中編5
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ただの、作り話。

久し振りに会った友達と酒を飲んだ。そいつとは小学校、中学校まで一緒だった。高校は別々だったし、そいつは大学を受けるために上京、俺は高卒で就職し、地元に残った。それから早いもので、月日は3年流れた。3年の間、これといって連絡を取り合うことはなかったし、会ったりもしなかった。だが、どういった風の吹き回しか知らないが、そいつから急に連絡があったのだ。

「久しぶりに会って話さないか」と。

断る理由も別になかったし、俺は了承した。仕事終わりに駅前で待ち合わせをし、行きつけの店に行って2人で飲んだ。しばらくお互いの近況や他愛のない昔話に華を咲かせていたんだけれど。そいつがちびりちびりと酒を飲みながら、こんな話を振ってきた。

「なあ、瓜子姫って知ってるか」

「瓜子姫?昔話に出てくるやつか?ホラ、何だっけかな……。昔々、あるところに。おじいさんとおばあさんが暮らしてて……畑にでっかい瓜が取れたからさっそく食おうってことになって、包丁持ってきて切ったら、中から女の赤ん坊が生まれてきて。で、その子に瓜から生まれたから瓜子姫って名付けて、養子にするんじゃなかったかな。でも、瓜子姫が機織りしてる隙に天邪鬼がやってきて、瓜子姫を騙して殺しちゃって……大体、そんな感じの話じゃね?」

「へえ。お前、詳しいんだね」

「や、何か小さい時、ばあちゃんから聞いたことあって。詳しいわけじゃないけど、おおざっぱなストーリーくらいは知ってるよ。で、それがどうかしたのか」

「いや……俺が言う瓜子姫ってのは昔話のほうじゃない。ちょっとした怪談話のほうだよ。人伝に聞いた怖い話なんだけどさ、お前が知ってるかと思って」

そいつはちらりと俺を見た。俺はそいつが何を言いたいのかさっぱり呑み込めなくて、つまみとして注文した冷めたフライドポテトを齧る。

「怖い話?いや……あんまりオカルトとか知らないし」

「そうか。じゃあ、教えてやる。あのな、夜中の零時ぴったりに___今日でも明日でもない時間帯に、鏡を見るんだ。鏡には自分自身の姿が見えるよな。その姿に向かって‘‘瓜子姫 瓜子姫 瓜子姫‘‘って3回唱えるんだ。そうすると、鏡に映ってる自分の首がぽろっと取れるんだと」

「……何だそりゃ」

心霊ゲームみたいなやつか。しかし、そのテの話に全く興味がない俺は、軽く話を流し、次の話題に移った。そいつもそれ以上は瓜子姫のことについて何も追及しなかったし、ダラダラと別の話題を喋るだけ喋って、その日は解散した。

家に帰った俺は、風呂に入って寝ることにした。午後7時過ぎから4時間ほど飲んでいたので流石に酔った。明日は日曜で良かったと心から思いながら、歯を磨くために洗面台の前に立つ。鏡に映る自分自身の姿を見ながら、ふと瓜子姫の話を思い出した。夜中の零時ちょうどに鏡を見て、「瓜子姫 瓜子姫 瓜子姫」と3度唱えると、鏡に映る自分の首がぽろっと取れる___だっけか。

スマホで時間を確認する。すると、午後11時56分だった。オカルトに興味はないが、信じていないわけではない。俺は零時ぴったりになるのを慎重に待った。

深く息を吸い、鏡に向かって唱える。

「……瓜子姫 瓜子姫 瓜子姫」

鏡を見やる。だが、そこには酔って顔色の悪い俺の姿が映っているだけだ。まあ、所詮は根拠もなければ根も葉もないただの空想話だ。こんなの信じるほうがどうかしている。思わず肩を竦め、自分の行動に恥じ入っていると。スマホに着信があった。こんな時間に誰だろうと思って見れば、さきほどまで一緒に飲んでた奴からだった。

「もしもし」

「悪いな、こんな時間に。ちょっとお前のことが気になってさ」

電話越しなので、顔は当然見えない。だが、声の感じからして、そいつは何故か楽しそうだった。大声で笑いたいのを必死で堪えて声を顰めているような……そんなニュアンスが伝わってきた。何がそんなに面白いのか知らないが、こんな遅い時間帯に電話をしてきて非常識な奴だと思う。歯磨きを終えたらさっさと寝ようと思ってたのに、これじゃ寝られないじゃないか。

「なあ、何なんだよ。もう疲れてるから早く寝たいんだけど」

苛立つ俺をよそに、そいつはのんびりとした口調で尋ねてきた。

「お前さ、瓜子姫のやつ実行しようとしてるんじゃないか?」

ドキリとした。心の内を見透かされたようで、ぐっと押し黙る。思えば、俺は昔からそうなのだ。人から聞いた健康法とか安眠の方法とか足腰を鍛える運動とか、必ず1度自分で試さなくては気が済まない。こいつは俺の性格などお見通しだったのだろう。それを知ってて、敢えて瓜子姫の話を持ち掛けてきたのかもしれない。

黙っていると、くぐもった笑いが電話越しから聞こえた。

「話忘れてたけど……。瓜子姫のやつ、あれは絶対実行するなよ」

「な、何だよ。あんなのただの作り話だろ。……あ、まさかお前が作った話とかっていうオチじゃねーよな」

「違うね。言ったろ、俺も人伝に聞いた話だって。でもさ、瓜子姫のやつ実行した奴は全員死んじゃってるんだぜ。捥ぎ取られるんだか切り取られるんだか知らないけど、首を失くしちまうんだと」

「はあ?お前……だって、それじゃ話が矛盾しちまうじゃねーか」

全員が死んじまってたら、誰がこの話を始めたんだ。生き残りの奴でもいたのか?誰かが誰かに伝えていかないと、俺はお前からこの話を聞くことすらなかったんだぞ。

「いや、生き残った人間がいるなんて話は聞かなかったな。それに矛盾なんかしてないよ」

そいつはぐふっ、ぐふっ、と獣みたいな厭な笑い方をした。今すぐ電話を切りたい衝動に駆けられたが___何故だろう。耳とスマホが見えない糸でグルグルと拘束されているかのように、離すことが出来ない。

「話を聞いた奴が全員、実行するとは限らないよ。中には話だけ聞いて、行動に移さない奴だっているだろ。話を聞いた人間は行動には移さず、他の人間に話を伝えてく。そうすれば____矛盾はなくなるだろ」

「お、おい。ちょっと待てよ……。じゃあ、まさか____」

「もう遅いんで切るわ。それじゃあな。くれぐれも瓜子姫のやつ、実行するなよ」

「で、その男の人そうなったの……?」

「次の日から会社に出勤しなくなったんだって。それを心配した会社の同僚がアパートを訪ねたの。そしたら……洗面台の前に首なし死体が転がってたんだってー」

「……マジで?やっぱり瓜子姫の呪いなの?」

「知らなーい。でも、洗面台の鏡には‘‘とれちゃったね‘‘って赤い血で書いてあったらしいよ」

「やーだー!!マジ怖いんですけど!」

「あはは。そんなに怖がることでもないじゃん。こんなのただの作り話でしょ」

「そ、そうだよね……。でも聞いちゃうとさ、やりたくなるよね……。や、やらないけどさ、怖いから。でも、試したくなるよね……」

「試してみればいいじゃん」

ただの、作り話なんだからさ。

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あかんやつや(;´д`)

んじゃ、早速やってみるか
そして自分が天邪鬼となるか

まめのすけ。様

あはは 此処に実行したい赤煉瓦が居ります。
怖いけど、何故か興味深いお話しで…
ヤバいなぁ〜 鏡に何か写りそう(^◇^;)
鏡に映る自分に変化が出るのか? 自分の背後に何者かが現れるのか? まぁどっちも鏡に映るから同じ事ですかね〜