぶっていた。

印象は黒い。

帽子の日よけで顔は口元しか見えなかった。

「なにか…用ですか?…」

警戒する、その人物からは、何か関わってはいけないような、そんな自己防衛本能が働いていた。

まるで、そこから早く逃げろ、と言うように強い耳鳴りがビィーーと鳴り続けていた。

「あら?私のこと、本当にご存知ありません?」

そういうと、女性は自分の長い髪を触りながら

「私、上本茜音と言います」

と名乗った。

全身の肌がフツフツと泡立つのを感じる。

悪意だ…。

無意識に頭の中で、悪意という言葉がグルグルと回る。

以前、今はもういない僕の友人と行動を共にしていた頃に度々感じた悪意…。

彼女はその悪意そのものだった。

「貴方のせいで『アイツ』は居なくなったんですか…」

声を振り絞る。

「アイツ?」

上本はわざとらしく頭を傾ける。

口元は歪んだ笑みを浮かべている。

「ごめんなさいね、私には何のことやらさっぱり」

ギリギリと音が聞こえる。

どうやら僕が無意識に歯軋りをしていたらしい。

「そうですか、すみませんね…」

踵を返し、家への道へと進路を向ける。

「また会いましょう」

後ろから声をかけられるが、無視をする。

何故僕は忘れてしまっていたのだろうか。

僕は腹を立てる、自分自身に。

僕は悲しくなる、忘れてしまっていたことに対して。

そう、僕には自称例の者を語る友人がいたのだった…。

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