高校の怪談〜あなたは誰?〜

長編11
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高校の怪談〜あなたは誰?〜

「カオル君。」

「あれ、久しぶり。」

高校三年生になって一ヶ月弱、学校からの帰り道で久々に聞きなれた声を聞いた。

「和歌歩さん。どうかしたの?」

「いや、散歩をしていたらカオル君を見かけたものですから。最近調子はどうですか?」

「特に何もなくて平和だよ。」

実際そうだったし、クラスの離れた礼一郎の心配も全くしていなかった。

「そうでしたか…。」

だが、返ってきた返事は浮かない調子だった。

「…何?なんか心配事?」

「ええ…。最近どうも嫌な感じがしてならないのです。あの都市伝説のアプリ、最近はどうですか?」

「うーん…。とくに何も。」

そう答えたものの、俺もその事は気になっていた。最近あまりにも何もなさすぎて、逆に不安だった。

「礼一郎君は?」

「あいつも普通に元気だよ。よく連絡来るし。」

「そうですか。」

言った矢先、携帯が鳴った。表示された名前は時任礼一郎。

和歌歩に目を向けると、彼はどうぞと頷いた。俺は携帯を取った。

「もしもし?」

「加古ー‼︎遊びに行ってい…」

「まだ帰ってない。もう少し待てよ。」

「えー、先行って待ってる!」

そう言って電話は一方的に切れた。

俺はため息をつき、携帯をしまった。

「相変わらずでございますね。」

会話を聞いていたらしい和歌歩は苦笑した。

「でしょ?だから心配する事ないよ。」

「そうですね…。」

だが、彼はまだ少し不安げな瞳をこちらに向けて言った。

「でも、お気をつけください。怪異という物はいつも身近にあるものでございますから。」

「心配ありがと。でも大丈夫だよ。」

和歌歩は会釈をして立ち去った。

幽霊に言われるのもおかしい事だったが、安心はした。

「早く帰らねーとな…。礼一郎来てるかも。」

そう思って、歩を早める。

と、曲がり角で誰かとぶつかって尻餅をついた。

「あっ…。すみません。」

顔を上げて驚いた。腰をかがめて、こちらに手を差し伸べていた人物は、和装ではあるものの俺と瓜二つだったのだ。

「うえっ⁉︎お、俺⁉︎」

そいつはこちらの顔を見ると、焦ったように口元を抑え、差し伸べていた手を引っ込めて踵を返し、猛然と駆け出した。

「あっ!ま、待てよ!」

自慢じゃないが足には自信がある。着物に下駄履きの俺の偽物には負けないだろう。

だが、奴は予想外に速かった。どんどん離されていく。

曲がり角を曲がった時には、もう奴の姿はどこにもなかった。

「おかしいな…。…あ。」

そういえば、あれだけの速度で走っていたのに、下駄履きの奴の足音は一切していなかった。

「まさか…ドッペルゲンガー?」

確か自分のドッペルゲンガーと会うともう長くないんじゃなかったっけ?

「うわああ…。俺、死ぬのかなあ…。嫌だなあ…。」

俺はちょっとブルーになりながら、もう目の前だった家へ入った。

「ただいまー…。」

「おかえりー♡」

「おう、ただいま礼一郎…。ってあれっ⁉︎」

なぜ鍵をかけておいたはずの家に礼一郎が入ってきている⁇

「礼一郎!なんでここにいんだよ?」

「え、行くって言ったじゃん。」

「そういう問題じゃねーっ‼︎何で家の中にいるのか聞いてんだよ!」

「えー?だってお前、ついさっきここの鍵開けて入れてくれたじゃん。」

「俺は今帰ってきたばかりだ!」

礼一郎は首をかしげ、いきなり俺の額に自分の額をくっつけてきた。

「うわっ、なんだよ気持ち悪い!」

「いや、熱でもあるのかと思って。」

「手で測ればいいだろ、近いんだよっ!」

俺は礼一郎を払いのけ、荷物を下ろした。そしてふと思いついた。

「もしかしてその時の俺って着物じゃなかったか?」

「ん?あー、そういやそうだったな。演劇部の衣装だって言ってなかったか?てか着替えるの早くね?」

やっぱり!

「それ、俺のドッペルゲンガーかもしれん…。」

「はあ?」

俺は今の状況を全て礼一郎に話した。

話を聞き終わった礼一郎は、ニヤリと笑って立ち上がった。

「久々に面白そうじゃねーか!調べに行こうぜ!」

「面白がるなよ!俺死ぬかもしれないんだぜ?」

「大丈夫、俺が死なせん。」

「礼一郎…。」

礼一郎の人情に厚いところは好きだ。

俺たちは早速スマホを開き、都市伝説アプリを漁り始めた。

しかし。

「…ドッペルゲンガーねぇな。」

「…ああ。」

いくら探してもドッペルゲンガーの記事が見つからない。

「なんか別の名前で載ってるのかな?」

「例えば?」

「……。」

「わかんねーんじゃんか!」

長々とスマホをいじっていると、結構疲れるもので。

「あーもう目ぇ疲れたっ‼︎アイスでも買いに行こうぜ!」

「目とアイスとどういう関係があるんだよっ!」

だが、疲れたのは事実だ。俺たちはアイスを買いに、家の外へ出た。

向かったのは行きつけの駄菓子屋。優しいおばあちゃんがいつも出迎えてくれるので、小さい頃から通っている。

「こんにちはー、おばあちゃん、アイス買いに来ましたー。」

「こんにちはー、10円まけてくださーい。」

「おい。」

いつもならこの辺でおばあちゃんが出迎えてくれるのだが、今日は違った。

「はい、どうしたのかな?」

出てきたのはおばあちゃんではなく、羽織に着物の若い男だった。丸レンズの鼻眼鏡をかけている。

「あれ?おばあちゃんは?」

礼一郎が店の奥を覗き込む。それを身体で遮るようにして、男は微笑んだ。

「実はね、今おばあちゃん風邪で寝込んでるんだ。代わりに僕が店番をしてる。」

「ふーん…。大丈夫なの?」

「大丈夫大丈夫。僕がしっかり見てるから。」

「そう…。」

礼一郎は心配そうにこちらを向いた。

「明日、お見舞いの果物でも持って来ようか。」

「そうだな。」

俺たちはとりあえずアイスを買い(まけてはもらわなかった)、駄菓子屋の玄関先で食べ始めた。

「そういやさぁ、加古。」

「何?」

「あのにーちゃん誰だ?」

「…そういえば。」

礼一郎は食べ終わったアイスの棒を折った。

「聞いてみるか?」

「いや、それは流石に失礼じゃないか?」

風邪で寝込んでる店主の代わりに店に立つ人だ。そこまで遠い人でもないだろう。

「年齢的にお孫さんかもよ。」

「えーっ、あのおばあちゃんに孫いるなんて聞いた事ないぞ?それに…。」

「それに?」

礼一郎は金田一少年の如く俺をビシッと指差した。

「あのにーちゃんの顔、なんとなくお前に似てたぞ!」

「えっ⁉︎」

慌てて思い返してみるが、よく覚えていない。

「ドッペルゲンガーと関係あるかもしんねーだろ?」

「でも、あの人は俺より年上だったぞ?」

「でも調べて損はないぜ!戻るぞ!」

そう言って礼一郎は俺の腕を掴んだ。

「えっ?」

そのまま、俺は駄菓子屋の中に引き摺られていった。

「すみませーん‼︎」

礼一郎が店内に響く大声で叫ぶと、驚いたように先ほどの男が出てきた。

「な、何かな?」

「お兄さん、ここのおばあちゃんのお孫さんかなんか?」

男の表情が強張った。が、すぐにまた笑顔に戻る。

「そ、そうだけど…。それがどうかしたのかな?」

「いや、見かけない人だったから、誰かなーっと思って。」

「そっか。ま、びっくりするよね。行き慣れた駄菓子屋さんの店主がいきなり変わってたら。」

細い目を更に細めて笑う彼の顔を見てみる。

似ていると言われれば似ていると言えなくもない。大人びたところを抜かせば、礼一郎の言った通りかもしれない。

「ところで、お兄さんて今までこの町内にいた?」

突然、礼一郎が男に変な質問をぶつけた。

「どうして?」

おかしく思ったのは男も同じだったようで、首を傾げて聞き返してきた。

「いやー、おばあちゃんのお孫さんなら一回くらい見かけてても良さそうなもんだから。都会とかから引っ越してきたとか?」

男は一瞬口籠ったが、すぐ頷いた。

「え、ああ。そうそう。こっちに帰ってくるのなんて子供の時以来だからなあ。」

「だったらおかしくない?」

「え?」

突然尖った礼一郎の声に、今度は俺も驚いた。

「お兄さんさ、さっき『行き慣れた駄菓子屋さん』って言ったよね?つい最近帰ってきたなら、何で俺達がここの常連だって知ってるんだよ?」

男の着物の裾が、風もないのに揺らめいた。

「え、そ、それは…。」

彼は軽く頭を掻くと、ふっと笑った。

「おばあちゃんから話を聞いていたんだ。眉の白い真ん中分けの男の子と、ピンクのフレームの眼鏡の男の子が昔からよく来てくれてるんだよって。君達の事だったんだねー。」

にこにことこちらを見つめる男に向かって、礼一郎は聞いた。

「それ聞いたの、いつの話?」

「え?えーと、一昨日辺りかなあ…。」

男が答えた瞬間、礼一郎はニヤリと笑った。

「もらった‼︎」

きょとんとする俺と男を前に、礼一郎は得意げに喋り始めた。

「もしあなたが本当にここのおばあちゃんのお孫さんだったら、絶対知らない事をあなたは知っていたんだ。」

「何?」

僅かに男の顔色が青ざめた。

「俺が最後にここを訪ねて、おばあちゃんに会ったのは一昨日だ。その時、お前も一緒にいたよな?加古。」

「え?あ、ああ…。」

「その時と今で違うところあるだろ、俺。」

ん?

「………あっ‼︎」

礼一郎は頷いた。

「眼鏡だ!そういやお前、昨日…。」

「加古ー‼︎ちょっと来ーい‼︎」

「何だよ礼一郎…。…もしかしてなんかあったのか?」

「ああ!重大な事だ!」

「何⁉︎な、何だ、どうした⁉︎」

「俺の顔をよく見ろ…!」

「………?」

「眼鏡を…。新調したんだっ‼︎」

「死ねっ‼︎」

「俺がピンクフレームの眼鏡をかけてここに来たのは今日が初めてだ。あんた、さっき俺の事何つった?」

男ははっとして唇を噛み、頭を垂れた。

「あんたの言った事が本当なら、俺の眼鏡の色は別の色で伝わってる筈だ。」

「…それは、」

「おっと、言い間違えたとか苦しい言い訳は通用しないぜ?言い間違えたなら前の眼鏡の色も答えられる筈だからな!」

礼一郎のテンションが最高潮に達したらしい。

男は顔を上げて…微笑んだ。

「…青でしょ?」

確かに礼一郎の前の眼鏡の色は青だ。

「あ…あれ?」

金田一ばりの推理を繰り広げてきた礼一郎が凍った。

「いやー、ごめんごめん。うっかりしてたよ、君が今はピンクの眼鏡かけてたからつい。」

そう言われてしまえば、すべての筋が通ってしまう。

「え、あ、そのー…。」

やっぱり…。礼一郎が最後までカッコいいなんてありえないか。

「す、すみませんでした…。」

二人揃って頭を下げる。

「いいのいいの。気にしないで。」

男は手をひらひらと振った。

「な、なんて心の広いいい人なんだ…。」

「それはどうでしょう?」

突然、どこからともなく声がした。

とてもよく聞きなれた、先程も聞いたばかりの声。

「え?」

辺りを見回す。…いた。

うっすらと太陽の光を身体に透かして、滑るようにこちらへ近づいてくる黒いスーツ。

「な、何だあんたは⁉︎」

男は突然現れたサラリーマンの幽霊に動揺している様子だったが、それはこちらも同じだ。

「和歌歩さん!何でこんなとこに?」

彼はこちらを一瞥すると、鋭く言い放った。

「お逃げなさい、お二人!これはあなた方が関わっていいようなものではございません!」

いきなりの出来事に困惑するばかりの俺たち。

「尾けてきて正解でした…。こんな質の悪いものに目を付けられていたとは。」

和歌歩は指の間に名刺を挟み、男を睨みつけた。

「今すぐ消えなさい。この子らに手出しする事は、私が許しませんから。」

男は困ったように笑って、俺たちを見やった。

「君達、こんな怪しい人の言う事聞くことないよ。大体、何の根拠があってそんな事言うんですか?」

「そんなに強い殺気を出していて分からない訳がないでしょう!」

ふと和歌歩の顔を見ると、こめかみに青筋が浮いていた。

「幽霊でも血管通ってるのか…。」

俺の視線に気付いたらしい彼は、俺の見ていたこめかみを押さえて顎をしゃくった。

「何をなさっているのです、早くお逃げください!」

「…分かった」

俺は礼一郎の腕を掴み、その場から駆け出した。

二人の背中が見えなくなるのを見届けて、和歌歩は胸を撫で下ろした。

「何の恨みで彼らに手を出すんです?」

彼は笑って答えました。

「恨みなんてないさ。僕はただ、若い魂が欲しいだけ。」

男は悪びれた様子もなく続ける。

「だってさあ、いつまでも若く力を持った存在でいたいのはみんな同じでしょ?あなたも。」

「私は結構。」

「あ、そっかあ。幽霊だもんね。」

彼は今までと違い、歯を剥いて笑った。

その犬歯は鋭く尖っていた。

「君のようなものに彼らを殺させてたまるものですか。」

「ほう!言うねぇ。」

彼は着物の袖から長い爪を出し、身構えた。

「邪魔をするなら…遠慮無く消す!」

言うが早いか、和歌歩に向かって突進していく。

「…く、」

彼は避けきれず、左手の甲を削がれたらしい。

「なーんだ。口ほどにもないね。」

男は爪をひと舐めすると、糸のように細い黒目で和歌歩を見た。

「私の左手くらいどうという事はありません。そろそろ尻尾を出しなさい。」

「そう?じゃあお言葉に甘えて。」

彼は地面に両手を突くと同時に、三本の尾を出した。

みるみるうちに、彼の姿は巨大な黒猫へと変貌していく。

「それが正体ですね?」

「悪い?」

「別に。」

相手が猫だろうと獅子だろうと、知った事ではない。和歌歩の瞳はそんな光を宿していた。

「僕は人の魂を糧にしてるんだよ。あなたを消す事なんて訳ないんだ。あなたは人の魂そのものだからね。」

「脅しなら無駄ですよ。」

「…ムカつくんだよね、そのすかした態度。やっぱり頂くか!」

猫ショウの姿をとった男は、和歌歩に襲いかかった。

「⁉︎」

が、和歌歩の動きの方が一瞬早かったらしい。猫ショウの眉間に、和歌歩の名刺が刺さっている。

「…人を舐めるのも大概にしなさい」

「…ちっ」

猫ショウは宙返りをし、加古 香の姿をとった。

「今回は諦めるよ。じゃーね、和歌歩さん。」

踵を返した猫ショウに、和歌歩は尋ねた。

「君は余所者でしょう。なぜわざわざここへ?」

すると彼は立ち止まり、振り返った。

「髪の長い女の子に聞いたの。黒い龍連れた。この街は力に溢れてるって。とくに高校生。」

「黒い龍を連れた女の子、ですか…。」

和歌歩は頷いた。

「金輪際、この街の人間に手を出さないでください。」

「それは約束できな…」

彼は最後まで言葉を言い切る事ができなかった。

なぜなら、和歌歩の十徳ナイフが彼の喉笛を捉えていたからだ。

「それと、目上の者に対する態度には気を付けなさい。」

猫ショウは2、3歩よろめいた。

「…何者だよ、あんた…。」

和歌歩は眼鏡をずり上げ、ニヒルに笑った。

「さて…。何者でしょうね?」

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和歌歩さんは高校の怪談シリーズのキーパーソンじゃないですか

これからも、どんどん登場させて下さいね(*´罒`*)

紫音様、コメントありがとうございます。
シリーズのイッキ読みをしてくださっていたとは!感謝感激です。
今回は和歌歩さんにちょっと見せ場を作り過ぎたかな…と思いましたが、それを楽しんで頂けたようで良かったです。

久し振りの高校生シリーズ・・・待ってました.☆.。.:*・°‹‹\(´ω` )/››‹‹\(  ´)/››‹‹\( ´ω`)/››°・*:.。.☆

蘇王 猛さんの作品を初めて読んだのは2月末か3月初旬頃でした。

一気にシリーズを読んで『次回作はいつ頃になるんだろう』ってわくわくしながら待ってました«٩(*´ ꒳ `*)۶»

幽霊だけど、和歌歩さんかっこいいです(●´□`)♡