中編4
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「固定電話」②

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電話が鳴っている。

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枕元の目覚まし時計は、午前2時15分を指していた。

ため息を落とし、ベットから起き上がる。

床板は、真夏でも、ひんやりと冷たく

素足には痛い。

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今日は新月。

あたりは、暗闇に閉ざされ、明け方の静寂をより一層深いものにしていた。

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ひたひたひた

衣擦れの音がする。

誰かが後からついてきた。

(どうぞお先に・・)

立ち止まり脇によけるも、動く気配はない。

(では、お先に失礼いたします。)

と斜め後ろを振り返り、礼を言い、足早に居間に向かう。

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長い長い廊下の先は、洋間と呼ばれ、

ソファ、サイドボード、ピアノ、テレビが

年代物の瀟洒な家具とともに置かれている。

家族は、そこを居間にしていた。

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固定電話は、そこにあった。

電話は、ヒステリックな金属音を立て

「早く出ろ!」とばかりに叫んでいる。

付いてきた足音が、ひたり・・と止んだ。

ふぅ深く息を吐き、受話器を取る。

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波の音に混じり、はぁはぁと荒い息遣いが伝わってきた。

(また、この男からか。)

「はい。Mですが。」

「・・・・・・・」

背筋をぴんと伸ばし、毅然としていようと心に決めた。

「申し訳ございませんが、夜分遅うございます。切らせていただきますね。」

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「・・・・ちっ・・・・・」

相手は、舌打ちをした。

「はぁ・・・・お前、まだ生きてんのか。」

「あの、どちら様でしょうか。」

「前も話した。知ってんだろうが。馬鹿野郎!」

怒声を浴びせられる。

「いえ、存じ上げません。御用がないのなら切りますね。」

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受話器に手をかけた。

「・・・くっくっくっ・・」

なにやら含み笑いをしているようだ。

「・・・まぁ、まてぃ。」

「お前よぅ、アレなくしただろ。」

「・・・・・・・」

「アレなくしたのに。よく生きていられるってばよ。」

「・・・・・はい、生きております。生きねばなりませんので。・・」

「アレなくしてもか?」

(だから)アレってなに?

といいかけたとたん、

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あたり一面が 靄(もや)に覆い尽くされた。

突然激しい眩暈と頭痛に襲われ、その場に座り込む。

気が付くと、

目と鼻の先には、直径30センチばかりのこげ茶色の穴がぐるぐると渦を巻いていた。

渦は、ゆっくりと回転しながら、少しずつ少しずつ広がってゆく。

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渦の奥のはるか向こうに二つの小さな点が現れ、どんどんこっちに向かってくるのが見えた。

近づくにつれ、二つの点は、人間の手腕であることが見て取れる。

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「ひぃぃぃ。」

渦の中から飛び出した真っ白い二本の手は、後ずさりする私の右肩と左腕を、ぐぃと鷲掴みにし、

バランスを失った私は、床にたたきつけられた。

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二本の手は、握りしめた私の手から、受話器をむしり取ると、黒電話ごと渦の中へとほうり込んだ。

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渦は、直径1メートルにまで大きくなり、とぐろを巻きながら、空中で止まっている。

私は、倒れ込んだまま 半べそをかいていた。

そのまわりを 衣擦れの音が漂う。

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「こんな夜分に電話をかけてきて、どなたかは存じませんが、お間違いになってはいけませんね。」

どこからともなく聞こえてくる凛とした声は、低いが威厳に満ちていた。

「・・・・・・」

「私には、なくしたものなんて、これっぽっちもございませんよ。」

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「じゃあ、アレはどうしたんだ。このくそあま!」

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「アレは、亡くなったんです。自分から勝手にね。そう、なくしたんじゃぁない。亡くなったんだ。

そして、私の大事なものはね。ここに、私のこの中に、今もこうして生きてるんだ。おまえごときに、とられてたまるか。」

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ガシャンとサイドボードのガラスが割れ、あたりに破片が飛び散る。

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「うぉおおおおおおおおお・・・・。」

男は慟哭していた。

それはまるて、猛獣の咆哮のようにも

また、断末魔の苦しみの声のようにも聞こえた。

私は、床にひれ伏したまま、膝を抱え、耳をふさぎ、がたがたと震えていた。

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「この・・くそあま。なにしやがった。アレの時と同じだな。」

男は、振り絞るように呟くも、その声に力はない。

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「いいか。良く聴きなさい。あなたは死んだの。あなたの住む場所は、ここではない。まして、この人は、あんたとは縁もゆかりもない人。もう二度と出て来るんじゃないよ。」

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鼓膜が破れるかと思うほどの轟音が響き渡る。

家具調度品いっさいが、がたがた、きしきしと音を立て、崩壊し始めた。

やがて、

どぼっ、げほっ・・・臓物を吐き出す音ような音を最後に、部屋を呑み込むほどに大きく広がった渦は、瞬く間に紫煙に包まれ消えてしまった。

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その刹那、渦に囲まれたたずむ、女の姿が垣間見えた。

柔らかな薄紫の着物に身を包むその人は、

涙を流し、鼻水をすすりあげ、情けない格好で見上げる私に、

身をたたむように深く礼をし、たおやかな笑みを浮かべゆっくりと去って行った。

後姿から察するに、年の頃は、40代後半から50代前半くらいであろうか。

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廊下の上を歩く衣擦れの音が、だんだん遠くなっていく。

「あっ、ども・・・こちらこそ、有難うございました。」

そういうのが精いっぱいで、私は、意識を失い、

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気がつくと朝になっていた。

また、夢を見ていたようだ。

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一昨年、大病をした。

昨年は、春と秋の二回入院し、その予後が、あまり良くない。

度々、悪夢を見るのは、きっとそのせいだろう。

そう思い込まないと、辛い自分がいた。

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私は今、小さなアパートにひとりで住んでいる。

数年前に越してきて、以来、固定電話は使っていない。

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昭和30年~40年代モダンな文化住宅と もてはやされた我が家は、とっくの昔に取り壊され、

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その跡地には、10階建てのマンションが建っている。

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一人旅シリーズは以前読ませていただきました(*´ω`*)
勇気がなくて投稿、コメントどころか怖ポチも押せなかった頃です笑

紫の着物の婦人にとても魅かれます。
あと螺鈿とあるのを見て、以前京都に行った際に体験した螺鈿を思い出しました。
出来上がった作品も繊細で綺麗ですが、作製するにもかなり繊細な技術がいり、何度も刃を取り替えて切り取り、気を緩めると薄い貝にヒビが入ってしまう...
そんな作り手の手にある時からいろんな想いなどが込められていて不思議なキーアイテムになっているのかなぁ、など想いを巡らせて一気に読ませていただきました。

もっと読みたい!と思うようなお話でした(*´ω`*)

レイ様
こちらの作品もお読みいただいてありがとうございます。
「固定電話」今はもう、ほとんど見かけなくなりましたね。
電話にまつわる怖い話ではございますが、訳の分からない内容となっております。
実は、この話の、背景となっているであろうお話も、後日書いております。
少し長いお話なのですが、あんみつ姫ひとり旅シリーズ三部作「お守り」「海沿いの民宿」「螺鈿―車中にてー」です。もし、お時間とお暇がございましたら、ご覧いただければ嬉しいです。
結局、解決には至っておりませんが。(笑)
楽しんでいただけたら幸いに存じます。
もしかして、以前に、お読みいただいておりましたら、申し訳ございません。

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マサキチ様、おはぎさん様

「怖い」ありがとうございました。
今後とも よろしくお願い申し上げます。

潤燐朶様
machida様
時雨様
「怖い」ありがとうございました。
とても励まされます。
御礼遅くなり申し訳ございませんでした。
これからもがんばります。
よろしくお付き合いください。

縷々子様
「怖い」ありがとうございました。
とっても嬉しいです。

深雪様
「怖い」ありがとうございました。
とっても嬉しいです。

次回作 頑張って書いています。
よろしくお付き合いください。

裂久夜様

早速お読みいただいてありがとうございます。
「怖い」と「コメント」とっても嬉しかったです。

「携帯電話」や「スマホ」だけではなく、「固定電話」にまつわる「怪」も多いと聞きます。
楽しんでいただけて良かったです。

次回作は、「長編」です。
こちらは、「一話読み切り」のシリーズものにする予定です。
ご期待ください。

ヒタヒタと迫る怪談話の雰囲気が出ていて、面白かったですよ!!

次回作を期待しています!