「車中にて◆螺鈿◆」あんみつ姫ひとり旅③

長編26
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「車中にて◆螺鈿◆」あんみつ姫ひとり旅③

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「お姉さん、起きて、起きて。」

小さな掌に右肩を二回叩かれました。

「えっ、あぁ、なに?」

「これ、落ちて来たよ。」

うっすらと開けた目に、ぼんやりと映るものを見て、私は跳ね上がりました。

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男の子が、巾着袋の紐をぶら下げ、いたずらっぽい笑みを浮かべながら、目の前に立っているではありませんか。

(「そんなバカな!」)

「お休みのところ、たいへん申し訳ございません。さっき、列車が揺れた時に、網棚から落ちてきてしまったみたいなんです。」

向かいの席に座る母親は、男の子に早く返すよう促しますが、なかなか手放そうとしてくれません。

「きれいだね。この袋。中に何が入っているの?」

「お願い。返してくれないかな。それ、とっても大事なものなの。」

この時期の子どもの好奇心は、一旦走り出したら止まらない新幹線のようなもの。

そうそう簡単に収まるものではございません。

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「T君、いいかげんにして、お姉さんに返しなさい。」

(T君っていうのか。よし!)

「あのね。さっきね、音がしたんだよ。ブーンって。」

(うわぁ、音まで出てるんだ。どうしよう。火傷や怪我でもさせたらまずいかも。)

「ごめんね。中を開けて見せることが出来ないものなんだ。お願い。」

私は、萩で購入した「夏みかんキャンディ」を出し、T君の目の前に差し出しました。

「萩の夏みかんキャンディあげるから。ね、ねっ。」

「いらない。お菓子ならあるもん。」

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私の慌てふためく様子が、余計に彼の好奇心を掻き立てる結果となってしまったのでしょう。

今度は、新しいおもちゃを手にした子どものように、目をらんらんと輝かせながら、中をしきりと弄り始めました。

(「まずい。どうしよう。まずは、安全確保!」)

私は、なんとかして、T君を身体ごと捕まえようとするのですが、列車の揺れに翻弄され、思うように捉えることが出来ません。

おろおろする私を尻目に、

「やーだよ。あげない。」

T君は、ズックを脱ぎ、椅子の上に立ちあがりました。

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やがて、後部座席に誰も座っていないことを確認すると、クルリと身を翻し、後部座席にお腹をひっかけ、袋の紐を左右にぶらぶらと揺らし始めました。

(あぁ、中身飛び出しちゃうよ。)

「お願い。T君。止めて!」

私の叫び声とほぼ同時に、

「T!いけません。返しなさい!」

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華奢な身体の母親からは、似ても似つかぬ怒鳴り声が挙がり、ビクン T君の身体が硬直し、巾着袋が彼の手から、ぶんと放たれました。

左右に大きく振られ、反動が付いていた巾着袋は、大きな弧を描きながら空中を舞い、中から石「アレ?」が飛び出しました。

石は、カツンと音を立て、窓にぶつかり、私の足元に転がり落ちました。

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「何をしているのです。お姉さんに謝りなさい。」

母親の剣幕に、

「ごめんなさい。ごめんなさい。」

T君は、さっきまでのやんちゃぶりが嘘のように、しょげかえり、

「これぇ、返します。ゆるして・・ください。」

自分と母親の席の間に落ちた中身のない巾着袋を私に手渡すと、エンエンと号泣し始めました。

母親は、普段、温厚な人で、大きな声などめったに挙げない人なのでしょう。

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泣きじゃくる我が子を抱き寄せ、諭すように言いました。

「もういいわ。人が嫌がるようなことは二度としないこと。約束してね。」

母親の ほんわかとした温かい声のトーンに、固唾をのんで見守っていた乗客たちも、ほっとしたようでした。

「うん。もうしない。お姉さん、ごめんなさい。」

「もういいよ。泣かないで。お姉さんが、ちゃんと入れておかなかったのが悪いの。ごめんね。僕・・・。」

私は、手元にある「夏みかんキャンディ」の箱を男の子に渡し、そっと頭をなでました。

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「どうも申し訳ございませんでした。」

しきりに謝る母親を前に、

私は、足元に落ちた石を拾い上げ、傷や欠けがないことを確認し、巾着袋の中へしまおうとしました。

その時です。

「ちょっと、待って。それ、見せていただけません?」

再び大きな声が響きました。

母親が、石を持つ私の手元を凝視しているではありませんか。

「これですか。」

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私は、巾着袋に入れようとしていた石を、左の掌に載せ、そっと母親の目の前に差し出しました。

「これは、どちらで手に入れましたか。骨董屋?それとも、どなたからのもらい物?」

「あぁ、これは、もらい物です。一昨日M駅で、あるご婦人から頂いたものですが。」

「そうですか。やはり買ったものではないのですね。」

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母親は、私の掌を目の前に引き寄せたかと思うと、

「そう、これよ。これだわ。」

と驚嘆の声をあげました。

「ごめんなさい。ちょっとよろしいかしら。」

それから、私の掌にある石を右手の親指と人差し指でつまむと、そっと自身の左の掌にのせました。

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隣りには、やんちゃな男の子がおります。

また、落としはしないかと、ハラハラしながら見守る私を 母親は、じっと見つめ、それから、徐に尋ねました。

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「あの、これは、何かご存じですよね?」

その真剣な眼差しに、私は、一瞬たじろぎました。

「いえ、解りません。多分、石だと思うんですけど。頂いたものの、私もどう扱ってよいのか困っているのです。どんなことでもいいんです。もし、わかっていることがございましたら、教えていただけないでしょうか。」

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母親は、急に険しい表情になり、咎めるような口調で私を問い詰めました。

「何かわからずに、譲り受けたのですか?」

「はい。とにかく、所有者は、あなたと言われて。あれよあれよと言う間に、事情も解らぬまま頂戴してしまったのです。」

私は、正直に答えました。

「そうですか。ならば致し方ありませんね。」

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それから、ヒックヒック嗚咽している我が子の涙を、そっとハンカチで拭くと、小声で耳打ちいたしました。

男の子は、こくりと首を縦に振り、

「ねぇ、夏みかんキャンディ食べていい?」

と聞きました。

「いいわよ。食べ過ぎないようにね。」

「うん。わかった。」

いつもの母親に戻り、安心したのでしょう。

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男の子は、抱かれていた膝の上から、滑り降り、元の席に腰を落ち着けると、私のあげたキャンディの箱から一個取り出し、にっこりと笑って口に含みました。

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母親は、しばらく石ののった掌を上下左右に動かし、あらゆる方向から眺めておりましたが、ある一か所に目を留め、まぁ!と感嘆の声を挙げたかと思うと、さっきまでとは違う 柔らかな笑みを浮かべました。

「これには、装飾が施されてあります。あなたは、これを、ゆっくりとご覧になったことありますか。」

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「えぇ、最初は、頂き物ですし、なにやら怖くて、あまりきちんと見る機会もなかったのですが、良く見ると、紺やピンクや淡い緑といった色が棒状に組まれていて、綺麗だなぁと。今朝も朝の日差しに照らされ輝いて見えました。」

「あなた、螺鈿ってご存知?」

「あの貝殻の裏側にあるキラキラした部分を用いて作る工芸品でしょうか。」

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「これは螺鈿。螺鈿の装飾が施されたハコよ。」

「ハコ?」

「そう、一見綺麗な石のように見えるけどハコです。」

「ハコ・・・ですか?」

「そう、ハコ。とても小さいハコです。」

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「ハコというからには、開くんですよね。」

母親は、その問いには一切応えず、

「見事な出来だわ。寸分の隙もない。良く出来たハコです。そして、この螺鈿の技術は、どう細工したら ハコがハコ

としてより美しく輝くのか、良く知っている職人の手によるものです。かなり高額で取引されるものと思われます。」

そうつぶやくと、目を閉じ目頭を押さえました。

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「あのー、この中に何か入っているんでしょうか。音がしたり、動いたり、色が変わったりするみたいなんですが。」

「・・そうですか。既にそんな状況なのですね。」

「えぇ。さっき、息子さんが、おっしゃっていたように、ブーンと音がしたり、色が変化したりしました。」

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母親は、ふぅと小さく息を吐き、しばらく、何か考え事をしておりました。

キャンディを食べ終えた男の子は、幼稚園の教材用のカバンから小さな絵本をそっと、取り出すと、中を開いて読み出しました。

随分丁寧な装丁が施されたかなり高価な絵本です。表紙には、英語?いや日本語ではない外国語のタイトルが付けられておりました。

「これ、外国製の絵本?」

「うん。そうだよ。だって、僕のお父さんの国○○○○○○。○(今は違う名前の国になっている国)の本だよ。お父さんね、今そこに住んでいるの。お父さんね、絵本作っているんだよ。それもこわーい絵本。」

「T君。黙って。静かに読みなさい。お母さんたちは、これから、大切なお話をするの。だから、決して、邪魔をしてはいけませんよ。」

「はぁい。」

おやおや、随分と聞き分けの良いこと。少し、お利口さんになったかな。

母親は、そう言うと、居住まいを正し、私に向き合いました。

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この車両には、結構な人数の乗客がいるのにもかかわらず、車内は、水を打ったような静けさです。

もう、始発のS駅から、かなりの時間が経っておりました。

その間、ずっと、私の隣の席である10番のC席は空席のままです。

まるで、私たちの話を、この車両いえこの列車自体が、固唾をのんで聴いているかのようにも感じられました。

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「少し寒くなってきたわね。」

母親は、T君に薄手の長袖Tシャツを着るよう促し、自身もカーディガンを羽織りました。

私は、枕代わりに手すりに巻き付けていたジャケットを外し、双肩に掛けました。

ひんやりと広がる澄んだ空気が、なぜか肌に痛く感じます。

「もうお彼岸過ぎたんですよね。」

「ええ、もう秋です。日もだいぶ短くなりました。」

この冷たさも秋のせいでしょうか。

それとも・・・・。

と言いかけて、止めました。

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「私も、詳しいことは良く解らないのだけれど・・・。」

母親は、なぜか私から視線をそらし、記憶の糸を辿りよせるかのように、ぽつりぽつりと話し始めました。

「私の出身は、▲◆県のH市です。H市は今でこそ、そこそこの街になりましたが、当時は、かなりの田舎でした。父はそこで、螺鈿職人をしておりました。

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私が、そう、この子ぐらいの時だったかしら。いえ、もう少し大きかったかもしれません。父が、これと全く同じものを作っているのを見たことがあります。」

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「もう連日連夜寝食も忘れ、その仕事に打ち込んでいました。やっと完成して、無事、依頼人に手渡すことができたのですが、父は、その日を境に螺鈿職人を辞めました。その仕事は、父にとって、最初で最後の大仕事だったのだと思います。」

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(回想なのでところどころ不明な箇所あり。すみません。)

あれは、今から三十年ほど前のことになります。

じとじととした厭な雨の降る夜でした。

父の元を、真っ黒いスーツに身を包んだ初老の男性が訪ねて参りました。

雨が降っているとはいえ、たいそう蒸し暑い夜なのに、随分そぐわない格好をしているなぁと訝しく思いました。

次に、印象的だったのは、香りです。そう、その人から、お仏壇の匂い、白檀の香りがしたのです。

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一瞬、当時の子供向けのテレビ番組に出てくる「メフィストフェレス」が、我が家にやってきたものと小躍りいたしました。

私は、たいそう珍しい訪問客に興味を持ち、母に、お客様に挨拶をしてもよいかと尋ねました。

いつもなら、二つ返事で良いと言ってくれる母でしたが、この日は、なぜか顔を曇らせ、居間に近づいてはいけないと言うのです。

してはいけないと言われることはしたい。しなさいと言われることはしたくない。そんな年頃です。私は、どうしても、その男の人を見たくてたまらなくなりました。

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しぶる母に無理を言い、居間の中に入らない、声は出さない、静かにする、ということを条件に、やっと許してもらいました。

母が茶菓を出し、戻ってくるまでの間、居間の外で待っていましたが、男の声がぼそぼそとした乾いた音にしか聞こえず、父と二人、何を話しているのかさっぱり解りません。

ただ、廊下にいるだけなのに、いつもは明るく賑やかな居間が、なんとも重々しく、おどろおどろしい空気に変わっていたのが怖くて怖くて、子ども心にも、これは、只事ではないと思いました。

雰囲気から察するに、仕事の依頼であることは間違いないのですが、父は、なんとかしてこの依頼を断ろうと必死になっている様子が伝わって来ました。

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私は、この時、この男の人は、本当に「メフィストフェレス」なのかもしれないと気味が悪くなりました。

ドラマも現実も区別のつかない年頃です。

どうしてテレビのキャラクターが我が家を訪ねて来たのか知りたいと思いました。

父の本当の正体は、『悪魔くん』かもしれないと。

その時は、本当にそう思いました。

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母が、部屋下がりをし、台所に行った隙を狙って、これ幸いとばかり、居間の隣りにある納戸に入り、壁に耳を押し当てました。

当時私たちは、祖父の家に住んでおりました。

その家は、戦災に遭わずに済んだため、戦前のたたずまいを残したままの随分古い家でした。

納戸の漆喰の壁は、あちこち、ひび割れ、居間と納戸の境の壁には隙間が開いておりました。

その隙間から、居間から漏れる糸のような光が差し込んでおりました。

私は、隙間の間から、なんとかして居間の様子を覗けないだろうかと頑張ってみましたが、さすがにそれは出来ませんでした。

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ただ、その代り、廊下にいた時には、良く解らなかった二人の会話が手に取るように、はっきりと聴きとることが出来たのです。

話しの内容については、断片的にしか理解できませんでしたが、それでも、十分すぎるほど衝撃的なものでした。

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この男の人には、私より少し上の女のお子さんがいらっしゃっるとのこと。

女の子にしては、随分 おてんばで、毎日、木登りをしたり、鬼ごっこをしたり、男の子とばかり遊んでいるような元気なお子さんのようでした。

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その子が、ある日、遊びから帰ってくると、見たこともない、小さな石のようなものを持っていたそうです。

これは、何か?と母親が尋ねると、

「解らない。気が付いたら、手に持たされていた。」

と答えたのだそうです。

「誰からもらったの。」

と聞いても、さっぱり埒が明かず、

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「アレを入れなければ大変なことになる。」

「ハコが泣いている。」

「ハコが動く。」

と意味不明なことを口走るようになり、家族たちも、どうしたものかと困っていたのだとか。

毎日、おかしなことばかり口にするため、ハコを取り上げて、隠してみたところ、

「ハコはどこに行ったの。」

と気も狂わんばかりに大騒ぎし、ひきつけ、痙攣まで起こしたとのこと。

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これは、何かよからぬものが、とり憑いたに違いないと、

近くの寺の住職に相談したところ、普通のお祓いでは手も足も出ないと言われ、

途方に暮れていたそうです。

やがて、この噂を聞きつけた、ある人の紹介で、こういった類の研究をしている学者の元を訪ね、憑きものを何とかしてほしいとお願いしたのだそうです。

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ところが、その学者の言うことには、

この子は、

誤って「キンキ」を犯してしまった。

これは、石ではなく「ハコ」だと。

幸い、まだ「アレ」の脅威から免れているが、いずれ時間の問題であろう。

この子の身が危ない。早急に「ハコ」を覆うように言われたと。

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「ハコ」である以上、いつ蓋が開くとも限らない。

そうなっては大変なことになると、言われたそうなのです。

では、なにで覆えばいいのかと質問したところ、

「アレ」の求める「ハコ」は、天然由来の美しいもので装飾されることを望んでいる。

だから、そういった類のものを探し当てよ。と。

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「アレ」

「ハコ」

「キンキヲオカス」

二人の間で交わされる会話の中に、この言葉が出て来た時、私は、身体中が泡立つような感覚に襲われたことを覚えています。

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父は、最初、ばかばかしいとばかりに、

「今のこの時代に、そんなことがありえましょうか。」

と一笑に付していたのですが、

「信じていただけないのであれば、これをご覧いただきたい。」

と、何かを父の前に提示したようでした。

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それは、察するに、当事者である女の子、つまりその男の人の娘の写真ではないかと思います。

「おぉ、これは、なんともむごい。」

父の驚愕する声が響きました。

「これで、信じていただけましたか。」

「・・・・・・・・」

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「実はですねぇ。私にも既に災禍は及んでおりましてね。この暑さにもかかわらず、こんな恰好をしているのには訳があるのですよ。」

と、黒いづくめの衣装を脱ぎ出し、父の前で、上半身、肌を晒して見せたようでした。

「文明の世にあっても、こういうことは実際にあるのです。お願いします。この仕事は、あなたにしか頼めない。」

男の人は、そう言って、頭を下げている様子。

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一方、父はと言えば、うぐっ、という何とも言えない苦渋に満ちた声をあげ、居間を出て、トイレに駆け込み、しばらく戻って来ませんでした。

あまりのことに、嘔吐してしまったと。

後から、話しておりました。

男は、脱いだ服を、ゆっくりとまた身に着け始めたようでした。

きゅっ、きゅっ、という衣擦れの音がし、

時々、

「うぅ、うぅ。。」

と苦しげな声を発しておりました。

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それから、ズズズズズズと畳を擦る音がし、なにやら、居間の周りを歩き出したではありませんか。

やがて、男は、歩きながら、五本の指で、壁の側面をなぞり出しました。

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指でなぞる感覚が、壁一枚隔てた隣の納戸で、今まさに耳をそばだてている私の方に向かって、じわじわとやって来るのが解りました。

隙間だらけの壁です。

男は、居間と納戸の間の隙間の前に立ち止まると、隙間に唇を当て、

「おやぁ、誰か、そこにいるのかな?」

と、息を吹きかけるように話しかけて来たのです。

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(「ひぃ・・・」)

私は、悲鳴をあげそうになりました。

テレビドラマの「メフィストフェレス」じゃない。

私は、恐怖のあまり声も出ませんでした。

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すると、その時です。

「Mちゃん!どこ。お布団敷くの手伝って。」

と私を呼ぶ母の声が廊下に響きました。

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私は、気づかれないように、そっと静かに納戸の戸を閉め、

脱兎のごとく、その場を後にいたしました。

ちょうどその時、トイレから出てくる父に、危うく、ぶつかりそうになりましたが、

父は私など全く眼中になく、男の居る居間に入ろうか、このまま帰ってもらおうか、どうしようか、うろうろと逡巡しているようでした。

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私は、毎夜 二階の部屋で、祖母と一緒に寝ておりましたが、その日は、いつまでたっても、祖母が上がってくる気配がいたしません。

布団に入っても、あの男の人が、階段を上ってここまでやって来るような気がして、ガタガタ震えておりました。

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柱時計が、11回鳴り終わった頃、ガラガラと玄関の引き戸が開き、

「それでは、よろしくお願いします。」

「お気をつけて。」

「おやすみなさい。」

という声が微かに聞こえ、数分もしないうちに、階段を上ってくる祖母の足音を聞き、やっと眠りにつけると思いました。

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祖母は、私がまだ起きていることも知らず、

「あぁ、困ったものだ。あの客は、○○だよ。」

と言いました。

いわゆる、忌み言葉と称される「隠語」です。

祖母は、そのまま横になり、ぐうぐうとイビキをかいて寝てしまいましたが、私は、

あの男の人が、また家に戻って来るような気がして、朝までまんじりとも出来ませんでした。

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いつも父の作業場に出入りしていた私は、その日以降、作業場の中に入ることを許されませんでした。

父は、連日連夜、作業場にこもりきりで、母も随分気をもんでいたようでした。

そんなに頑張っても、父の作業は、かなり難儀し、出来上がったのは、約束の期限ぎりぎりでした。

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男の人は、一週間後に、また訪ねて参りました。

やはり、あの日のように、黒づくめのスーツを身にまとっておりましたが、一週間前より、かなり痩せて、というよりは、とても、やつれて見えました。

落ちくぼんだ目と、どんよりとした瞳。なのに眼球だけは、ぎらぎらと怪しげに光っておりました。

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そして、男の人の放つ 白檀の香りは、もはや香りと呼べるようなものではなく、すえた異臭をカモフラージュするための、いかがわしい悪臭に思われて仕方ありませんでした。

髪は男の人にしては長く、襟足の所まで伸びており、その人の醸し出す雰囲気と言いますか、空気が、どうにもこの世のものとは思えません。

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私は、一週間前の好奇心が嘘のように、母の後ろに隠れ、ぶるぶると震えておりました。

聞くところによると、その男の人の女の子、つまり娘さんですが、昨日、お亡くなりになったというのです。

私は、戦慄いたしました。

父も母も祖父母も、絶句していたと思います。

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ところが、男の人は、父の手によって、綺麗に装飾された「ハコ」を見て、

「あぁ、これで娘の霊も浮かばれるだろう。」

大いに満足したと喜んでおりました。

「なんと申し上げてよいのか解らない。せめて、もう一日だけでも早ければ。」

と父は、何度も頭を下げて弔意を口にしておりましたが、

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「いやいや、人の命と言うものは、人がどうこうできるものではない。ましてや、このような状況では、いたしかたないのでしょう。」

と随分寛大な言葉を発し、結果はどうあれ、それでも、約束だからと、かなりの額のお代を置いて行ったようです。

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男の人の言うように、たしかに、仕方のないこととはいえ、父は、たいそう落胆しておりました。

せめて、あと一日早く仕上げていればと。

そればかり申しておりました。

父は、男の人の娘さんと、私の姿がダブっていたのかもしれません。

娘を持つ父親として、どんなことをしても命だけは守ってあげたいという親の願いを聞いてあげようと思ったのでしょう。

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でも・・・・

でも・・・・・

私は、この男の人の話は、全て嘘ではないかと思いました。

そう、「ハコ」に螺鈿の装飾をしてもらいたいがための口実。

つまり、作り話ではないかと。

そして、なぜ、無名の螺鈿職人だった父の元を訪れたのか。

あの男の人は何者なのか。

今となっては、全てが謎です。

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それというのも、あのあと、男の人のくれた名刺に電話をしてみたそうですが、すでに取り払われた後で電話は通じ

ず、書かれてあった会社は、架空の会社でした。

そもそも、男の名前自体が偽名であったと。

後から聞きました。

父が、あの日以来、螺鈿職人を辞め、別の仕事に就いたのも頷けるような気がいたします。

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(再び車内)

私は、話を聞きながら、身体が心底冷えるのを感じました。

時は、昼を回り、夕刻に近づこうとしておりました。

(逢魔が時になる前に聞いておこう。)

「ハコとおっしゃいましたよね。これは、俗にいう、何かを封じるためのものなのでしょうか。」

「詳しくは解らないわ。ただ、父の話では、アレには、名前はあるらしいけれど、忌み名らしく、その名を口にしてはいけないという暗黙の了解があるみたい。要するに、アレは、とてつもなく怖い存在だと。」

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「とてつもなく怖い存在・・・たとえば、どんな?」

「肉体も魂も全て喰いつくす。」

「えぇぇぇ、なんで、なんでそんな怖ろしげなものを。」

「あの後、父なりにいろいろ調べたみたい。

でも、結局、曖昧模糊としていて、どうにも釈然としないままだったわ。

アレは、ハコの所有者を自分で選ぶと言われていてね。人から人へと渡るか、何らかの事情で渡せなかった場合、アレ自身が探して歩くらしいの。」

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気が付くと、私の喉は、からからに乾いておりました。

私は、数々の疑問を投げかけました。

「アレに選ばれるための条件ってあるんですか。」

「解らないわ。ただ、アレに気に入られるかどうかだけね。アレの基準は、この世の秤では量れないもののようだと父は話していたわ。」

(ますます混乱してきた私。アホちゃいまんねんパーでんねんの私でもOKなのか?)

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「もし、もしですよ。仮に、間違ってアレの気に入らない人が所有した場合は、どうなるんでしょう。

その、依頼人の男が話したように、禁忌を犯したりした場合、殺されてしまうんでしょうか。」

「そこまでは、私も聞いていないし解らない。そもそも、男の話した禁忌とは、どんなことを意味するのかすら解らないの。

ただ、これは、私と父の推測なのだけれど、もしかしたら、その女の子は、偶然か故意か解らないけれど、アレの本当の名、つまり、忌み名を口にしてしまったのかもしれないわ。」

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「酷いですよ。まだ、小さい子どもじゃないですか。それも女の子。」

「災禍とは、老若男女を問わず襲ってくるものよ。それが、たまたま小さな女の子だったということ。

私は、あの男の人も、そう長く生きなかったのではないかと思っています。」

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「実はですね。あの、これ、動いたり、音を出したり、発火したりしているんです。

それって、私が所有するのを拒んでるってことなんじゃないんでしょうか。」

「父の話だと、ハコはあくまでもハコにすぎず、アレを入れるのはハコの所有者だと。」

「私は、譲り受けただけで、何かを入れた覚えはないんですけど・・・・。」

「無意識のうちに、このハコにアレの力を入れてしまった。つまり封じたのでしょうね。

あなたは、見かけによらず凄い人なのかもしれないわ。

きっと。どんなことも包括してしまうような。そうね、清濁併せ吞める人というか。

つかみどころのない人というか。」

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「あぁ、なんか大変なことになってしまったみたいです。

頂いた方にお返ししたくなってきました。

でも、あのご婦人は、その依頼人の男のように、メフィストフェレスなんでしょうか。

白檀の香りをさせていました。

どこの誰かもわからないし。こんなものもらってしまって私、この先、どうなってしまうのでしょう。」

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「ごめんなさい。私、なんの力にもなってあげられないわ。

ただ、アレは、安寧に暮らす分には、何もしないし、なにも起きないのではないのかしら。

あの男の人の手元に「ハコ」があるのかどうかすら解らないのですから、あなたも、あまり深刻に捉えないことです。」

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(こんな話を聞かされて、あまり深刻に捉えるなと言われても・・・・。心臓に悪いです。という気持ちでした。)

「なんとなくですけど、アレとハコと所有者について、輪郭だけでも理解できたんで良かったです。」

とはいうものの、謎が更に謎を生み、ますます解らなくなってしまったのも事実です。

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私は、気を取り直し、明るく前向きにとらえようと思い始めました。

「それと、もしかしたら、このハコを作ったのはお父様かもしれないですものね。嬉しいなぁ。そうだ!そういうことにいたしましょう。」

「ありがとう。そう言っていただけると、慰められるわ。」

怖ろしい話の後に、母親の心和む笑顔を見て、私は救われたような気がいたしました。

そして、こうなったのも、運命ならば、受け容れなければならないんだろうなぁと思いました。

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「実はね、つい先日、父を亡くしましたの。父は、螺鈿職人を辞めた後、小さな工務店で働いていました。

晩年は、海の見えるところに住みたいと言って、S市に移り住みました。まぁ、あの後も、いろいろありました。山に囲まれた因習としがらみに呑まれた生まれ故郷。辛い思い出のある場所が嫌だったのかもしれません。」

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「そうだったんですか。ご愁傷様です。お辛いでしょうね。お母様は、今も お元気でいらっしゃいますか。」

差し出がましいこととは思いましたが、数奇な運命に翻弄された ご一家の消息が、とても気になりました。

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「父の葬儀と告別式を終え、これから、母の居るI市に寄る予定です。母は、高齢で寝たきりなんです。

かろうじて、私とこの子だけは、解るみたいですけどね。

それから、私には夫がいるのですが、今事情があって、お互い離れて暮らしておりますの。

そう、晩年の父と母のようにね。」

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「こんな可愛いお孫さんと、素敵な娘さんに看取られて、お父様は、お幸せだったのではないでしょうか。

お母様も、お会いできるのを楽しみにしておられると思います。

離れていても心は一つって言いますでしょう。そうですよ。

いつも一緒にいるから、お互い分かり合えて幸せだとも限らないし。」

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私は、気休めを言いました。

気の利いた言葉も掛けてあげることのできない、幼くて愚かな自分。

情けなくてたまらない瞬間でした。

「そんな、あなた、他人の幸せを気遣うよりも、ご自身のことを案じなさいな。」

母親は、そういうと、ハンカチで顔を覆い、肩を震わせて泣きました。

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「お母さん。見て。夕日がきれい。」

湖面が黄金色に染まり、車内は、まばゆいまでの光に照らされました。

「宍道湖ですね。」

沈みゆく陽の光は、母と子の横顔をほんのり赤く染め、湖のほとりには、彼岸花が咲いておりました。

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「さぁ、もう時間だわ。お支度して。」

男の子は、言われるままに絵本を閉じ、リュックに入れると、母親の手を握りました。

「すみません。私たちは、次の駅で下りなければなりません。」

「えぇっ、そうなんですか。まだまだ聞きたいことや、お話ししたいことが たくさんありますのに。」

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その人は、

「お願い。今一度、ハコを見せていただけないかしら。」

と言いました。

「ええ、どうぞ。なんだったら、差し上げますので、お持ち帰りください。なーんちゃって。」

私は、恐怖心と一抹の淋しさをごまかすように、おちゃらけて見せました。

父親の作かもしれない。

そうだったらどんなにいいだろう。

そう思ったに違いないと、私は、胸が熱くなりました。

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その人は、愛おしむようにハコをさすり、そっと、涙を拭いました。

「ありがとう。もういいわ。」

大事そうに巾着袋に入れ紐で縛ると、

「はい!やっぱりこれは、あなたのものよ。」

と言って、私の掌にのせてくれました。

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「大阪まで行かれると伺いました。今晩は、大阪にお泊りですか?」

「はい。大阪の友人の所へ参ります。」

男の子が横から口を挟みました。

「あのね。お母さんね、大阪の大学の先生なんだよ。」

「これ!いいの。そういうことは言わなくても。」

「どちらの大学ですか。」

「現在は、隣のN市にある○○大学で非常勤の講師をしております。母の元で、もう二・三日過ごし、落ち着いたら、大阪に戻る予定です。」

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私は、どきりといたしました。

何を隠そう、そこは、今晩泊まらせてもらうA子の通う大学なのです。

危うく、

(「そこは、今晩泊まる私の友人が通う大学です。」)

と言いそうになり、ぐっと言葉を飲み込みました。

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「あのね。お母さんの名前はね。H・Mっていうの。」

「素敵な名前ね。」

「うん!」

T君は、自慢のお母さんの手を取り、愛くるしい目で見上げました。

(お母さんのこと好きなんだね。)

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「では、今は、大阪で息子さんとお二人でお暮しなんですね。」

「ええ。大阪には、古くからのご縁がありましてね。」

「どうぞお元気で。お気をつけてお帰り下さい。」

「あなたも。」

「お姉さん、さようなら。元気でね。キャンディおいしかったよ。」

「うん。私も、T君と会えてうれしかった。いろいろありがとうね。」

私は、T君と力強い握手をいたしました。

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H・Mさんは、去り際に、

「あ、それから、このハコに纏わるお話は、あくまでも迷信というか伝説の類のものとお考えになられた方がよろしいかと。

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旅は、予想外に疲れるもの。心身弱れば、それだけ闇の住人や魔に狙われやすくなります。

幻覚も悪夢も見えてしまうことでしょう。

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さっきもお話したけれど、何もしなければ何も起こらない。

何もないまま安寧に過ごした所有者もいると聞いています。

おそらくは、アレに選ばれたことさえ、解らずに、ハコを所有し、生涯を終えた方もいるのではないか。

つまり、すべての所有者が災禍を被るわけでもないと。父は、そう申しておりました。」

凛とした口調で、はっきりと語る言葉に、私は、安堵の思いがいたしました。

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列車が止まり、ドアが開きました。

黄昏時のホームには、既に秋の気配が漂っております。

「もう、秋ですね。お彼岸も過ぎたことですし。」

では・・・

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「あの、もしかしたら、またお会いできますよね。」

「ご縁があればですけどね。」

うふふふふ・・・じゃあね。

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さまざまなものを背負った母親は、背筋をぴんと伸ばし、男の子の手を引いて、ドアの外へと出て行きました。

私は、通り過ぎる列車の窓から、二人の姿を目で追いかけましたが、

既に日も落ち、出口へと向かうホームの階段は、思ったよりも暗く、その姿を見つけることはできませんでした。

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JR大阪駅には定刻に着き、私は、中央改札口の前でA子を待っておりました。

約束の時間を過ぎても、A子はなかなか現れず、結局会えたのは、それから1時間半後の午後10時少し前でした。

私は、出会いがしら、A子に、こっぴどく叱られてしまいました。

A子は、新大阪駅で、私を待っていたというのです。

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「昨夜、電話で、午後7時40分に大阪駅に着くって言ったじゃない。」

「あのな。特急◆◆は、終点が新大阪やで。あんた、どの列車でやってきたん。」

新大阪駅で、何度も到着列車を確認し、駅でアナウンスまでしてもらったのに、私の姿が見えないと大慌てしたのだそうです。

一か八かで大阪駅まで来て、中央改札口を見たら、一時間半以上待たされて、呆けた顔の私がいた・・・

というわけです。

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「このドアホ!」

「うそ。ちゃんと大阪駅に着いたよ。たしか、地下三階ホームだったかな。

そこから、ここに上がって来て待っていたんだよ。」

「ほんまか?いつものように寝ぼけてたんとちゃうか?まあ、ええわ。とにかく会えてよかった。」

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梅田で、私鉄に乗り換えた私たちは、久しぶりの再会に浮かれておりました。

道すがら、私の大きなリュックを見てA子は、

「あんた昨夜、どっから電話したん?雑音が うるそうて よう聞き取れんかったわ。

あれから、福知山線経由の長距離特急を時刻表で調べたんや。

そしたら、あんたの言ってはった特急◆◆は、新大阪駅が終着駅やんか。

てっきり聞き間違えたと思たんよ。だから、新大阪でまっとったん。

あんた、昨夜は、何処に泊まった。そばに男はべらせおって。この!」

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「うそよ。私一人しかいなかったよ。泊まった民宿に電話ないっていうから、

海岸沿いの公衆電話からかけたんだよ。公衆電話ボックスに男なんているか?いるわけないわ。」

「ほうかぁ?雑音に混ざって、ざわざわと数人の男の声してはったで。」

一瞬、ぞわっとしました。そう、また、あの時の恐怖が蘇ってきたのです。

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私は、話題を変えることにいたしました。

「そうそう、今日な、来る途中の車内で、あんたの大学の非常勤講師とかいう女の人に遭ったよ。

30代後半ぐらいの、華奢な感じの人だった。5歳ぐらいの男の子連れていたよ。

名前は、H・Mとか言ってた。」

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「知らんなぁ。聞いたこともないわ。まして、非常勤なら、どこぞの大学と掛け持ちちゃうか。

そんな小さい子もいてるんやろ。うちの大学ちゃうわ。」

と言いながら、少し考え、

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「ん!ちょっと待て。H・Mて。もしかして・・・。」

「ご主人、海外に住んでいるらしいよ。訳あって、別々に暮らしているらしいけど。」

「だったら勘違いや。H・Mなんて、どこにでもある名前やしな。」

「何?心当たりあるの。」

「うん。でも、別人やろ。もうおらん。もしかして、N市やったらK大違うか。非常勤講師ぎょうさんおるで。」

ふーん。

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そういえば、男の子が、母親の名前を告げた時、嫌そうにしていたもんなぁ。

「実はね。私、すんごく怖い体験したんだ。後から教えるわ。」

「そんなん いらんわ。もしかして、あんたに変なもん憑いて来とるんと違うか。」

「おぉ、憑いて来てると思うわ。魂も肉体も喰いつくす凄い奴。」

「あかん、怖い話は、止めてや。頼む、うち、あんたと違うて、怖がりなんよ。」

A子の弱点ゲット!私は、反撃に及びました。

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「それと、さっきの公衆電話の話なんだけどぉ。雑音は、波の音ではないのかもしれないよぉ。」

「やめぇ、それ以上話したら、もう泊めへんで。」

「じゃあ、お土産あげない!」

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「ドアホ。もう二度とひとり旅すな!」

「いや、止めない。死ぬまで続ける。人生は旅だ!旅こそ人生だ。」

「うるさいわ。このくそダサいリュック。明日、淀川に捨てたる。」

夜道を冗談を言い合い、ド付き合いながら、A子の住むN市のアパートへと向かいました。

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A子も私も、今ではすっかりオバサンになってしまいました。

この年になると、長期にわたる ひとり旅など、そうそう出来るものではありません。

お金はあっても暇がない。

暇があってもお金がない。

体力も気力もない・・・。

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たしかに、便利な世の中になりました。

それでも、なんとなく生きにくく感じるのは、どうしてでしょう。

今と比べると、不便でどうしようもなかった時代。

それでも、最高に楽しい時を過ごしました。

もちろん、楽しいことばかりではなかったのですか。

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若いとは、もうそれだけで素晴らしいことです。

どうぞ皆様、一日一日を大切にお過ごしください。

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えっ?

アレはどうなったかって。

それがですね。

いなくなってしまったんですよ。

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ある日突然。

忽然と姿を消しました。

今は、どなたの手元にあるのか見当も尽きません。

そのうち、皆様の元を訪れるかもしれませんね。

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人生の旅の途中、見知らぬ誰かに「もし・・」と声を掛けられたら、あなたはどういたしますか。

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では、また近いうちにお会いいたしましょう。

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新作アップいたしました。
旅の続きです。
前回までの「謎」が、少し解明?されています。
お楽しみください。
次回は、ブルートレインでの出来事を書きたいと思います。