短編2
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真夏の寒い夜

部屋が寒い。

今日は格別に寒い。まるで季節は冬でしっかり着込んでふかふかの布団に包まっていないと凍えて死んでしまいそうだ。

天気予報では暑苦しくて寝苦しい熱帯夜になると聞いていた筈なのに。

現在は8月。何故真夏にジャンパーを羽織ってマフラーを首に巻き、手袋と靴下を履いて、毛布と羽毛布団に包まって、ヒーターで温まりながら寝なければならないのだろうか。

ここ最近僕の部屋ではそんな怪奇現象が起こっている。

最初は初秋程の少し肌寒い程度のものだった。しかし、どんどん部屋の温度は下がっていき、数日経つ頃には初冬くらいに部屋の中が寒くなっていた。

適当に着込んで寝るのだが朝になると部屋は真夏に戻っている。なので当然寝汗でびしょびしょになり、シャワーを浴びてから会社に向かう毎日が続いていた。

会社の同僚に、「昨日の夜すげー寒かったなぁ」と訊くと、「あほか。昨日は暑くて寝らんなかったよ」と答えが返ってきて初めてそれが自分の部屋だけで起こる現象だと理解した。

結局1週間以上そんな事が続いてるのだ。

そして、今晩は格別に寒い。

吐く息は白く、歯はガチガチと鳴り、真冬と言うよりは極寒の地で野宿でもしているかの様な状態だった。驚いた事にカーテンの隙間から外が吹雪いているのが見てた。薄っすらと雪も積もっているらしい。

「何なんだよ…、一体僕が何したって言うんだよ…、ふざけんなよ…」

誰に言う訳でもなくそう呟いた。すると、その言葉に反応する様に窓がガタッと揺れた。

外に誰か居るのだろうか…。

ガタガタと震えながら体を起こし、ゆっくりと布団から出る。窓に近づくと窓の縁に氷柱が出来ていた。

すーっとカーテンを開けると、雪が降り積もるその奇妙な光景の中に女性が一人佇んでいた。

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白い和服を身に纏い、長く伸びたその髪は真っ白で、肌は異様な程白いその美しい女性は悲しそうな顔をしていた。キラキラと光るその瞳からは今にも涙な落ちそうな、とても申し訳なさそうな表情で僕を見ている。

窓を開けると、女性は深々と頭を下げる。それからゆっくりと頭を上げて姿勢を正すと静かに口を開いた。

「ごめんなさい…。貴方はいつも暑い、暑いと言いながら帰ってくるから、少しでも涼しくなればと思って…、でも、加減がわからなくて…。ごめんなさい…」

言い終わると女性はスーッと消えてしまった。

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「それ雪女なんじゃない?」

同僚に話すとそう言われた。雪女…。確かにそうかもしれない。あれ以来雪女は僕の前に現れなくなってしまった。僕の言葉で彼女は傷ついてしまったんだろうか。

こうして僕の部屋には暑苦しくて寝苦しい熱帯夜が戻ってきたのだった。

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