中編4
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トンネルで操るもの

此れは、僕が高校2年生の時の話だ。

季節は春。

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・・・・・・・・・。

鬱陶しい春雨の季節が終わると、嘘みたいに底抜けな青空が顔を現した。

雲の無い空は青く、雨水を蓄えた木々は其の強い日差しでぐんぐんと成長していく。

人だってそうだ。新しい環境に徐々に適応し、木々が枝葉を伸ばすのと同じく、自らを高めていく。

風薫る、なんてよく言ったもので、空気にまで、空へと拐うような強さと、瑞々しい緑の匂いが感じられる。

前へ前へ。上へ上へ。

そんな意味の分からない鼓舞をされている気さえしてくる。

僕は、そんな底抜けに明るい季節が、昔から嫌いだったーーーーーー

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・・・・・・・・・。

「コンちゃんがメランコリックに外を眺めてる。もう季節の変わり目なんだなぁ・・・。」

「他人の憂鬱を風物詩みたいに言うの止めろ。」

感慨深そうに呟いた友人を睨み付けると、そいつは可笑しそうに笑いながら話を続けた。

「だってさ、夏から秋になるときも、秋から冬になるときも、冬から春になるときも、毎回毎回律儀に窓の方見ながらボンヤリしてるから。もう季語とかになる勢いだよ。」

彼はピザポ。僕の友人だ。

有名な俳人の歌に出てきたりして、等と妙な例えをしながら、また一人で笑う。

僕は益々不機嫌になった。

「止めろ。他人を日本の古典芸能に組み込むな。」

「あー可笑しい。」

「話を聞け。止めろってば。」

一応言ってはみるが、目の前の相手は何処吹く風、と言った風情でカラカラと笑い続けている。

・・・何を言っても、恐らく通じないだろう。

僕は思い切り溜め息をして、机の上に頭を横たえ、もう一度窓の外を見た。

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・・・・・・・・・。

「コンソメ。寝てんのか。」

唐突に降って来た声に顔を上げる。

「薄塩。」

「昼寝してるとこ悪いな。」

相変わらず、詰まらなそうな顔をしている。

そんなことを思いながら身を起こし、改めて彼の方を見た。

彼の名前は薄塩。

「渡す物がある。」

きっと何時もの手紙なのだろう。

彼の姉ーーーーのり姉が僕達を厄介事に巻き込む為の、青い便箋に青いインクのペンで書かれ青い封筒に入れられた、青い手紙。

因みに通称は青紙。戦争の出征命令が書かれていたという赤い紙を意識しているのが明白な名前だ。

不謹慎の声が上がることも有ろうかと言う俗称だが、実際、拒否権が無い所は同じだし、のり姉のお供は毎回が苦労と災難に満ちている。頭痛と胃痛の連続だ。

そんな経験を日々させられている僕達は、頭が禿げ上がるのが先か、胃に穴が空くのが先か・・・考えてみた所で、どちらにしても悲惨である。

僕はもう一度机に突っ伏した。

「これ、やるよ。」

何時もなら何かしら言って来る薄塩が、今日は何も言わない。

目の前に何かが置かれた。薄く開いた目に見えたのは淡い青色だ。

だが、手紙にしては妙に大きいし、幅がある。

今度はハッキリと目を開いて見てみる。

「・・・・・・なんだこれ。」

目の前に置かれていたのは、可愛らしくラッピングされた、青色の小箱だった。

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「なんだこれ。」

薄塩がスッと箱を指差す。

「開けたら、良いんじゃないか。」

僕は黙って頷き、小箱の蓋に手を掛けた。

途中で接着されているシールに気付き、そっと外す。どうやら既製品らしい。

箱の蓋をすっかり取り去ってしまうと、中に敷き詰められている細かな紙の保護材が見えた。

敷き詰められた紙の中には青と緑の二色のマカロンと、真ん中が透き通っているクッキーがちょこんと収められていた。

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・・・・・・・・・。

マカロンもクッキーも良いものに見える。其処らのスーパーでおいそれと買えそうなものではない。包装の感じからしても、高かったに違いない。

「・・・なんだこれ?」

誕生日プレゼントにしては日がずれているし、クリスマスプレゼントには未だ随分と早い。抑、クリスマスプレゼントだったらピザポの分も有って然るべきだろう。

思わず呟くと、中身の質問をされたと思ったのだろ、薄塩が説明を始めた。

「この青いのがチョコミント、緑のがバニラミントな。ステンドグラスクッキーの真ん中の奴はミントキャンディー。色は二色あるけど、此方は味は変わらないから。」

「いや、だから、なんだこれ。どういうことだ。」

僕の言葉に、薄塩はニヤリと笑う。。

「強いて言うなら・・・慰謝料?」

どういう意味だ?

僕は更に困惑した。

薄塩が僕を指差し、キッパリと言う。

「もう開けたんだからな、返品不可で。」

何が何やらさっぱり分からないが、僕の身体の中には《騙された!!》という感情が澱のように溜まっていた。

けれど、其の感覚は先程の憂鬱を吹き飛ばしてくれた。ほんの少し、楽しみな気さえした。

だけど、其れを知られるのは何だか癪なので、僕は其れを気取られぬよう、クッキーの一枚に手を伸ばしたのだった。

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「凄い、お菓子貰ったら直ぐ上機嫌になった。コンちゃん単純。家で飼ってる金魚並みに単純。」

・・・・・・早くも気取られたが、此れは微妙にズレているので、ノーカウントで。

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まっしろさんへ
コメントありがとうございます。

友人にいきなり高級そうな菓子をプレゼントされたんですよ。しかも、普段なら絶対そんなことをしない奴に。びっくりしました。
何の慰謝料だったかは、後々。

さて、質問に答えさせていただきます。
眼鏡を掛けている人は居ません。
少なくとも今出てきている人物では。
高梨君が近眼だそうですが、眼鏡は着けていません。恐らくコンタクトレンズ派なのでしょう。

mamiさんへ
コメントありがとうございます。

《薄塩シリーズ》なのに、ですよね。
薄塩は地味に自己管理能力が優れているので、何かあっても自分でどうにかしてしまうんです。
いえ、不満ではないですよ。尊敬してるくらいです。
寂しさを覚えない訳ではありませんが・・・。

この時も、あまり怖くはなかったのですが、結構重い話でした。
宜しければ、お付き合いください。

今回は薄塩さん絡みのお話なのですね。最近登場が少なかったので嬉しいです。
青い箱が出てきてからの「なんだこれ」三連発に吹いてしまいました。(笑)
果たして一体何の慰謝料なのか…。

またしても懲りずに質問させていただきます。
今まで登場された方々で、眼鏡をかけてる方って蛞蝓先輩の他にもいらっしゃいますか?
眼鏡の描写がないので、おそらくかけて無いと思いつつ、気になってしまいました。
よろしければお答えできる範囲で、お願いいたします。。

最近、薄塩さんとのお話しがめっきりなくなったなぁ…と、紺野さんの過去の作品を読み返しながら思っていたところでした。
ピザポさんも、優しく気ぃ使いで、少し謎めいたところもあって、とても好きなのですが…薄塩さんとのコンビがやっぱり好きです。
楽しみにしております。