長編27
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15年目の同級会

【お久しぶりです】

【この度、⚪︎⚪︎小学校  ⚪︎⚪︎回生  ⚪︎組の同級会を開催致します。

幼い頃の思い出を、存分に語り合いましょう。

皆様のご参加を、心待ちにしております】

【幹事:雨野枷夫】

それは、小学校の同級会の誘いの手紙だった。

同級会を知らせるメッセージの下には、日時と開催場所である料亭の店名が記されている。

小学校を卒業して15年。もうその頃の友人とは既に合わなくなって久しい。

仕事に明け暮れ、学生の頃から友達付き合いが続けられている知り合いも少ない。

出会いもなければ彼氏もいない。

昔懐かしの思いと、淡い期待を抱き、私は同級会に参加する事にした。

同級会当日。

会場である料亭に入り、自分の名前を告げる。

店員に案内され宴会場に通されると、そこには、5名の男女が居た。

見覚えが有るような、無いような…。

その時、躊躇う私に声をかけてくる男性の声があった。

「君、まさか、A美さんかい? 僕だよ、K藤だよ! いやぁ、久しぶりだねぇ!」

えっと、…K藤、K藤…。

「え、あなた、K藤君なの! 久しぶり! 背、伸びたね!」

「そうだよ、K藤だよ! 忘れちゃたのかい?」

「そんな…、忘れる訳ないじゃない。ただ…あんまり変わってて、驚いただけだよ。」

「そりゃ15年ぶりの再会やからな。嫌でも変わるさかい!」

K藤君と私が再会の挨拶をしていると、突然関西弁風の口調の男性が会話に割り込んできた。

「いやー、久しぶりやね、A美ちゃん。元気しとったか?」

「あ、あなた…、まさかS木君なの! なんで関西弁なのよ?」

「いや、小学卒業したらな、両親の都合で大阪に引っ越す事になってな。

まあ、聞き取りにくいとアカンさかい、なるべく標準語で話そうとしてるんやが、上手くしゃべれのうてな…。聞き取り辛くて堪忍な。」

私(A美)とS木、K藤が入り口で早速話し込んでいた時。

上座に座っていた1人の男性が立ち上がった。

「どうやら、時間になったみたいですね。

6人だけですか…。急な呼び掛けだったし、15年ぶりなんだから、仕方ないですかね。

じゃあ、同級会を始めましょう!」

彼の合図で、各種料理とアルコール類が運ばれてくる。

「「「かんぱーい!!」」」

彼の音頭による乾杯の合図と共に、グラスが交わされ、同級会の幕が開けた。

カクテルを口に含みながら、私は隣に座るK藤君に、

「今、乾杯の音頭をとってくれた彼が、幹事の雨野枷夫君だっけ?」

と申し訳無さげに尋ねる。

K藤君はビールジョッキを傾けながら、

「違うよ。彼はクラス長をしていたY田君。彼の真面目さは、15年経っても変わらないらしいね。」

と、私に教えてくれる。

「じゃあ、幹事の…雨野君は、まだ来ていないんだね。」

「うん。席も一つ空いてるし…。その内に来るんじゃないかな?」

K藤君の口調の歯切れが悪い。何故だろうか?

幹事不在の同級会、か。

…まあ、いいか。

カクテルを片手に、私は隣に座るK藤君と会話をしながら、周囲を見渡す。

「だからほんまな、日本の政治なんてのはなぁ」

関西弁のS木君がビール瓶とグラスを持ちながら、早口で喋っている。

その隣には、これまた甲高い声で喋る女性が1人。

「まったくあなたは、好き放題言って。酒臭いから絡まないで頂けます?」

確か彼女は…、R子さんだったかな。あの高飛車な物言いは、なかなか忘れ難い。

上座に目を向けると、体格のいい背の高い男性と、クラス長のY田が、日本酒を飲み交わしている。

あの男性も、記憶にある。

確か、T橋君だ。腕の筋肉の盛り上がりはY田君の二倍はある。

かつては、その体格でクラスで苛めっ子的な存在だったT橋君と、真面目一筋のY田君が、静かに酒を飲み交わす光景を見ると、なんだか時の経過を実感する。

…私も歳をとったな。

今日、この同級会に集まったのは、

まずは、私(A美)。

クラス長で真面目一筋の、Y田君。

関西弁で口の達者な、S木君。

腕っ節の強い、T橋君。

我儘高飛車お嬢様のR子さん。

私の隣に座るK藤君。

そして、未だ見ぬ幹事、雨野枷夫君を加えた7名。

以上の6名と幹事1名が、今宵の同級会に集まる面子である。

「なあ、幹事の雨野は、まだ着かないのか?」

飲み会から1時間程が経過した頃、T橋君の野太い声がした。

「まったくだわ。幹事が1時間も遅刻するなんて、どうかしてるわね。」

R子さんの嫌味を含む言葉がそれに続く。

「そうやな。功労者たる幹事がいなきゃ、格好つかないわな、ほんま。」

S木君の関西風口調。

「なあ、ところでさ。」

「なんだい、K藤君?」

私の隣で、K藤君が口を開く。

「こんな事言ったら、みんな、気を悪くするかもしれないけどさ…。」

「何よ? はっきり言いなさいよ。」

歯切れの悪いK藤君の言葉の先を、R子さんが促す。

「うん。あのさ…、

雨 野 枷 夫 って、誰 だ っ け ?」

その場にいた誰もが、一瞬息を飲んだ。

…。

…。

「い、いやいやいやいや、何を言ってるんや。雨野っつったら、そう、あいつ…や…。」

しどろもどろに口を開くS木。

だか、その動転ぶりから察するに、虚を突かれたのは間違いないだろう。

再びの沈黙。

…。

その沈黙に耐え切れず、口火をきったのは、私だった。

「ごめんなさい。実は私も、雨野枷夫君って人、覚えてないの。

ねえ、雨野君って、誰だったっけ?」

私の言葉に、皆が続く。

「実は、俺も…」「私も」「俺も」

この場所に集められた誰もが、雨野枷夫という人物を知らなかった。

この会が、雨野枷夫という人物に集められたにも関わらず、である。

…。

奇妙な沈黙が続く。

15年ぶりの再会だ。

忘れている人物の一人や二人いるのは仕方ない。

だが、6人全員が一人の人物を忘れるなんて、あり得るだろうか?

偶然であると信じたい。だが、それを偶然と信じていいのか、解らない。

誰に集めれたのかすら不明瞭な飲み会を前にして、足元が揺らぐような感覚を、私は覚える。

その時だ。

畳の地面が揺れた。

文字通り、足元が揺らぐ。

違う。揺れているのは足元ではない。

気分が悪い。目眩がする。視界が歪む。

何事だろうか?

私は額に手をやりながら、周囲を見渡す。

そこには、私と同様に頭を抱えて蹲る同級生の姿があった。

中には既に畳の上に突っ伏している人もいる。

…いったい何が…。

混乱する思考と揺らめく視界の先が、闇に閉ざされ、私は意識を失った…。

ザラつく畳の感触が、手に触れた。

目を開けた時。

夢を見ているのだと思った。

なぜなら、そこは、私が見慣れた現実の光景とはあまりに乖離した場所だったからだ。

私は、倒れた姿勢のままで、床に手を這わす。

冷たいコンクリートの床が、私の手に触れ、軽い痛みを覚える。

その痛みをきっかけに、私は意識を現実に呼び戻した。

…ここは、どこだろう?

私は身を起こした。

頭が痛い。

額に手をやりながら、辺りを見渡す。

薄暗い部屋だった。

灯りは天井にぶら下がる一つの裸電球だけ。

赤茶けたパイブ類が壁から飛び出し、古い水の匂いとカビ臭さが鼻をつく。

四方は壁に囲まれ、窓一つ見当たらない。

出入り口と思われる鉄の扉には、何重にも南京錠が掛けられ、素手ではとても出れる気がしない。

ボンヤリとした頭のまま、部屋内を見渡していた私だが、右側の壁の近くにあったオブジェを見た時、「ヒイ!」と小さく叫び声を挙げた。

殺風景で無機質な部屋の中で、そのオブジェは異質だった。

そのオブジェは、例えるなら、『刃の戦車』だった。

それは、蟷螂をそのまま巨大化させ、腹と胸に当たる部分を極端に肥大化させ、それと反比例に頭に該当する部分を縮小したかのような見た目の、ワゴン車サイズのオブジェだった。

そんな形のオブジェが、蟷螂が両の手の刃を擡げるかのような姿勢で固まってる。

まるで生きているかのような、気味の悪い光沢の肥大化した蟷螂戦車を、私は身震いしながら見つめる。

…そうだ! 他の皆は、どうしたんだろう!

私は、先程まで一緒にいた同級生を探す。

私の視界の先で、五人の男女が、私と同じく、床に倒れていた。

「ねぇ! 起きてよ! 大丈夫!」

動転したままの頭で、私は横たわるK藤君の身体を揺する。

「うーん、ここはどこだい?」

K藤君が身を起こし、私と同じ疑問を私にぶつける。

当然、私は答えられない。

私とK藤君は、手分けして、他に倒れている四人の同級生の身体を揺すり、意識を取り戻させた。

目を覚ました四人含め、私達六人は、この部屋から出る術を探した。

だが、

「ちょっと! ここは何処なのよ! カビ臭いじゃないの!」

「…何処かの地下室…って感じですね。」

「そんなのは見りゃ解るわ。問題は、ここからどうやって出るかっていう事ちゃうんか?」

「くそ! まるで監禁状態だ! 蹴飛ばしてもビクともしねえ!」

「うーん。普通の方法では、出るのは難しいかもね…。どうしようか…。」

思い思い部屋内を散策した私達が得た結論は…、

ここは簡単に出れる場所ではない、という事、

そして、私達六人は、何者かにここに監禁されているという事、

その二点だった。

皆が出口を探すそんな中、当然私も出口を探していたが、そんな中で、私は部屋に中にある

蟷螂戦車のオブジェが気になって仕方なかった。

なんで、こんな気持ちの悪いオブジェがこんな場所にあるのだろうか…。

『ようこそ、諸君』

その時、部屋内に男性の声が響いた。

同級生の声ではない。

その声は、天井に備え付けられたスピーカーから聞こえる。

「誰や!」

『ゲームをしよう』

S木の声を無視して、スピーカーの声は、妙な事を言い出した。

『僕が君達をここに閉じ込めた。

この部屋から自力で出るのは、絶対に不可能だ。

助けも来ない。

君達は、永遠に…いや、死ぬまで、この部屋から出れない』

「おい、お前!! 何を言ってやがるんだ! 早くここから出しやがれ! ぶちのめすぞ!」

T橋が叫ぶ。

『ははは。T橋君は相変わらず乱暴ものだね。それでは長生きできないよ』

名前を呼ばれギョッと慄くT橋。

スピーカーの声の主は、私達の事を知っているのだ。

知っていて、ここに閉じ込めたのだ。

『雨野枷夫。それが僕の名前だ。

君達は覚えてないだろうがね』

雨野枷夫…。その名前を聞いて、私達六人は戦慄する。

この声の主が、同級会を開催して私達を集めて…、この場所に監禁したのか…。

「雨野枷夫君。君は何がしたいですか? 僕達をここに閉じ込めて、どうしようというんですか?」

Y田の質問に、雨野枷夫は答える。

『言っただろ。ゲームをしよう』

「…ゲーム?」

『十五年前。僕は君達に殺された』

「こ、殺され…?」

『きっと君らは、僕の事など、覚えてもいないだろう。

だから、思い出して欲しい。そして教えてほしい。

【誰が僕を殺したか】、を』

じゃ、じゃあ、この声の主は、…幽霊なの?

「ど、どういうことだ!」

『言った通りだよ。

僕は、僕を殺した【同級生】を探している。

そして、僕を殺した【犯人】は、君達六人の内の、誰かだ』

「そ、その犯人を探せと言うのか?」

『そうだよ。

【犯人】を僕に教えてくれれば、僕に捧げれば、他の五人は逃がしてあげる。

僕は、僕を殺した【犯人】に復讐したいだけなんだ。

犯人じゃない他の同級生は、逃がしてあげる』

「…【犯人】が解ったとして…、その【犯人】は、どうなるんだ?」

『勿論、殺す』

即答だった。その言葉に、躊躇いも戸惑いもなかった。

暫しの沈黙。

それを破ったのは、真面目一辺倒なY田だった。

「ふ、ふざけないでくださいよ! そんな適当な理由で、殺されたらたまりません! そんなふざけた…ゲーム?…とかどうでもいいから、早くここから出してくださいよ!」

Y田がスピーカーの先の雨野枷夫に向かって叫ぶ。

『そう。君は、このゲームに参加してくれないんだね。

じゃあ、君はいらない』

その瞬間。Y田の胸が裂けた!

後方から飛び出した刃に、突き刺された!

「グ…ゲ…ゴボオ…」

胸を貫かれ血を吹き出すY田。叫び声は声にすらならず、血の飛沫を撒き散らすだけだった。

私は、恐る恐る、Y田を貫く巨大な刃の根元に目を向ける。

肥大した蟷螂型の巨大なオブジェ。

そのオブジェの湾曲した腕の刃が、Y田を貫いていた。

その光景に、私達五人は、声も出ない。

オブジェの、もう一方の腕の刃が動いた。

刃がゆっくりと、Y田の腰の辺りを突き刺す。

ズブリと深く刺さる二本の刃。その直後、蟷螂が両の腕を開く。

Y田の身体が、上半身と下半身に分かれて引き裂かれた!

二つに分かれたY田の身体が…血を滴らせる二つの死骸が、冷たい床に転がった…。

Y田の死体を見て、残された私達六人は悟る。

ゲームに付き合わねば、逃げ場のない空間で、この蟷螂オブジェに殺されるのだ、と。

『さあ、ゲームを始めよう』

先程と変わらぬ平然とした雨野枷夫の声が、スピーカーから流れた。

スピーカーの隣には、小さな監視カメラがあった。

雨野枷夫君は、あのカメラで私達の挙動を逐一観察しているのだろうか?

「…何をすればいいんや?」

『言ったでしょ? 僕を殺した犯人を見つけてくれ、と。

僕は君達の誰かに殺された。

これは復讐なんだ。

だけど僕は誰が犯人か解らない。

でも君達の誰かだという事は確実なんだ。

思い出せ。あの日を。あの記憶を。

そして、差し出せ。犯人を。

そうすれば、出してやる。

さあ、お前達の罪を思い出せ』

…その言葉を最後に、スピーカーの雨野枷夫の声は、途絶えた。

「な、なんなのよこれは!! どうなってるのよ! なんで私が殺されなきゃならないの!!」

R子が泣き叫ぶ。

「煩いな! ピーピー泣き喚くんじゃねえよ! 苛つくんだよ!」

T橋が泣き叫ぶR子に向かって大声で怒鳴りつける。

「何よ! あんたこそ煩いのよ! ビビってるからって、私に八つ当たりしないでよ!」

R子も負けずに言い返す。

「なあ、誰が犯人なんよ。早く名乗り出てくれんかな。そうすれば、一発解決やで。」

「ちょ、ちょっと! あんた、こんなゲームに乗るつもりなの?」

「そや。それが一番手っ取り早い解決方法やがな、わいは、何処かの誰かのせいで死ぬんは嫌やさかいな。」

S木とT橋、R子の三人が醜く言い争う。

「ちょっと、みんな!」

その時、三人の口論を遮るようにK藤が声を出す。

「まあ、ちょっとみんな、落ち着こうよ。

S木君も、そんな言い方は良くないよ。

雨野は、僕達に犯人捜しをさせる気かもしれないけどさ、それは奴の思う壺じゃないのか?」

冷静なK藤君の声に、皆、押し黙る。

K藤君の言う事には、私も同意見だった。

それに、私には気になることが一つあった。

「ねえ。」

私は皆に向かって話しかける。

「さっき、スピーカーを通して、あの…雨野枷夫君の声を聞いたけど、あの声に、なんだか聞き覚えがあった気がするの。

みんなはどう? 

誰か、雨野枷夫君の事を思い出せる人、いないかな?」

「うん。A美さんの言う通りだ。

相手の正体がつかめれば、今の状況を打破できる方法が見つかるかもしれない!」

私の言葉に、K藤君が同意する。

暫しの沈黙。

五人は、十五年前の小学校の教室の光景を記憶の底から引っ張り出す作業に没頭する。

「ねえ。私、思い出したかも。」

最初に口を開いたのは、R子だった。

「確かさ、いつも教室の隅っこのほうで大人しくしてる男子が一人、いなかったっけ?」

「…ああ、いた気がする。影が薄くて、無口で…。」

「うん。思い出してきた…。彼が、…雨野枷夫…。」

みんなの中に、薄ぼんやりと一人の男子の姿が思い浮かんだ。

「…何か、彼に関係する思い出とか、誰か覚えてないかな?」

「うーん。何かあったかな…。大人しい奴だった気がするして…。」

「そうだ! 確か遠足の時、彼、一人だけ帰ってこなかったこと、なかったっけ?」

「ああ、あったあった! 懐かしいな…。あれ、かなり大騒ぎになったさかいな。わいも覚えとるわ。」

「うん。確かあれは…。」

私達は、互いの記憶を紡ぎ合わせ、15年前の小学生の記憶を、雨野枷夫の実像を掴む作業を始める。

ヒントは、15年前の幼い頃の記憶だけ…

〜雨野枷夫に関する記憶①〜

小学生の頃。

それは、社会見学を兼ねての遠足の時だった。

頂上に着いた時、私達は昼食と共に、一時の休憩をとった。

だが、同級生が仲良く昼食を取る中で、一人だけ隅っこで弁当を食べている男子がいた。 

クラスの中に必ず一人はいる、妙に大人しい奴。それが、雨野枷夫だった。

私達の記憶では、雨野枷夫は、いつも一人ぼっちだった。

その時も、雨野枷夫は1人ぼっちで、弁当を食べていた。

雨野枷夫が1人でいる事に、1人でいた事に、クラスメイトの誰1人、関心を向ける事は無かった。

いてもいなくても変わらない。

雨野枷夫は、そんな奴。

それが、同級生の中にある雨野枷夫への共通認識だった。

だが、そんな雨野枷夫に、ガキ大将だった1人の少年が、声をかけた。

「一緒にかくれんぼをしよう」と。

そのガキ大将にとっては、ただの数合わせの為に雨野枷夫に仕方なく声をかけただけであり、なんの気のない戯れだった。

だが、雨野枷夫がその時に浮かべた表情は、驚きと戸惑い、そして少しの嬉しさが入り乱れた、複雑なものだった。

かくれんぼを初めて30分後。

「そろそろ帰るぞ~」

引率の教師が、休憩終了の指示を出す。

遊びを切り上げ、帰り支度を始めるクラスメイト。

皆が帰り支度をする中で、まだ雨野枷夫はかくれんぼを続けていた。

教師の下山の指示に、雨野枷夫は気付いていなかったのだ。

だが、一緒にかくれんぼをしていたクラスメイトは、雨野枷夫が未だに一人でかくれんぼを続けていている事を知っていた。

けれど、声をかけなかった。

別にどうでもよかった。

幼心故に、1人くらい置き去りにしても、どうという事は無いだろうと思っていた。

寧ろ、雨野枷夫を1人山に置き去りにすること事態、どうでもいいと思っていた。

いてもいなくても変わらない。

いなくなっても誰も気にしない。

それが、クラスメイトから見た雨野枷夫の印象だったのだ。

二日後。

雨野枷夫は、山の観察員に保護された。

雨野枷夫の衰弱は激しく、暫く入院が必要な程だった。

教師は、遠足の時、何故雨野枷夫が単独行動をしたのか、クラスメイトに問い詰めた。

その時、真実を知る者は教室の中にいたはずである。

だが、真実を告げる者…「かくれんぼの最中に、わざと置き去りにしました」と告白する者は、皆無だった。

みんな、この件に巻き込まれたくなかった。

雨野枷夫程度の存在に煩わされるのは、皆、嫌だった。

だから、クラスメイト全員、口を揃えて証言した。

「雨野枷夫君は勝手に単独行動をしていた」と。

以来、雨野枷夫には、変わり者のレッテルが貼られ、精神的な疾患でも患っているのではないかという噂まで立てられ、更に孤立を深めていく事になる。

記憶を紡ぐ行為は、私達と雨野枷夫の存在を繋いだ。

そして、

「ねえ…。確か、あの遠足の時、雨野枷夫をかくれんぼに誘ったのって、T橋じゃなかったっけ?」 

R子の指摘に、私とK藤君、S木君の三人は、同時にT橋君に目を向ける。

慌てるT橋君。

「ま、待てよ! いや確かに、俺はあの時、雨野枷夫をかくれんぼに誘ったけど…、

あれで雨野枷夫が死んだわけじゃ無いだろ!」

「確かにそうやが…。T橋が雨野枷夫に恨まれていても、なんらおかしゅう無い事は、証明されたんやないか?」

「そうよ! 雨野枷夫がT橋を恨んでいるなら、T橋君を差し出せば、万事解決じゃない!」

S木君とR子さんが、とんでもない事を言い出す。

その言葉を聞いたT橋君は、

「なんだと! もう一度言ってみろ!!」

と、二人の言葉に憤り、声を荒たげ凄む。

このメンバーの中で、腕っ節でT橋君に叶う者は、誰もいない。

「い、いやぁね。冗談よ、冗談。本気にしないでよ。」

「そ、そやそや! 同級会を見殺しにする者がおるわけやいやろ!」

自らの失言を、しどろもどろに誤魔化す二人。

「黙れ! もうお前らなど信用できるか!」

T橋君は、怒りを隠す事なく、私達四人から距離を置き、反対側の壁を背にして座り込んでしまう。

この距離では、会話すらままならない。

歩き去るT橋君の拳は、怒りか憤りが、はたまた恐怖かで、プルプルと震えていた。

「まずい展開だな。」

K藤君が、私の耳元で小さく囁いた。

「もし、T橋が本気で暴力に訴えれば、僕ら四人が束になっても叶わない。

彼が暴走すれば、彼は僕ら四人にとって、あのオブジェの次に脅威となる存在だ…。」

かと言って、一度仲間から疑われたT橋君の憤りが、そう簡単に収まるとは思えない。

「…T橋君の事は一先ず仕方ないとして…。

他には、雨野枷夫について、覚えている事は何かないかな?」

K藤君が、他に雨野枷夫の実像に繋がる記憶の欠片が無いか、私達に尋ねる。

「そ、そうやな。まずは雨野枷夫の正体を探るのが先決やな。T橋の事は、後で考えよ。」

「そ、そうね! そうしましょ!」

2人も、K藤君の提案を受けた。

そして数分後。

「私…思い出した。」

「ほ、ほう! どんな話や?」

〜雨野枷夫に関する記憶②〜

雨野枷夫は、同級生にとってどうでもいい奴。

誰が言ったかは解らない。

だが、それは同級生の間では常識となった

雨野枷夫がどうなろうと、誰も気にしない。

それは、先の遠足の一件で証明された。

集団の中で孤立した者は、誰にも気にされない。

いてもいなくても変わらない。なんの影響もない。

だから、無視したところでクラスメイトという集団になんら害をもたらさない。

ある日。クラスの女子の体操服が盗まれた。

同日、迂闊にもカバンの中に入れ忘れていた給食費が盗まれらた。

体操服を盗まれたのは、R子だった。

そして、給食費を盗まれたのは、S木だった。

犯人は誰だ!

叫ぶS木。

泣き喚くR子。

その騒ぎを収めるために、「犯人を探そう」と声を発する同級生がいた。

真面目なY田である。

犯人捜しが、放課後の学級会で行われた。

「クラスの皆さん。誰かが同級生の金銭と衣服を盗みました。この教室の同級生の中に泥棒がいるなんて、とても残念です。」

Y田が主張する。

「そうだそうだ! 大人だったら警察に突き出すところだ!」

声を挙げるS木。

「体操服を盗むなんて、とんだ変態よね! 信じらんない!」

R子が喚く。

泥棒と変態。

そんな印象を持たれては、その後の学校生活に支障が出るのは言うまでもない。

だからこそ、この場で名乗りを挙げる人間など、いるわけがない。

それは、いくら時間が経過しようとも変わらなかった。

「誰も名乗り出ないな。」

S木は落胆する。

「そうですね…。このまま待っていても、犯人が名乗り出ることは無いでしょうね…。」

教室に中に、うんざりとした空気が流れている。

誰もが、だんだんと犯人探しにどうでも良くなってきていたのだ。

そんな時、担任の教師が席を立った。どうやら用事を思い出したらしい。

担任がいなくなった教室。

残されたクラスメイト。

その時である。

S木が言った。

「多数決で決めよう!」

…。

「あら、それ、いいわね!」

「うん、そうだな、それなら平等だ!」

「じゃあ、えーっと…雨野枷夫君が犯人だと思う人は、手を挙げてください。」

教室にいた同級生全員が、手を挙げた。

「はい。満場一致で、雨野枷夫君が犯人だと決まりました。」

教室に拍手が起きる。

その時、担任が教室に戻ってきた。

「先生!犯人がわかりました!」

S木が先生に叫ぶ。

「私の体操服を盗んだの、雨野枷夫君だったんです。」

二人の声を聞いた担任は、

「そうなのか? 雨野?」

と、雨野枷夫を問い質す。

担任に疑われた雨野枷夫は、小さく呟いた。

「僕じゃありません。」

その時だ。

教室内に声が挙がった。

「私、雨野君が一人で教室にいるの、見ました」

「あ、俺も見ました。なんか、袋を持ってました」

クラスメイトから次々に言葉が発せられる。

全て雨野枷夫が犯人だと主張する内容だった。

クラスメイトは、早く帰りたかったのだ。

早くこの下らない茶番を、さったと終わらせたかった。

「そうか。みんなが言うんじゃ、そうなんだろう。おい! 雨野! 職員室に来るんだ!」

以降、雨野枷夫には、泥棒と変態のレッテルが貼られ、

教師や親からの信用すら無くなった。

それは、小学生である子供にとって、世界から孤立するに等しい状況である。

二つ目の記憶を紡ぐ作業は終わった

気不味い沈黙が流れる。

私とK藤君は、S木君とR子さんの二人を見つめた。

「もしかして、雨野枷夫君が恨んでる人って…。」

「アホ抜かせ!」

S木が、T橋に聞こえないように注意しながら、私の言葉を否定した。

「良く考えてみいや! わいらにとって大事なんは、生き残る事や。

雨野枷夫が求める犯人なんてどうでもええんや!

重要なのは【1人を犠牲にすれば他の皆んなは助かる】という事なんや。

だったら、T橋1人犠牲にすることを躊躇う必要なんてない!

わいは、助かりたいんや!」

T橋君に聞こえない声でS木君はまくしたてる。

「…でも、同級生だよ…。」

「同級生だからって、なんなのよ!」

R子も声を荒たげる。

「15年ぶりに再会した人間なんて、他人と同じよ。死のうが生きようが、あたしには関係ないわ。

あたしもS木君に賛成。

あたしは死にたくない。

T橋君を犯人として差し出しましょう! 」

R子さんも、S木君の意見に賛同を示した。

「…でも、どうするのよ? 腕っ節じゃ、T橋には敵わないわよ?」

「そやなぁ…。」

R子さんとS木君は、T橋くんを雨野枷夫に差し出す算段を始めてしまった。

私とK藤君は、その行動を見守るしかなかった。

…確かに…。いくら同級生といえども、15年間会っていなかった人達だ。今の私とは縁もゆかりも無い。

でも…。でも…。

私の躊躇いを気にする事も無く、R子さんとS木君は作戦を練っている。

「T橋が犯人だと雨野枷夫伝われば、後はあの妙な形のオブジェが殺ってくれる筈や。

わいがT橋の気をひくさかい、その隙にR子は、T橋が犯人である事を、監視カメラに向かって叫んでくれ。」

「わかったわ。でも、あんたは大丈夫なの?」

「な〜に。わいには、護身用に持っとったナイフが一丁ある。なんとか抗ってみせるわ。」

と、どこに持っていたのか、S木は一本のナイフを懐から取り出した。

S木とR子は、早速行動を開始する。

その行動には、焦りがあったように思う。

雨野枷夫君を殺したのは誰なのか?

今だはっきりした回答は得れない。

だが、このまま記憶を辿る作業を繰り返す行為は、自分達の首を絞めかねない。

そう判断したのかもしれない。

懐にナイフを忍ばせたS木が、何気無い風を装って、壁にもたれ掛かりながら苦虫を噛み潰したような表情のT橋君に近付く。

「なあ、T橋君。さっきは疑って、ほんま悪かったわ。堪忍してくれや。」

「…。」

T橋君は、のっそりと立ち上がり、

「本気で思ってるのか? S木!」

と、S木を見下ろし問い質す。

「ほんまやほんま! それにな、わいら皆で考えて、ここから出る方法を思いついたんや。」

「ほ、本当か! なんだそれは!」

T橋君は、S木君の陽動に食い付いた。

その隙に、R子さんが監視カメラに近付く。

だが、R子さんのその挙動をT橋君は見逃さなかった。

「おい、S木! お前ら何か企んでないか?」

「そ、そんな事あるわけないやないか! わいら、同級生やろ…。」

「それを信じろというのか?」

T橋君がS木君の胸倉を掴む。

その拍子に、S木君の懐に忍ばしていたナイフがT橋君の目に留まった。

「そのナイフはなんだ?」

やばい! 気付かれた!

「R子! 早く伝るんや!」

焦るS木君は、R子に向かって叫ぶ。

「あ、うん! 雨野枷夫君! 聞いてる! あのね、犯人はT…」

ドガン!!

T橋君の巨大な拳が、S木君の顔面を撃ち抜く。

R子さんの足元に、顔面を血に染めたS木君が叩き付けられた!

R子さんの言葉が止まる。

顔面を血に染めたS木君は、ピクリとも動かない。

「お前ら! やっぱり俺を犯人扱いするんだな! 許せねえ!」

「で、でも、あんたが犯に…」

「黙りやがれ!」

T橋君の腕が、R子さんの細い首に伸びる。

「が、ガガガァ…」

巨大な腕に締められ、R子さんは身動きが取れない。

このままじゃ、R子さんが殺されてしまう!

どうすればいいの?

その時。

カチャリ。

私の足元に、小さな金属音が鳴る。

それは、S木のナイフだった。

殴られた衝撃で、S木の懐から飛び出たのだ。

このナイフを使えば、T橋君を止められるかもしれない。

でも…、どうしよう…。

私が迷っている間にも、R子さんの首にT橋君の指が深くギリギリと食い込んで行く。

…。

「クッ!」

私の隣にいたK藤君が小さく呻くと、足元にあったナイフを手に取った。

そして、

「やめろー! T橋!」

ナイフを手にしたまま、T橋に踊りかかった。

「な、何しやがる! K藤! グッ!!」

T橋君が妙な声を挙げる。

そして次の瞬間。

T橋君の喉に深々とナイフが突き刺さっている光景が見えた。

「ゴボ…コポコポ…グハ!」

喉から噴水のように血を巻き上がらせながら、T橋君が地面に倒れる。

その噴き出した血は、地面に力なく倒れるR子さんを赤く染め上げる。

倒れる二人を、呆然として見つめながら、立ち竦むK藤君。

「仕方なかったんだ…。仕方なかったんだよ…。」

K藤君が、小さく呟く。

…そうだ。T橋君を止めなきゃ、R子さんは死んでたんだ。

でも…。

私は、血だらけで倒れるR子さんに寄り添い、脈を取る。

…R子さんは、既に死んでいた。

T橋君の剛腕に、絞め殺されていた。

そして、そのT橋君も、喉を切り裂かれて死んだ。

「俺は、T橋を殺しちまった…。けど、けど…」

「ち、違うよ! K藤君は、R子さんを守ろうとしただけだよ!」

「けど、だけど…。」

「仕方なかったんだんだよ…。」

そう言いながら私は、T橋君の血で手を赤く染めたK藤君の肩に優しく手を添える。

K藤君と私は、暫く黙ったままだった。

そして、やっとK藤君が口を開いた。

「…君は優しいんだね。どうして僕が小学生の頃、A美さんに惚れなかったのか不思議だよ。」

「こんな時に、なに言ってるのよ。ふふふ。」

四人の同級生が血だらけで横たわる異常事態であるにも拘らず、私とK藤君は、笑い合うのだった。

「私ね、今は一人だけど…、小学生の頃は結構、男の子からモテたんだよ。」

「へー、そうなんだ。」

「うん。ラブレターをもらった事もあるんだ。今思い出したんだけどね。」

「誰からもらったの?」

「えっと、誰だったっけかな…。確か…」

私は、今まで忘れていた、過去の記憶を思い出す。

〜私の淡い思い出〜

ある日。私の机に中に、一つの封筒が入っていた。

なんだろう、これ。

私は何気無く封を切る。

それは、ラブレターだった。

差出人がどれだけ私を慕っているか。

拙い文字と文章で綴った手紙だった。

差出人の名前は…、修正液で消されていた。

私は…、

差出人の解らないその手紙を、大切に机に仕舞い込んだ。

その日の放課後。

そのラブレターが、

黒板に貼り出された。

内容を赤裸々に読み上げられた。

ラブレターを黒板に貼り出したのは、S木君だった。

S木君は、掃除の時に、ゴミ箱からこの手紙を見つけたそうだ。

私は、手紙を捨てた覚えはない。誰かが机から取り出したのだ。

S木君にとっても、その行為は決して私に意地悪をしようとしたわけではないだろう。

ラブレターの受取人であった私の名前は、一切表に出なかったからだ。

「誰だよ、小っ恥ずかしい文章書きやがって」

「だっせえな! 今時ラブレターかよ」

「どうせ、ウジウジした暗い正確に奴が書いたんだろ」

「もらった相手も可哀想だよな」

「そうよね、気持ち悪かっただろうね」

みんなの声を聞いている内に、私の中に恥ずかしさが込み上げてきた。

恋文を貰って浮かれている自分が妙に恥ずかしくなった。

だから私も、「そうよね、あり得ないわよね」と、同級生の声に賛同した。

S木君は、このラブレターの書き手が、雨野枷夫であると言った。

S木君に確証はなかったはずだ。

だが、こんな根暗な事をするには、雨野枷夫以外にあり得ない。そう言った。

その意見には、妙な説得力があった。

そして、みんなで、雨野枷夫に罵詈雑言を浴びせた。

「ほんっと、恥ずかしいやつだよな」

「そうだよ。お前はうんこなんだからさ、人間様を好きになっちゃいけないの」

「まあ、お前を便所に流すわけにはいかないからさ、この手紙だけ、便所に捨ててくるわ」

誰も雨野枷夫を庇わない。助けない。それが常識。私達の当たり前。

雨野枷夫は、それ以来、他人と喋るのを止めた。

誰とも関わる事なく、己の感情を殺したまま、

…卒業した。

私の淡い思い出は、話の途中から雨野枷夫の記憶に変わった。

そうだ。雨野枷夫は、確かに学校から卒業した。

卒業した筈だ…。

じゃあ、誰が雨野枷夫を殺したんだ?

「やっぱり、S木が犯人じゃないのか?

S木の行動は、雨野枷夫に恨まれて当然だ…。」

S木君は、地面に倒れたままである。

「でも…私、例えS木君が犯人だとしても、自分が助かるために誰かを犠牲にするなんて、嫌だよ。」

「そうか…。そうだよね…。」

K藤君の声は、暗かった。

その時である。

ズサリ。

顔面を血だらけにしたままで、S木君が身体を起こした。

「ガボォ。お前ら、わいを雨野に…グフ…捧げて助かる気やな…。そんな事、許されるおもうんか…。」

「S木君! 大丈夫? 動かないで!」

「そうだよ! 凄い出血だよ!」

私達は、S木君を諌めるた目に声をかける。

だが、虚ろな目をしたままのS木君は、言葉に耳を貸すことはなかった。

「わいは、わいは、助かりたんや! 死にたくないんや!」

さながら血だらけの怪物のように、S木君は私に踊りかかる。

「おんどれが死ね! 死ぬんや!」

S木君に掴みかかられた私は、地面に倒れ込む。

倒れこんだ際、私は地面に強かに後頭部を打った!

目の前に光が散らつく。

意識が定まらない。

S木君が私に跨り、クラつく頭をガシリと掴んだ!

さらに地面に頭を叩きつけるつもりなのだ!

殺される!

その時、

私に馬乗りになっていたS木君の体重が、軽くなる。

ぼんやりする視界の先で、K藤君がS木君の髪を掴んでいた。

そのまま、K藤君は、手にしていたナイフを、S木君の腹に深々と突き刺した!

今日何度も、幾度も目にした血の噴水が、私を染める。

S木君の体が、力なく地面に横たわる。

S木君は、死んだ。

私の視界の先には、血濡れたナイフを手にしたK藤君が、悔しそうな表情を浮かべて立っていた。

K藤君は、小さく呟く。

「仕方なかったんだ。」と。

その時だ。

『犯人は、誰だ』

室内に声が響いた。

スピーカーから流れ出る声。

声の主は、このゲームの主催者…雨野枷夫。

『さあ、犯人は誰だ!』

雨野枷夫が、回答を促した。

ゲーム。この状況をゲームと言っていいのか、解らない。

だが、現在、この部屋に生き残ってるのは…

喉を切り裂かれ血溜まりに倒れるT橋君。

首を締められ醜く顔を膨張させたR子さん。

顔面と腹を真っ赤な血に染めたS木君。

そして、ゲームの始めに、二つに切り裂かれたY田君。

みんな、死んだ。

あと残っているのは、

私と、K藤君の、二人だけ。

『さあ』

『さあ』

『さあ』『さあ』

『さあ、お前らの罪を、思い出せ!』

その言葉と共に、部屋の隅で動きを止めていた蟷螂型の刃の戦車が、動き出した。

腹に該当する部位が、大きく開く。中には、ビッシリと鋭い刃が牙のように並んでいる。

咎人を咬み殺す牙。

その牙が、私たちに迫る。

『犯人は誰だ』

死の牙と刃を目前にして、私は考える。

私は、K藤君に、二度も助けられた。

K藤君のおかげで、助かった。

そんなK藤君が、犯人の筈がない。

『誰が、僕を殺した?』

雨野枷夫が私達に問い掛ける。

「A美だ。」

私の隣で、声がした。

声の主は、…K藤君だった。

「…え?」

トン。

K藤君が、私を軽く突き飛ばす。…刃牙の戦車に向かって。

「…え?」

「悪いな。俺は、助かりたいんだ。誰かを犠牲しなければ、俺は助からない。」

「そ、そんな…」

私の体が、戦車が開く口に吸い込まれる。

「そうそう。あのラブレターな。本当に雨野枷夫が書いたんだ。

で、俺がA美の机から取り出して、S木に見つかるように、捨てたんだ。」

…K藤君の声が最後まで私に届くことはなかった。

私の体は、戦車に噛み殺された。

「さあ、雨野枷夫君。ゲームは終わった。ここから出してくれ!」

『だーめ』

「は?」

刃の戦車の、湾曲した二本の蟷螂の刃が、K藤を貫いた。

刺し貫かれた腹と、喉と、そして口から大量の血潮を撒きながら、

「な、なんで…」

K藤は、言葉にならない声をつぶやいた。

君達は、こう考える。

「私じゃない」

「私は関係ない」

「だから悪くない」

「私以外の誰かが、殺したんだ」

そうやって、

自分が助かる為に、

他人のせいにして、

醜く殺し合った。

【僕を殺した犯人は誰か?】

答えは、

【みんなで殺した】

お前らは、協力して、俺を殺したんだ。

無自覚に。無慈悲に。集団で。

その矛盾に気づいているか?

お前達は、その記憶すら、忘却の彼方に忘れさった。

もとより、誰一人、助ける気など無い。

同級生は、僕を含めて37人。

あと、30人。

さあ、お前も15年前の罪を思い出せ。

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読み応えがあってとても良かった!

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