中編5
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Hunt 3

「俺…どうしたらいいんだ⁉︎おい!」

俺はケージを揺さぶり、和歌歩コノハズクを問い質した。

「わ、ちょ、ちょっと、ちょっと待ってください、痛いです。痛いですって。」

彼は色々な所に頭をぶつけながら言った。

「メーベルトさんはこの事を勘付いていたのです。」

「何⁉︎クラウスは闇子の存在に気付いてて言わなかったのか!」

「だからあの方はあなたに私をつけたのですよ。」

「そうか…。」

確かにクラウスは悪い奴じゃないだろうから、もしもの事を考えてこいつをつけたのだろう。

「でも、護衛とかだったらテメェみてーなチビ鳥よりあのでかい犬の方が頼り甲斐あったんじゃねーのか?」

俺は彼の連れていたあの犬の事を思い出し、嫌味半分に言ってみた。

和歌歩はこちらをちょっと睨んだが、怪訝そうに首を傾げた。

「でかい犬でございますか?そんな物おりませんよ。」

「え、だってお前あの時犬連れてたじゃん。」

彼は暫く考える素振りを見せたが、やがて思い出したらしく、

「あ、あれですか。」

と、目を細めた。コノハズクなりに笑っているらしい。

「あれは優面ですから間違えても仕方ないとは思いますが…。あれは狼でございます。」

「え!狼ってあんな頼りないの?」

「あんな間抜け面をしているのは彼だけでございます。」

和歌歩は喉をくっくっと鳴らした。

どうやらコノハズクなりに嘲笑しているらしい。

「私より彼の方が頼れる?はん‼︎随分と舐められたものですねぇ!」

「そんな縛られて檻に閉じ込められたまま言われてもなあ…。」

「うるさいですね!空も飛べないガキ風情がでかい口叩くんじゃありませんよ!」

「だんだん態度悪くなってきてるし…。執事としてどうなの?」

彼ははっとした顔をして、咳払いをした。

「と、とにかく。明日には必ずあの店に行きなさい。それまでは、不本意ですが私があなたをお守りしましょう。」

「不本意は余計だろ?クラウスに言うぞ?お前んとこの執事、慇懃無礼にも程があるって。」

「…。」

黙った!勝った!

俺は満足して、立ち上がった足で風呂へ向かった。

「あ、お待ちください!」

「ん?何だよ。」

和歌歩コノハズクは身体に巻き付けられた紐をつつきながら言った。

「これ、解いていただけませんか?あとケージから出していただけるとさらにありがたいのですが。」

「え、やだよ。何で。」

「あなたにもしもの事があったら、私の首が危ないのです。」

自分のためじゃん‼︎

何となく腹がたったので、ゴネる和歌歩を放って風呂に入った。

「んあ〜…。生き返るわ〜。」

熱い湯をなみなみと張った湯槽にどっぷりと浸かると、今日1日の疲れがみるみるうちに溶け出していく。

耳を済ますと、裏の家のテレビの音や和歌歩コノハズクが檻を齧っているであろう音が聞こえた。

頭を洗おうと、湯槽から出てシャワーを取る。

適当な懐メロを口ずさみながら、頭全体をゴシゴシやっていると、どこからともなく冷たい風が入ってきた。

「…。」

窓も戸も全て閉めてあるはず。どうして。

確認しようと、後ろを向こうとする。

「‼︎」

浴室の戸の磨りガラスに、真っ黒な女の影がうつっていた。

「うわあああ‼︎」

叫んだ拍子に頭からシャンプーの泡が垂れ、目に入った。思わず目を閉じると、瞼に閉じ込められた泡が網膜を刺激する。

「痛てててて‼︎」

そこで気がついた。目を瞑ることで生まれる真の闇。この闇の世界こそが今俺を狙っている闇子という女のホームグラウンドなのだと。

「わ、和歌歩ー‼︎」

つい奴の名を呼ぶが、奴はケージに閉じ込めたままであったことにすぐ気付く。

俺の視界に広がる闇の中に、髪の長い女のシルエットが浮かぶ。

何とか目を逸らそうとするが、無駄な抵抗。どこを向いても闇一色だ。

目を開ければ良いのだが、激痛で不可能だった。

「!」

うなじにピリッとした痛みを感じる。

思い出した。

彼女は俺の頭を狙っているんだ。

痛みの範囲は広がり、ついに首を一周した。

やばい‼︎

薄れる意識の中で、俺は何故かクラウスの綺麗な顔を思い出していた。

「…ん、あれ?」

俺は自室の布団で目を覚ました。

「お目覚めになられましたか。」

布団の傍から、オールバック眼鏡が覗き込んでいた。何故か俺のスタジャンを着ている。

「和歌歩?…俺、」

「今は動かないでください。首からの出血が治まるまで、大人しくしていてください。」

彼はそう言って、茶碗を持ってきた。

「卵粥です。勝手にお台所を使わせていただきましたが、ご容赦を。」

「あ、そう。別にいいけど。ありがと。」

やけに優しいな…。やっぱケガしたからかな。

彼は卵粥をスプーンですくい、ふっとひと吹きして俺の口に運んできた。

「口、開けてください。」

「…。」

彼に従って口を開けると、口の中に卵粥の優しい塩気が…。

「か、辛っ‼︎」

何だこれはっ‼︎尋常じゃないくらい辛い!

和歌歩を睨むと、何とも腹のたつニヒルスマイルを浮かべて何かの瓶をこちらに見せていた。

「…い、一味唐辛子⁉︎テメェ‼︎」

殴りかかろうとした俺を押し止め、彼は言った。

「怪我人は安静に。死なれて困るのは私です。」

「テメェが助けに来ねぇからケガしたんだろうが!」

「あなたが私を閉じ込めたんでしょうが!」

「うっ…。」

無理矢理紐を解いたのでワイシャツもボロボロになってしまいましたよ、と、嫌味たっぷりに言いながら彼は俺のスタジャンをまじまじと見た。

「にしてもすごい上着ですね、これ。目立ちません?」

「うるせえな、弟分がくれたんだよ!」

ふーん、と興味無さげな返事をし、和歌歩は状況説明を始めた。

「もう少し私があそこを脱出するのが遅ければ、あなたは頭を持って行かれていましたよ。感謝しなさい。」

「うるせえ性悪執事。」

「あと人の話は最後まで聞きなさい。」

「うるせえチビ鳥執事。」

「…。」

和歌歩は無言でさっきの唐辛子粥をスプーン一杯に掬い、俺の口に押し込んだ。

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ちゃあちゃん様、コメントありがとうございます。コノハズクの執事…。給料が安く済むので、経済的には優しいかもしれませんね。「ピンクマウスで十分でございます」とか言いそうですし。

私もコノハズクの執事が欲しい…(≧∇≦)