中編3
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新・テンシの男

それは木枯らしの風が吹く朝…

いつも通りに学校に行く。

いつも通りの筈だった…

後ろから信号無視の車が私の背中に向かって衝突してきた。私の体は宙に舞い地面に叩きつけられたが一命を取りとめた。しかし、二度と歩けない体になってしまった。

毎日の病院生活が辛い。

目が覚めて窓際に行こうとした時に

歩けなくなったことに気付く。

夜中に体中が痛み眠れない。

力が入らない…。

夢なんじゃないかって思ってた。

そんなある日、奇跡が起き始める。

桜が咲くには早過ぎる季節に、私の部屋から見える桜は満開になっていた。「こんな季節に桜が?」

部屋の扉を叩く音が聴こえ

「どうぞ。」

扉が開くガラガラガラ…

「どう?体の調子は?」

この病院にいる飯島先生だった。

「歩けないこと以外、大丈夫です。」

「そう…それにしても、こんな季節に桜が咲くなんてね。」

私は桜に見惚れながら

「ですね…」

桜は満開の花びらを揺らしながら

その素晴らしい姿を見せてくれる。

「君は今年で何年生?」

「三年生になります、もう卒業も近いです」

飯島先生はカルテを片手に笑顔で語りかけてくる

「そうか!三年生か!進路とか大変でしょ?」

私は桜を見ながら「大変ですよ」

飯島先生は心配そうに私の顔を見る

「もう少ししたら退院できるから、頑張ろうね!」

私はため息を零し頷く。

「明日も来るよ。じゃあね」

飯島先生は私に手を振って部屋を後にした。

本当だったら学校に行って卒業までの思い出を沢山作りたいのに…

歩けなくなった自分を責めていた。

あの時、ちゃんと周りを見ていれば!もっと早く学校に行っていれば!

こんなことを毎日のように考えていた。

部屋から見える桜は、私の心の励みになっていた。

卒業式まで120日…

みんなに会いたい…

次の日、飯島先生が部屋に訪れた

「高橋くん、どう?体の調子は?」

私はため息を零し

「相変わらずですよ」

「そうか…高橋くん、手を出して」

飯島先生は私の右手を握り

「いい?先生の目を見て、できるだけ瞬きはしないで、いいね?」

私は飯島先生の目を見ていると

「歩きたい!」そんな空腹に似た想いが込み上げる。

気付けば私は泣いていた。

頭の中に浮かぶ友達の顔。

飯島先生は手を離し私の肩を叩く

「君を救う為に先生は居るんだよ?希望を捨てないで。いいね?」

そして退院当日、飯島先生が桜の下で座って私を待っていた。

「やあ!高橋くん!」

私は車椅子で飯島先生の所までいく

「飯島先生!お世話になりました」

飯島先生は笑顔で一冊の本を私に手渡した

「この本は君に希望を与えてくれる、大事にしてね」

「ありがとうございます!」

笑顔で飯島先生は去り際にポツリと呟いた「君はもう歩けるよ。」

「え?」私は意を決して立ち上がると、二度と歩けないと言われた足で自力で立つことも歩くことも出来た。

私は驚き振り向いたが飯島先生は何処にも居なかった。

私の姿を見た両親は慌てて私の元にやって来て私を支える。

「なにやってんの…歩けな…」

私は嬉し泣きながら「私、歩けるよ」両親は驚きながら泣いていた。

念のためにレントゲンや色んな検査をしたが、体は正常に動いていると医者が驚いていた。

それから私は飯島先生にお礼を言おうと病院を訪ねたが、そのような先生は居ないと言われた。

だが、飯島先生から貰った本が残った。その本の白紙のページに天使の翼のような手形が浮かび上がった。

私に希望を与えてくれた。

飯島先生は天使のような人でした。

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