長編12
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カリスマYoutuber

「まーくんと」

「あっちゃんの」

「空虚な時間~」

あ、始まった始まった。

俺は最近、Youtubeのこのチャンネルにハマっている。

最初は興味本位にクリックしたんだけど、なかなか面白い。

最初はただの腹話術か、と思っていたんだけど、時々挟んでくるマジックやCGが凄いのだ。

またトークのほうがやる気がないというか、淡々と進む中でのパフォーマンスとのギャップが面白い。

「まーくん、今日ちょっと僕、体がだるいんだ。風邪ひいたかも。」

あっちゃんと名乗る腹話術師。

「んーどれどれ?」

まーくんという腹話術人形はあっちゃんにそっくりだ。

まーくんが手をあっちゃんの額に当てると、ボッと炎が出た。

「おおっ。」

俺は一人なのについ、パソコンの画面の前で声を出して驚いた。

「いやいやいや、これ、風邪のレベルじゃないだろー、君。発火して死んでしまうよ?」

「人体自然発火、ほんとにあるんだな。」

「あるんだな、じゃなくて、医者行きなさいよ。」

「だるくて運転できないよ。まーくん、悪いんだけど運転してくれない?」

「無茶言うなよ。この手でどうやって運転しろと・・・・。」

そうまーくんが言ったとたんに、まーくんの人形の指が5本自由に動いた。

すげー、これどうやってるんだ?

「まあ、ハンドルは握れるにしても、アクセルやブレーキはどうするんだよ。」

「じゃあ、そっちは僕がやるんで。まーくんは、ちゃんと前見てハンドル握ってて。」

「いやいや、物理的に無理だろう。ていうか、それなら自分が運転したほうが早くね?」

「よし、じゃあまーくんの足を長くしてあげよう。はい、これで問題解決。」

「いやいや、その前に僕、人形だからね。」

俺は惚けた調子のやりとりをニヤニヤしながら見ている。

やりとりはだんだんと言い争いのようになって、最終的にあっちゃんはまーくんにお口をチャックにされる。

あっちゃんという腹話術師は人形がしゃべっている間は口も表情もピクリとも動かさずにしゃべる。

まるで人間のほうが人形になったように。

俺はこの動画に迷わず「イイネ」をつけた。

「そうだ、この動画をアイちゃんにも教えてあげよう。」

俺はスマホのLINEを開き、さっそくアイちゃんにメッセージを送った。

アイちゃんは、最近付き合いだした、俺の彼女。初めての彼女だ。

アイちゃんは、はっきり言ってかわいいし、俺には不釣合いだ。

だが、俺の血の滲むような努力でついに彼女をゲット。押しの一手でようやく交際が始まったばかりだ。

「アイちゃん、面白い動画があるんだ。これ、見て。」

俺はその動画のURLを一緒に送った。

しばらくして、アイちゃんから返事が来た。

「なにこれ、すごーい。どうやってるのかなあ。」

よっしゃ、アイちゃんと共有する話題ができたぞ。

「しかも、この人、イケメーン。」

その一言にチクッと俺は傷ついた。少なくとも容姿には多少コンプレックスがある。

しかし、ここでいじけたり嫉妬したりしてはいけない。心の広い俺アピールだ。

「だろ?こんなにイケメンでしかも、腹話術とマジックのパフォーマンスができるなんて。

絶対、あっちゃんは人気が出ると思う。」

彼女へのアピールもあるが、心の底からそう思っている。

きっとこの人は世に出てくる。再生回数も50万回を超えている。

テレビの画面に出てくる日も近いだろう。

俺とアイちゃんは、学部は違うけど、同じ大学で出会った。

同じサークルで、アイちゃんのほうから俺に相談を持ちかけてきたのだ。

同じ学部の男から告白され、タイプじゃないので断ったんだけど、勝手にその男が自分と付き合っていると言いふらしているのだと言う。否定しても否定してもしきれないほど、噂が広まって困っていると。

アイちゃんが言うには、その男は、プレイボーイで自信家で鼻持ちならない男だそうだ。

「ねえ、タクト君と付き合ってることにしてくれない?」

俺はそう言われた時は正直、天にも昇る気持ちだった。ウソとは言え、アイちゃんと付き合ってると思われるなんて。

「俺なんかでいいの?」

俺はおずおずとアイちゃんに聞いた。

「なんで?タクトくん、やさしくてカッコいいじゃん?」

そんなふうに思われていたなんて夢にも思わなかった。俺はその日一日嬉しくて眠れなかった。

数日後、俺はアイちゃんと一緒に、その男に会い、付き合っていることを告げると、その男の表情が引きつった。

最高だ。こんな優越感は味わったことがない。

「勝手に俺の彼女にちょっかいかけんなよな。」

捨て台詞を残し、俺は彼女と去る。かっこいいー、俺。

「ありがとう。タクト君。」

そう言われて、俺ははっと我に返る。

そうか、これはお芝居なんだよなあ。

「なんてことないよ。」

俺は作り笑いで答える。

いやいや、諦めるな、俺。このウソから本当の恋が始まるかもしれないじゃないか。

その日から俺は、アイちゃんに必死の優しさ攻勢。わざとらしい優しさじゃなくて、さりげなくを心がける。

これがミソだ。何度かデートを重ねてついにアイちゃんのほうから

「ねえ、私達、本当に付き合っちゃおうか?」

と言われたのだ。

やったぜ、俺。心の中で渾身のガッツポーズをした。

この恋だけは、絶対に手放さねえ。

ところが、1ヵ月後、急にアイちゃんの態度がおかしくなった。

デートに誘っても、友達と遊ぶ約束をしただの、実家に帰らなければいけないので、2~3日会えないだのと言い、俺を避け始めたのだ。ウソだろう?たったの1ヶ月で俺、飽きられちゃったのか?

こうなったらもう、追いかけても仕方ないのかもしれないけど、俺は必死にならずにはいられなかった。

そうすればそうするほど、相手は疎ましく思うことなんてわかっている。

「別れよう。」

ついに俺は、今日振られてしまった。

たぶんもう、何を言ってもダメなんだろう。

俺は未練はすごくあるけど、泣く泣く別れを承諾した。

「よう、お前、振られたんだって?」

わざわざ違う学部なのに、俺をあのいけ好かない男が訪ねてきた。

アイちゃんと付き合っているとウソを言いふらしていた男だ。

俺は殺気だって、イライラしていたし、一発ぶん殴ってやろうかと思った。

「まあ、そう怖い顔すんなよ。お前に情報を届けにきたんだからさ、アイちゃんの。」

俺は沸騰した頭が一気に冷め、そいつの顔を見た。

「なんだよ、情報って。」

今更聞いてなんになると言うのだ。でも気になる。

「お前、なんで振られたか知ってる?アイちゃん、好きな男ができたんだよ。」

俺は後頭部を殴られたような衝撃を受けた。

「誰だよ、それ。」

俺は低い声で訪ねた。なんだよ、それ。それならそうと言ってくれればいいじゃん。

言われてもきっとショックだっただろうけど。

「それはさ、俺・・・と言いたいところだけどさ。」

そいつはニヤニヤしながら勿体つけた。

「誰だよ、もったいぶらずに言えよ。」

「うーん、お前は知らないかもしれないけどさ、今Youtubeで有名な腹話術師の、なんていうんだっけ?」

「ま、まさか。あっちゃん?」

「あ、そうそう。お前、知ってんの?」

ウソだろう?だいたいどうやってあっちゃんと知り合うんだよ。

「あのあっちゃんって腹話術師、実はうちの大学生なんだよね。これ、有名な話よ?」

知らなかった。あっちゃんが同じ大学だったなんて。

俺はただ黙って俯くことしかできなかった。

その様子に満足したのかその軽薄な男はさらに調子づいた。

「それとさあ、あのあっちゃんって男。どうやら、整形男子らしいぜ?

入学当時の顔と全然違うらしい。徐々に改造していったらしい。

そこまでして、モテたかったのかねえ。」

聞きもしないことをぺらぺらとしゃべり続けているがそんなことはどうでもよかった。

俺は女々しいと思いつつも、彼女の家の周辺をバレないようにウロついた。

そして、決定的瞬間を見てしまった。

彼女の部屋から、いつも画面を通してしかみたことなかったあっちゃんが彼女と仲睦まじく出てくるところを。

それなりにショックだった。自分が尊敬していたYoutuberと彼女が付き合っているなんて。

だが、諦めはついた。あっちゃんには絶対に叶わない。

きっと俺と付き合うよりは彼女にとってプラスになるだろう。

俺はその日、潔く彼女を諦めることにした。

とは言え、俺は数日後、気になって「まーくんとあっちゃんの空虚な時間」のチャンネルを見た。

その日の放送は何故かあっちゃんが生気がなく、まーくんと険悪な雰囲気で始まった。

これも演出なんだろうな。今回はどんなネタで来るんだろう?

「だいたいさ、まーくん生意気なんだよ。人形のくせに、偉そうに。」

無表情にあっちゃんが言う。確かに、イケメンは無表情でもイケメンだな。

「人形のくせにってなんだよ。」

「口なんて縦にしか動かないくせに。」

「動かすことできるさ。」

「まーくんなんて、俺がいなければなあんにもできないじゃないか。」

「できるさ。僕は人形なんかじゃないからな。」

「へえー、じゃあこれ食べてみなよ。」

そう言いながら、あっちゃんがクリームのたっぷり乗ったケーキを人形のまーくんの口に押し込む。

あーんと開けたまーくんの口にケーキなんて押し込めばきっと、人形の口の周りがクリームでベタベタになるだろう。ところが、まーくんの口に押し込まれたケーキはクリームを残すことなく、綺麗に跡形もなく消えたのだ。

やっぱりあっちゃんのパフォーマンスはすげえな。俺はひとしきり感心した。

無表情のあっちゃんは何も言わなくなった。

え?なにこれ。まるで一時停止でもしたかのように、あっちゃんの動作が止まってしまった。

「食べれるのはケーキだけじゃないぜ。」

そう言うとまーくんの口がとてつもなく大きく広がり、あっちゃんを頭から飲み込んでしまった。

あっと俺は驚いたけど、これもたぶんCGか何かなんだろうな、と思った。

そこで動画は終わってしまった。次回からあっちゃんはどうなるんだろう?その日を境に、「まーくんとあっちゃんの空虚な時間」がアップされることはなくなってしまった。彼は忙しくなってしまったのだろうか。

でも、こんな終わり方?

「なあ、タクト、アイちゃん行方不明らしいぜ?」

同じ学部の友人が学食で俺にそう話しかけてきたのは、それから2週間後だった。

「え?マジ?休学でもしてるんじゃないの?」

「いや、実家にも居ないらしい。捜索願が出てるんだ。お前、何か知らない?」

「それって、俺、疑われてんの?」

「そういうわけじゃないけど。」

「俺はアイちゃんが、あっちゃんと付き合いだしたって時点でもう諦めたんだよ。

俺のかなう相手じゃなからな。」

そう溜息をついた。

「それがさ、あっちゃんも行方不明らしい。」

俺はラーメンをすすっていた顔を上げ驚いた。

なんであっちゃんまで?

俺は何となく気になって、大学から戻って自分の部屋に着くとすぐにパソコンを立ち上げた。

登録済みのいつものチャンネルをクリックする。

「まーくんとあっちゃんの空虚な時間」

更新されている。俺は慌てて再生ボタンをクリックした。

「まーくんと、アイちゃんの、空虚な時間~。」

そこにはあっちゃんの姿はなく、何故かアイちゃんが映し出された。

俺は驚いて、パソコンの画面に張り付いた。

「アイちゃんが?なんで?」

アイちゃんが見事な腹話術を披露し、あっちゃんと同じように見事なマジックを披露している。

ウソだろ?だが、彼女が無事だったことに安堵した。

この部屋は、あっちゃんの部屋。

俺は慌てて、自分の部屋を飛び出した。

行って何を話そうと言うんだ、俺。

でも、駆け出さずにはいられなかった。

どうして誰にも告げずに居なくなって誰にも連絡しないの?

あっちゃんはどこへ行ったの?あっちゃんと一緒に居るの?

次から次へと疑問と不安が沸いてきた。

俺はあっちゃんの住所を友人から聞きだし訪ねていた。

チャイムを鳴らした。しばらく無言だが、ドアの向こうに気配を感じた。

「アイちゃん、居るの?俺だよ。タクト。あっちゃんも居るの?」

するとドアノブが回り、薄くドアが開いた。

俺がドアを引くとそこには誰も居なかった。

居ないと思ったのだ。

「アイもあっちゃんもここには居ないよ?」

下のほうから声がした。

俺が視線を落とすと、そこには人形のまーくんが座っていた。

ま、まさか。人形が、しゃべるはずない。

俺は人形をまたいで、中へ入って行った。

「アイちゃん、どこ?お母さんが心配してるから、連絡だけでも。」

そう声をかけると俺の後ろでドアがしまり、鍵がかかる音がした。

俺が振り向くと、まーくんが俺を見上げた。

ウソ、人形が、動いた。

「居ないって言ってるだろ?お前も見た通り、あっちゃんは俺が食ったし、アイはもう人じゃない。」

「人じゃない?何言ってんだ?」

俺は人形がしゃべるだけでもわけがわからなくて震える声でたずねた。

するとまーくんは縦にしか動かないはずの口角を引き上げて笑った。

俺は声にならない息だけの悲鳴を吐いた。

リビングの座椅子にアイちゃんが腰掛けていた。

俺は駆け寄ってアイちゃんの肩を掴んで声をかけた。

「アイちゃん、心配してたんだよ。みんな心配してる。あっちゃんは、どこに行ったの?」

アイちゃんは表情一つ変えないどころか、瞬きすらしない。

「アイちゃん。」

肩をゆさぶると、どさりとアイちゃんが横に倒れた。

俺は慌てて、アイちゃんにどうしたの、気分が悪いの、とたずねたが何も反応がない。

もしや。そう思い、俺はアイちゃんの頚動脈を触った。

「し、死んでる?脈がない。大変だ。救急車。」

俺がスマホを出して、救急車を呼ぼうとしたが圏外だった。

なんで?こんな街中で。

俺は助けを求めるために玄関を出ようとした。

すると凄い力で足首を引っ張られて前のめりに倒れてしまった。

俺の足首に小さな人形の腕が巻き付いている。

ウソだろう?するとまーくんがしゃべりだした。

「アイは俺が人形にしたんだよ。あっちゃんも実は最後の放送の時は、人形だったんだ。あっちゃんが無表情なことにお前は違和感を感じなかったのか?」

まーくんはイヤらしく笑った。

「う、ウソだ。在り得ない。お前は・・・・どこから見ても、人形だ。」

するとクククとまーくんが笑う。

「人は永遠に生きたいのだろう?俺がその望みをかなえてやってるんだよ。永遠に今の姿のままでいられるんだ。これほど素晴らしいことはない。」

まーくんの腕が信じられない速さで伸びてきて、俺の首に巻き付いてきた。

く、苦しい。助けて。

「あっちゃんは冴えない学生だった。あっちゃんは自分に自信がなくて人と付き合うのが苦手だったんだ。

そんなあっちゃんがある骨董屋で俺と出会った。あっちゃんは俺を買って、一人腹話術の練習を毎日やったんだ。自分に特技があれば人と付き合うきっかけになると思った。だけど、あっちゃんはいつまで経っても上手くならなかった。俺は見るに見かねてついに、自分からしゃべったんだ。最初はあっちゃんもびっくりしていたけど、友達も居なくてぼっちのあっちゃんは俺と会話することが楽しくなって来た。俺とあっちゃんはいいコンビだったんだよ・・・。あの日までは。」

なおもまーくんは俺を締め付ける。

「あっちゃんに変化が出てきたのは、俺と会話するようになってしばらく経った頃。あっちゃんの顔がだんだんと俺に似てきた。もともと外国の人形だった俺は彫が深い。あっちゃんはだんだんとバタ臭い顔になった。だから俺はあっちゃんに提案した。俺と組んで、Youtubeに投稿して人気者になろうって。そうすればあっちゃんにも自信がついて友達ができるかもしれないって。あっちゃんと俺のチャンネルは見る見る人気が出て、あっちゃんも有名になって大学でたくさん友達が出来た。女にもモテ始めた。ところが、悪い女にあっちゃんはたぶらかされた。その女は自分に彼氏がいるのに、あっちゃんを誘惑してきたんだ。それがお前の彼女だった、アイだよ。」

俺はその言葉に打ちのめされた。そうだったのか。アイちゃん。

俺は苦しくて、もがいて首に巻きついたまーくんの腕を取り除こうとした。

「おっと、俺の人形を傷つけないでくれよ。俺はコレクションは綺麗なまま保存したいんだよ。」

そう言うと、もう片方の手と両足で俺を羽交い絞めにした。

「あっちゃんは女ができてからめっきりダメになった。配信もやめると言い出して。それがあの最後の放送になったのさ。」

俺の意識は徐々に遠のいて行って、ついに目の前が真っ暗になってしまった。

「まーくんと」

「タクトの」

「空虚な時間~。」

「さて、今日から新しくメンバーが増えました。これからは、あっちゃん、アイちゃん、タクトが日替わりでお届けしますよ~。」

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