中編3
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非常階段

初めまして、珠子(たまこ)と申します。

今回はご挨拶と試しで投稿させていただこうと思い、筆を執りました。

ちょっとした小噺なのですが、お付き合い下さると嬉しいです。

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今から14年前に夜間高校の修学旅行で京都へ行った時のこと。

私達は、京都駅が真ん前に見える古びた旅館に宿泊した。

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旅館は古くてギイギイ廊下は鳴るし、風呂は薄暗い地下にあり、掃除が行き届かずにヌルヌルしていてこじんまりと小さく、かなり不気味だった。

夕飯の薄っぺらい松阪牛にもガッカリだったし。

修学旅行の積み立てはそれなりにしたはずだが、それにしてもあんまりな旅館じゃないのかと内心不満だったのを覚えてる。

そして最悪な事に怪現象にまで襲われるとなると、この旅行は最低の修学旅行だった。

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music:5

「ねぇ、誰か起きてる?」

と、深夜の部屋にK子の声が微かに響いた。

「何? どしたの?」

と、Aの声に続いて数人が返事を返す。

「私も起きてるけど?」

「珠子は知ってる、携帯明るかったし」

「ごめん、寝るの邪魔した?」

「ううん、助かった。……で、さ……」

K子は不安そうな顔をしているのか声を潜め、震えるように私達へ問う。

「この音、どう思う?」

音?そういえば、さっきから足音が聞こえては居たが。

「ずっと登ってるんだよ、非常階段か何か階段をさ」

……カン、カン、カン、カ、カン、カン、カン……。

「ハイヒールみたいな靴で歩いてる音だね」

「この音? ほんとにさっきからずっとしてるよね」

「そうなんだよね、ずっとなんだよ。煩くてさ……それに、ずっと聞こえるのが変じゃない?」

と言うK子にクラスメイト達は

「音が響いてるだけじゃない?」

と言った。

そう言われると私も自信がないので、暫し靴音に聞き耳を立てる。

……カン、カン、カン、カ、カン、カン、カン……。

……カン、カン、カン、カ、カン、カン、カン……。

外灯に照らされて、ぬらりとした赤い光沢がある茶系のハイヒールと、ストッキングを纏った白い足、ベージュのフレアスカートの裾が風に靡いてはためく姿が脳裏に浮かぶ。

その足が螺旋階段を延々と登って行くのだと思った。

「螺旋階段みたいな感じだよね、音の響き的に」

「うん、そんな感じだよね」

「ねぇ、やっぱ深く考えるのやめよう? 寝れなくなるよ」

この足音の異常さに段々と、皆が気づきはじめた。

皆で意識しはじめてから既に10分以上は経過している。

なのに、ずっと音は一定の速度と音量を保ち続けてる。

この旅館は精々が二三階建ての建物だし、そもそも非常階段なら非常時に使うものだ。

従業員用の階段ならば、他の人間も使うだろうし、大体にして中居さんがハイヒールを履いて仕事するとも思えない。

考えれば考えるほど、おかしい。

……カン、カン、カン、カ、カン、カン、カン……。

「ね、寝よう。明日だってあるんだし!」

「そうだね、ただの気のせいかもかしれないしね」

「おやすみ!」

「きっと気のせいだよ。おやすみなさい」

各々、そう言って固く目を閉じて無理矢理眠った。

だが、翌朝……案の定。

「ねぇ、この部屋の脇に階段なんかなかったよ」

と言われたのは言うまでもない。

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